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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅶ】 月下の異境遊戯
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13 閃いた疑惑と、ど忘れしていたこと

 ほどなくして戻ってきた白銀のハチドリたちによって、襲撃する邸の書庫は特定された。

 そこへ侵入し、サディスが書庫内に結界をはり放火、ラムロードが燃えた原本から出てきた魂を捕獲。

 そして、ルーはその広大な庭のおおきな木のてっぺんまで登り、空を見あげて幽玄図書館館長の飛来を待った。





 ……来ないなぁ……。


 あつい雲が割れていくすじもの光が地上にこぼれ、夕焼けが彼方ににじむ。

 今日は十八件の書庫を燃やしたが、やはり彼は現れなかった。

 ルーの肩や頭には、役目を終えた白銀のハチドリたちが五十羽ほど、みっちりとまっている。のこり五十羽は近くのほそい枝にずらりと鈴なり。

 ルーはぼんやりとうす桃色の雲をながめながら、幽玄図書館司書レインレインの言葉を思いだしていた。



「銀彗の魔法士さん、単刀直入に言いまして……あなたに入館の許可は出せません。これは前々から、館長より厳命されていることなのです。そちらのお嬢さんも。あなたのお連れである以上、入館はできません」



 サディスが子供のころに、入館証を渡しにきたであろう館長を、浮遊霊と勘ちがいしてスルーし退散させてしまったことが原因かと思っていたが、レインレインはそうではないと言った。その理由は言えないとも。


 ──サディスは、幽玄図書館の見えるあの並木道には入れなかった。

 でも、おいらは入れた。すぐに追い返されたけど。



「私は幽玄図書館の、ヒナタ館長の優秀なる司書ですから。不法侵入者は何人たりと許しません」

「……不法侵入って、ふつーに入れたみたいだけど?」

「それです! もやぴーの最強シールドを破れる者など、この世にもあの世にもそちらの世にもいるわけがないのです。ということは、原因はひとつだけになるわけですが」



 その理由も答えてはくれなかった。


 サディスはダメで、その連れであるおいらも本来ならダメなはずなのに、あそこに行けたのはなぜなのか。入館証がなくても、もしや、入れる条件があるのでは? 

 だけど、サディスの連れだから弾かれた?


 ぐるぐる答えのでない迷宮に突入しかけていると、「ぷっ」と噴出すような声が聞こえた。ラムロードが木の上まで登ってきていたのだが、なぜかルーを見て口を手で押さえている。

「お帰り、ラムロード。どうかした?」

 小首をかしげるルーとともに、その肩や頭の上にいるハチドリたちもななめに傾く。

 それでも一羽も飛んでいかない。

「……キミ、ずいぶん彼の使い魔に懐かれてるんだね」

「え? うーん……どうだろ、人懐こいとは思うけど……なぁ、ラムロードは幽玄図書館の館長に会ったことある?」

「あるよ。ずいぶん昔だけど」

「サディスが入館拒否されてる理由、知ってる?」

 それまで笑顔だったラムロードの顔が、一瞬、固まった。

「えぇと」

 彼が目線をさまよわせ、何かごまかそうとしているのを感じたので「知ってるんだ!?」と、思わず木の上で彼につめより顔をのぞきこんだ。

「…………知ってるよ」

「ほんと!? 何が原因!?」


「……まぁ、彼自身のせいじゃないのは確かだね。──館長は昔、翠緑瞳の美女にフラレたからね、翠緑瞳の美人を見るのが辛いんじゃないかな」


「え、でも、十歳のサディスに三ヶ月もつきまとったって聞いてるけど……?」

 初耳だったのか、ラムロードは目をまるくした。


「そんなことが? ……じゃあ、逆かな。まだ翠緑瞳の美女に未練があるのかも。館長はノーマルだし、彼女の代わりを探していたのかも知れないね。だから男と知ってあきらめたのかも」


「……あれ? それじゃ、サディスを拒否する理由にならないんじゃ?」

「それはアレじゃない? まちがえて男にアプローチかけたのが、死ぬほど恥ずかしくなって入館拒否とか。けっこう繊細なヒトだし」

「……」


 ──ほんとうに、そんな馬鹿げた理由でこんな遠回りさせられているのだとしたら、捕まえた暁には、きゅっとシメてやりたいな。


 木の下からサディスが呼ぶ声がした。

「この辺りのめぼしい書庫はこれで終わりだ。引き上げるぞ」

 ハチドリたちは銀の飛沫となって、サディスの中に消える。

 三人は庭をぬけて貴族街をあとにした。





 狙った邸には用心棒ややとわれ魔法士がいたが、さすがというか、サディスたちが書庫襲撃中に見つかることは一度もなく、そして、庭で待機していたルーも、おそらく魔獣蜘蛛のロリ衣装のおかげだろう。

 自身の気配や匂いが遮断されてるので、人どころか番犬すら関心なく通り過ぎていった。

 それでこちらが声を発しなければ、気づかないのだとも知った。


 まるで透明人間か空気にでもなったみたいだな。

 まぁ、一度声を発しちゃうと存在を認識されるようだけど。


 そこで、なにかが頭のすみに閃いた。


 ……もしかして、これまでも? 

 だとしたら、あのヒトが、あそこで気づかなかったのも当然なんじゃ……待てよ。

 それだけじゃなく、宿でも……


 そこへ乗り合い魔獣バスがやってきたため、考えこんでいたルーは相方にうながされて、あわてて乗りこんだ。わりと乗客が多かったのだが、次のバス停でさらに人が乗ってきて、考え事どころではなくなった。

 いつのまにか人混みに流されたらしく、サディスとラムロードの姿が見えない。


 いや、たぶん流されたのは、おいらだけなんだけど。


 きょろきょろと辺りを見回すが、自分より背の高い人ばかりに囲まれ、とてもじゃないが見えない。この魔獣バスはかなり大型のものだ。体高三メートルはある三尾の犬っぽい魔獣が二頭立てで引いている。しろい幌の屋根つき窓つきでおよそ四十人乗りのところを、六十か七十人は乗っている。


 人のすきまで圧迫されるのが、これほど苦しいとは!


 思わず「うぅ」と、ちいさく呻いてしまう。立ちんぼなのに、つかまる場所もなくて困った。なんとなく、例のパレードの時を思いだした。


 なんかやばいな。また押されたら踏みとどまれないかも……


 体にななめがけした鞄の肩ひもが、グッと、うしろに強くひっぱられた。

 あたりをつけて、そいつの顔面に右拳をぶつけた。

 裏手パンチなのでちょっと力がはいりにくかったが、相手はそれでもおどろいたようで肩ひもから手を離した。

「!?」

 突然の急停車、のけぞりかけてた体は今度は前へ。

 背後から人の圧力に押されて床に倒れ───かけたのだが、急に胴をさらわれた。

 目の前が暗くなったと思ったら、黒に近い濃緑のマントの腕の中にすっぽり包まれている。相方様がいつのまにかここにいた。


 今、一瞬、ばちっと、銀の火花が周囲にとりまくようにはじけたような気がしたのは、気のせいだろうか?


 見あげると、彼はルーの背後をつき刺すように睨んでいる。


 いや、防寒ベールで顔見えないけどね。凍気が出てるから……。


 まわりで複数の息を飲むような気配。次のバス停で、人がだいぶ降りていった。

 また魔獣バスが走りだすと、空いたベンチ席に彼と座った。

 ラムロードも近くにやってきた。

「大丈夫だったかい?」

「うん、ひどい混雑だったね。鞄の肩ひもひっぱって悪戯するヒトはいるし、いきなり急停車はするし」

「あー、気づいてなかったんだね」

「ん?」

 なんと、窃盗の一団──五人の男が、ルーをとりかこんでいたらしい。

 鞄の肩ひもに手をかけ引き倒そうとした男を、サディスが魔法で魔獣車の外にすっとばし、その場所に転移して、ルーを床に押しつけて鞄を奪おうとしていた連中の手の甲を、光でかるく焼いたのだという。


 そういえば、周囲にいた乗客はさっきのバス停で降りていった。

 前の人を押しのけるように急いで去っていったのは、そのせいか。


 それはそうと、すこしとはいえ転移と攻撃魔法を使ってよかったのか? と思ったが、魔獣バスで移動しているので場所は特定されにくいだろう。

 祭の最終日で王都は混みあっているし。

「おまえは危機感が足りない」

 説明をラムロードにまかせて窓の外をながめていたサディスが、ふいにそう言った。


 それは、ごもっともデス。ハイ。


「聖女祭の間は犯罪が増えると言っておいたはずだ。それを、ぼけっとして人混みに流されるから」

「まあまあ、あれは不可抗力だし。ボクだって、ルーの所へ行こうにも身動きとれなかったんだから」


 ラムロードのフォローがありがたい。

 それにしても、まさかあんな密集場所で、カモりにくるとは思わなかったよ。

 息苦しくてうなってたから、魔獣蜘蛛衣の気配消し効果が無効になってたんだな。

 ほんと、おいらすら気づかぬピンチに、彼が気づいてくれて助かったよ。


 そこで、ふと、あいつのことが頭をよぎった。


 あいつもまた、おいらを助けてくれたわけだが……………

 まだ、生きてるだろうか?





 魔獣バスを降りたのは、〈貴人の黄昏亭〉近くのバス停。

 たしか、目抜き通りの薬師の店に、元・キャラベの魔法士団の一隊長にして拷問吏ガジュは運ばれたはず。


 一度ぐらい様子を見ておいたほうがいいだろう。

 憑物士に空から落とされたおいらを拾ってくれたし。

 そのせいで黒の精霊に攻撃されたのだから。

 今の今まで思いださなかったのは、かなり薄情かもしれないが……

 こっちも、その、いろいろあって忘れてたし。

 憑物士による連続バラバラ事件とか、黒の悪魔にガチで迫られるとか、黒の精霊とサディスの戦いにはらはらとか、〈冥剣ヴァルドリッド〉をめぐるリリたちの再会劇に首つっこんだりとか、やっと具体的になった館長捕獲作戦とか、あわやの毒殺未遂事件とか……

 とはいえ、それでも薄情だよなぁ。

 血まみれで死にそうなやつを、ど忘れしてるって……


「というわけで、ガジュの様子を見てきたいな……と」

 宿にはいる前に、相方様に許可を求めた。

「やめておけ、狂狼が図に乗る」

 即座に彼は却下した。これは予想通りだ。

 彼がすぐに許可をだすとは思ってなかった。元・敵だし。


 しかし きょーろう? 

 狂犬ぽいと思ったのは、おいらけど。ナゼ、オオカミ?


「ガジュって誰?」

 ラムロードが問うので「えっと、ほら、プルートス大山脈でおいらを追いかけてきた青い髪の」と、ルーが言いかけると彼は眉をひそめた。

「それって、キャラベの陰険鬼畜魔法士のことだよね? いつのまに見舞ってやるほど仲良くなったの?」

 ラムロードが、底冷えするような笑顔でそうたずねてきた。


 あれ? 笑顔なのに、なにかコワイ。


「え、その、仲良くなったわけじゃなくて、敵じゃなくなったってゆうか……あいつ、もうキャラベ軍とは縁切ってるし、こっちに協力するって言ってたし……」


 とりあえず、相方様にふたたび許可をと視線をむけた。

 はずなのに、いつのまにかマントごと襟首をつかまれていた。

「明日も館長をあぶりだしに出かける。さっさと夕食を済ませて、とっとと寝ろ」

「まだ早いよ!? 陽は沈んでないし! あのさ、ちょっとでいいから」

 ずるずると引きずられて、〈貴人の黄昏亭〉の玄関ホールをぬけて昇降機にほうりこまれる。つづいて入ったラムロードが、金泥のすかし模様がはいった扉をスライドさせて閉じ、入口横のレバーを九階の数字に合わせるとポーンと音が鳴って、しずかに床が上昇してゆく。

 なぜか、二人とも無言。

 九階につくと、ルーは猫つかみされたまま部屋へ運ばれ、いつもの結界がはられた。


 身を守るためというよりも、今はおいらを脱走させないためのモノになってる気がする。……これはもう、ダメってことか。

 別に、あいつを毛嫌いしてるサディスたちに、ついて来てほしいって言ってるわけじゃないんだけどな~。

外伝「サイフォン国の英雄譚」を以下のページで載せています。

サディス10-11歳の頃の話。全三話完結。

http://ncode.syosetu.com/n2706dj/

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