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灰色の勇者は人外道を歩み続ける  作者: 六羽海千悠
第2章 花人族と魂のありか
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第75話 テレスト・ラタァラ


 千夏を助ける手がかりは、実にあっさりと見つかった。


 机の向こうで俺と同じように座って、話を聞いている男。

 『テレスト・ラタァラ』と名乗った花人族の男は、ティアルの説明を聞いて自分が薬師であることを告げて、協力してくれると言った。


 それは大きな前進だ。

 その果てに苦しんでいる少女が助かる。それはなんにせよ、喜ばしいことだろう。

 そのはずなのに──。


 不思議と、心は凪いでいた。

 まるで工場で作っている製品。それができる行程の一つが進んだのを見ているかのような気分だった。


 まぁでも、どうでもいいことだと思う。

 そこにかける思いなんて、どんな物であろうと結果として少女が助かるのであれば、何でもいい。感情があろうと、なかろうと。


 窓から淡い青い光が入ってくるのを横目でみていた。


「まさか、お主が『薬師』だったとはの。

 何か魔道具やらでこそこそしているとは思っておったが……」


 机に肘をついて、その手に顔をのせたティアルが言う。


「えぇ、まぁ。

 一階にある魔道具は好きなように使っていいとのことだったので……。

 ……ダメでしたか?」


「いや……仕事をきちんとしてくれておるのであれば別に良い。

 ここの管理を一人でするのは、手間じゃからのう。

 ここにある魔道具は集めたはいいものの使い道がないガラクタばかりだから好きにすればよい」


「はは……どれも結構良い魔道具なんですけどね……」


 困ったようにテレストさんは笑う。

 確かに広い一階の部屋の、ほぼ半分近くが積み上げられた物で埋め尽くされている。

 はっきりいって扱いがかなり雑で半ばゴミ同然だが、これが本当にゴミなのか、それともテレストさんが言うように本当は良い物なのにティアルが粗末に扱っているのかは俺には判断がつかない。

 そもそも魔道具についてもよくわからない。

 ただの便利そうな道具くらいに見ているけど。

 今は関係ないので訊ねなかった。


「それで、その魔人族の子はどちらにいるんでしょうか?

 できれば連れてきてくれるとありがたいのですけど……」


 控えめに、ティアルに向けてテレストさんは訊ねる。

 会話はほぼティアルが俺に代わるように進められていて、テレストさんもティアルに向けて常に言葉を交わしている。俺と関わりたくない感バリバリという感じだ。

 ただ……これに関しては俺が答えなければならないだろう。本来は俺の、個人的な事なのだから。


「ちょっといいかな、テレストさん。

 実はその子のところにはすぐ行けるんだ。本当に、歩いてすぐに。

 聞いての通り、今は安静にさせたい状況だから動かしたくない。

 できれば一緒に来てくれないかな?」


 テレストさんはその言葉を聞いて、視線をこちらへ向けず、困ったような表情を浮かべた。


「すいませんが……今同じ集落の仲間にくばる薬の調合の最中なんです。

 そちらの子の事もとても気になるし

 すぐに診てあげたいのは山々なんですが。

 結構な量で、それも急いで作らなくてはいけないので

 少し時間をいただけないでしょうか」


「どれくらいじゃ?」


「三日ほどは……」


 三日……。

 正直に言えば、不安になる長さだ。


「ふむ……それはどうしても優先させねばならぬのか?」


「すいません……同族の仲間に配る薬で……。

 さっきまでもずっとその作業にかかっていたんです」

 

「だったら、手伝わせてもらえませんか。

 二人ならば、もっと早く終わる」


 そういうとテレストさんは、話し合いを始めてから

 初めてこちらに真っ直ぐに目を向けた。

 とはいえあまり良い視線ではなく、続けて出た言葉も、厳しい。


「申し訳ないですが、お断りさせていただきます。

 人間のあなたに、同族に配る薬を触らせることは出来ない」


 どうやら人間と魔族の、垣根は根深いらしい。

 いや、花人族と人間の、だろうか。

 どちらにせよこのまま三日待つのはできれば避けたい。


 どうしたものか、と考えこむ横で

 ティアルが俺にフォローをするようにテレストさんを説得していた。

 ただテレストさんの方も、頑なで首を横に振り続けていた。


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