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悪夢~Il record dell’incubo~  作者: 霧景
一章 光の人々
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 「涼君、状況の説明をお願いしますです!」

 「はい。えっと、襲われているのは初等部の生徒達で、吸血鬼の血を引く子が一名、後は非常に微弱な能力者ばかりのグループです。対して闇は二人組み。憐さんの言霊が効かない人がいて……」


 羽音の言葉に、憐の横を滑る様に移動していた涼が体の向きを変える。そして、羽音に顔を向ければさらさらと状況を説明し始めた。

 その瞳は潤み、今にも泣いてしまいそうなように見えた。

 言霊というのは、術者の放った言葉の通りの出来事を起こす能力である。術者が“この人形は動くのだ”といえば、何の変哲もない人形でも動き出すようになるのだ。しかしながら言霊を使用して不老不死の人間を作ったり、死した人間を蘇らせたりは出来ない。生きてる人間を直接言霊で殺すことも出来ない。

 また、言霊の発動は基本的に決められた言葉を言うことで発動される能力であるため、協力ではあるが少々面倒な能力である。起こしたい出来事を一々口に出さなければいけないのも大きい。大きな力ゆえに乱発の効かない一撃必殺のような側面もある。

 涼の説明を聞きながら、湊は思考を巡らせ走る。言霊を跳ね除けることの出来る力といえば、能力拒絶、無効化系統能力者か、かなり高位の、それこそ神のような存在の召喚を行なうことが出来るような召喚術師。

 そうなると少し厄介かもしれない、そこまで考えて湊は深く息を吐き出した。下手をすれば湊や羽音でも太刀打ちが出来ない可能性が在るのだ。考えるだけで憂鬱になってしまう。

 そもそも言霊の通じない相手ならば、湊の能力も効かない可能性があるのだ。


 「涼、能力の使用は控えてください。後々足手まといになられても困ります」


 冷たく放たれた言葉に、涼は歯向かうことなく滑るような移動を止めた。

 

 「涼、今日の残量は?」

 「えっと、さっきの移動で使っただけだから、後八回……のはずです」


 走るペースを崩さずに真っ直ぐ前を見据えたまま問う言葉に涼は答える。八回かそうつぶやいた湊の声は重い。

 そうしてそれぞれの能力の弱点を上げてはじき出した結論は、不利。回数制限のある能力に、長時間の使用に向かない力、強力だが発動に条件があるもの。普段ならばどうにかフォローしあえる程度か。

 しかし今回の相手は言霊の効かない相手。不利になる確率の方が高いだろう。やれやれ、参ったなと湊が思わず漏らした言葉に羽音が不安げにその顔を見上げる。

 「憐さん、場所は?」

 「えっと、一回の購買前のホール!!」

 ギッと唇を噛み締めた後、湊が問いかけた言葉に憐は慌てたように答える。学園内に購買は一箇所しかない。さて、どうするかそう考えて湊は真っ直ぐ前を睨みつける。

 そして差し掛かった階段。そこで湊はなんの躊躇いもなくその手すりを乗り越えて飛び降りた。後ろから自分を呼び止める声を無視して駆け抜ける。

 一人でやれることなど高が知れているけれど、それでも先制攻撃、襲われている生徒から自分へと標的を移させた方が被害は少ないだろうと考えての行動だった。

 通りすぎた闇の生徒達がなんだなんだと湊に攻撃しようとするのを、咄嗟に押さえ込むのは光の生徒達だ。事情は良く分からないけれど、会長が急いでいる時は大体緊急事態だからと、人数で闇を押さえ込んでいく。

 闇の生徒が少ないこともあってか抵抗も空しくあっさりと押さえ込まれてしまった。

 廊下で談笑していた生徒達も湊を見つければザッと道を開けて、その姿を見送る。そして、涼たちが通りすぎた後、何事もなかったように会話に戻っていく。

 なんだかんだ言ってこういうのは助かるな、なんて考えて湊は後ろを走る羽音たちのペースなど微塵も考えずに走り続ける。

 息は少々上がってはきたけれど、戦闘に影響するほどではないだろう。そう判断してスピードを上げる背中に羽音の悲鳴にも似た言葉がぶつかる。


 「病み上がりなんだから、あまり無理しないで下さいです!!」


 しかしながらそんな言葉も、この状況で病みあがりも何もあるかと一蹴して走り続ける。倒れた時は倒れた時だそんな風に笑うが、戦闘中に倒れることは全く持って考慮していない。それがこの男の甘さなのかもしれない。


 「もう、死んじゃったらどうするですか……」

 「ルチ兄は馬鹿だから気にしたら負け」


 悲しげに呟いた羽音に続く憐の言葉は心底呆れたような響きで。その横を走る涼も心なしか冷たい目で湊の背中を見つめていた。

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