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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
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16 不意打ちで新たに来た追手は

 どちらにしろ孤立してしまった。

 とりあえず、今できることと言えば、息をひそめて脱出口を探すしかない。

 とはいえ、ちいさな部屋。足音を忍ばせて壁や床、書架を念入りに探るがほかに出口らしきものはない。

 ここで疑問が首をもたげる。ホリック・バーニンは、はたして敵なのか味方なのか。


 追手は昨日の時点で、東側の町で撒いたはずだ。

 だから、そもそも、ここ西側の街にいるはずがない。

 ……それとも、上にいるのはやつらじゃないのか?

 いやいや、ホコリの状態を思い返せば、ここに偶然、今この時期に客がくるとは思えない。やっぱ敵だ。それにしても、タイミングがよすぎる。

 このまま、やつらが去るまで、ここから、おいらを出さなければホリックさんは味方ということになる。でも、もし、ちがったら……?


 五分ほどして、複数の足音は去っていった。

 しかし、依然として天井の出入口は開かない。

 ふと、彼女がここに入るときにやったことを思いだした。


 あれは、呪文を使わなかったはずだ。

 似たようなのが、この部屋にもないだろうか?


 奥の壁に面する書架の前に立った。

 たしか、下から二段目の右端の本だった。それを抜いて、そこを覗きこんで見た。

 なにもない。左端の本を抜いてそこを覗いてみた。レバーがある。

 やはり魔法でなくカラクリ仕掛けだったようだ。手をつっこみ動く方向を探る。

 下に下げることができたので、そのまま手を引いた。

 すると、いきなり書架が横に滑って移動する。

 今度は壁に四角い穴があって、上りでも下りでもない、まっすぐなせまい道が現れた。まっ暗で湿った土のにおいがする。

 明かりが一片もないのではいるのに躊躇していると、また上の階を鉄靴が歩きまわる音がした。


 また、やつらがもどってきた!? なんで? 

 もう調べて引きあげたんじゃなかったのか? 

 考えられることはひとつだ。だれかが疑念をもって引き返してきた。ヤバイ!


 本能的に迫る危険を察知した。ルーは壁の穴に身を滑りこませた。

 とたんに、背後の壁を書架がしずかに塞ぎ、あたりは真の暗闇になる。

 閉じこめられた! と思う間もなく、すぐ近くで爆音が轟いた。

「な、なに……!?」

 あわてて口を手でおさえ、耳をすませる。


「見ろ、隠し部屋だ!」


 野太い男の声が聞こえてくる。


「……ちっ、ここにもいぬとは。あー、某の勘もなまりおったか……?」


「お疑いは晴れましたか? キャラベ国第一王子直属、魔法士団第十九部隊隊長バドウェン・ゾル様」


 ホリックの声だ。


「よく知っておるな、某はそんなに有名人だったか?」

「キャラベ魔法士軍専属の魔法武器を作らないかと、お誘いを受けているもので。軍にどんな方々がいるのか、少々、調べさせて頂いたのですよ」

「ほほう? いや、でも、おぬし確か……バルフレイナ殿に破門されておったのではなかったか? うちの専属なんぞになったら、元師匠とかちあうぞ?」

「バルフレイナ様はあつかいづらい上に、すでに七十半ばを越えてのご高齢ですからね。彼女の代わりにどうかと、第二王子様からの打診のようです」

「メイリィ殿がねぇ……」

 ルーは身じろぎひとつせず、息をひそめて聞き耳を立てた。

 まっ暗なので、動くことでつまずいて音を立ててしまったら元もこもない。

 さっき穴の内側の両端に、木箱や廃材らしきものが積んであるのがおぼろげに見えたからだ。使わないから物置にしていたのかもしれない。

「なかなか野心の多い御方であるな。で、おぬしはなんと答えた?」

「あなたのおっしゃる通り、元・師がいるかぎりは恐れ多くて」

「はははっ、おぬしそのようなナリで、意外に小心者であるな!」

「えぇ、破門の折に、彼女の新作の魔法武器の的にされまして。三ヶ月ほど生死の境を彷徨いましたからね」


 ひいじーちゃんの弟子の間で伝説になるはずだ。

 恐るべし錬金術師バルフレイナ。


「………なるほど、納得いたした」

 バドウェンは神妙な声でそう言った。

「とりあえず、いると思うてこの建物に結界をかけてみたが、なんの反応もなしとはなぁ。出ようとぶつかっておるのもネズミだけのようだし……」


 遠見鏡の魔法が遮断されたのはそのせいか! 

 そして、暗い道をムリに通ろうとしなくてよかった。

 おそらく、この建物の地下部分から出る道につながっていたとしても、そこで結界に触れて気づかれてしまっただろう。


「うーん……ここだと某の勘が告げておったんだが……最近、第十六部隊にばかり任がまわってて、前線に出ることもなかったからなぁ、やはり、ちと鈍ったか」

 まだ納得できないのか、ぶつぶつ言ってる。

 とっとと、帰れよ! と、ルーは心の中で呟く。

「しかし、不思議ですね。何故、わが邸内に〈クトリの殺人鬼〉などという、物騒な輩がいると思われたのでしょう」

「あ? 銀髪の娘が訪ねて来ておったろう」

「来ていませんよ」

「いや、おぬしそんな見えすいたウソを言うてもな」

「では、僕が嘘をついている証拠を教えてくださいませんか?」

「ここにはいって行くのを見た者がおるのだ」

「当然でしょう。うちの執事や女中には、銀髪なんてざらにいますから。買い出しに出た彼女たちがもどってきたのを、勘違いされたのではありませんか?」


 そーいや、女執事さんも女中さんも銀髪だったっけ。まぁ、サディスみたいな完全な銀じゃなくて、ほんのり紫がかっていたり赤みがかっていたけど。


「お気が済まないのであれば、彼女たちを呼びましょうか?」

「……いや、いい。時間の無駄になりそうだ。……失礼いたしたな」

 バドウェンは、おそらく周りにいるであろう部下たちに「オイ、引きあげるぞ」と促した。重たい鉄靴の音が去ってゆく。

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