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灰色の勇者は人外道を歩み続ける  作者: 六羽海千悠
第2章 水面を見上げる魚たち
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第88話 勇者と九番目の魔族



「──この世界にあるものはすべて、何らかの『補正』がかかっている」


 硝煙のあがる銃が、躊躇いもなく確かに、弾丸が放たれた事実を物語っていた。


「例えばそれはレベル、スキルといった《ステータス》の影響か。魔力の浸透や能力の残滓などといった現象か。精霊の悪戯、竜の気まぐれ、勇者の加護といった人為的なものまで。これらがまだ『一部』でしかないほど、いちいち世界は『補正』にあふれている。もはや発した力が、何の補正をどれくらい受けた結果なのか、複雑すぎて逆算するのがほぼ不可能なほどに、補正の多様性は『過剰』だ」


 銃を持つ手を下げながら、幌は淡々と言葉を続けていた。


「この世界に存在するすべての物がそうした『補正』を少なからず享受しているから結果として、『前の世界』と同じように物事が起こっているように見えている。

 だがやはり『まるで違う』。ここはどうしようもなく『異世界』だ。『今起きた事実』が、それを物語っているだろう、どうだ? 坂棟日暮」


 おかしな話だった。

 自分が頭部に銃を撃った相手に、疑問を投げかけているのだから。

 だけど私は淡々と語られる言葉に、黙って耳を傾けていた。

 頭部でじんじんと残る痛みとともに。


 硝煙が消え、月の明かりを多分に反射し、光ってるようにも見える銃を、幌は私がよく見えるように向きを変えた。


「この拳銃は日本で警官だった勇者から譲りうけた『前の世界の物』。つまり世界の補正をまるで受けていない。さしずめ『レベル0』とでも言ったものか、この世界風に言えばな……」


 幌は拳銃を懐にしまった。

 そして自然に腕を組んだ幌と目が合った。しかしそれは視線が重なっているように見えるだけで、実際に幌が見ているのは私の額部分だった。


「かかった補正に『極端な差』がある場合。影響を与える力が『著しく下がる』といった『格の違い現象』が起きる。今『レベル0』の銃が放った弾丸がお前の皮膚を少し裂いただけに止まっているようにな。もはや何気なくこの世界を生きているが、実際にこうして前の世界との違いをまざまざと把握すると薄気味悪く思う。渡辺やお前みたいな若くてゲームに慣れた世代はそうではないんだろうが」


 ぽとりと、額にあった弾丸が落ちた。

 それを追うように、ほんの数滴分ほどの液体が額の皮膚の上を伝っていく感触があった。幌の言う通り、弾丸で肌が裂けて血が出たのだろう。でもそんなに気にするほど、大きな傷ではなさそうだった。


「【ロード】」


 能力を使って傷を消す。

 その様子をじっと静かに幌は見つめていた。


「【セーブ&ロード】。優秀な能力だな。しかし使う人間が『脆弱』な場合、優秀な能力も宝の持ち腐れになることも多い。この世界では『力を持つ』ことが必ずしも安全につながるとは限らない」


 ピクリと身体が反応する。

 そんなつもりはなかったのに、直前までそのことを考えていたから反応してしまった。


 ゆっくりと顔を見上げると、見下ろすようにこちらを見ている幌と目があった。本人はたぶん見下してるという意識は一切ないのだろう。だけど自然と威圧されて萎縮させる雰囲気が、幌の立ち振る舞いと視線にはある。


「……坂棟。お前とは任務を一緒にこなすこともたびたびあった。お前は困っている人を見るたびに、燃えている家の中や魔物のひしめく村の中へと、躊躇なく走っていったな。まるで『勇ましさ』を体現した文字通り『勇者』のように。だがお前自身気付いているかどうかは知らないが、そうして走っていく時、決まって同じような表情をしている……お前は──」


 私と幌、それに黄色の渡辺は活動内容が被っていることが多く、人手が足りていないときには互いに手を借り合うこともあった。そのため同じ44代目の中でも接触は多い方だった。


「いつも何かに『怯えて』いる……。俺にはお前が、その怯えを誤魔化すために走っているように見えていた。何を誤魔化すためなのかは知らないが、お前が今こうした状況に置かれている原因は、『自分の脆弱さ』から目を逸らし続けていることに他ならない。お前が召喚された日から変わらないのも含めてすべての原因がそこへ集約されているのだろう」


「…………」


「だが、人はそんなに強くなくていい生き物だ」


「…………?」


 ふと、話の様子が見えずに疑問に思う。捕らえるためか、処理するためか。幌の目的は少なくとも効かない弾丸を撃ったり、今のように会話をするなんてことは必要のないことのように思えた。幌という男は無駄を好む人間ではない。


「人というのは、そういうものだ。全体を見回せば弱い人の方が多い。そういう風に元からできているのだから仕方がない。だから弱くても支え合って生きられるよう『社会』という仕組みがある。社会では強い人間は、弱い人間を守らねばならない」


 それなのに、そうしている。その意味がわからない。

 だから、幌の目的が気になった。


「俺がここに来た『目的』を、端的に言おう──」


 私の前で幌が身を屈めた。

 咄嗟に防御の姿勢をとる。だけどいつまでたっても起こらない攻撃に、訝しげに幌へ視線を向けると、私の目の前には『手』が差し伸べられていた。


「戻ってこい──坂棟。『ベリエット帝国』へ。

 お前の起こした騒動はすべてさっきの弾丸一発で『手打ち』にしてやる」


「え……?」


 ──完全に想定していない言葉だった。


 ベリエット帝国は、勇者の脱國を許さない。すでにそれを身を以て体感したというのに、ここにきて手を差し伸べられるとは思いもしなかった。

 

「重要なのは『強いか弱いか』ではない。自分の身の丈を知って、弁えて生きることが何よりも重要だ。しかし初めから完璧に身の丈を把握しその通りに生きろなんていうのは無理な話だ。ゆっくりと知っていかなければならない。悩んだり間違ったり失敗したりして、な。その過程の中に、坂棟、お前が今いる。これはそういう話だ──つまるところお前はまだ『子供』で、そして俺は『大人』だ。大人には子供を守って導く義務がある」

 

 幌は諭すように、ゆっくりと言葉を連ねる。

 いつもように威厳のある声は変わらない。だが私に伝えるために気を遣われて話をされているのはわかる。それは心地のいい学校の授業のようで、聞いているうちに不思議と心が落ち着いていくのを感じていた。


「お前がやった行いは、当然、正しいことではない。間違ったことだ。 

 だが子供が取り返しのつかない間違いをしてしまうのは大人の責任だ。あの日、他国との会食の場に精神が追い詰められた状態のお前がいた事がそもそもの間違いだった。責任はお前の『先達勇者』たちにある。


 『日向かなで』は、お前を甘やかし過ぎた。

 『枢川くるるがわ有栖ありす』は、お前の精神を追い詰め過ぎた。


 だれもお前自身を考えることなく押し付けた環境が、お前を歪めて、正しく育つのを阻んだ。それが根っこにある原因だ」


 幌の言葉には、引力があった。

 思わず心が、引き込まれそうになる。


「相手国の貴族の振る舞いにも問題があった。死んだ貴族は文化の違いだとはいえ、奴隷への暴力を見せ物にするような趣味の悪さだ。探せばボロなんていくらでも出てくる。そこを突けば今ならまだ『穏便』に済ませられるはずだ。俺がお前の『味方』になってやる。だから、戻ってこい。自分探しはベリエットでゆっくりと時間をかけてやればいい。これが──『最後のチャンス』だぞ。お前から戻ってくる意志が何よりも重要だ」


 そこで幌は話を一度止めた。

 どれだけ待っても終わらない沈黙に、私の返事を絶対に聞くという堅い意志を感じた。


「……そもそもベリエット帝国が勇者を召喚したのに……」


 苦し紛れのように、言いがかりのような文句を言った。

 幌もまた同じ境遇だ。だから幌に言っても仕方がないことだと頭ではわかっているのに。


「……すべての原因は『ベリエット』にあると言いたいのか? なるほど、お前はまだそこにいるのか……。そう思うのは、坂棟。お前がまだ『世界の真実』を知らないからだ。ベリエット帝国が日本から人を誘拐して勇者にする。これはそんなに単純な話ではない」


「え……?」


 思いもよらない言葉に、驚く。

 勇者の全員が心のどこかで理不尽だと思いながら言葉にしないだけだと思っていた。

 だけど別の答えが何か存在するのだろうか?


「それは、どういう──」


「それも戻ってきたら教えてやる」


「…………」


 正直にいって、魅力的だと思っている自分が少なからずいた……。

 私のやった行いが、すべてが私のせいじゃないと言われて心が楽になっている……。

 そしてさらに楽になりたいと……心のどこかの私が叫んでいる……。


 幌の話に引き込まれそうになるのは結局そういう自分が、自分の中にいるからだ……。

 だけどその気持ちに溺れてはいけないと、相反する自分もいて、二つがせめぎあうように心が揺さぶられる。


 そんな中で、相反する二つの自分が一致している、決して揺らがないことが一つだけあった。


「『澪』さん──幅音さんは……私が戻るとしたら、どうなる?」


 そう、尋ねると幌は表情に厳しさを滲ませて言った。


「幅音は『駄目』だ。奴は坂棟とは違う。気が動転してたわけでも、精神が疲弊していたわけでもなく、極めて合理的な判断で裏切るという選択をして躊躇なく実行した。今許したところで条件さえ揃えばまた同じ判断をするだろう。ああいう奴は組織にとって一番危険だ。少なくとも俺はもう『味方』だとは思っていない」


 幅音さんは、助からない……。

 それならば、答えは決まっている。


 距離を取るように、後方へ飛ぶ。

 そして剣を幌に向けて構えた。


 『幌』は、少しだけ長く息を吐いた。失望を吐き出しているのだろうか。

 でもそれ以外に変わった様子が見られないことが、逆に強固な意志の表れのようにも感じられた。


「聞き分けのいい子供は都合が良くて楽だ。だがそうじゃないからといって、諦めていいものではない。結局のところ、『育む』ということはどうしようもなく『忍耐』が必要だ。……無理矢理にでも連れて帰るぞ、ベリエット帝国に。坂棟」


 夜の冷たい風が吹く、月明かりに照らされた樹海で

 静かに、決別がより決定的なものへとなっていく。


「ところで坂棟。お前は今、距離をとったが、取る距離はその程度でいいのか?」


「…………?」


 バンッ、と──ついさっき聞いた銃声にそっくりな音があがった。

 それを使ったところで効果がないのは、幌自身が証明していたはずなのに。

 しかし遅れてやってきた痛みに、衝撃を感じたところを手で抑えると触っただけで生温い血があふれていることがわかった。


「【ロード】」


 血に塗れた手で、【メモリーカード】を握って、咄嗟に能力で直す。


「……本当に厄介だな、その能力は。

 やはり攻撃するならトリガーになる喉を潰すしかないか」


 『銃』を片手に持ちながら、幌が淡々と言った。

 しかし手にもったそれは、さっき見た前の世界の拳銃とは全く違うものだった。全体的な形が大きく、厚みも増していて、金属感の強いゴツゴツした印象を抱く見た目をしている。形を見てようやくかろうじて銃だと分かるものだった。


 私は──知らなかった。


 何度か一緒に任務をしているはずなのに、幌が銃を戦闘に使うことを。ずっと軍刀と体術を織り交ぜて戦うのが幌のスタイルだった。なぜ銃を。それにどうやって。そんな疑問が頭で巡るのを止められなかった。なぜなら、これなら距離を取ったのが逆効果だからだ。


「不思議そうな顔で見ているな。坂棟には、見せた事が無かったか? なかなか手に入れるのに苦労したぞ。なんせ『身体強化系のスキル』の効果がのらないからと、未だに手で引く弓矢や投石器を使うような世界だ。スキルがのらない道具として使うなら氷や火の玉を作って射出や、さらに無茶苦茶できる魔術や魔道具のほうが需要も人気も高い。銃はこの世界では中途半端になりがちなのだろうな」


 幌はしみじみとした様子で、過去に重火器の開発を試みたベリエットがそれを断念し、魔法系統の研究を重要視するようになった歴史も肯けると呟いた。ベリエットの歴史なんて興味がなかった私は初めて聞いた事実だった。


「これも『千林』と、唯一ベリエットと国交のある魔族──『鉱人族』の力を借りて、実現したのがつい最近だ。知らないのも無理はなかったな」


 そう言いながら、幌は引き金を引いた。

 すぐに避けようと体を動かすが、肩を弾に撃ち抜かれる。


 【メモリーカード】を手に持って【ロード】しようとするも、言葉を発している途中に【メモリーカード】が銃に撃たれてはじかれる。唖然としながら、少し遠くにぽとりと落ちていくのを見つめてしまった。


 取りにいかないと……。そう思って無意識に足を踏み出してしまった瞬間、片方の膝を弾で撃ち抜かれて地面に崩れ落ちた。


「自分を【セーブ】したメモリーカードは今のカードだな。落ちた場所は、今の場所から数歩分の距離がある。その間に喉を撃ち抜けばお前はもう自分を再生できず俺の勝ちだ。だが自滅覚悟で無理矢理【ロード】されてしまえばまた振り出し……。そしてそれは十分ありえることだ。だが振り出しに戻ろうと遠距離攻撃がないお前と俺の有利不利の構図は変わらない。

 むしろこの状況で『最も最悪』なのは──傷ついたお前を舐めてかかり、距離をつめて自らの有利を捨てたあげくに、【ロード】されて再生されることだ。『レベル』はお前の方が上だ。接近戦になると勝負が見えなくなる」


 皮膚の上を冷たい汗が伝っていく。それは実際に今私が考えていたことだった。

 だがそれを幌に『お前の考えていることはすべて分かっている』と言われるかのように言い当てられ、心臓が締め付けられるように追い詰められていく。心が絶望に染められ、折れそうになる。そこまで見込んで幌は今の言葉を言ったのだと分かっているにも関わらず。


 どうすればいい……?


 こちらを捉えて離さない、射抜くような視線と銃口を、絶望と共に見上げた時だった。


 ──ふわり、と。


 真っ白の蝶が、交差していた私と幌の、視線の間を横切った。


 幌がその蝶を一瞬、目で追う。

 首を動かさず、瞳だけでの些細なものだ。だからすぐに視線は正面に戻った。

 正面に戻った瞬間、幌は滅多に浮かべない驚嘆の表情を一瞬浮かべた。そしてすぐにそれは険しさへと変わっていく。


「……なんだこれは?」


 呟いた言葉に私はなにも答えなかった。なぜなら私が思っていることと全く同じだったからだ。


 私たちの周囲では今、たくさんの白い蝶が飛んでいた。ヒラヒラと、フワフワと。ほんの少し、気を抜いた間に一瞬で現れたそれは、月の光を浴びて青白く光り輝くようにして当てもなく飛んでいる。その光景は美しくもあるが、同時に、どうしようもなく異常な景色に見えてしまった。


 幌が厳しい視線を私に一瞬向けるが、すぐに目を離した。

 それは私の仕業ではないと分かりながら私の仕業を疑う幌の内面を窺わせる動作だった。


 そしてその後、幌は何かに気づいたかのようにある一点に視線をとどめて言った。


「お前の仕業か……? 誰かは知らないが

 危険地帯だというのに、随分な格好だが……」


 その視線は、私の背後へ視線を向けられていた。

 どこか既視感を覚えながら振り返ると、きれいな月と被るようにして、坂の上で立っている人物が一人、いた。


「メイド……」


 複雑そうに、幌は呟く。

 今この瞬間呟くにはあまりに不釣り合いな言葉だが

 残念ながら正しくその人物を表したものだった。


「──♪」


 千さんは坂の上から鼻歌でも歌いそうな微笑みを浮かべて、私たちを見下ろしていた。

 幌は訝しげにそんな千さんを、見上げている。

 見た目ではわかりづらいがかなり警戒をしている空気を肌で感じていた。


「……坂棟の知り合いか? いや──違う……。

 もっと根本的に……俺は……」


 ぶつぶつと一人呟いたあと、幌はこちらを向く。


「俺は重要なことを見過ごしていた。今までお前を引きずり帰そうとするのに没頭しすぎていたあまり、考えてすらいなかったが……。坂棟──お前は『一体どうやって』終焉の大陸を生き抜いてこの大陸へ戻ってきた──」


 威圧的に尋ねられる。もはや迫られてると言ってもいいほどの圧力だった。


「──隠れている方が出てこられないのは、千の『敵』だからですかっ?」


 初めて千さんが、口を開いた。


「…………」

 

 隠れている人……。

 言っていることが分からず、幌の方へ視線を向ける。

 幌は自身が現れた深い闇に覆われた森の奥へ視線を向けていた。


「小笠原さん」


 幌がそう声をかけると、森の暗闇が微かに動く。

 そして暗闇の中から幌についた先達勇者の『37代目緑色の勇者』──小笠原が、月明かりの元に姿を現した。思考を巡らせる余裕がなかったが、幌がいるとなれば当然その男もいるはずだ。


 彼はまず、私の方を見て言った。


「坂棟くん……まさか本当に生きているなんて、思ってもいなかったよ。どうやったんだい? あの終焉の大陸から生きて帰ってくるなんて、僕でも無理だけどねぇ。それに『誓い』はどうしたの?」


 少しだけ間を空けて、私が返事をしないことを確認すると、小笠原は幌の方へと向いて「それに──」と続ける。


「幌くんが、まさかそんな目的を持っているとは思わなかったよ。

 坂棟くんを助けたいんだねぇ、幌くんはさぁ」


「…………」


 幌は腕を組んで、沈黙を保ったまま返事をしない。

 少しだけ驚く。私に言った話が先達勇者にも黙っていた幌の独断だったことが意外だった。


「ま、話を聞いている間はそれもアリかもしれないと思ってたけどさぁ。もう『無理』だよ。はっきりと反対を表明させてもらうよ、幌くん」


「…………何故だ、小笠原さん」


 幌が、疑問に思い尋ねた。


「それはねぇ、幌くん。坂棟くんが『取り返しのつかないこと』をしちゃってるからさ。今も現在進行形でね。いやぁ幻滅するなぁ。今僕、こう見えて結構キレてるんだけど……わかる? いやでもまさかだよねぇ……坂棟くんが『魔族』と組むなんてさぁ」


「『魔族』だと?」


「…………?」

 

 幌と一緒になって、小笠原の指摘が何のことを言っているのか分からない。

 もしかして、花人族との戦いからすでに見られていんたのだろうか?

 そう私が思っている間に、幌が何かに気づいたように声をあげる。

 

「──まさか、あの『女』か?」


 千さんの方を見て幌は言った。


「そうだよ?」


 カチリ、と。片眼鏡を整えながら、小笠原は答える。

 あんなものを小笠原はつけていただろうか。


 だけど……千さんが、魔族?

 それは、おかしい話だ。

 

 使用人がどういう存在なのかは未だに分かっていないけれど、確かなのは『終焉の大陸』は本当に文字通り前人未踏だったということだ。それは魔族すらも例外じゃない。あのティアルですら定住するのは叶っていなかった。


 そんな場所に『魔族がいる』というのはありえない。

 もしそうだとしたらどこからやってきたのか。そもそも魔族というのは別の大陸の考え方でしかないのに。


「見た目は普通の人間のように見えるが……」


「見た目で判断しちゃだめだよ、幌くん。

 奴らは魔族で一番『獰猛』だからさぁ。

 あの粗暴粗悪で有名な巨人族よりもぶっちぎりでだよ?」


「…………」


 幌の顔が引き締められる。


「まぁそれは当然の話なんだ、幌くん。『巨人族』は魔族だけどあくまで『人』。でも『辿魔族』はそうじゃないんだよ。やつらに人の常識やルールなんて、通じるわけがないしわかるはずがない。『元々魔物だったやつ』が、人の形になったところで……所詮は『魔物』なんだからね」


「…………え?」


 声を、漏らす。


 ……元々……魔物だった、やつら……?



 肩に白い蝶が止まった。

 そのことに気がついて目を向けると、白い蝶は、繊維状になって崩れるように形を無くしていく。それは元々一本の糸を、何重にもぐるぐると重ねて、精密に蝶を象って作られた芸術作品が、また一本の糸に戻っていくような光景だった。一瞬それすらも芸術の一部のように思え見惚れるほどだった。


 だけど一切の感傷を抱く余裕もなく、さっきまで蝶だった一本の糸は、あっという間に私の身体にぐるぐると巻きついていた。そしてぎゅっと私を締め付けたと思うと、急激に身体がとてつもない力で引っ張られる。そして宙へ浮いた。


「わぁっ!?」


 驚きで思わず声をあげる。

 直後に銃声が何回か耳に入ってきたが、目まぐるしく動く景色で状況を掴めない。

 目まぐるしい変化が落ち着いた頃には、なぜか千さんに両手で肩を抱かれながら立っていた。


「いつまで、血をダラダラ流しながらぼうっとしているんですかっ?」


 背後から声をかけられる。


「えっ、あっ……ご、ごめんなさい……」


「はいっ、どーぞっ!」


「あ、ありがとうございます……」


 地面に落ちてたはずの【メモリーカード】を当然のように渡される。受け取って【ロード】して身体を治すと、肩と膝から痛みが消えた。同時に身体に巻きついていた糸がするすると解けていく。


 ちらりと後ろをみると、ニコニコと笑った千さんの顔がすぐそばにあった。

 いつものように可愛らしい顔つき、表情、服装。

 なのにさっき聞いた言葉がよぎってしまう。

 

 ──『元々魔物だった奴が人の形になったところで』。


「あの……千さんはどうしてここに……」


「あなたがですね〜。

 『勝手に戦って負けて死ぬ』ならばそれはあなたの選択で

 どうでもいいかなって思ってたんですよっ?」


 樹新婦の戦いのことを平然と把握している様子で話をしていた。


「…………」


「でもあの方たちが現れちゃって、あなたを『連れていく』って言うじゃないですかぁ〜。それってもしかしてっ……なんですけどっ。春様の使命や私の役割を『奪いとる』ってことじゃないですかっ? あなたを連れ去るってことはっ、そういうことですよねっ!?

 あなたが勝手に戦って死ぬのはきっとそれぞれが想定内だったと思うのでいいと思うんですけどっ、『奪う』のは許されません。奪われるということは、私自身の『弱さ』につながってしまうからですっ。それが嫌で、来たんですよっ!」


「そう、なんですか……」


「でもぉ〜こっちの大陸にきてから。なんだか考えることがたくさん増えましたっ。少しうんざりしそうになっちゃうのですけど、こちらの大陸はみなさんはこんな感じなんですかっ!?」


「わからないけど……多分、そうかも……」


「やっぱり、そうなんですねっ。

 みなさん大変なんですねっ!」


 歯切れが悪い答えにも関わらず、楽しそうにくすくす笑う。

 その様子を、複雑な感情でみていた。


「でも、よかったですねっ?

 千が来てっ。これでもう連れ去られることはありませんよっ」


 ──本当に、そうなのだろうか。

 

 背後から囁く、千さんの笑みの形に歪んだ目。

 その奥の瞳をみていると、何かの焦燥が、不安が少しずつ出てくる。中で蠢いて、あふれそうになっている恐ろしいものを自ら藪をつついて、明かしてしまうような……。何かが確かに、取り返しのつかないことになっているような気がして胸騒ぎが止まらない。


 真っ白の蝶が、肩に止まる。


 もはや完全に千さんと関わりがあることに疑う余地はないそれから、何やら『音』が聞こえてきた。それが何の音か、すぐに気がついて驚いた。


「幌くんは、魔物が『進化』するのはしっているよね?」


 まるで蝶がしゃべっているように、すぐそこから声が聞こえて驚く。

 少し距離がある場所にいる小笠原の声だ。挙動が互いに目視できる程度にしか離れていないが、しかしスキルの補正がない私が二人の話し声を聞こうとしても、自然音にかき消されて聞こえない。そんな微妙な距離だった。

 

 この蝶はそんな少し離れた二人の『音』を拾っているようだ。よく目を凝らすと薄らと蝶は一本の糸が繋げられている。月明かりに照らされて、ようやく微かに光って見えるくらいの細い糸。それが糸電話のように話し声を拾ってこの蝶に伝えているんじゃないかと思った。

 

 蝶からながれる二人の会話に耳を傾ける。


「進化した魔物がどうなるかっていうのは単純な話だよ。能力が強化される、身体が大きくなる、特徴的な個性がより濃密になる。何であれ『より強くなる』ために、魔物は自分自身を選択して変化していると言われている。それが進化ってわけさ。幌くんが知っての通りね」


 幌が頷く。


「ただ……時折現れるんだよ、この世界には。そうやって『普通の進化』をする魔物とは対照的に、『異端の進化』をする魔物が……。『人になること』を選択して進化した『辿魔族』がさぁ」


 身体が硬直しているのがわかる。

 両肩に乗っている手の温度と重さが話の前後で違うような気がした。

 でも変わったのは、きっと私の心の方だ。


「千さんは、元々、魔物だった……んですか……」


「はいっ、そうですよっ!」


「……なら、他の……使用人たちは……」


 そう漏らした言葉に、千さんは微笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。

 それが何よりもの答えだった。

 

「……そんな現象ありえていいのか?」


 幌が強張った声で、呟いた。


「そんなの僕に言われても困るよぉ、幌くん。

 まぁ、気持ちはわかるけどさぁ」


「俺が知っている魔族は『八つ』だけだ。

 だからその辿魔族が魔族だというのは初耳だ」


「まぁあってないような種族だからねぇ。

 魔族側が慣例として魔族だと言っているだけで

 人間からしたら八つだけなのは変わらないんだよ」


「慣例として、というのはどういう意味だ?」


「それはねぇ、『ルーツ』としてだよ。なんせ今いる魔族はみんな──元を辿れば辿魔族だったんだから。だから本来魔族に序列はないからって『番号』で呼ぶのは絶対に許されないことなのに、その魔族だけは『最後の数』で呼ばれるんだよ。今だと『九番目の魔族』みたいな感じでねぇ」


 それからも語られ続ける小笠原の話に、幌は抑え気味ながらも、驚き続けていた。

 そしてそれは、私も同じだった。


 魔物が人になった辿魔族。そこに至ったとしても、ほとんど一世代で滅びてしまう。滅びなかったとしても結局亜人としてまた魔物になる種族も多い。


 だけど運よく繁栄することができれば、積み重ねた世代によって胸に埋まった魔石が、身体の設計図に溶けていく。そうして種族ごとに現れる特徴がより色濃くなって最終的に種族としての『完成』へと向かうそうだ。すべての魔族は、それを到達点として目指している。


 だけどそこまでたどり着けているのは未だ『魔人族』だけ。今の魔族が発生したのはすべて前の世界でいうところの紀元前のような時代だ。もう生まれてから何十世紀経っているのにも関わらず……。


 そして未だに魔物だった名残として、胸に魔石を持って生まれてくる病気もあるのだとか。しかしその事実が、魔族が魔物だったという話の信憑性を物語っている……と小笠原は語った。


「でもねぇ、辿魔族なんて滅多に現れるものじゃないんだよ。少なくとも僕が召喚されてからは一度もないよ。なぜかゴブリンだけは成りやすいって話を聞いたことがあるけど、それすらもさ。『ちょっとやそっとの魔物』が、簡単にほいほいなれるようなものじゃ、決してないはずなんだよ。それなのに一体どこで発生したんだろうねぇ。坂棟くんを捕らえたら詳しく聞かないとかなぁ」


 ──『どこで』。


 私はそれを、知っている。

 いつか、ティアルが使用人の正体を知って青ざめていたことの意味を、ようやく今理解できた。


「ところで、なんですけどっ」


 耳元で千さんが囁く。


「『彼ら』は秋様と同じ場所からやってきた、同じ種族の方のようなんですっ。それでどうしたらいいかよくわからないんですよねっ。あなたはどっちかわかりますか? 彼らが敵じゃないのかっ、それとも──『敵』なのか」


 その質問に私は答えられなかった。

 敵だと答えた時に、千さんがどうするのか。

 それを想像して、恐ろしくなってしまったから。


 『ちょっとやそっとの魔物』──なんかであるはずがなかった。


 なぜなら彼女は。彼らは。

 ── 『使用人』は。





 『終焉の大陸の魔物』なのだから──。




 ◇◆◇




「それで──どうするんだ?

 このまま睨みあっていても仕方がない」


 幌は少し見上げる位置にいる二人を視線から離さずに尋ねた。


 それにしても被っている月とその明かりが、少し邪魔に感じる。

 逆光になっているため、影が強くなったシルエット姿に若干なっていて、姿を捉えづらい。


「どうするって言っても、選択肢は無いんだよねぇ、僕たちには。

 道中で会った『天使族』の時とは訳が違う、なんせ僕たちの『目的』が目の前にあるわけだしさぁ」


「じゃあ戦闘を行う、でいいのか?」


「うーん、そうなんだけど、向こうがこれまで攻撃してこなかった理由がわからないんだよね。敵意がないのかなぁ?」


「どうだろうな。だが、考えても分からなさそうではあるが。

 なんせ疑問尽くしだ、坂棟と一緒にいる意味も含めて」


「確かに、それもそうだねぇ。なら小手調べに能力でも使ってみようか。坂棟くんがいるなら、隠しても仕方がないしさ。はぁ……『解析の神器』が相手のステータスまで解析してくれれば楽なんだけど」


 そう言って【重力増加】の能力を発動する小笠原の隣で、幌もまた【百蘭】と【千林】を呼び出す。【十華】はすでに足下に隠れるようにしているので呼ぶ必要なかった。


「【百蘭】、【千林】──あそこにいる坂棟日暮を捕らえ、それを阻む人物を倒すことを願った場合。その対価はどれくらい必要だ?」


 時間が惜しく少し早口で尋ねる。


「…………?」


 だが直後に、様子がおかしいことに気がついた。

 いつもはうるさい二人が今回はやけに静かだ。百蘭は何やらオロオロとしているし、千林はつまらなさそうに寝転ぶ姿勢で空中を漂っていた。


「どうしたんだお前達」


「あのねぇ〜健ちゃん……。とってもね、言い辛いのだけれど……お姉さんには、ちょっと無理かもぉ〜……。ごめんねぇ〜」


「対価になる金ならある。地下人がもっていた結構な量の金を巻き上げてきた。それでもダメか?」


「『量』とかの問題じゃないのよぉ〜。健ちゃんがたーくさん対価をくれたとしても〜それで私が出せる最大の力を出したところで、そのお願いは叶えられないと思うのよぉ〜。力になれなくてごめんね〜」


「……つまり対価に関わらず【百蘭】にはどうあがいても無理、ということか?」


「そうなのよぉ〜。精々『糸を一本切る』くらいならお姉さんなんとかしてみせるのだけれどぉ〜」


「糸を一本……? どういう意味だ……?

 何かのジョークか?」


 百蘭の言葉をどういう風に受け取ればいいのか悩む。

 【百蘭】はここぞというときに一番頼りになる存在だ。【千林】は能力の規模が大きすぎて普段使いには全く向いていない。そもそも発動したのは銃を作る時と坂棟を探す時の二回だけだ。しかし【十華】では捌ききれない手強い相手や格上を相手するときなんかは、頼るのはもっぱら【百蘭】だった。金でどうにかできるのも優秀な点だと思っている。


 その百蘭が『糸を一本切る』のが精一杯というのは下手な冗談でも聞いているかのようだった。相手がそれほどの相手なのか、それとも百蘭への評価が過大だったのかわからなくなってくる。


「おいおい、クソ幌〜〜〜! オメェ【百蘭】の能力を疑ってんじゃネェだろうなぁ〜〜ァアン!? 大体、はなからお前は別に『頼む気』なんて、無いンじゃねえのかァ〜〜!? 『情報屋』とかいう話をクソ笠原から聞いて、事前に対価から情報を逆算して得ることを思いついてやってるだけだろうが!!」


「えぇ!? そうなのぉ〜〜〜!?」


「………………」


「ケッ!! こすいことばっか覚えやがってよぉ〜〜。つまんねなぁ〜〜ッ! お前分かってんのかァ!? 世の中『努力』や『対価を払う』なんてことじゃ叶わないようなことが常人にはいっっぱいあるんだぜェ〜〜!? その『可能性』が俺たちがいることによって『絶対に僅かでもある』ことがどんなにすんげぇ能力なのかってことをそろそろ身に染みて感じて欲しいよなぁ〜〜。『ありえない』んだぜ〜、普通はどれだけ対価を払おうが……努力しようが !!

 『竜王』並に強いやつをどうにかするなんて可能性、お前ごときの弱者には発生しねぇんだからな、本来よぉ!!」


 信じがたい言葉に、顔をしかめる。

 それが真実かどうかを確かめるために、千林をじっと見つめるが意地の悪い笑みを深く浮かべているだけだった。


「竜王並に強い……?

 馬鹿げた話だな……。種族としての強さだけでいえばこの世界で一番だぞ。

 種族レベル『2000LV』と同等の存在がなんでこんなところにいて坂棟と一緒にいる」


 結果的に意図通り情報を得た。

 にも関わらず、知らず知らずのうちに乗っていた船に穴があいていくような、そんな焦燥感に駆られてしまうのは何故なのか。

 幌は現状が理解できなかった。


「俺に言われても知らねえよ、クソ幌!! ちょっと口を滑らせたのはサービスだ!! フェアじゃねえだろぉ〜? ちゃんと『条件』はしっておかなきゃいけねえよなぁ? そうだろ? これからおこるクソみたいな戦いの中で、お前は俺に『対価』を払って『お願い』することに、必ずなるんだからなぁ〜〜」


 ──ギャハハハハハハ!!!!!!


 悪趣味な千林の笑い声が、夜の森をかけぬけるように不気味に響き渡る。


「幌く〜ん……。

 千林くんの言ってること『本気』かもぉ……」


 情けなく、萎れた声をあげる小笠原の声が耳に届き

 幌は今も小笠原が能力をかけ続けている場所へ視線を向けた。

 そこでは坂棟日暮が、為す術なく能力の効果で地面に押し付けられている。


 当然、そうなるはずだ。


 小笠原の能力の中では誰も満足には動けない。第二世代の勇者、下手したら第一世代といった頂上の人ですらも能力をかける前の全力の動きはできないだろう。どれだけ相手が強くとも、多少なりとも動きを阻害する効果があることが小笠原の能力の良さで本人もそのことを自身満々に語っていた。

 そして幌自身も実際そうなっているのを見てそう思っていた。



『僕の経験上だけど、僕の能力の中で平然と歩く相手がいたら、それはもうまともな相手じゃないから。そういうときは幌くん、相手にしちゃだめだよ、全力でね。そう何度もあることじゃないけどさ。何度もあったら僕の沽券に関わっちゃうからね、はは』


 まだ召喚されたばかりのころ、能力について尋ねた幌に冗談まじりでそういった小笠原のことをふと思い出した。


 メイドの女は、まるで散歩でもするように平然と歩いていた。


 背景の月は近づいてこない。

 だけどその女は能力を無視して、今もこちらへ距離をつめて進んでいる。

 つまり今この瞬間だけは、それが月が落ちるよりも恐ろしい事実だということだ。


 ──バサリ、と。


 メイドの女に、シルエットの変化があった。

 それは天使族を彷彿とするような『翼を広げた』変化に見えた。


 だけど全く違うことに、直後に気づく。翼だと思ったものが、さらに裂けて別れたからだ。片方の翼が『4つ』に。両方で『8つ』に等分するように裂けて、翼だった面影は消えてなくなった。さらにパキリ、パキリ、と二回骨が折れるような音がなった後の姿を見て、女から生えたそれが何なのかを理解した。


 ……『虫の脚』だ。

 本人の身長を超えるほどの巨大な虫な脚が八本。それを背中から生やしている。

 不気味だ。シルエットがまるで、巨大な蜘蛛を下から見ているかのようだから。


「【魔獣化】……」


 ごくりと、唾を呑み込みながら小笠原が呟いた。


「『辿魔族』の【固有スキル】だよ……。

 この世界で辿魔族しか使えない、魔物だった自分を再現する力さ……。

 文献でしかみたことなかったけど、本当だったんだね……」


 視線で尋ねると、弱々しい声で小笠原がそう答えた。

 『蜘蛛に見えた』というのはどうやら偶然ではなく必然のようだった。


「ようやく、分かりやすくなりましたねっ。

 やっぱり千は、分かりやすいほうが分かりやすくて好きですっ。

 おかげで理解できましたっ! 少なくともあなた方が、『敵』だということはっ」


 そう言って女はにっこりと、笑った。

 でもそれは形だけの笑みだ。こちらの命をなんとも思っていないのは目をみればわかる。

 どの目を見てもそうだ。『増えている目』も合わせて、すべての瞳が、何の感情も抱いていない無機質な瞳で自分たちを射抜いている。何の感慨もなく、普段ゴブリンを殺すのと同じようにして命を刈られるだろうことが、その瞳をみれば想像に難くなかった。



 ──『想像のできない箱』。



 たまたま吹いた風が、坂棟日暮の呟いたそんな言葉を耳に届かせた。



 




【新着topic】



【名詞】


辿魔族てんまぞく


極々稀に発生する、人になることを選んで進化した魔物。九番目の魔族。歴史の中でも数えられるほどしか存在が確認されていない稀少さ。一種のカテゴリーであり辿魔族という種族がいるわけではない(ただステータスには併記する形でかかれる)。魔族はすべて辿魔族を経て種族として繁栄したために、形式的に魔族の一つに加わっているがそれに対しての感情は種族によってまちまち。魔物が辿魔族になる条件や理由は全くの謎とされているが使用人たちだけは何かに薄らと気付いているかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 精霊の悪戯、竜の気まぐれ、勇者の加護といった人為的なものまで。 うん? 人為的? 勇者の加護って「勇者が加護を受けていることを示すスキル」ではなく「勇者が他者に加護を与えるためのスキル」…
[良い点] 早く使用人最強の「筆頭」が見てみたいな〜 [一言] 最高の作品
[一言] 続きが気になり過ぎる! 更新待ってます!
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