表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
104/270

10 印象が百八十度変わった

 ドオン!

 洞窟の前になにかが落下してきた。

 否、それは両足で氷の地をヒビ入らせて、踏みしめている。

 重そうな黒鎧は、あちこち鋭い鉄爪にでも引っかかれたような痕が残っていた。

 ガジュはうつむいた顔をあげ、ギラついた眼差しで、ルーの顔を見るなり吠えた。


「キッサマああああああ! なんだ、その頭は!?」


 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。

 「は?」と問い返した。


「それでオレの目を誤魔化せるとでも思っているのか! 罪を免れるとでも思っているのか!?」


 どうやら、髪色のことを言ってるらしい。

 そういや、今まではフードを被っていたから、見られてなかったんだっけ。

 そのフード付マントは今、ケガで具合の悪そうなリリに貸しているのだが。

 黒髪女いたぶりフェチは、髪を赤く染めても文句があるようだ。


「知り合いかい?」

「敵だよ」

 ラムロードに聞かれ、ルーは簡潔に答えた。


「出て来い! この黒髪女あああああ!!」


 またもや、青い稲妻を発する魔法弾を狂ったようにぶちこんでくる。

 青い閃光がドカドカと、激しい爆音とともに地鳴りを起こす。

 結界はわずかなりともほつれない。だが。


 さっきよりも、レベルアップしてないか?


 結界内にまで振動が轟く。

 まわりの氷壁にびしばし亀裂がはいり、半端ないおおきさの氷塊が落ちてくる。


 やつは必死のようだ。まあ、別にこっちに被害は出たりしないが、あまり騒ぐとアレが来るのではなかろうか。道幅を広げるのはやめて欲しい。

 アレの大群が降りてきたらどうしてくれる。


 一通り攻撃し終わるとガジュは、ふーふー肩で息をつきながら、粉砕された白い霧氷の舞いけむる中で、依然としてこちらを睨みつけている。

「……似合わん」

 ゆがんだ口許から吐きだすように、そう呟いた。

「まったくもって似合わん、何なんだ、そのふざけた赤毛は……ッ!」


 いきなり何を言いだすかと思えば。

 まったくよくわからないやつだ。


 ルーは自分の前髪をつまみつつ考えた。


 特にだれからも、似合わないとか変とか言われた覚えもないが……まあ、自分的にはちょっと赤がハデかとは思っていたぐらいなのだが。


「金髪の方がよかったか?」

 別に他意はないが聞いてみた。

 ガジュのやや不健康じみた白い顔が、激昂したせいかみるみる赤く染まった。


「おちょくるか、キサマ!」


「じゃあ、茶髪の方が?」


「誰がリクエストしとるかあああッ!」


 そのやりとりを横で見ていたラムロードが、ふうんとガジュを一瞥した。

「赤毛でも、なかなか可愛いと思うけどネ」

 氷壁の前に腰をおろしていたルーの傍で膝立ちして、彼女の頭髪をきゅっと抱きしめるように両腕で囲った。

 拷問吏の全身から、どす青黒いモノが帯のように立ちのぼった。

 気のせい。気のせいかもしれない。だって、ルーは魔力なしなので、そんなものが見えるのはおかしい。


 いや、でも自覚なしで魔力がだだ漏れて、凍気と化しているヒトだっているのだ。

 目に見えないはずの魔力だって、魔法以外でもなにかに変換されれば見えるし、感じるものかもしれない。となると、やつの魔力は心の陰気さごとまざり漏れて、この厳しくも清々しい大山脈の大気を汚染して、青黒く染めているのかもしれない。


「なんだ、その小僧は……?」

 怒りの矛先がラムロードに向いた。

 すると、彼は子供らしく邪気のない微笑みで。

「見ればわかるでしょ?」

「わからんから聞いている!」

「やだなァ、これだから野暮男は! どうせ、キミじゃその結界を破るなんてムリだからさ。とっととシッポ巻いて帰るといいよ」

 そう言いながら腕の位置をすこし下げて、ルーの首に抱きつきつつ、拷問吏を見た。

 ルーはといえば、彼が何故そんなことをし始めたのか思いあたらず、目をぱちぱちさせている。

「ええい、ベタベタするな! キサマッ!」

「男のシットは醜いよ?」

「だ、……誰が嫉妬だ!? フザケるな! キサマも出てこい! 叩き斬ってくれる!」

「あはは、やーだよー。魔力もないか弱い子供を斬ろうだなんて、サイテーの鬼畜だね!」


 いやいや、魔力なくても強いからね、君。


 そこでふと、彼が結界の内側に来れた理由もそれだと気づく。

 魔力持ちが近づくと結界が発動して弾かれるし、発動中は魔力なしでも入れない。

 おそらく結界が発動してないときに、ひょいと入ってきたのだろう。


 まったく運がいい。守りたい相手は結界の内側に入っているのだから。

 しかし、敵なら無惨に死ねばいいなんてことを思っているわけではない。


 いい加減、その執念深さに辟易しながらも、ルーは忠告した。

「え~と、あのさぁ、拷問吏。あんたも一度は蛇頭鳥から逃れたんだから、もっと自重するなりすれば? こんなとこでいつまでも騒いでると、また攫われるよ? あんたの仲間だって二人やられてたし」

「馬鹿にするな! キサマなどの指図、は……」

 言葉を途切れさせてこっちを見た。

 なぜか、目を見開き、ひどく驚愕の表情をしている。

 ルーは自分の背後になにかいるのかと思って、つい氷壁をふり返ってしまったが当然、何もない。


 え? やつはいったい、何に驚いているというのか。




 バササササ──




 洞穴の入口に顔を向けると、拷問吏は消えていた。

 茶色の大きな羽が、ひらりひらりと舞っている。


 忠告は無駄だったようだ。

 まあ、どうせまたなんとか逃げ切るだろう。


「あのー……ラムロード? いつまで抱きついてんのかな?」

「ルーが寒いかと思って」

 彼は体を起こして離すと、自分のマントの前をはずし片側へとのばしてから、「ハイ、一緒にかけよ?」と、にこにこと笑顔で誘う。

 ルーは首を横にふった。

「大丈夫だよ、白火石で十分暖まってるから」


 とはいえ、また結界が消えると隅からじわじわと冷気がおしよせてくる。

 だが、自分よりちいさなコの防寒マントを半分でも借りるなんて、ちょっと罪悪感がある。


「リリウォッカが山に入った責任は、ボクにあるって言ったでしょ? キミが彼女にマントを貸すことになった責任も、ボクにあるからね。遠慮しないで」

「でも」

 それでも断ろうとしたら、彼はさっさとマントの片側をルーの肩にかけて、自分も彼女にぴったりくっつくように寄り添い、ふたりしてマントの内側におさまる形となった。

 こうなっては、無理やりどけるのも躊躇われる。


 でも、何だろ? 親切にされてるようで、実は甘えられてるような気がするんだけど…………これまでに、巨躯の末期悪魔を大剣でコマ切れに刻んだり、大人びて説教してきたりという彼を見てきたので………この一面には、ものすごいギャップを感じる。どうすればいいやら。とりあえず、味方にはちがいないので邪険にするつもりはないが。

 いや、でもね。いつのまにか、自分の右腕に両腕をまきつけてるのは、ちょっとどうしたという感じなのだが……。


「なんで腕に抱きついてんのかな……?」

「だって、ボクの方が年下だし!」


 え、それが理由? 

 いや、なんかね。全然そんなふうに思えないんだけどね。

 今まですっごい大人びてたよね? おいらに、びしばし説教かましてたよね? 

 そんな君はどこに行った?


 ちょっと困惑気味の顔を向けると、あからさまにしゅんと哀しそうな表情をする。

 まるで捨てられた仔犬のように。


 ……や、イメージ的にはなんとなくだが仔犬……より仔狐ぽい感じかな。


「イヤかな?」


 なんでそんな顔するんだよ。……可愛すぎる。

 いきなり甘えっこの弟ができたみたいだ。


 ちょっと照れて、それから、ルーは折れた。

「いいけど……ずいぶん印象変わってるよ?」

 すると、彼はさらにきゅっと腕に抱きついてきて、ルーの肩にちいさな頭を寄せた。

 口許になにやらうれしそうな微笑を刻んでいるのが見えた。

 なにかちいさく呟いたようだが、よく聞きとれなかった。

 それで聞き返そうと思ったら、彼はパッとふり仰いだ。

 彼のほうがルーより十センチほど低いので、目線がすこし下だ。

「朝まですこし眠ろう? 疲れた顔してるよ。体力を回復しなくちゃね」


 それはごもっとも。追われる身なのでしっかり体調管理して、サディスが迎えに来たときには、足手まといにならないようにしないといけない。


 ほんとは、ラムロードにいろいろ聞きたいこともあったのだが……リリとの関係や、ここにどうやって辿り着いたのか、とか。

 だが、一度眠りを意識すると、どっと疲れがおしよせてくる。


 ───いつのまにか眠っていた。


 そして、夢の中で三度目にやってきた拷問吏が、結界の外でなにか喚いていたが、ラムロードとの子供じみた言いあいで負かされたあげく、今度は三羽の蛇頭鳥に取りあいされながら攫われていった。


 さすがにもう来ないような気がする。

 静かに昇天してくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ