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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
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24 混乱に乗じて逃げるための密告

本日、23、24話を更新しています。

 おいらもここで、拷問付の痛い死を待っているわけにはいかない。

 生きるチャンスが欲しい。まずは、この手枷!  

 これをはずせるカギをもったやつが来れば、なんとかなるんだけど。


 悲鳴が聞こえた。塔の下のほうからだ。

 言わずもがな、キュラの罵倒しまくる甲高い声。塔からでる前に捕まったようだ。

 こちらへ戻ってくるかと思いきや、なぜかその声は遠ざかってゆく。

 そして、拷問吏ガシュが現われた。

 しばし、ヤツの顔をまじまじとルーは観察した。


 旅立ち以前に会ったときは、頬はこけ顎はとがりギラギラとした目つきで怨念背負った亡者のごとく陰気くさかった男が、たかが十日余りでこうも激変するとは……あの顔面を八割方おおっていた藁髪を切ったせいなのか。

 それとも、目の前のサワヤカイケメン面は実は偽物で、その下にもとの陰険顔が隠されているんじゃないか? きっとそうだ。そうにちがいない。


 フリフリスカートを買った高級ブティックの隣の店舗に、仮面屋があったのを思い出した。通りに向けたウィンドゥに飾られたリアルに艶めかしい仮面の数々。

 なんでも、お祭りのときに上流市民がつける伝統的なものだと聞いていた。

 お祭り以外のシーズンは、もっぱら夜会で必要とする貴族などが購入するらしい。

 目元だけの羽根つき仮面から、顔全体をおおうものまでいろいろあった。

 白塗りの面で美しい貴婦人の化粧顔を再現したものがあり、けっこう精巧なつくりのものもあった。アレかぶったら騙されるよな~、と思ったものだ。

「キサマをヤツらに渡すわけにはいかん」

 近づいてきたガジュによって、ルーはあっさりと手枷をはずされた。

 逃げ出す好機よりも、確かめたい好奇心のほうが、このとき彼女の頭の中を占めていた。

 ルーはすかさず、手を伸ばした。


「ていっ」


 予測不能だったらしい。ヤツは目を見開いてこちらを見下ろした。

 ルーはぐに~~~~っと、その化けの皮をひっぺ剥がそうと、力強くガジュの左頬をひっぱった。

「……」

「……」

「……オイ」

「……ホンモノか……」

 どれだけひっぱろうと、サワヤカイケメン面は取れなかった。


 仮面ではないということか。

 まぁ、これだけのびる仮面があるわけないよな。


 手を離して考える。そこで、もうひとつの可能性に気がついた。


「てことは、魔法か? 魔法で顔を変えたのか!」


「……自前だ! キサマはいったい何を確かめようとしている!?」


「いや、だって、この短期間に顔が変わりすぎだし! どーなってんのかとつい」


 ガジュは眉を顰めた。

 最近、少々太ったのは自覚していたが、獲物に本人確認されるとは思いもよらず。

 下顎骨折の治療中に、口がろくに開けられず流動食三昧だったため、体力落ちを防ぐためにも栄養剤を摂取していたせいではあるのだが。

 寝台で動けないのに過剰摂取だったのかも知れない。

「あ」

 ルーは自分の手首をみて、自由になっている事実に遅ればせながら気がついた。

 ダッシュで逃げようとしたら、襟首をつかまれた。

 そして、肩に担ぎあげられ、逃げられないように背中と太腿を、手甲のついた重いおおきな手でがっちり押さえこまれた。


「今度はどこへ連れてくつもりだよ!?」


 ばたばたともがく。出っぱった肩甲がお腹を圧迫して苦しい。


 ああっ、こんな時に棍があれば! どこに行ったんだ、おいらの棍! 

 捨てられちゃったのか!?


 扉へむかうガジュの正面から、複数の足音が近づいてくる。


「隊長、黒髪ポニーテールの女は先に連れて行きました!」


「隊長、メイリィ殿下部隊を西の森林地帯に誘導しました!」


「隊長、バドウェン部隊は銀彗の魔法士を追っています!」


「隊長、銀彗の魔法士は東の歓楽街に向かいました!」


 拷問吏……もとい、キャラベ国第一王子直属の魔法士団第十六部隊隊長ガジュ・ロビンは、部下たちの報告を聞き、鷹揚にうなずいた。

「よし、こちらの思惑通りことは進んでいるな。バドウェン隊はすでに東の歓楽街で罠をはっているはずだ。まさにヤツは火に飛びいる虫というわけだ」

 ルーは目を見開いた。


 え……バドウェンって、あのおっさん魔法士だよな。……なのに、共謀してる!? 

 まさか、おっさんが第二王子に鞍替えしたのを知らないのか!?


 そこで、ホリックの言葉を思いだした。



「第一王子直属の隊長、と呼びかけたときに、彼は訂正をしなかった。まだ公にできない理由があるのだろう」



 先の拷問吏の部下の「メイリィ殿下部隊を西の森林地帯に誘導した」というのは、たぶん第二王子の部隊のことだ。邪魔だからべつの場所に誘導したということ。

 拷問吏自身が言ってた「キサマをヤツらに渡すわけにはいかん」というのは、第二王子を敵視している証拠。

 それなのに、バドウェンを信頼するかのような台詞。


 ──やっぱり、まだ知らないんだ! するとどうなる? 

 たぶん、第一王子、第二王子のどちらにしろ、おいらを〈クトリの殺人鬼〉として処分する目的は変わらない。ホリックさんは〈クトリの殺人鬼〉を狩るのはキャラベ国を継ぐ長子の役目で、それを第二王子がうばうのは内乱を起こすことになるのだと言っていた。

 いま、おいらは第一王子側に捕まっている。

 ということは、おいらが殺される前か、あとか、……手間を考えれば、これはたぶん殺したあとだな。その手柄を横取りすべく、バドウェンは第一王子側の拷問吏や魔法士たちを口封じに殺すだろう。

 それならいっそ、バドウェンの企みをここで暴いて、両者が大モメになったところ、その混乱に乗じて逃げる! これしかないっ! 

 つぶしあいの戦闘でもおっぱじめてくれたなら、逃げやすい。


「な、なあっ、バドウェン……っておっさん、あんたたちを裏切ってるよ!」


 なんとか振り向きながら……と言いたいが、みえるのは拷問吏ガジュの背中と後頭部だけだ。


「あいつは第二王子の部下になってるんだ! そもそも、サディスを味方に引きこむつもりなんだから殺すわけないんだよ!」


 キュラから得た情報もつけ加えてみた。

 たとえ事実は不意打ちの爆撃で殺る気満々だったとしても、自分たちと真逆の行動をとっている方が不信感を募らせやすいだろう。

 ヤツを隔てた向こうが、しぃんと静まり返っている。


 ……あれ? なんの反応もなし?


「聞いてんのか!? 拷問吏!」


 担がれたままでこいつの背中を叩こうかと思ったが、鎧なんか叩いた日には手が腫れるだけだ。


「あんたたち、騙されてるんだってば!」


 部下たちなのだろう。いくつかの忍び笑いが聞こえる。

 ルーは、かっちんときた。


 こいつら信じてない!


 ガジュにいたっては振り向きもせず、うんともすんとも言わない。


「いいかげん下ろせよ! お腹つぶれる! 頭に血がのぼるッ」


 思いっきりばたばた足をふり過ぎたせいか、前にも増してすごい力で太腿をしめつけられた。鉄の腕で。


 ぎゃ、足が鬱血する!


 ヤツはギロリと視線だけ向けて、低い小声でぼそっと言った。

「キサマには羞恥心がないのか?」

「はあ?」


 意味がわからない。


 きょとんとした表情で見つめ返すルーから、ガジュは目をそらし、ちいさく舌打ちした。

 そして、彼女を担いだまま、部下たちの間を通って塔の階段を下りてゆく。

 うしろからついて来る部下と、ルーは目が合う。


 なんか、すごいニヤついてるんだけど。


 四人いる。彼らはなにかをものすごく期待しているような視線を、隊長の背中に向けていた。


 なんとなく下卑たイヤな感じ。この感じはどこかで覚えがある…………あぁ、食人末期悪魔の手下たちか。あの温泉町での。

 ……しかし、さっきの拷問吏のセリフはいったいなんだ? 何を指して。


 そう思いかけて自分のスカートの形に気づく。


 アンダースカートが三枚も入ってて、よりいっそう膨らむようにされている。

 しかも担がれている。足を盛大にバタつかせたせいで、下のドロワーズが丸見えになった……のか、も……。

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