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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅰ】 クトリの呪詛
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35 幽玄図書館のカード

「準備は済んだのか?」

 ふりかえると、サディスが戸口に立っていた。

 彼は濁緑の長そでチュニックを革ベルトでしめ、黒のズボンと革ブーツ、枯れ葉色のフード付マントをはおり、手には荷袋をもっていた。 目立たないようにするためか、簡素な旅装をととのえている。

 とはいえ、いかに地味仕様にしても、まばゆいその美貌は霞みもしない。


「ちょっと待って!」


 大急ぎで、衣装の山をかきだし着れそうなものを探す。

 ここは曾祖父専用のクロウゼット。中は客間よりもずっと広い。

 ただし、衣装がつるされたり積みあげられたり、彼の書斎のごとく統一性がないので、一枚取りだすだけでなだれが起きる。その中を泳ぐようにかきわけつつ、何枚か腕にひっかけた。

「……そこにはノアのもしかないだろう。おまえの分なら、まだ向こうの部屋にあったはずだ」

「いいんだよ、ひいじーちゃんのでっ」


 フリフリは断固いらない。


「……彼は、おまえより三十センチ以上は背が低いはずだが?」

「だぼだぼの衣装が多いから、おいらが着てもへーきだと思うんだ。それにしても派手な色多いよね、なんか形も変わったのばっか」

 また衣装の中にとびこんだかと思うと、潜ったまましばらくでてこない。

「まあ、靴だけはねっ、化粧の間から、かかとのないブーツ借りてきたから」

 いきなり近くの衣装山が崩れて、そこから這いだしてきた。しかも、いつのまにか着替えている。

 あかるいオレンジの七部袖シャツに、ヴェスト、同色の膝丈のズボンには、紅・茶・金で幾何学もようの刺繍がある。それに革の茶ブーツ。衣装の形はふくらみ切れこみが奇抜で、道化師ぽく見えなくもない。

 ノア愛用のものは太陽を彷彿させる華やかな配色ばかりなので、しかたがない。

 それよりも気になるのは──

「腹が見えてるぞ」

「まあ、別にいーじゃん?」

 そう言って本人は気にもとめず、うす金色の鬘を脱ぎすて、顔がべたつくのが気になったのか、そのへんにあった布で顔をぬぐって化粧を落とす。蓬色のフードマントを頭からかぶった。長さが膝までしかないが、子供なのでそんなにおかしいものでもない。

 ただ、ノアが見たら大騒ぎしそうだと彼は思ったが、キャラベ軍が去っている今、早々にこの島を発つべきなので、多少のことは問題にしない。

 目立つ奇抜な衣装も、マントでほとんど隠れてしまうのだし。

 ルーが「準備オッケー」と走り寄ってきたとき、さすがにそれには疑問を投げずにいられなかった。


「……まさか、それを持って行く気か?」


 サディスは目をほそめ、彼女の左手にあるモノを見つめる。

 それは金属製の箒。ルーの悪夢から吐きだされたもの。

 吸血触手が芽吹くという不気味な代物だったが、ルーがむしりまくったせいか、あれ以来出てこなくなった。

「そだけど?」

「置いていけ」

 にべもなくそう言い取りあげる。ルーはあわてて抗議した。

「武器ないと、いざって時に困るじゃん!」

 箒を取りもどそうとするが手が届かない。必死にとびはねる。

 彼は手の中の箒を、転移術でよその部屋に飛ばした。


「ああっ、もーっ、なにするんだよ!」


「箒をもって旅する馬鹿がどこにいる、悪目立ちするだけだ!」


 思わず怒鳴ったサディスに対し、ルーはむくれて言い返した。

「サディスは魔法使えるし、腕力もあるからいいけどさ! おいらに丸腰でどーしろってんだよ!」

「いっしょに行くのだから問題はない」

「え?」

 ルーはきょとんとした顔で見上げた。

「……おいら一人で島を出ろとか言わなかったっけ?」


 別々のルートで出て、どこかの街で落ち合うんじゃなかったのか。


「青い髪の従者がおまえの正体に確信をもっていた以上、分かれて行動するのは無意味だからな」

「……そーなんだ?」

 ほけっとした顔で聞き返す。

 「あぁ」とうなずくと、彼女はたちまち満面の笑顔になった。

「よかったぁ、あの連中を一人で相手にすんのか~と思ったら、気が滅入っちゃったから」

「とはいえ、万が一の武器は必要だな。衣装も道々調達していけばいい」

「衣装はこれでいいよ?」

「北上してゆくからそうもいかないだろう」

「そういや、どこに向かうの? やっぱり、クトリの資料探しだから学者さんとか図書館とか?」


「探すのは〈幽玄図書館〉だ。俺も噂でしか聞いたことはないが────この世にはすでにない本が集まっていると云われている」


「この世にない本なのに、ある……のか? それってどーゆーこと??」

 彼はマントの内ポケットから、カードを一枚とりだした。

 きらきらと光をはじくそれは、まるで宝石のルチルをうすい板状にしたように美しい。



 〈入館を許可致します 会員名アビ・ゼルハム殿

                   ─幽玄図書館館長─〉



 という金文字がきざまれていた。


「未読の古書もナメクジにやられたが、それを始末するときに本の間からでてきた。アビ・ゼルハムというのは、古書を借りた考古学者の名だ。まず、彼に幽玄図書館の場所を聞きだすため、ガレット国へ向かう」


「でも、その図書館から借りてきた古書をダメにしたってことも考えられるんじゃ……」

「それはない。カードにも記されている」

 彼の示した先に、陽光を受けたカードのきらきらとした影が、しろい壁にびっくりするほどおおきく広がって映る。

 〈本の持ち出しは厳禁〉ということばを手始めに、〈館内での争いごと禁止〉〈魔法使用の禁止〉〈本の汚損に関する弁償〉など、図書館内利用の手引きというか注意ごとがびっしり浮かんでいた。

「なにコレ、どーゆう仕掛け? 魔法?」

「術による焼き込みのようだな」

 サディスが、くるとカードを回すと、また別の文字が一行だけ壁に映った。


〈有効期限消失〉


「……このカードはもう使えないってことかな?」

「──そのようだな」

「ガレット国って遠いの?」


「このスターブレス島から北東に位置し、クレセントスピア大陸の西端から見てムーバ、セシルの二国を越えたところにある。移動球で飛ばせばすぐだが、キャラベから脱出したときのように、障害物のない海上を一直線に飛ぶのとはわけがちがう。国境をおおう術の〈網〉や、待ちぶせするキャラベ軍の包囲を抜けなければならないからな」


「待ちぶせ?」


「ガレット国よりプルートス大山脈をへだてて、キャラベが支配する北方諸国がある。敵の陣地にほど近いということだ。つまり追手の投入がたやすい。人海戦で虱つぶしに探しにくることが予測される。移動・攻撃系の魔力を多く消費する術は、その痕跡から狼煙になる危険性がある。場合によっては術を極力制限し、地道に足や魔獣を使っての移動をすることになる。追手が撤退している今のうちなら、移動球でかなりの距離を稼げるだろう」


 ……魔法も便利なことばかりじゃないってことか。


「あ、でも、同じ移動魔法なら転移のほうがよくない?」

 以前、ヨドヒル岬に座礁したガンドル号を見にいったとき、直行直帰できたのを思いだす。たしか、あれは、国境の〈網〉を無効化する〈通過証〉があったおかげだったが。

「ガレットの通過証もってる?」

「ない。ムーバ、セシルの二国はあるが」

「じゃあ、」

 その二国だけでも転移ですっ飛ばしちゃえばはやく着くよね~と言おうとしたら、彼はルーの目を見て、言い聞かせるかのように、ややゆっくりとした口調で答えた。


「プルートス大山脈は大陸の東西を横断する形で存在する。ムーバ、セシルも大山脈をへだて北方諸国ととなり合う。敵の流入できる箇所はどこにでもある。転移は便利だが、敵地にほど近い場所に体を飛ばすということは、当然ながらリスクが高い。国境以外で個人的な〈網〉をはられる可能性があるからだ。北の軍事大国キャラベなら、近隣の国につねに間者を置いているはずだからな。多少まわり道でも確実に、余計な手間がなく、危機回避できる方法を選ぶつもりだ。わかったな?」


 ……いま。余計な手間がなく、のとこを強調したよね。

サディスなら蹴散らせるんだろうけど、いちいち相手にすんのは面倒ってことかな? 

 悪目立ちは避けたいし。うん、旅路の計画はまかせるよ。

 それから、あとでちゃんと地図で国の位置関係を把握しておこう。


 こくっと、ルーがうなずくと、彼は思い出したかのようにつけ加えた。

「あと、ゼルハム氏は天涯孤独で流浪癖があり、つねに遺跡巡りをしている。ガレット国内で足跡を追う形になるだろう」

「え、じゃあ、どうやって古書を借りたの?」

「彼が関心をもついくつかの遺跡街の有力者に、伝言をたのんだ。本人とは直接連絡はしていない」

「……なかなか捕まえるのが大変そうなヒトだね」

 幽玄図書館にたどりつく前に、人捜しに骨が折れそうだ。

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 当作品「Silver tails」は、現在、2chRead対策を実施中です。

 部分的に〈前書き〉と〈本文〉を入れ替えて、無断転載の阻止をしています。

 読者の方々には大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解の程よろしくお願い致します。 

 (C) 2015 百七花亭 All Rights Reserved. 

 掲載URL: http://ncode.syosetu.com/n0709co/


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