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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
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18 敵に関する重要な話と妄想爆走少女

 書庫のあった蔦だらけの建物をでると、夕方の澄んだ冷たい空気が首筋にふれる。

 ルーは肩をすくめた。おおきな花びらのような雪がふわふわと舞っている。

 ふと、気になることを思いだしたので訊いてみた。

「そういえば、すごい男嫌いって聞いてたけど、アレは嘘かな? だって、さっき魔法士のおっさんとフツーに話してたし」

 姿を見てないので野太い声からしておっさんと推察したが、彼女は否定しなかった。

「男は嫌いだよ、根本的にね。臭いし汚いし不潔だし」


 臭いし汚いし不潔……ぜんぶ同じ意味だと思う。


「嘘つきだし怠惰だし傲慢だし」


 ……ろくな男に出会ってないようだ。


「あ、ノア氏は別だよ? 特別」


 そんなチクったりしないよ? 

 それに、ひいじーちゃんはすべての女のコに寛容だと思うから。


「まぁ、それでも僕はバーニン家の当主だからね。守るべきものがあるから、たまにはへりくだらないといけない事もあるんだ。聞いていたと思うけど……第二王子からのお誘いもあるからね。あまり彼らに対し、悪しざまな態度をとるわけにはいかない。バルフレイナ様のことを持ちだして一度は断ったけど、まだしつこく勧誘がつづいているから。

 それに、王宮内に出入りできる知人からつかんだ情報だと、あのバドウェンという男、第一王子を裏切って、第二王子に鞍替えしているらしい。〈第一王子直属の隊長〉と呼びかけたときに、彼は訂正しなかった。まだ公にできない理由があるのだろう。おそらくは、第一王子の失脚を間近に感じての鞍替えだと思う。権力に近い人間というのは、王の後継により近いほうに仕えたがるものだからね」


 キャラベの第一王子……あの能天気なバカ殿のことか。

 むしろ、アレが王様候補ってなんの冗談だって感じなんだが。

 いつまでも能天気でいられる状況でもないんだな。

 やっぱ軍国だし。無能だとポイされて当然なのかも知れない。


 ひろい庭を歩いて、本館へともどった。

 そこでルーは、温かいミルクティとチョコレートのケーキを頂いた。

 今度は遠慮なくケーキも食べた。美味しかった。

 向かいの席でそのようすを微笑ましく見つめながら、ホリックも紅茶を飲む。

 そして、先の話の補足をした。


「元・師がいるからだけが、第二王子の誘いを断った理由じゃないんだ。〈クトリの殺人鬼〉を狩るのは、キャラベ国を継ぐ長子の役目と昔から決まっている。この北方諸国に住むならだれもが知っているよ。属国なんて言えば聞こえが悪いけど、たしかに、かの国のおかげで禁忌の海域から流れつく脅威は、未然に防がれているからね。

 しかし、その役目を第二王子に鞍替えした男が陣頭指揮をしているということは……近く内乱が起こるかも知れない。いや、もう、水面下で起きている可能性が高いな。そんなときに、王子様じきじきのお声がかりだからと、浮かれて王宮なんかに行った日には生きて帰るのは難しいよ」


 ルーはもくもくと、口に頬ばった七個目のチョコレートケーキを嚥下し終わると、疑問を投げかけた。

「おいらが〈クトリの殺人鬼〉だと、あのおっさんから聞いて怖くなかった?」

「いや。ノア氏の手紙に書いてあったからね」


 なんだ、ひいじーちゃん口が軽いな。


 フッと顔を翳らせ、ホリックは口許を引きつらせた。

「どうせ、あのサディス・ドーマが呪詛解きに挑んでいるならまったくもって心配無用だしね……あの冷酷魔人の惑わし男め」

「えっ?」

 きょとんとした顔でルーが見つめると、はっとしたように、彼女は優雅な笑顔をとりつくろった。

「どんな呪いがついていようと君は君だからね。理由は何であれ、頼って来てくれてうれしいよ」

「あの……もしかしてサディスのこと」


 なんかいま敵視してるような言葉が、ぽろっと……? 

 でもサディスは不潔でも嘘つきでも怠惰でもないし……ちょっとだけ傲慢ではあるけどさ。



 バンッ!



 応接間の扉が開いた。


「聞いたわよ! 聞こえたわよ! わたくしのドーマ様を貶めるなんて許さなくてよッ!! 馬鹿ホリック!」


 蛍光ピンクのサテンドレスが目に痛い少女が乱入してきた。

「気のせいだよ、キュラ」

 ホリックは、にっこり笑顔で否定した。


「ウソおっしゃい! わたくしの耳は誤魔化されなくてよッ」


 だかだかと、ハイヒィルなのに恐ろしい勢いでやってきて、ホリックの前につめよる。背の高いホリックを見あげ、両手を腰にあてて憤然と睨んでいる。

 この国ではめずらしい黒緑の長い巻き毛をポニーテールにして、切れ長のおおきな目も夜空のように黒い。肌はほんのり桜色で、やや童顔。お人形みたいな愛らしさがある。身長はハイヒィル分をのぞけば、百四十二センチのルーより五センチ高いていどだ。おどろいたのはその胸だ。でかい。というか、でかすぎ。そして、重そう。

 はっきり言って巨乳と表現する以外にない。

「お客様がいるのだから騒がないでくれるかい? ルー、彼女はキュラ・リップ。僕の幼なじみなんだ」

 ルーは挨拶をしようと席を立った。


 そういや地下室でぽっちゃりさんと比較されたが、彼女だったのか。

 ぽっちゃりの部分が限定的すぎる。

 

「キュラ、彼女はノア氏の曾孫さんで」

 すると、ホリックが言い終えないうちに、キュラはキッと眦をつりあげて、ルーに向きなおった。


「まさか、ルー・クラン!? イヤだ! 何しにここへ来たの!?」


 初対面で害虫を見るようなまなざし。

 なつかしいな。ひいじーちゃんの館の弟子たちを思いだすよ。


「キュラ、失礼なこと言うんじゃないよ。彼女はノア氏のお使いで、わざわざ来てくれたのだからね」


「用が済んだのなら、さっさと帰れば!? 部屋の空気が澱むわ!」


「キュラ。ここは僕の邸だ。勝手なことを言わないでくれ」

 ホリックが呆れて注意すると、さらに彼女は機嫌を損ねたらしい。

 ヒステリックに叫んだ。


「ホリックは知らないのね! このコが五年前までどんな薄汚い手で、ドーマ様に取りいっていたか! 魔力なしを自覚して家出したって噂で聞いてたから、安心していたのに! もどって来ないでよ! なんなのその髪色! 似合わない、ぜんぜん似合ってないわ! ドーマ様とおそろいにして何のつもり!? ふざけるんじゃないわよこのウジムシダンゴムシゾウリム……ぐむぐむぐ」


 さすがの罵詈雑言に、ホリックが彼女の口を背後から両手でふさいだ。

「すまないね……このコはサディス・ドーマの熱狂的なファンで、……彼の傍にあるものは、例え小石やダンゴムシでも許せな……イタッ」

 ホリックの手を噛んで、彼女は息継ぎついでに怒濤の勢いでしゃべりはじめた。


「……ぷっはっ、……失礼ね! わたくしをその辺のただの一ファンと一緒にしないでちょうだい! わたくしは彼の未来の恋人で花嫁で妻なのよ! 馬鹿ホリック! いいかげん放しなさいよ! ドーマ様に純潔を捧げるわたくしの体に触るとか冗談じゃないわよ! わかってるの? そんなことしてるとドーマ様がお怒りになって鉄槌を食らうことになってよ! わたくしがどれだけ彼のために心と体を磨いていると思っているの! そんな健気な努力の日々を……」


 ケーキでお腹も満たされたことだし、いろいろ敵に関する重要な話も聞けたし、まだこのあとの予定が押しているしな……


 キュラの未来妄想トークがえんえんと続くので、ルーはホリックに礼を言って帰ることにした。


 もしかしなくても、ホリックさんの先ほどのサディス敵視な台詞は、妄想狂のぶっとんだ幼なじみのせいかも知れないな。

 彼がここへ来たくなかった理由も、いまさらながらわかってしまった。






 午後六時半。

 バーニン邸からの帰り道、サディスから「遅い」と遠見鏡ごしに怒られ、二つ目のお使いは明日にくり越されることとなった。

 迎えに行くと言われたが、ちょうど宿屋向きの乗り合い魔獣バスがきたので断った。

 背中にトゲのある二頭の牛似魔獣が引くおおきな荷車に、木のベンチが向かい合わせについたものだ。となりに座ってきた酔っ払いに抱きつかれそうになったので、遠慮なく走行中のバスから棍でたたき落してやった。

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