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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
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21 予測的門前払いと敵の奇襲

本日、二話目の更新。


 午前八時。

 朝食を済ませて、のこりのペナルティ回収に向かうことになった。

 昨日は高級住宅街の北側だったが、今日はその南側に目的地がある。


「オッドー・ゲドルフ。魔法士。八十四歳。四十四年前、クトリ遺跡へいく途中、禁忌の海域で嵐に遭い海へほうり出されたことで、ひとりだけ助かった。そのときの話を聞いてこい」


 どこまでもつづく白く高い塀。

 その向こうには木々と、見るからに金かけてますといった邸の屋根がちらほらのぞく。風見鶏や彫像が金ピカだ。

 華やかなステンドグラスが視界にはいったので、キレイだなーと思って見ていたら、二階の壁一面がステンドグラスの窓だった。


 地震が来たらどうするんだ。


 家がでかすぎるのはバーニン邸も同じだが、北側が上品で小洒落てて洗練されたセンスに対し、南側にある家々は成り金ぽい。

 ゴテゴテしてて、とりあえず金で埋めときゃゴージャスだろって言ってる感じ。

 みえてきたゲドルフ邸の門も金泥で塗られているもよう。

 つるピカなので素手でさわると指紋がつきそうだ。

 ここに来るまでに、オッドー・ゲドルフに関する情報をサディスから教えてもらった。




 おいらのひいじーちゃんと、ゲドルフ氏は、昔から犬猿の仲だという。

 ひいじーちゃんが魔法学園の元生徒で、いまはその出資者になっているんだけど、これに対してゲドルフ氏は、いまだに口伝という古いやり方で門戸せまく術の伝授を行っている。

 今でこそ女魔法士はめずらしくもないけど、昔はほとんどいなかったらしい。

 どれだけ優れた魔力の持ち主でも、憑物士と戦う前に、男社会での摩擦に耐えられずやめてしまうのがほとんどだったとか。

 ひいじーちゃんが通っていたころの魔法学園も、例外ではなかった。

 そんな差別に、女の子大好きなひいじーちゃんが怒り立ちあがったのもムリはない。

 大魔法士として世間から注目されるようになると、女弟子ばかりをとるようになったのだとか。

 さながらのハーレム状態に、非難や謂れのない中傷が飛びかったという。

 女好きとはいえ、ひいじーちゃんが女弟子に手を出すことだけはなかったらしい。

 まぁ、そんなことになってたら、子孫がクラン家だけってことにはならないよな。

 ひいじーちゃんの姓であるバームを、子孫がだれ一人として名乗っていないのは、ひいばーちゃんが離婚したときに子供たちをすべて引きとってしまったから。

 ひいじーちゃんの育てた女魔法士たちは、高度な術を得て迅速かつ的確に憑物士を仕留めた。襲われた被害者まで巻きこむのもやむえずといった、これまでの男魔法士たちとは異なり、人命第一の繊細な配慮をして人々に歓迎された。

 ひいじーちゃんは女魔法士が育つ基盤を広げるためにも、魔法学園の出資者となったのだ。

 ゲドルフ氏はいまだ「女は戦場に出るべきではない」という古い考えがあり、それもひいじーちゃんと反目する一因となっている。

 三十年ほど前から、後継の育成も考えて、ひいじーちゃんの弟子は男女半々の比率になったようだ。


「オッドー・ゲドルフからは度々、自分の弟子に鞍替えするよう誘いを受けていた」


 というサディスの証言もあるように、ほかにもまだまだ犬猿材料がありそうだ。

 まあ、ぶっちゃけ、そんな仲の悪い相手の曾孫が「お話聞かせてくだサイ」なんて言ったところで、門前払いが関の山だよな。

 しかもクトリ遺跡にたどりついてないヒトに聞く話って、どれだけの価値があるのかさっぱりわからない。


 むしろムダ足になりそうだよ? と言ったら、それでもとりあえず行ってこいと、強引に送り出された。

 彼が追手の魔力を探ったところ、見当ちがいな東の歓楽街と、西の森林地帯に団体で固まっていることがわかっているので、安心して行動できるのがせめてもの救いだ。






 不審者とまちがわれないようフードをあげて顔を出し、門番に面会を頼んだ。

 三分後、やってきたのはどう見てもご老体にはみえない二十歳前の青年だった。

「悪いが、伯父は君に会うつもりはないようだ。これから出かけるようだし。せっかく訪ねてくれたのに悪かったね」


 ゲドルフ氏の甥っ子さんか。……えらく若いな。母親はいくつなんだろうか。

 ……いや、それはどうでもいい。


「そうデスか、すこしお話をお伺いしたかったのデスが……。やっぱりキライな相手の曾孫じゃ顔も見たくないデスよネ。残念デス」

 本日もサディスから丁寧語を使えと言われていたので、がんばっている。


 ……がんばっても相手が出てきてくれないんじゃなぁ……。


 出かけてしまうんじゃ粘ってもしかたないと思い、あきらめて帰ることにした。

 甥っ子さんに、お詫びに近くのお店でお茶でもどうかと誘われたが、サディスに怒られる気がしたので丁重に断っておいた。


 いやね。いつもならゲドルフ氏の後をつけてでも、話を聞きたいとこだけどね。

 なんか背後にやな感じの視線をビシバシ感じるんだ。

 撤退したほうがいいようデス。






 こっそり尾行しているつもりであろう、目に痛い蛍光ピンクを横目に、ルーは高級住宅街のいり組んだ小路にわざとはいった。

 意外としつこい上に、ここの小路を熟知しているのか何度も先回りされて行く手をふさがれたので、撒くのに三十分ほどかかってしまった。


 いったい、いつからつけていたんだか。つけられる理由もわからない。

 ……まさか、サディスがいると思ってるんじゃないだろうな? 

 昨日の帰り道で尾行された覚えはないんだけど。


 豪邸の塀で影になった小路で、サディスと連絡をとるべく、桃革の手提げ鞄から遠見鏡のペンダントをとりだした。

「どうする?」

 魔法は起動させっぱなしなので話はつつぬけ。

 門前払いされたのも彼は知っている。

「この街に長居はしたくない」

「キャラベ軍が動いてる?」

「逆だ。この街の近隣に三十分ほど前まであったはずの、奴らの気配がすべて消えた」


 サディスは相手の魔力を感知して距離を知ることができる。

 範囲は中ぐらいの国ひとつ分ぐらい。とすると。


「このイーストローズ国から出たってこと? なんか不自然だね」


 ふつうは一人二人情報収集にのこすものだし、魔法の痕跡もなくこつぜんと消えるわけがない。転移の術を使ったって、サディスにはバレるのだ。


「魔力を封じているのかも知れない。俺より魔力の低い奴が自身の力で封じても、かすかな漏れを感じることはできるはずだが……魔道具を使っているかも知れない。しかたない、これから」

 いきなり、鼓膜をつんざくような爆音。

 びっくりして、ペンダントの鏡から手を離した。

 複数の怒声と悲鳴、さらに立てつづけに鏡の中から爆音が轟く。


〈逃すんじゃねえぞ、死ぬ気で追いすがれッ! バーニンの捕獲機を使え!〉


 鏡に亀裂がはいり、パンッとはじけ飛ぶ。


「うわっ!」


 鏡の破片が頬をかすめた。

 サディスが追手の奇襲にあったようだ。


 しかもさっきの野太い声、バーニン邸に押しかけてきた、おっさん魔法士にちがいない。あのときの人当たりのよさはなく、どこの賊だって感じのドスの効いた声だったが。

 そして、何て言った? バーニンの捕獲機? なんでそんなもの持っているんだ? 

 ホリックさんがやつらに加担するはずないのに……!? 

 まさかあのとき、地下書庫に彼女を引き止めている間に邸から盗んだのか? 

 サディスは今、街の大通りにある広場にいたはずだ。

 人通りの多い場所で攻撃を仕掛けたのか、あいつら……!


 〈クトリの殺人鬼〉を狩る名目があるとはいえ、イーストローズ国がキャラベの属国とはいえ、まさかの暴挙にルーは怒りを覚えた。


 ───今は憤っている場合じゃない。

 これから自分がどう動くか考えなければ。


 だから、うっかり失念していた。


「こんなところで何してるワケ? このブス女」


 小路をふさいで、腰に手を当て親のカタキのごとく睨む、蛍光ピンクをまとう少女がいたことを。

本日、18時以降にもう一話、更新します。

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