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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅲ】 プルートス大山脈を越えて
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7 腹を割って話しましょう

 ちょっと迷った。

 でも、サディスが先に見つけてくれるとは限らない。

 そしたら、必然的に彼女を巻きこむことになるだろう。


「なに?」

 闇の中、だけど視線は違えずこちらを見つめ、怪訝そうに彼女は眉をしかめた。

「おいら、キャラベ軍の魔法士に追われてるんだ。悪いことしたわけじゃないんだよ! 不可抗力とでもいうか……その……」

「そこまで言ったなら全部話しなさいよ。軍に追われるなんて、怪しいヤツをわたしが見逃すと思うの? これでもベレネッタ国じゃ、去年の国技大会で剣士の最高位〈金樹〉の称号を賜っているのよ」


 剣士だったのか。わかったから剣を抜いて刃先を向けないで欲しい。

 やっぱ、曖昧にぼかすのはムリそうだ。


 それで簡潔に、自分がクトリの呪詛を受け、相方の魔法士に封じてもらい、その呪詛を解くべく鍵をにぎる学者を追って旅していることを告げた。

「クトリの呪詛の話なら知っているわ。〈クトリの殺人鬼〉のことでしょう? たしか、赤い不気味なアザをもち、獣のように凶暴で人を惨殺するとかいう呪い。……なるほどね、キャラベ軍が追うはずだわ」


 なかなか博識なねーちゃんだな。

 それとも、北方諸国近辺じゃ、ふつーに有名な話なのか?


「ところで、ほんとに解けるんでしょうね?」

「うちの相方は天才だから、必ずその方法を見つけてくれるよ」

「古代の呪詛でしょう? その場しのぎの言い逃れするなら、ここでわたしがサクッと息の根止めるわよ?」


 ……そっか、……そうだよな。

 ふつーは、いつ殺人鬼化するかわかんないやつの話なんて、信用ならないよな。


 やむなく彼の名を出すことにした。

「……うちの相方はサディス・ドーマ。デス」

「えっ? ……………いま、何て言ったの?」

「うちの相方はサディス・ドーマ」

「銀彗の魔法士!?」

 すっとんきょうな声で聞き返してきた。


 すごい、一発で通じるんだね。さすが有名人。


 ルーが頷くと、息を呑む気配。

 ついで、彼女は混乱した。

「やだっ、うそッ!? え……えぇ!? まさか、わたしのリボンを鞭で切り裂いたあの人が!? 超やっばいヤツじゃんとか、アンチフェミニスト野郎とか思ってたりしたあの人が!?」


 本音がだだ漏れだよ。


「落ちついて、ねーちゃん」

「わたしの名は、リリウォッカ・ニナ・ドゥルよ。リリでいいわ。十七歳なの」

「おいらは………ルー・クランだよ。十四歳」

 いまさら偽名のウルを使うのもなんだしと、本名を名乗った。

 リリは、は~っと俯いて溜息をこぼした。

「……そういや、他人嫌い女嫌いって噂、有名よね、あの人……納得したわ」

 剣を鞘にもどしてそう言った。


 そんなとこも有名なのか。

 むしろ、そんなとこで納得されるのか。


「遭難したら、適当な洞穴で待機するように言われたんだけど。リリは?」

「うちの供も、今ごろ血眼で捜してくれてると思う……たぶん。怪鳥に食べられてなければ、だけど」


 食べないと思うがバラされてるかも知れない。とは、口が裂けても言えないな。

 キャラベ軍はすでに二人やられてたし。

 魔法という便利な飛び道具を使える魔法士のはずなのに。

 ……だいぶ時間が経ったと思うけど……日暮れ前から五時間ほどだろうか。

 いま十時か十一時ぐらいかな? 

 もしや、まだ……サディス、あの蛇頭鳥に追いまわされてんのか……?


 リリの方を見れば浮かない顔をしている。


 あれ? こめかみに汗が浮いてる? 

 いや、なんか忘れてるだろ……そうだ!


「さっきリリ蹲ってたけど、どこかケガしてる?」

 はっと気づいたように、彼女がこちらを見た。

「足をね、ちょっと……ここに落ちる寸前に、供から浮揚の魔法を受けたんだけど、氷塊の突き出したところに着地してすべって転んだのよ」

「捻挫かな?」

 ゴーグルのレンズは緑なので肌の色は白っぽい緑、髪やマントは緑、洞穴の闇は黒っぽい緑に視える。ブーツのすきまから左足首を見せてもらったが、異様に腫れているのがわかる。彼女も自分で触りながら顔をしかめた。

「けっこう痛いし、骨がどうかなってるかも」

 ルーは凍らないよういっしょに携帯食料と避難させた、軟膏の傷薬を思いだす。

 念のためにと、サディスが持たせてくれたものだ。

「傷薬ならあるけど。塗っておく? ヒビとか、折れてたらあまり意味ないかも知れないけど。炎症をすこしは抑えると思うし」

「そうね、気休めでもいいわ」

 急いでやらないと、足が凍傷になりそうだ。

 そう思いながら、マントの下から先ほどの包みを取りだして開きかけたとき。

 いきなりゴーグルの隅がしろく光った。まぶしすぎて何が起こったかわからない。

 急いでそれを頭の上にあげて、洞穴の入口をみた。そこに置いた鞄が輝きを放ち、銀光の膜がサアッと広がってせまい洞穴の内部を包みこんだ。


「結界……!?」


 リリが驚いたような声をあげた。

「条件付発動型の防御結界。魔力持ちが近づいたり攻撃をすれば、結界が発動するんだ」

「じゃあ、キャラベ軍が近づいてるってこと? いえ、でも、待って。うちの供にも魔法の使い手がいるから、彼らということも」

 一度、結界を敷くと銀光のまぶしさはだいぶなりを潜めたので、もう一度、ゴーグルを装着し直し、洞穴の奥から外の道を視た。


 いた。右側の道からひとり迫ってくる。

 明かりがそのすこし前方を移動してる。

 火じゃない。不自然なまでに球状の光、魔法で作られたものだ。


 ゴーグルでは、遠いと緑の輪郭線のみで大まかな形しかとらえないが、それでも十分わかる。そして、その人物は氷の上を歩かず、いくらか浮いた感じでスーッとすべるように飛んでくる。

「……キャラベ軍の魔法士だよ、鎧つけてる」

 こちらをまっすぐ目指している。

「……寒くなくなったわ。この結界、冷気も遮断もしてるのね」

 リリがちょっとうれしそうな声を漏らした。

 結界の光はかなり薄くなったが、それでもこの闇の中では遠目にもはっきり見えるだろう。


 ある意味、諸刃の剣だな。


 そして、そいつは洞穴の前までやってきた。

 氷の上ですべらないようにするためか、十センチほど足下が浮いている。

「久しぶりだな、黒髪女」

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