Ⅳ
のんびりとした調子で二人並んで歩いていると、教室の中から騒ぐ声が聞こえてくる。顔を見合わせて中を覗き込めばどうやら本を争ってのバトルが発生したようだった。
おやおやなんて笑いながら湊がその二人の生徒を宥めに行くのを、羽音は目を細めて眺める。結局、取り合っていたのが図鑑だったこともあって、二人で仲良く鑑賞を始めていた。湊はそれを見て小さく笑って二人の生徒の頭をなでる。
嬉しそうな、楽しそうな生徒達のもとを後にして湊は再び羽音の隣を歩き始める。
白い廊下、大きな窓。そしてところどころに飾られた色とりどりの花々。開け放たれた教室の扉から覗く教室は、その学級の色を思い思いに滲ませている。
世間では超能力者の存在なんてまだまだ絶対数が少ない異質なものであることが多くて、まるでバケモノのように扱われることもあるけれど。こうして切り取ってみれば、ただの子供と大差は無かった。
確かに中には酷く荒んだ能力者もいるのだが、それは能力者だからという理由だけで社会からつまはじきにされ、手酷い扱いを受けてきた者が多い。
それらをまとめて保護して、ケアするというのがこの学園の掲げている基本的な方針だ。……まぁその結果が光と闇の対立なのだから笑い話にもならないが。
「ふう、今日は特にトラブルはなさそう、かな」
「そうみたいですね。皆のびのびニコニコでいい感じ、です」
小さく呟いた湊の言葉に羽音が小さく笑って賛同する。穏やかな時間。こんな時間が永遠に続けばいいのに、そう考えて湊は小さく、本当に小さくその口元を結んだ。
でも、そんな願いは届かない。後方からバタバタと近づいてくる足音。振り返ればそこにいたのは初等部生徒会の会長と副会長の二人組みだ。
会長、夏夜 憐は長い髪をもった少女だった。いかにも明朗快活そうなその顔と裏表のない性格で友人の多い少女である。
裾に黒いラインの入った白いベストの下には薄い青のワンピースを纏っていた。胸元には赤いリボンが結ばれていて、靴も同じような赤色をしている。左足にはぐるぐると赤いリボンが巻きつけてあった。首にはアクアマリンの埋め込まれた雪の結晶のネックレスをぶら下げている。
対して副会長、秋月 涼は肩位までの白金の髪の少し気の弱そうな少年であった。酷く自信なさげに下を見ていることが多いが、心優しい少年で、周りからの人気も高い少年である。
憐のものと同じデザインのベストに赤いネクタイを締め、真っ白なワイシャツに黒の短パンという姿だ。靴は憐のものと同じデザインのもの。その腕には羽をモチーフにした飾りのついたブレスレットをつけている。
足を止めるなり真っ直ぐ湊を見つめる憐と対照的に、フラフラと視線を彷徨わせる涼。その二人を真っ直ぐ見つめ返した湊はやがて深くため息をついた。
「だいたい用件は予想できるけれど……憐、用件は?」
「光の生徒が襲われてるの。ボクと涼じゃ手に負えないから助けて欲しいなって」
それを聞いて、湊はやれやれと首を傾げた後、小さく頷き憐を急かして走り出す。羽音と涼もその後に続いた。
周りの何も知らない生徒達は、急に走り出した生徒会集団に、何事かと驚いたようにしていたが、それを構っている暇などどこにも無かった。