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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
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15 クトリ王国の資料をゲットした

 応接間をでて天井の高い廊下をわたり、美々しいバーニンの背中についてゆく。

 ビロゥドの絨毯が敷かれ、高価そうな壺や彫刻、数々の絵画がある建物をぬけ、さらに小雪のちらつくひろい庭をぬけ、その奥の古びた建物に向かう。

 壁に蔦の這うこじんまりとした小館といった感じだ。

 踏みこむと、がらんとして何もない玄関ホール。

 クモの巣がカーテンのように、ぶらんぶらんと天井からぶら下がっている。

 頭上には掌よりおおきなクモ、足元をネズミが走りぬける。

 さすがにおかしいと思って足を止めた。


 複製とはいえ、古代資料は大切なもののはずだ。

 こんな手入れのされてない場所で、保管するものだろうか。


「あの~、……言ってはなんデスが……こんなところに書庫が?」

「うん、だって誰も、こんな所に大事なモノを置くとは思わないだろう?」

「……デスね。床に足跡ついてないので、長いこと泥棒も来なかったってことがよくわかりマス」

「僕ね、一度読んだ書物は完全に頭の中にはいってるから。二度見る必要がないんだ。書物にかぎらず記憶力はいいんだよ」


 怪しい。すっごく怪しいよ……それなら、わざわざバルフレイナから破門の危険を冒してまで複製を盗まなくても、留守中にでも盗み読みしちゃえばよかったんじゃないのか!? 一応、スカートの中に携帯棍を隠してはいるが、たぶんこのヒト魔法を使えるはずだ。

 魔法武器を専門につくる錬金術師バルフレイナの元・弟子だし。

 飛び道具だされたら、どうにもなんないけど。まさかサディス、そんな物騒なヒトだと知らなかったとか言わないよね!?


 玄関ホールを右にぬけ、地下への石段を降りた。バーニンがなにか呟くと、いっきに石段の下まで壁に設置された灯火がついた。魔法だ。

 つもったホコリの上をもふもふ歩く。すこしかかとの高い靴をはいていたので、ホコリで横滑りした。

「!」


 どさっ


 すぐ下にいたバーニンに受け止められた。

「気をつけて」

「あ……りがとうござい、マス」

「……ちょっと待っててね」

 頑丈な鉄の扉の前につくと、腰からカギ束をだした。


 鉄の扉だよ……書庫なのに!


 ますます怪しい。ルーは自分が無事に帰れるのか疑問に思った。

 カギを差しこみながら、彼女はちらとルーのほうを見た。

「……君、ずいぶん細いね。いくつだっけ?」

「十四デス」

「……ほんとに女のコ?」

 驚愕のまなざしを胸元に向けられた。

「いや……失礼」


 それは、暗に胸がないのを不審に思われているということかナ?

 ふだん男とまちがわれても気にしないのは、己の言動をよく知ってるからだ。

 しかし、胸のあるなしだけで判断されると正直ムカつくぞ。


「食べても太らない体質なんデス」

 ムッとして刺々しく言ってやった。

「ごめん、その……僕の幼なじみが君と同じ歳で……なんていうか、わりとぽっちゃりしてるから」

 悲鳴のような軋みをあげながら、開いた鉄の扉の向こうはまっ暗だ。

 またバーニンが呟くと中が明るくなった。書架がある。古びた本の匂いがした。


 なんだ、ウソじゃなかったのか。


 すこし、ホッとした。

「さ、どうぞ」

 ルーはまた滑らないように慎重に床のホコリを踏みながら、書架と書架の間をみてまわった。

「クトリ関係の資料はたしか……秘密の部屋のほうだ」

「秘密の部屋?」

 先導する彼女について行くと、奥の壁ぎわの書架の前で止まり、本を一冊抜いてそこに手をつっこんでから、また手を引いた。すると、いきなり書架が横に滑りながら移動した。床には四角い穴があって、そこにまた下りの石段があった。

 バーニンが呟くとまた明かりがついた。一緒にはいってゆくと、また書架がならぶ。

 さすがに地下二階のせいか、ちょっと空気がよどんでいる。

「すべて古代語で書かれてあるけど大丈夫?」

 読めるかという意味だろう。ルーはうなずいた。

「はい、だいじょぶデス。ありがとうございマス、バーニンさん」

「ホリックでいいよ」

 ホリックは書架から二枚のうすい金属板をとりだしてきた。

「これは僕が趣味で作った複製機。この金属板の中に、紙に書かれた一定の情報量を術で焼きこんである。魔力が動力源。先に起動させておいたからね。あとの使い方は本と同じ。手を板の上にあてて、めくるように滑らせれば次のページがでる。一枚の板で千ページほどあるから」


 二千ページあるのか! 日暮れまでに終わるかな……?


「そこにテーブルと椅子があるから。じゃあ、ごゆっくり。僕はちょっと上の部屋を掃除してくるよ。放置しすぎて本がホコリだらけになってたからね」

 彼女はすぐに踵を返し、石段を上がってしまった。

「ホコリが落ちるから、ここは一度、閉めさせてもらうよ」

 あかるい声がして、書架が移動する音がする。

 あわてて見にいくと、石段の上の入口がすでに塞がれていた。一抹の不安。


 お、落ちつけ。……そうだ、まずは任務が先だ。


 テーブルの複製機のところにもどりかけて、また不安がもたげる。


 ふつー、当主が地下室の掃除なんかするか?


〈ルー、何をしている。さっさと始めろ〉


 桃革の手提げ鞄から声が聞こえた。

 はっとして、鞄の中からちいさな鏡のついたペンダントをとりだして、首にかけた。

 サディスがいつのまにか、ガルボの案内小屋で購入していた遠見鏡という魔道具だ。

 ふつうの遠見鏡は一方通行で遠くを映しだすだけだが、これはペンダントと対になる鏡がサディスの手元にあって、「互いの姿と声も届く」というお得なオプション付。

 製作者が薬屋ネリンの姉である魔道具屋で、よそではなかなかこういった高機能な遠見鏡は手にはいらないものらしい。


 サディスなら、それぐらいは魔法でできるらしいんだけどね。鏡とか水面があれば。

 でもこれは通信系に分類される魔法で、使用中に魔力の軌道が空中にでる上、魔力消費がすくなくないから追手に見つかっちゃうリスクがあるらしい。

 この魔道具だと消費魔力がかなりすくないし、魔力の軌道も感知できないほどうすいので、そうそうバレることはないだろうって言ってた。

 ちなみに、ここへ来る前に遠見鏡の魔法起動は、サディスにしてもらっている。

 ホリックさんとの会話は筒ぬけだったはずだが、彼が特になにも言わないなら、気にすべきことじゃないということか。


「聞こえてるよ! 資料のページ見えてる?」

 ルーは棚から拝借した重い本を三冊ほど机につんで、その手前に複製機の金属板をななめに立てて、ペンダントの鏡に映るようにする。そして右手を滑らせた。

 彼女にはちんぷんかんぷんの古代言語が、そこに映し出される。

〈一秒ごとにページをめくれ。三十五分で終わらせる〉






 終わった。あとはもう帰るだけだ。

 クトリ王国の資料をハイスピードで読んだ彼は、なにか気になる部分を見つけたようだ。それはルーが帰ってきてから話すと言われた。


「すみまセーン! 読み終わりました! ここから出して下さいまセンか?」


 しんと、地下書庫は静まりかえる。


 あれ? まさか聞こえてない?


「ホリックさん?」

 天井がミシリ、鳴ったような気がした。桃革の手提げ鞄を手に石段をあがってみる。

 誰かが上のフロアをせわしなく歩き回っているような気配。


 彼女が掃除をしているから? 

 いや、さっきまでひどく静かだった。


 耳を澄ませてみた。すぐに歩き回っているのが一人ではないと知れた。

 かすかに石の床を蹴る重たい足音がひびく。まるで鉄の靴でもはいてるような……。

 ぎくっとした。


 まさか、キャラベ軍が来た!? 

 この邸内に踏みこんできたのか!?


「さ……サディス、追手が上の階にいるみたいなんだけど……」

 ちいさな声でペンダントに話しかけた。返事がない。

「サディス?」

 鏡の部分をみた。白く曇っている。

 どうしたことか、さっきまでちゃんと彼を映していたのに。

 袖のレースで磨いてみるが、まったく曇りがとれない。


 もしや、遠見の魔法が切れた? いや、追手に切られた? 

 それとも、あえてサディスが危険回避のために切った?

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