表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王様とわたしの秘密の賭け事  作者: 美汐
第二章 後宮での生活
12/59

後宮での生活 5

 それから王様は、毎晩わたしの部屋にやってくるようになった。こう言ってしまうと語弊がありそうだが、もちろんまだ身体的な接触はない。とにかく王様はわたしに会いに来て、いろいろな話をしていった。


「メイリン。提案があるのだが」


「提案、ですか?」


 最初の晩より三日目のことだった。王様は、あれからわたしの部屋にくることを日課としているようだった。


「そう。というより、命令かもしれん」


 命令という言葉に、わたしはどきりとした。王の命令は逆らえない。このままやはりわたしは結婚するしかない運命なのか。


「今日からおれと二人のときは、その言葉遣いを直せ」


「は?」


 王様のその命令に、わたしは意表を突かれた。


「言葉遣い、ですか……?」


「そうだ。その敬語というか、そういうのをやめるんだ。もっと身内や親しい友人とするように、対等な言葉遣いで話して欲しい」


 王様のその提案を、わたしは理解しかねた。


「対等な言葉遣い、ですか」


「それだ。それがいけない。ですか、をつけなくていい。おれをただの友達だと思って話してみるんだ」


 それは、かなり難しいことだった。

 一国の王様に、敬語も使わず普通にしゃべるなんて、恐れ多いにもほどがある。王様がなにを考えているのか、わたしにはわからなかった。


「そうだな。まず、おれを王様と呼ばず、リーシンと名前で呼べ。もちろん様はなしでだ」


 いきなり最高難度の課題である。

 わたしはさすがにこう反論した。


「王様。さすがにそれは、無理というか、恐れ多すぎて……」


「だからこそだ。その恐れ多いというのがいけない。メイリン。おれはお前といるときはこの国の王ではなく、ただの一人の男だ。そう思って話して欲しい」


 王様の顔は真剣だった。逆らうこともできず、わたしは彼の言葉に従って、その名前を口にしてみた。


「……リーシン」


 そう言ったあとの彼の表情に、言ったこちらのほうが驚いた。

 王様は、ぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべ、わたしを見つめていたのだ。


「いいぞ。もう一度」


 彼は嬉しそうに言う。


「リーシン」


「もう一回」


「リーシン」


 なんのやりとりだろう、これは。

 冷静になってみると、おかしかった。

 わたしはつい思わず、くすりと笑いを漏らしてしまった。

 くすくすと笑うわたしを見て、王様は嬉しそうに言った。


「初めて笑ったな」


 その言葉に、わたしは王様の顔を見つめた。


「その笑顔が見られて、おれは嬉しい」


 率直にそう言われ、わたしは頬がほのかに火照った。


「さあ、また練習をしようか」


 そう言われ、再び奇妙な特訓が始まった。

 それは次の日も続き、そのまた次の日にも続き、そのころには、わたしも王リーシンと二人きりのときは、敬語を使わなくても話せるようになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ