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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅰ】 クトリの呪詛
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28 珍妙殿下現る

 館の玄関口をぬけると、しろい大理石の大広間がある。館内の住人百十余名と、キャラベの魔法士軍七十余名を合わせても、余裕ではいれるほどの広さだ。

 大魔法士ノアやその弟子たち及び、使用人らは壁ぎわに固められ、仰々しい黒鎧を着こんだ軍に前方をとり囲まれているので、捕虜という構図に見えなくもない。

 ルーは皆の一番うしろ、背の高いカトリーンや巨躯の青年の陰になるように立っていた。

 まぶかにかぶった帽子のしたから、彼女はあたりをそっと伺う。

 敵は軍隊らしく一糸乱れず整列して、こちらを監視していた。

 ここにたどり着くまで、曾祖父のお世話係をしていた少年が伝言を皆につたえた。

 「敵に術を仕掛けてはならない」と。


 なるほど、十代から二十代前半と若い弟子ばかりなので、血の気の多いのが暴れないよう釘を刺したのか。


 キャラベの魔法士らを端から見る。皆、背が高くガタイのいい輩ばかりだ。

「……っ!」

 ルーは息を呑んだ。来てないわけないとは思ったが、やはりいた。

 並んだ魔法士らの後方、離れた石柱にもたれて腕を組み、こちらを睨んでいる拷問吏ガジュ。ルーは気づかれないよう、さっと頭をひっこめた。胸がばくばく鳴っている。

 ヨドヒル岬で拷問吏につかまった折、その顔を鉄枷で殴った。その上、転倒して石で頭もぶつけていた。なのに──


 全然ダメージなかったのか、頑丈だな!


 アスターを金属箒で殴ったルーだが、あれはちゃんと手加減していたのだ。

 対して、拷問吏には一切それはしなかった。骨折しててもおかしくないと思っていたのに。

 その驚異の復活力に戦いていると、甲高い声が耳を打った。


「おぉ、わざわざ大勢での出迎え、ご苦労だな! こたびの急な訪問をこころよく受け入れたこと、褒めてつかわすぞ! 大魔法士モア・バーグとやら。我が国キャラベと父上の御威光も、こんなちっぽけな島にまで行き届いておると知り、余はいたく満足じゃ」


 高慢ぶっちぎりの挨拶である。

 弟子たちはあっけにとられ、次いであまりの無礼ぶりにざわめくが、彼らをふりかえった師が片手をあげてそれを制した。そして、敵にむかい挨拶をした。


「お目にかかるのは初めてじゃな。キャラベの第一王子ドナルド殿。じゃが、今一度、覚えていただきたい。わしの名はノア・バームと申す」


「ノア・バームか、……よし覚えてやったぞ」


 胸をはる子供のように得意げな声が返る。

 ルーの位置からでは、その姿が見えない。


 なんだろ、あの声……どっかで聞き覚えがあるんだけど。

 それもイラッとするとゆーか、むかつくってゆーか……


 たぶん、それはルーだけの感想ではない。ここにいる弟子たちすべてが、尊敬する師に無礼きわまりない態度をとる訪問者に、苛立ちを覚えたことだろう。

 対峙しているノアはさすが年の功。歯牙にもかけてない。

「ご来訪の用件をお尋ねしてもよろしいかの?」


 ひいじーちゃん、喜怒哀楽がはげしそうなのに、いがいと世渡り上手なんだな。

 こんなお子サマ王子に、礼儀を欠かずに接することができるなんて。


 王子はまたもやふんぞり返って、傲慢なしゃべりを披露した。


「うむ。そちがそうして頭を低くしてくれるおかげで、余は助かったぞ。一発で軍事予算の半年分をくらう、開発中の〈結界破砕砲〉を使わずにすんだのだからな!」


「……殿下、それは軍事機密です」


「あともうちょっとで仕上がる直前なのに、開発担当のバルフレイナが工賃を上げろとストライキを起こしてな。それでも、脅しには使えると思ってもってきたのは、みごと正解であろう! やはり余は頭がいいッ!」


「……殿下、それもできればご内密に」


「実はな、アレは父上にかってに持ちだした手前、使ってしまうと余のお小遣いから燃料費を補填しなくてはならんかったのだ! だから使わずしてよかったのだ! というわけでまずは礼を言おう、大儀であった!」


 バカまるだし。軍事機密もらしてるし、しかも、なんか使う言葉あきらかにおかしいし。敵ねぎらってどーすんだよ。


「……殿下、そろそろ本題をお願いします」

 時々まるで合いの手のように、王子をいさめているのかサポートしているのか、よくわからないちいさな声があったが、あまりに場が静かすぎるため、ルーのところまではっきりと聞こえていた。


 そういやあの王子、デンカとも呼ばれるのか……

 あれ? なんかこのやりとりのしかた……二人一組セットですっごい覚えがあるような───────────────────────────────────って、廃棄塔で会ったあいつらかっ! 鉄冑かぶせられてたし暗かったから、顔すらよく見えてなかったけど……まちがいない! おいらを人食い魔獣の檻にほうりこんで楽しもうとしていた、ヒトでなしコンビだっっ!


 前にいる巨躯の青年に隠れつつ、彼らを見てやろうとした。

 見えたのは曾祖父のほうだった。

「それはそれは。平和交渉がなによりじゃからのぅ」


 ひいじーちゃん呑気に構えてるけど、あいつらに油断しないでくれよな! 

 バカな上にあきらかに精神構造おかしいんだから。


「では、さっそく〈クトリの殺人鬼〉を引き渡してもらおうか!」

「はてさて、わしの館にそのような恐ろしげな名の者はおらなんだがの」

「こら、ジジイ! こちらが下手に出てると思って、なんというゴーマンフソンか!」

 いや、それはあんただろ。どのへんが下手に出てるんだよと、心の中でツッコミつつ、ルーはなんとか殿下を見ようとした。

 すると、ノアと向き合うように、ちいさな老人が踏みだしてきた。

 ノアがだいたいルーの上腕あたりの背丈なのだが、この老人はほぼルーと同じぐらいとみえる。殿下の付き人だろうか。

 彼はまるい眼鏡をかけていた。灰色のカールした立派な口ひげとあごひげに、濃厚なはちみつ色のみじかいおかっぱ髪。


 ……なぜ色がちがう。


 アゴの下におおきく広がるしろい襟まきは、まるで皿の上に生首が乗ったように見えた。


 ……こんなトカゲいたな。


 金モールに縁どられたあざやかな朱色の上着に、同色のかぼちゃパンツ。

 そこからにょっきりでた棒のような足は、白タイツに金リボンを膝下にアクセントとしてまきつけ、先細の靴にはでっかい金の花房がついている。


 ……お年寄りにしては、ハデで奇抜すぎはしないだろうか。


 この姿を言いあらわすならば〈珍妙〉につきる。

 曾祖父も金や赤といった太陽を彷彿させるハデな衣装を好むが、洗練された意匠なのでここまで目の毒と感じることはない。

 キャラベ老人の真横に並ぶように、すっと背の高い人がついた。

 その青い髪にぎくっとする。肌があわだった。あの拷問吏とおなじ色だ。

 だが、よく見ればゆるやかに波打つ髪は肩までだし、鎧もつけていない。

 灰色マントに、すその長い黒の上着とズボン、革ブーツとじつに地味。顔はこの位置からではよく見えない。


「よいか、よく聞けロア・ハイム!」


 キャラベ老人はさけび、金の手袋をはめたひとさし指をびしっと、ノアにつきつけた。


 えっ、この声、殿下? てことは、この老人が?


「わが軍の中でも、精鋭をほこる猛者たちを連れてきておるのだッ! たわけたことを申すと容赦はせんぞッ! 少々数でおとるとはいえ、我が軍がつねに戦場をかける血ぬれの獅子ならば、そちの弟子どもはヒヨッコのようなもの! それだけではないぞ、〈結界破砕砲〉のみならず、我が軍にはアッとおどろく秘密武器がたくさんあるのだ! いつでも攻めこめるぞ!」


 ──まだなんか持ってきてんのか。このバカ殿。


「それは困るのう。ならば調べてみてはどうかの? 貴殿のお越しとあって館に住まう我ら一同、そろってここに参じておる。まあ、二、三人はわしの所用で島から出ておるがの」


 ノアは泰然とそう答えた。

 そして、もう一度「それと、わしの名はノア・バームですじゃ」と、つけ加えた。

「よしっ、ロリン、あの者どもを調べよ! 館の中もだぞ」

「かしこまりました」

 そう返事をしたのは、青い髪の青年従者だった。


 ……て、こいつ人でなしコンビ2号か。


 ロリンは魔法士を十名こちらへ連れてくると、行儀よく十列に並んでいる館の住人に対し、その先頭に配置させた。

「殿下ぐらいの背丈に、みじかい黒髪、青緑の瞳、浅黒い肌。性別は女。子供ですし、男装してるかもしれません」

 どきりとすることを兵たちに言っていた。


 ──うっわ~、変装前の姿なら一目でバレたかも。


 しかも、凶悪な言動はそれにとどまらなかった。

 彼はノアに向きなおり、淡々と事務的に告げたのだ。


「大魔法士ノア殿、先に申しあげておきますが、ここに〈クトリの殺人鬼〉が匿われていた場合、わが国への公務妨害とみなし貴殿の身柄を拘束させていただきます。ルー・クランにおいては発見しだいその場で息の根をとめます」


「おらん者のためにご足労なことじゃの」

 ノアは、ふぅ~と首をふりながらため息をついた。


「わしの可愛い曾孫はいまだ行方不明じゃというのに、おまえさんの口ぶりでは、まるであの子がそのクトリのなんたらであるとでも言っておるようじゃな」


「そう申しているのですが」

「なんぞ証拠でもあるんかの?」

「彼女は我が国に虜囚としておりました」

 ノアは長いふさふさのしろひげを撫でながら、眼光をするどく光らせた。

「それはおかしいのう。わしがそちらの国をお訪ねした折、国王殿はハッキリと〈おらぬ〉と言うたんじゃが」

「クトリの印ある者は大量の死を招きます。国王様はあなた方の命を守られたのです」

「そのような無用の恩着せは、相手をよお見て判断されたいものじゃな。まあ、よい。ここで押し問答してもなにも解決はせんからの」

「では、始めさせてもらいます」


 この間、ふしぎなことにあのうるさい殿下は一言も口をさしはさまず、それどころかひとり場を離れて、なにやらきょろきょろと大広間を行ったり来たりしていた。

 まるで、やることをすべてこのロリンという青年に丸投げしたような感じを受ける。

 彼もまた、ただの従者ではないようだ。

 殿下の大雑把すぎる穴だらけの命令をみごとにフォローし、なおかつ言葉ひとつでこちらの動揺をさそって出方をみている。


 物腰はばかていねいだが、言ってる内容は「無様さらさんうちに連れて来いやコラ」てことだし。微塵も動揺をみせなかった曾祖父に感謝だ。

 「ぬあにおおおおおおッ!?」とか憤慨してあばれるかと思って、ちょっとはらはらしてたから。


 柱の陰からこちらにゆっくりと歩いてくる拷問吏を、ルーは視界にとらえた。

 気づかれないように目で追っていると、なにやらロリンに呼び止められ小声で話をしている。顔がこちらに向いたので、あわてて視線をそらした。

次話の更新は8/9です。

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