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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
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23 似てない肖像画とぷち魔法

「だいたい、あんた。サディスとどんな関係?」

 と、自分で問いかけておきながら、妙な既視感に気づく。


 ……あぁ、そうか。これって自分も問われたことがあったからか。

 あのときは「キミは彼の何?」って言われたんだっけか。


 さすがにマントなしでは冷えてつらい。

 手袋がうすいので、何度も手をその上からこすって温めるがあまり効果がない。

 だが氷のような石床に座っていても凍えなかったのは、重いと文句を言ってたアンダースカートのおかげだった。

 かぼちゃな胸を張って、キュラは宣言した。


「わたくしは、彼の未来の恋人で花嫁で妻!」


「うん、妄想はいったんこっちに置いて。聞いておいてなんだけど、ただの無関係なヒトじゃないのか?」


「んまあっ! なんて失礼なブスなのッ! わたくしとドーマ様の馴れ初めはわたくしが六歳のとき、シャインフロウ魔法学園の一月の雪祭よッ」


 なんだ、全然面識がないわけでもなかったのか。

 夢の中で出会ったとか言うのかと思ってた。


「すでに卒業なさっていたドーマ様がいらしてて、いっしょにダンスを踊ったわ。氷の彫像に囲まれたうつくしい白銀のお庭で。それはもう、夢のような時間だったのよ! 

 微笑みを絶やさずわたくしを見つめる、あのきらきらとした緑の瞳。翌年に魔法学園に入学することが決まっていたわたくしは、決意したのよ。彼にふさわしい女になると!」


 夢の世界に頭の先までずっぽり浸ったようすで、彼女は虚空を見つめて両手をにぎりしめていた。

 ルーは首をかしげた。


 キュラと自分は同じ歳のはずなので、彼女が六歳なら当時のサディスは十歳ということになるのだが………すでに卒業? いくらなんでも早すぎじゃなかろうか。


「なぁ、魔法学園て何歳まで通うものなんだ?」

 話の腰を折られて、キュラはムッと眉間にしわを寄せた。

 食いつくところがそこなの? とでも言いたげな視線を向けてくる。

 それでも、憮然としつつも答えてくれた。

「七歳から十六歳までの十年間よ」


 てことは、飛び級というやつか? 三分の一も通わないうちに魔法を習得したのか。

 すごいな、サディス! そういや、ひいじーちゃんが以前に、彼は子供のころから稼いでるって言ってたっけ。

 ……そんなちっこいうちから魔法士の仕事してたのか……。

 とまあ、相方の知られざるすごさについての感想は、今は横に置いておいて。

 キュラが言うところの「微笑みを絶やさず」ダンスをする彼、というのがどうにも思い浮かばない。子供のころから、あんな無愛想無表情ではなかったかも知れないが、………だめだ、想像できない。


 そこへ、またキュラが乙女発言をぶちかました。

「お仕事が忙しくて大陸中を飛びまわるドーマ様とは、それ以来会えなくなってしまったけれど。わたくし、そのときの彼の姿を忘れないためにも、画家に描かせたのよ。彼の細部にいたるまで完璧に再現させたの」

 蓋付のペンダントトップをドレスの胸元からいそいそと取りだした。

 ルーからは見えない位置で、それをうっとりながめる。

「見せて」

「だめよ、これはわたくしの宝物だものッ。第一、あなた知ってるはずでしょ」

「だって、おいら呪詛のせいで記憶がないんだ」

「あら。まあっ、じゃあ余計見せられないわね。ふふふふ」

 意地悪げに微笑んで、ドレスの胸元にペンダントをしまう。

 ルーはちょっと残念に思いつつも、あることに気がついた。

「つかぬことを聞くけど、魔法習ってるんだ? いま魔法学園って休みなのか?」

 いきなり現実に引きずりもどされたかのように、彼女は顔を強ばらせた。

「え…えぇ………………まぁ」


 何その、ながーい間は。


「ところで、ずいぶん長話してるのに、だれもようすを見にこないのはナゼかな?」

 手首が痛いのか、巻いたリボンの上からさすっているキュラは、扉の方へ目をむけた。

「ここに入れられてすぐ、見張りが一人、扉の向こうについていたけど、しばらくしていなくなったわ」


 拉致った相手を放置するぐらいだから、なにか大変なことがあったのかもしれない。


「それっていつ?」

「あなたが目を覚ます二、三分前よ」

「じゃあ、窓の外見て。異変はないか」

 さっきも見たのになんなのと訝りながらも、彼女は窓辺に行く。

 直後、ドオンという音が塔をふるわせた。

 ルーは壁につながる鎖をつかんで体を支え、キュラは窓辺の石枠を両手で必死につかんだ。


「下の庭から煙があがってるわ……あ、人がいる! さっきの男たちだわ! 同じ鎧を着た連中と戦ってる……?」


「第二王子側の魔法士たちがここを嗅ぎつけたんだ! 今なら混乱に乗じて逃げだせる!」


 キュラは呆れたように息をついた。

「あなた馬鹿? 扉の鍵はかかっているわ」

「窓からは?」

「自殺したいのならすればいいわ」

「キュラ」

「なによ、勝手にわたくしの名を呼ばないで!」

「あんた死にたいのか?」

「わたくしが死にたいなんて、いつ言ったの?」

「ここに残る選択をするってことは、そーゆうことだよ。おいらは手枷があるから、これをはずすまでは動けない。でも、あんたはちがう。もう両手は自由だ。魔法が使えるんだろ?」

 彼女は、ぎくっと体を強ばらせると、そっぽを向いて口をとがらせた。

「…………………留年しかけて、お父様に恥だからと自主退学させられたのよ。

 ……だから、魔法なんてほとんど出来ないわ」


 自分の縄もはずせないようだから、あまり期待はしてなかったけどな。


「でも全然ってワケじゃないだろ! 自分で出来るものを思いだして!」


「そんなこと言われても、ずいぶん昔のことだし……」

 そう言われて、キュラはなにかを思いだすように室内を行ったり来たりする。

 そして、パッと顔をあげて、名案とばかりに口にした言葉といえば。


「やっぱり、助けが来るまでここにいるべきよ!」


「当てがあるのか? ホリックさんがこの場所を知ってるのか? 言っとくけど、サディスも奇襲受けてるの遠見鏡でみて知ってるから、ここで無事でいるうちの迎えは難しいと思うよ」


「その遠見鏡は!?」


「敵に壊された」

 キュラは観念したように、はぁ~と長い息をついた。

「できるのは初級の浮揚と発火だけよ。モノを浮かせられるのはせいぜい三十センチ、自分にかけて窓から空を飛ぶことはできないわ。発火も蝋燭に灯すのがせいぜいよ」

「扉の構造はどうなってる? 閂なら上げることができるんじゃないのか?」

「そんな都合がいいわけ……」

 扉についた小窓から外を覗いてもみえないので、試しに呪文をそこに向けてかけてみたところ、ガタンという音とともに、ゆっくりと扉がきしんで開いた。


「うそっ、やったわ! じゃっ、わたくし行くわね! ……そうだ」


 扉を出かけて、彼女はなぜか舞いもどってきた。そして、華奢な鎖をドレスの胸元から急いでひっぱり出すと、ペンダントトップの蓋をあける。

「お礼に見せてあげる」

「!」

 そして、十秒で蓋をしめると身をひるがえし、慌ただしく去っていった。


 ……いまの、サディスじゃないと思うんだけど……? 

 そりゃあ、おいらには彼と出会った幼いころの記憶はすっぱ抜けてるから、絶対とは言えないけど。でも、ほんとにあんな顔だったのか? 

 たしかに、可愛いし目鼻立ちも整ってていいとこのお坊ちゃんって感じだったけど、銀髪に緑瞳だけど……なんか顔が優しすぎる………キュラフィルターがかかってるからか? 彼女の証言をもとに描かれたんだろうから当然そうなんだろうけど……………そもそも、彼女は現在の彼を知っているのだろうか?

本日、18時以降にもう一話更新します。

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