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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
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14 銀髪フリフリでお使いにゆく

 午後二時。

 命令無視のペナルティは二回。

 一度目は「怪しい奴について行くな」と言われたのに、老婆に騙されてひょいひょいついて行ってしまったこと。

 二度目は「喋るな」と言われたのに喋ってしまったこと。

 あとで聞いた話だが、あのとき、周囲に〈集音〉の魔法が展開されていて、蛇頭鳥との戦場と化したそこで、ルーの高めの声は拾われやすかったらしい。

 ほぼ男しかいないあの場では、特定もしやすかったのだとか。

 それなら先に言っておいてくれたらいいのにと文句を言ったら、彼はその魔法を想定していたわけでなく、執念深い拷問吏がまた何かやらかすだろうと、不測の事態に対応するために喋ることを禁じたのだという。


 危機管理ハンパないな。


 キャラベ軍の追手も撒いたことだし、幽玄図書館の入館証の持ち主である、アビ・ゼルハム氏がいると思われるリデッド遺跡を目指しながら、その前にペナルティの回収をすることになった。

 彼いわく「ただの雑用だ。ある人物の元へ使いに行ってこい」と言うが、以前からこれに関しては少々疑問があった。なにか企んでいるんじゃないのか、ということだ。

 そして、その予感はやはり当たっていた。


 まず、その格好ではだめだと言われた。

 だめと言っているのは、老舗の衣裳屋バルデンモーアで、彼が用意してくれた防寒着。茶色で統一された毛織のシャツ、ズボン、立て襟の膝丈ジャケットにブーツのことだ。自分的には飾りのないシンプルさと防寒に優れているので、とても気に入っているのだが。

 わりと地味にみえる意匠ではあるものの、もののよさは折り紙つきの高級品だ。

 それで、いったい何がだめなのか。


 連れて行かれたのは、街中の一等地にある高級ブティック。

 色とりどりの若い女性用の衣装や小物が、店内を埋めつくす。

 パステルカラーのフリルとレースの洪水だ。扉を開けたとたん、条件反射で回れ右して逃げようとしたら、首根っこをつかまれ阻止された。

 そして、奥から出てきた女性店員ふたりに、「コレを歳相応の少女に見えるようにしてくれ」と引き渡された。





 今回は、北方諸国では銀とか金とかうすい色彩の髪が多いということで、銀髪の長いヅラをつけてみた。頭の両側でたかく結ぶ、ツインテールというやつだ。

 ちなみにこっちの国の人々は肌も色白が多いらしい。しかし、これは問題ない。

 五年の海賊暮しのせいで、キャラベの廃棄塔を脱出した直後は小麦色に日焼けしていたルーだが、旅の間に日々うすれ、極寒のプルートス大山脈を越えたころには本来の象牙色にもどっていたからだ。

 どうせ寒いからマントをはおるしと妥協したものの、その下の衣装といえば……目にもまぶしい、純白の袖がふくらんだリボンだらけの襟詰めブラウスに、ものすごいフリフリレースの純白スカート、さらにその下に刺繍だらけの豪華な桃色のアンダースカート三枚重ねというもの。長さはひざ下まである。

 重い。はっきり言って重いよ! ナゼこんなに重ねる必要があるのか!? 防寒か? ドロワーズはいてるんだから不要だろとつっこんだら、

 とんでもない! それじゃ、スカートがぜんぜんふくらみません! と頑としてゆずらない。

 昨今の流行はふくらんだスカートと、胸を強調させることらしい。

 襟ぐりを台形に、がっと開けるらしいが、あまりになさすぎる胸に店員も早々にあきらめてくれた。

 その代わりにと、髪にリボンやら耳飾りやら、あげく化粧までしてくれた。

 いや、化粧はいいよと青ざめて辞退して逃げようとしたが、まあまあと店員たちにとっ捕まって強制的に施された。脚の冷えを防ぐために絹の長い靴下を渡された。

 そっちの毛織の靴下の方がよっぽどあったかそうなんだけどと言ったら、野暮くなるからダメです! と言われた。

 女のコの格好って大変だなと、しみじみ思った。

 すこしかかとの高い白の靴をはいて、着替え室から出たときの、サディスの感想は一言。

「……目立つな」


 なぬ? 髪色のチョイスをまちがえたか!? 

 でも赤毛のときだって目立ってた気するけど! 

 いや、待てよ。このフリフリのことか?


「だったら、もっと地味な衣装に!」

 これはチャンスとばかりに意見したが。

「まあ、いい。会計を済ませてくる」

 あっさりスルーされてしまった。





 午後四時。

 ルーは、とある豪華な邸の応接間に通されていた。お使いなので、むろん一人だ。

 マントは女中が預かってくれたので、桃色革のちいさな手提げ鞄だけをもって、長椅子に腰かけて待っていた。


 ここの女主人ホリック・バーニンはシャインフロウ魔法学園の卒業生で、サディスとは七歳の時に同じクラスだった……だけ、とのこと。すこぶる男嫌いなんだそうな。

 つまり、いつものおいらの格好じゃ、門前払いされる確率が高かったってことか?


 彼女はキャラベ国の魔法士軍専属で魔法武器をつくる、錬金術師バルフレイナの元・弟子であるらしい。

 バルフレイナは六十年以上前、ルーの曾祖父がほかの女と結婚した腹いせに、彼の館を襲撃し、いろいろ強奪したという恐るべき女傑だ。

 その中には、クトリに関する古書もあったと聞く。

 バーニンは古代魔法武器マニアでもあり、それに関する情熱のためなら盗みも厭わない……というわけで、バルフレイナの手もち資料を独自の研究で複製して盗んだのがバレて破門になった、という経歴の持ち主だ。


 師が師なら弟子も弟子だな……。


 つまり必要なのはクトリに関する古書。もとを正せば、曾祖父が若き日に苦労して手に入れた古書の〈複製〉を見せてもらうのが、ここへきた目的だ。


 雑用どころか重大任務じゃないか。


「やぁ、待たせたね。君がノア・バーム氏の曾孫だというお嬢さんかい?」

 おおきな両開きの扉から陽気な声とともに入ってきたのは、美々しく着飾った青年だった。


 てっきり女主人が出てくるのだろうと思っていたのだが、身内の人だろうか?


 ルーはあわてて長椅子から立ちあがった。

「あのっ、お……ワタシ、ルー・クラン……デス。曾祖父のお使いできまシタ」

 つけ焼刃のお嬢言葉でなんとか笑顔を保ちつつも、ぎこちなく挨拶した。


 見かけにそぐわないから丁寧語を使えと、サディスに指示されたわけだが……自分でも不自然きわまりないな。


 桃革のちいさな手提げ鞄から手紙をだして、両手をそえて渡す。

 前々からここを訪れることを予定していたサディスが、曽祖父に一筆書かせたものだ。

「僕はこの邸の当主ホリック・バーニン。……うん、たしかに、このミミズのようにのたくったダイナミックで独創的なサインは、かの氏にまちがいないようだね」


 えっ、ここの当主?


「ひぃじ………いえ、曾祖父と面識があるの、デスカ?」

「うん、彼はね。魔法学園にいる女性の名と顔は、過去も現在もすべて把握してるはずだよ。マメなお人だからね。僕も何度か個人的に会ってる」


 魔法学園にいる女性の名と顔、は……? 

 てことは、このヒト……………。


 手紙を読んでる間、ルーは改めて彼、いや彼女を見た。

 すそがひざまである光沢の美しい深青色の上着と、その下の青灰色のヴェストにはみっちり複雑な植物の刺繍が刺してある。胸にひらひらの白いレース飾り、黒のキュロットをはいていて、先のほそい黒いサテンの靴。

 眉目秀麗、濃緑の瞳に白金髪は首すじまでと短くうしろに流している。


 なんていうか、見た目、王子サマですかといった風体だ。

 おかしいな。貴族という上流階級でもなくて上流市民だって聞いてたんだけど。

 ……いや、つっこみどころはそこじゃなくて…………男装の麗人だったのか………。


 どう見ても、女性にしか見えない執事さんに勧められた紅茶を頂いていると、バーニンが手紙から顔をあげて、こちらをじっと見つめた。


 素が出ないように、出されたお菓子には手をつけないようにしていたのだが……何かおかしいところでもあるのだろうか?


「ところで、質問があるんだけど。いいかい?」

「はい?」

「ノア氏の曾孫なら当然、彼の養子であり後継の最有力候補である、サディス・ドーマのことは知っているはずだよね?」

「はい、もちろん……デスが……?」


 あれ? なんでここで彼の名が出てくるんだろ……? 

 てゆーか、サディスって、ひいじーちゃんの養子だったのか! 

 知らなかった、初耳だ。そういや、よく考えれば彼について知らないことが多いな。

 超お金持ちだって知ったのも旅に出てからだし。


「彼のことどう思う?」

 問われて、ルーは目をぱちくりさせる。


 なんだ、この質問。


「……すごい魔法士だと思い、マス」

「会ったことは? 当然あるはずだよね?」

「はい……ありマス、が?」

「人間嫌いの女嫌いで有名な彼に、八年ぐらい前からつきまとっていた女のコがいるらしいんだけど。君、知ってる?」


 へえ~そんなコいるんだ? これも初耳だな。

 八年前か。サディスが十歳のころかな。


「知りまセン、が?」

「何かね、噂で聞いただけなんだけど……その女のコのことを彼の方も特別扱いしてたんだって」


 へえ~……だから? 

 何が言いたいんだ、このヒト?


 しばらくこちらを見つめたまま返事を待っているようなので、「そうなんデスか? 知りませんでシタ」と答えると、バーニンは「そう」と優雅に微笑んで話を本題にもどしてくれた。

「ノア氏からの手紙によると、クトリ王国に関する資料を曾孫である君に見せてほしい。とあるね。……あいかわらず下手に出るのがうまいね。もとはご自分のモノだろうに。いいよ、マントを羽織ってついておいで。書庫に案内しよう」


 世渡り上手だな、ひいじーちゃん。これなら難なく任務を果たせそうだ。

 先の妙な問答が何だったのかよくわからないが、さくさく済ませてさっさと帰ろう。


 女中から自分のマントを受けとり、それを羽織った。

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