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王様とわたしの秘密の賭け事  作者: 美汐
終章 婚姻の儀
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婚姻の儀

 その日の王宮は、まるでいつもとは違う雰囲気だった。

 至るところに花や装飾品が飾られ、王宮内は華やかさを増していた。普段の仕事から離れた女官たちも、この歴史的な日に浮き足立っている様子が端からもうかがえる。

 普段は出ることのできない後宮だが、婚姻の儀は即位の儀などと同様に正殿で行われるため、この日ばかりはそれも解禁となっていた。


 わたしは早朝から女官たちに拘束され、彼女たちが手間暇かけてこしらえた赤地に金色の刺繍が施された豪華な衣装に着替えさせられていた。綺麗に化粧も施され、髪も綺麗に結い上げられて、仕上げに頭の上には豪華な純金製の頭飾りを乗せられていた。

 重大な行事であり、華やかな舞台であることは百も承知だったが、わたしの感想はただひとつ。

 とにかく重い。

 着物はもちろん、頭の飾りも大きくて立派だった。そのぶん重量もそれなりにあり、少しでも頭を傾けると、ふらふらと倒れてしまいそうだった。

 きっと端から見ればとても綺麗なのだろうが、身につけている本人としては、ただただつらい。ある意味でこれは苦行だった。


 そんなわたしは今、正殿の前まで来ている。目の前の扉を開ければ、そこには多くの列席者が集まっているはずだ。

 そこに皇太后がいるかどうかは不明だが、もはやここまで来てしまった以上、このまま突き進むしかない。ゆっくりと時間をかけて、彼女には納得してもらわなければならないだろう。


 そして、わたしはこの婚姻の儀の席で、あることをリーシンに頼んでいた。

 そのことが正式に発表されるのかが、わたしは婚姻の儀のことよりも気がかりだった。


 銅鑼が鳴り響き、扉が開け放たれた。

 そうして、いよいよ婚姻の儀が始まった。






 天気は快晴。澄み渡った青空は、この日を祝うかのように美しく広がっている。

 銅鑼や太鼓の音に混じって、外から大きな歓声が聞こえてきた。正殿内には入れなかった兵士や他の使用人ら、今日だけ入場を許された王都の民たちがそこに集まっているのだろう。


 正殿内部の中央には、すでにリーシンの姿があった。

 わたしと同様に、赤地に金の刺繍がされた豪華な衣装に身を包み、頭には豪華な宝玉をふんだんにあしらった冠を乗せた彼は、それこそ輝くばかりの存在感があった。

 わたしが彼に近づくと、そっと彼がわたしに言った。


「綺麗だ」


 そんな台詞にくすぐったくなって、わたしは笑った。


「少しばかり、互いに派手過ぎるけれどな」


 こんなときにそんな冗談が言える度胸は、さすがだと思う。

 正殿内には、王族関係者や国の高官たちが揃っていた。貴賓席にはなんと、皇太后の姿もあり、それには正直驚いた。

 あれほど反対していた皇太后が、この婚姻の儀に出席したことは、先の丞相の事件のことがあったせいかもしれない。彼女も今回の事件のことではいろいろ考えるところがあったのだろう。


 そしてつつがなく儀式が済むと、外に出て観衆へのお披露目が行われることになった。

 普段は王の姿を見ることのない民衆だが、今日は特別に王宮の敷地内を解放され、王と新しい王妃の結婚を祝うことが許されていた。


 わたしが一歩外に出ると、周囲から割れんばかりの祝福の声や拍手が沸き起こり、思わずよろけそうになった。それを横にいたリーシンが気づいて支え、体勢を立て直してくれた。

 正殿は民衆たちのいるところよりも高い場所に建っていて、下までは何十段もある階段が続いていた。そしてその下の広場には、どこから集まったのかと思うほど大勢の群衆がいて、その様子は壮観たるものだった。

 ジャーンジャーンジャーンと銅鑼の音が鳴り響くと、群衆のざわめきが静まっていった。


「これより、王より祝賀の言葉を賜る。みなのもの、心して聞くように!」


 この儀を任された官吏の男が、群衆に向けてそう言った。

 代々このエン王朝では、婚姻の儀を記念して王から民へ言葉をかけるというならわしがある。そのときには、普段は聞くことのできない王の言葉を聞こうと、こうして王宮へとたくさんの民たちが押しかけてくるらしい。確かにこの広場に集まった人の数は、ゆうに何万という数に上るだろう。

 それだけの大勢の人の前に自分が立っているかと思うと、わたしは足がすくむ思いがした。

 リーシンは一歩前に出、少しの間集まった群衆を見渡したかと思うと、大きな声で彼らに向かって声を発していた。


「本日は、おれの婚姻の儀の祝賀のためにこれだけ大勢のものたちが集まってくれたことを嬉しく思う」


 彼がそう言うと、群衆は波のような歓声を上げた。その歓声がおさまるのを見て、彼は再び言葉を続けた。


「そしてこの喜ばしき日を借りて、これからの国の発展と民の幸せを祈る」


 またさらに大きな歓声が上がる。通常の場合は、ここで王の言葉は終わりになる予定だった。しかし、リーシンはさらに続ける。


「そのために、おれはこれよりこの国の取り締まりを一層強化し、不正を正し、悪事を根絶していくことを宣言する!」


 その言葉に群衆の間からは歓声とともに、困惑のざわめきが起きた。それは後方の正殿内部からも聞こえてきた。


「へ、陛下! な、なにを……っ」


 予期していない王の言葉に、幾人かの官吏たちが慌てふためいていた。


「先日、この国の丞相が国のお金を横領していた事実が判明し、おれはそれを粛正した。そこから連なる悪人たちも今全力で取り調べて裁いているところだ! それは今後、この国の末端まで広がっていくだろう。この国の悪しき膿は取り除かれなければならん。そうしてようやくこの国は豊かな国へと生まれ変わっていくのだ!」


 その言葉を聞いた群衆は、最初しんと静まりかえっていた。しかし次の瞬間、割れんばかりの歓声に辺りは包まれていた。


 まさにそれは、国が変わった瞬間だった。

 この国が生まれ変わる瞬間に立ち会えたという事実に、わたしは歓喜の震えを感じていた。

 ひとしきり歓声が続き、それがようやくおさまるのを見届けたリーシンは、再び口を開いた。


「この婚姻の祝賀の儀の機会に、ひとつ恩赦を行おうと思う」


 わたしはその言葉に、はっとして聞き入った。


「先程述べたように、この国では、上に立つ権力者に苦しめられてきた民が大勢いた。それによって、染めなくてもよかった犯罪に手を染めてしまったものもいる。そのものたちに、おれがこの祝賀を記念して恩赦を行うことにする!」


 そう高らかに宣言した言葉は、天を突き抜け、蒼穹へとのぼっていった。

 わたしはリーシンに心から感謝した。

 これでフェイロンは救われる。

 彼は解放され、自由に生きていけるのだ。

 わたしは知らず、涙を零していた。

 人々の歓声はいつまでも続き、青く広がる空にこだましていた。






 婚姻の儀が滞りなく終わると、群衆や王宮に勤めるものたちは祝賀の宴で盛り上がっていた。

 それは夜通し続く勢いで、みなが新しい国の門出をそれぞれ祝っていた。

 わたしはさすがに疲れもあって、宴のほうは早々に辞退して自分の部屋へと戻ってきていた。

 倒れ込むようにして寝台に寝転がると、すぐにまどろみ、わたしは少しの間そのまま眠ってしまっていた。


 そうしてどれだけの時間眠っていたのだろう。

 ふと気づくと、誰かの声が耳元から聞こえてきていた。


「……リン。メイリン」


 その声に目が覚め、わたしがそちらに目を向けると、思ってもみないほど近くにリーシンの顔を認めて、心臓が飛び出そうなほどに驚いた。


「リ、リリリリリーシン? どどどどうしてここに?」


 わたしは飛び起きると、すぐさま彼から距離を取った。


「どうしてとは心外だな。夫が妻の近くに来てなにが悪い」


 夫? 妻? ああ、そうか。

 わたしたちは今日婚姻の儀を済ませた。ということは、そういう関係になったということで。それはつまり……。


「え? え? え?」


 待って。待って待って待って! つまり今日は新婚初夜というやつなのでは?

 わたしは急激に頭が冴えていき、と同時にものすごい焦燥に襲われた。

 リーシンはまた知らぬうちにわたしに体を寄せてきていた。


「ちょ、ちょちょちょっと待って! ままままだ心の準備が……」


 激しい鼓動が押し寄せる。急速に顔が火照って熱くなる。

 どうしようどうしよう。

 そうこうしているうちに、リーシンはわたしの眼前に迫ってきていた。


「メイリン」


 その呼び声に、わたしの鼓動の早さは最高潮に達した。


「は、はいぃっ」


 硬直するわたしに向かって、彼はこう言った。


「もう待てん」


 彼はわたしの背中に大きな腕をまわしたかと思うと、力強くわたしを抱き寄せた。そして息をする暇も与えないほどの強引さで、わたしの唇を奪っていった。

 その熱い唇の感触が、抵抗する余裕もないくらいの勢いで、わたしの脳天を痺れさせていき、結局そのままわたしは彼にすべてを委ねていったのだった。




                                                                         了







最後までお読みいただき、ありがとうございました!

中華風恋愛物語、いかがだったでしょうか?

また感想、評価などいただけますと、うれしく思います(^^)

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