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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅰ】 クトリの呪詛
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11 反撃すべき

 五日目の朝のこと。

 たいがいは探検しつくしたと思うが、そういえば、厨房がどこにあるかわからない。

 ときどき美味しそうな匂いがどこからともなく漂ってくるのだが、入口が見つからない。

 今日は書庫へ行くことにした。

 西棟の一階から七階まで天井ぶちぬきで、書架が林立している。

 あちこちにある階段や稼動ハシゴ。リスみたいな生き物が本をくわえて書架を縦横無尽に疾走し、時には体をびろんと四角く広げて宙を飛びまわっている。


 なるほど、ああやって本を整理しているのか。

 ヒトの手でやると時間がかかりそうだもんな。


 複数の話し声が聞こえてきた。一階の受付カウンターにグレイ三人組がいる。

 二階の書架前にある通路にいたルーは、とっさに手すりからはなれて姿勢を低くした。

 そして、ほふく前進しつつ、そっと手すりのすきまから一階をのぞく。

 三人は本を借りにきたわけではなさそうだ。受付の女性司書を冷やかしたり、カウンターに腰掛けたり、飛ぶリスをつかまえたり、本をほうり投げては大笑い……


「素行悪いな~……なんであんなの弟子にしちゃったんだよ、ひいじーちゃん」


 本に暴挙を働いたせいか、それまでおろおろしながらも、やんわり注意していた女性司書の態度が一変した。


「いい加減にしなさい!」


 するどい声で一喝し、右手をふりあげた。

 その合図で、いっせいに飛びリスがはるか頭上の書架から集団で降下してきた。

 ものすごい勢いの灰色の津波となって、三人を書庫の外へと押しだす。

 ルーは立ちあがり窓にかけよって外を見た。

 館を囲む外壁を越えて、青々とした森につっこんでいったようだ。

 沼にでも落ちたのかひとすじの水柱があがっている。


 ナイスだ、司書さん。やはり悪は討たなくちゃ!


 ふいに手持ちぶさたな気がして、ルーは両手のひらをにぎにぎする。


 なんか手がさびしい。

 そうだ、こんなときには、まっ先に飛びだす自分がいたような気がする。

 なにかを手に持って……? ……なにか……武器? どんなのだっけ?


 形になりそうなのに、そのとたんに頭にもやがかかる。


 剣……じゃないよな。サディスが下手だと言ってたし。

 呪にあやつられて襲ったときのことなんて覚えてないけど。


「探したよ、ルーちゃん! こんなとこにいたんだ~」

 いきなり背後から抱きつかれた。


「わっ、ちょっと、やめっ!!」


 書架にはさまれる形で抱きつかれ、思わず指に触れたぶ厚い本をつかんで引きぬき、その顔面をはり飛ばした。手ごたえあった。反撃は予想外だったのか、無防備なまま手すりに激しくぶつかり、だらりと力なく彼は床にくずれた。

「あ……ごめん、つい」

「……ひどいな……かわいい女のコとスキンシップしたいだけなのに」

 手すりにつかまりなんとか体を起こしつつも、しくしくと被害者ぶる。

「や、どう見てもチカンだよ」

「チカン!? 悲しい……こんなにルーちゃんのこと好きなのに……っ」

「……」

「あれ? なにその冷たーいまなざし……」

「四日前に会ったばっかだろ、うさんくさっ」

 彼は立ちあがり紺道衣のホコリを手ではらってから、ルーの前にひざを折った。

 あとずさりしかけたルーの右手を、すばやくとる。

「一目ボレなんだって! しばらく所用で出かけててさ、淋しかったよ」


 いや、もうウィンクはいいって。

 そんなめちゃくちゃ軽い告白されても、だれもマジでとらないって。

 たしかに、それなり見てくれはいいんだろーけど、中身がケーハクってゆーか。

 サディスが投げ飛ばすわけだよ。この前は助けてもらったけど、これが最初から下心つきだと思うと、なんか素直に恩人とか思いたくないな───


 ルーは半眼で彼を見すえ、ぺしっと強く手を振りはらった。

「女の子とスキンシップしたいだけなんだろ、女の子ならだれでもいいじゃん。おいら、ヒマじゃないんだからさ。あっち行ってて」

「いや、だれでもってワケじゃ……かわゆくなくちゃ」

「この館にはかわいい女の子ぐらいいっぱいいるだろ、そっち当たれば?」

「いやいや、それがさ。ここのお嬢さんたちはみーんな、サディスぞっこんの玉の輿狙いでね。それに気位の高いコばっかで疲れるんだよな~」


 なるほど。まわりは肉食女子だらけか。最たるものがあの金髪少女かな。

 彼のそばにいれば、ちょー安全なんじゃないかと思ってたけど……そうもいかないのか。なんか島の外も内も、おいらにとっちゃ敵だらけだな………


 ゆううつな気分で書架の間をあてどなく歩いていると、アスターが尋ねた。

「例の呪いについて調べてるのかい? だったら手伝ってあげるよ」

「え……いや、書庫には資料ないって聞いてるから」

 当然ながらその説明不足なことばに、アスターは首をかしげた。

「じゃあ、ここへは何しに?」

「……なにか記憶にひっかからないか、探してんの」

「あぁ、そーいや記憶ないんだったね」

「ここまでなにひとつかすりもしないとは思わなくて……念のため聞くけど、アスターとも以前に会ってないんだよね?」


「オレがノア師に弟子入りしたのは、ルーちゃんが家出したすぐあとぐらいだからね。十三のときかな。あのときもキミの噂はいろいろ聞いてたし、面白そうなコだから会ってみたいとは思っていたんだけど」


「……魔力ナシに偏見ないんだ?」


「大国の軍にいる正規雇用された魔法使いは、最大規模で三千人、小国ともなれば数十人。世界は圧倒的に魔力なしのほうが多いんだよ。選民意識で頭をがちがちに固めていたら、多くのかわいい女のコたちとの出会いを放棄することになるからね」


「そっかぁ、だから一目ボレって言えば悪い気はしないかもって、ついてくる女の子がいるわけなんだね」

「そうそう、十人にひとりくらいはね……あ」

 つられてうっかり言ってしまい、アスターは頭をかいた。

 ルーもちょっとだけおかしくなって笑った。


 ───変、だが……悪いヒトではないのかもしれないな。


「ルーちゃんに関係あるっていったら、ヨドヒル岬じゃないかな。行くなら案内するよ」

 彼はにこにこと笑顔で提案してきた。

「ヨドヒル岬……?」

 どこかで聞いたようなと思いつつ、ルーは聞き返した。

「禁忌の海からの潮流がながれこむ場所だよ。岩場のおおい浅瀬だから、難破した船がたくさん座礁しているんだ」

「それって、もしや、おいらが乗ってた船がそこに───!?」

「そ」

 ルーはアスターのそでをつかんで、元気よく叫んだ。


「行く! すぐ行く、絶対行くっ! ……………あっ……やっぱマズイかも……」


「ルーちゃん?」

「……島の外、なんだよね? 出るなって言われてるんだった……」

「呪詛があるからかい? でもちゃんと封じられてるよ。どーせ、あの完璧主義がやったんだろうし、まったくもって心配ないよ」

 ルーの右腕にまかれた帯を見て、彼はそう言った。


 いや、でも、キャラベ軍に追われてるしさ……サディスにもすっごく念押しされてるし。勝手なことしたら怒られそうだ。


「ルーちゃんが不安なら、やめた方がいいかな? でも、あの船かなり損壊がひどかったからね……こわれて波にさらわれるのも時間の問題だと思うけど」





 東棟三階にある客間にもどったルーは、テーブルに積まれた衣装からシンプルなマントを見つけると片手にひっつかんで出た。廊下をぬけ階段を三段とばしでかけ降りる。


 やはり善は急げだ。

 アスターは、ヨドヒル岬がある国への通過証をもっている。

 それがあれば、魔法でその国内へ転移しても不法侵入者としてあつかわれないというのだ。つまり、直行直帰ができる。それなら、キャラベ軍に見つかったって、すぐに逃げられるというもの。


 庭先に出ると、しげみのむこうでお茶会をやってる少女たちがいた。

 気づかれぬようにと足音を殺し、そっと通り過ぎようとしたが───見つかってしまった。ゆたかな金の巻き毛を頭上に結いあげたカトリーンが、優雅に席を立ち、長身に見合った長い脚であっという間に近づいてくる。

 彼女は口もとに笑みを浮かべた。つり目が笑ってない。


「お茶でもどう? 招待してあげてよ」


「いや、おいら急いでるから……」

 すると、ルーの手にあるマントを見て、鋭くつっこんできた。

「出かけるつもりね? ノア師にばらされたいの? いいから座りなさいな。オレンジタルトも出してあげるわよ」


 毒入りの?


 女の子二人が左右からルーの腕をがっしとつかみ、強制的に引きずってテーブル前に連行する。

「あのっ、ほんとに急いでるからさ、別に出かけるわけじゃないし! このマントだって、ただちょっと寒気がするかなって用心のためにもってるだけで!」

 言い訳しながら、両腕をつかむ二人をはねのけようとした。


 ざばっ


「あつっ!」

 カトリーンの手にしたポットから紅茶が飛んできた。

 ぶちまけられた、と言ったほうが正しいかも知れない。


「まあっ、大変! 手当てしなきゃ」


 わざとらしく大仰に叫びながら、ぬれた右上腕の封印帯に手をのばしてきた。


 ───そーゆうことかっ。


「平気だから! 触んなって!」


 この封印帯、もとはサディスの髪結いに使われていたもの。

 だから腹立たしくなったんだ。


 だが、そんなバカげた理由で封印をはずされてはたまらない。

 押さえ係のふたりを乱暴に振りはらい、脱兎のごとく逃げだした。

 カトリーンはでかい。わりと美人だが、華奢な感じはまるでしない。ルーより頭一個分は上背があるし、肩幅あるし脚長いし手もでかい。たとえるならば狩りの得意な蛮族の女王サマか。というわけで、あっという間に捕まった。

 さあ、観念おしとばかりに芝生に押さえつけられ、どすっと腹に馬乗りされた。

 思いのほか重くて、一瞬ルーは意識が飛びかけた。

 そのすきにカトリーンは封印帯に手をかける。

「んっ!?」

 いくら彼女が、その長い指でひっかいても封印帯ははずれない。ぴったりと吸いつくように腕にはりついている。どうやらだてに〈封印〉ではないようだ。

 そして、素手で挑む彼女は、これを封印帯だと知らないらしい。


 焦った……だって、サディスが何度もはずすなって注意してたから、てっきり手ではずせるものだと思ってたよ。それにしてもこのヒトたち良家の子女って大ウソなんじゃ……? 

 非常識さにおどろいてるうちに害されるなんて冗談じゃないし。

 ここはひとつ、反撃しといたほうがいいよな。


「な、なぜとれないのよっ! ケガなら包帯をすればいいでしょう! いつまでドーマ様の髪結いを使っている気なの!?」


 苛立ちながら女王サマは吠えた。やはり、誤解をしているようだ。

 それにしても、ルーが呪詛を受けたことは、この館に到着したときに周知されたはずだ。呪印の位置を知らなくても、状況的に気づいてもいいような気がするのだが。

 ──妬みで目がくもっていると思われる。

「楽しそうだね、キミらなにしてるの?」

 そこにアスターが現れた。

 淑女の乱行を目撃し、目をまんまるにしてあっけにとられている。

「ち、ちがいますのよ、これは、その」

 ルーをお尻で踏みつぶしていたカトリーンは、あわてて弁解しようとしたが、ルーはそのチャンスを逃さなかった。彼女のゆたかな胸倉をひっつかみ、お腹に力をためていっきに腹筋で起きあがる。

 ゴッ、おおきな頭突きの音が庭にひびいた。

「お返しだよ」

 立ちあがって芝に落としたマントを拾い、ルーはほかの共犯者たちを見まわした。


「あと、コレ封印帯だから。そのヒトにも言っといて」


 彼女たちは頬を引きつらせてうなずき、道をあけてくれた。

本日、あと四話更新予定。時間不定期。

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