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灰色の勇者は人外道を歩み続ける  作者: 六羽海千悠
第1章 眠れる森とよっぽどのバカ
48/134

第45話 それぞれの悩み

※視点変更あり


三人称

◇◆◇

◇◆◇

日暮


 カツンと、軽快な音が室内に響き渡った。

 壮年の男がマグカップを置いた音だ。そして空いた手で紙の束を手に取り、乱雑にめくって目を通す。表情は紙がめくれるごとに渋くなる。顔が恐いとよくいわれるのが男の悩みだった。


「……荒れてるな」


 さきほど室内に響いた軽快な音に比べれば、あまりにも低く重厚な声で男は独り言をもらす。

 深くもたれた椅子が、相づちをうつように軋む。


「『魔族』ですか?」


 男の正面の机で仕事に励んでいた若い男は、書類から顔をあげて返事をする。

 その返事にため息をつきながら、壮年の男は頷いた。


「そうだ。いくつか町がおそわれている」


 紙の束を投げ捨て、マグカップを掴む壮年の男。

 中身が入ってないことに気づき、もう一度深いため息を吐いた。


「南部の方ですよね。奴隷の産出がとても盛んな場所だから、魔族も怒り狂ってそうです。実際相当な数の奴隷が連れて行かれたらしいですよ」


「むこうは、ただでさえピリついてやがるのにな……。今回でギリギリ保たれていた均衡が崩れるかもしれない。やっぱ大森林の方なんか、いくべきじゃなかったんだ」


「……仕方ないですよ。逃走者が出たんですから」


「……」


 はぁ、と。二人同時にため息をつく。憧れる職業第一位の職場がこんなにも陰気臭く、ため息の多い職場だとは口が裂けても言えないと、問題が起きるたびに壮年の男は思っていた。


「それで、逃走者。

 ──『44代目』、『赤色の勇者』の追跡はどうなっているんだ?」


「順調なんじゃないんですかぁ?」


「じゃないですかぁ、ってお前なぁ……」


「っていっても逃げた先が先ですからねぇ。それに、刻印も消えてるそうですし。十中八九死んでますって。出してる追跡も、実際のところ少し念入りに『確認』するだけのものですよ。だからベリエットから人を出さずに、他国に要請しているんじゃないですか」


「それはそうだがなぁ……」


「大森林まで逃げて追いつめられたからって、なにも『終焉の大陸』に逃げなくてもいいのになぁ。あはは」


 若い男の様子を見て、再び男はため息をついた。

 男は背もたれに体重を預けたまま、部屋の扉へと視線を向ける。まだまだ現役だが、相当年季の入った扉だ。その扉にかかった、自身の所属している組織の名前が入った表札をなんとなく目にいれた。


 『勇者管理部』。


 難儀な職業だな、と心の中で呟く。

 その言葉につけたすように、やはりため息をついて、給仕室の方へと歩いてマグカップに飲み物を入れた。




◇◆◇




「紅茶です」


 コトリと音をたて、目の前に置かれたティーカップを手に取る。

 まずは香りを楽しみ、そして光をよく反射したカップの中の、紅茶そのものを少しだけ眺めてゆっくりと飲む。


 視界の端で冬の緊張している姿が目に入る。


 うーん。


「少し蒸らしすぎだなぁ。この茶葉はあまり蒸らさない方が美味しいんだよ。今回はちょっとダメダメだな」


「それと砂糖の量が少し多いです。これでは紅茶本来の味が薄れてしまいます。これでは味をごまかすために入れたと言われても仕方ありません。端的にいうと愚かすぎます」


 正面に座り、同じように紅茶を飲んだ春が感想を告げる。


「そうそう。それと茶葉の量と水の量の比率がもう少し──」


「まずお湯の入れ方が愚かとしか──」


「蒸らすまえに魔力を加えるのも──」


「私と秋様に出すというのに、茶葉の選び方が──」


 紅茶の感想を冬に言う。

 いつも浮かべてる爽やかな笑顔にじんわりと汗が浮かびあがり、時間が経つごとに顔をひきつらせていく冬。全部言い切った後には、笑顔はすべて消え、完全に肩を落としていた。春が厳しく言い過ぎるからだと思う。


「春の言葉がキツイから冬が傷ついちゃったじゃないか」


「いえ、私のせいにしないでください。

 秋様の方が丁寧な口調で的確に傷口をえぐっておりました」


 春と少し言い合っていると、横から冬が「両方共です……」と風が吹けば掻き消えてしまうような声で、ぼそりと言った。俺と春は互いに言葉を無くし、リビングが一気に静かになる。


「……まぁ、昔と比べるとよくなったよ、うん。

 前に進んでるんだから、元気出そうよ冬」


「ええ、そうです。昔のどうしようもないあなたに比べれば随分と改善されました。

 私の教育の、賜物でしょう」


「……ありがとうございます。精進致します」


 慰めるように声をかけると、冬は少し立ち直ったのか気持ちを切り替え、食器を片づけ始める。俺も自分の分を片づけてしまおうかなと、カップを持って立ち上がった瞬間、冬にカップを強引に取られ春に睨まれた。理不尽だ。


 春たちの使用人根性に呆れつつも、結局片づけは任せて、少し離れた台所へ行く冬の背中を見送って椅子に再度腰掛ける。そのときふと、対面に座る春を見て気づいた。


「そういえば、随分と久しぶりだな。春と二人だけっていうのは」


「そうですね……。

 この部屋の中も、随分と住人の数が多くなりましたから。最近は、特に賑やかです」


 二人の人物の顔を頭に思い浮かべる。


「日暮とティアルか。

 大陸の外の人間が加わるだけで、随分と雰囲気が変わるもんだ」


「えぇ、本当に」


 日暮とティアルが来る前から、住人が増える事はあった。

 でもここまで騒がしい雰囲気は未だかつて感じたことがない。


 例えるならしとしとと小雨が降る中で、アジサイの花を見ていたとき、一緒にアジサイの花を見る人が加わったような感じが今まで加わった住人の印象だ。でも日暮とティアルは、突然大音量で政治について語りはじめる選挙カーが近くに止まったような感じなのだ。色々とやかましい……言葉ではなく行動が。


 だが外との接触が今まで一切なかった俺たちにとっては、たとえ迷惑すれすれのうるさい選挙カーでも、どこか新鮮だった。言葉にするのは難しいが、熱量が違う。

 やはり大陸の内と外では、『何か』が違うのだろう。魔物とティアルの殺気の種類が違うのと同じように。

 その答えも大陸の外にいけば、わかるだろうか。

 大陸の外に行けば……。


『お主は本当に、この大陸を出たいのかの?』


 不意に、ティアルの言葉がよみがえる。

 

 結局俺は、その質問に答える事ができなかった。

 大陸を出たいその気持ちは間違いない。


 でもその逆……。

 出たくないと思っている自分も、言われてみれば確かに、いた。

 ティアルによって気づかされた自分のもう一つの側面……。


 目をつむる。すると染み着いた経験により体の感覚は鋭利になる。

 冬が皿を洗う音、春の髪がこすれ揺れる空気、紅茶の残り香。かすかな感覚を確かに体は感じ取っていく。


 終焉の大陸を生き抜くために必要だった力だ。

 普通ならきっと、こんな力を養う必要なく、生きていけるのだろう。でもこの場所では、それが必要だ。

 弱い者から死んでいくこんな世界では、本当に、ありとあらゆる力が必要だったのだ。


 それほど厳しいはずの終焉の大陸。

 普通なら出て行きたいと思うのに、俺はなぜ出たくないと思っているのだろうか……。


 息を深く吐き出し、思考を一度止める。

 瞑っていた目を開くとすぐ目の前に春の顔があった。


「……近いよ、春」


「久しぶりの二人っきりだというのに考え事をする、秋様がいけないのでは?

 私はただ、レディの扱い方すら理解できていないこの頭で、一体何を考えているのか。いや一体何を考えられるのかが、気になり、ただ見つめていただけなのです」


 ひどい言いようだ。

 ある程度言い終えると春は「まぁ冗談はここまでにしておきましょう」と言い元いた席に戻っていくがあまり冗談には感じなかった。


「少し、休息を取られてはいかがでしょうか」


「休息?」


「ええ。もうここ数年は取られておられないでしょう。

 一度ゆっくり休んでみてもいいかと思います」


 いわれてみればここ数年、動きっぱなしだ。それほど必死だったんだろうけど。

 少し考え、春に返事をする。

 

「……そうだな。

 休息か……。そうしてみても、いいかもしれない」


 そうだ。何も今結論を出す必要はない。

 一年後でも十年後でも。大陸をでるのはいつでもいいのだから。焦る必要は何一つない。


「それでは私は作業の方に行って参ります」


「あぁ、じゃあそれを手伝お──

 行ってらっしゃい。頑張って」


 手伝おうか、と声をかけようとすると春の瞳に光が無くなり、呪い殺すかのような視線で見つめられ、結局応援だけして春を送り出す。春が出ていったドアがパタリと音を立てて閉まるのを、ぼんやりと眺めていた。


 ……そういえば休息って何するんだ?


 勢いで休息をとってみるといっても、生憎疲労は微塵も貯まっていなかった。

 一人っきりのリビングで少し考えてみたものの、結局やることが思いつかず、『ラウンジ』へとりあえず移動することにした。何をやるにしても結局は部屋の中核となっているラウンジまでは行く事になるから、移動しておいて損はない。いけば何かやることが見つかるかもしれないし、なければ最悪そのまま『トレーニングルーム』に行こう。バレたら春に怒られそうだけど。


 席を立ち、ラウンジの扉の前に移動する。

 なにやら騒がしい声が扉の先から聞こえ、嫌な予感がした。

 それでもとりあえず取っ手に手をかけ、ドアを開く。


「あ、秋──」


「秋よ〜。この赤いのがわしをいじめるのじゃ」


 リビングからラウンジへと一歩を踏み出した瞬間。まず赤い髪の毛をした女の子の姿、日暮が目に入る。日暮がまず俺に気づいて、声をかけようとしたものの、その日暮の言葉を遮ってティアルが日暮の横を通り抜けて、体を密着させてきた。


「──ッ!

 秋ッ! なんで、なんでこんなやつなんかを、部屋の中に入れたんだ!」


「あぁー、わしがいじめられておる〜」


 ぎゅっと、ティアルのしがみついてくる力が強くなる。

 どう見てもいじめられてるのは、日暮の方だった。ラウンジに入った瞬間の日暮は、顔が青かったし、今は完全にティアルにからかわれている。

 ティアルの行動を見て、頭に血が上らせた日暮が声を荒らげて問いつめてくる。


「言ったじゃないか、私はっ!

 この女は、ティアル・マギザムードは『魔王』だって!

 本当に『危険』なんだ!」


 とりあえず体を密着させてくるティアルが鬱陶しいので押しのける。

 

「別に、部屋に入れたことに理由はないよ。ティアルが入りたいと言ったから、入れただけだ」


「その魔王は──」


 日暮から語られる、ティアルの危険性。確かに日暮の言いたいことも理解できた。その危険性も。ティアルは自分の事だというのに、ただ他人事のようにニヤニヤと日暮を眺めていた。


「──だから、今すぐにでも部屋の外にこの女を」


「日暮」


 日暮の言葉を遮る。


「嫌なら、自分が出て行けばいい。ここはそういう場所だ」


「ッ……」


 日暮は一瞬、はっとして、バツがわるそうに顔を背ける。日暮の強さでは『外』にはまだ出られない事を日暮自身が理解しているからだ。こう言ってしまえば、日暮もどうすることもできない。外へ行く事も、ティアルを出て行かせる事も。『弱いから』。


 そして俺自身もまた、ティアルをどうするつもりもなかった。


「はぁ、弱い癖にぎゃあぎゃあ喚きちらかして。お主自身が向かってくるならいざ知らず、最終的に人頼みとはの。興ざめじゃ。これ以上お主に抱く興味は、無駄ってヤツじゃの。無駄無駄。あっちいくのじゃ」


 そういって手をひらひらとふり、ティアルは視線を日暮からはずす。


 日暮の先ほどまで強かった視線はみるみるうちに弱々しくなり、自身がなくなったように肩を落ち込ませ、最後は顔を俯かせた。

 心の内は何を考えているのかわからないけれど、それでもなんとなく彼女は、自分を責めているような気がした。必死に自分を強く、気丈に見せようと振る舞う少女だからだ。

 だけど本来は目の前の、弱々しいただの一人の女の子が坂棟日暮そのものだ。


「……」


 その様子をただ、黙って見つめる。

 日暮が言ってることもわかる。日暮なみにこの場所と俺を思ってやっていてくれることも。日暮は常に他人の事を気にする性格だから。だから俺も日暮の言葉をあまり強く否定することはしない。

 しかし同時に、優しい言葉をかける気もなかった。


「ティアルの言うとおりだ。力もなく、虚しいだけの言葉。そんなものよりも、もっとやるべき事をやるべきだよ、日暮」


 冷たく言い放つ。

 俯いた日暮の顔の下で一瞬、きらりと光が反射した。

 そして次の瞬間日暮は走り出し、一つのドアの中へと消えていった。

 

 もし日暮があの日……『逃避』を望んだならば俺は今のように声をかけなかった。

 だけど、日暮が望んだのは『戦う』ことだ。

 

 戦うことを選んだならば……俺は日暮に甘くすることはできない。

 中途半端に甘えさせる事を許すのは、強くなろうとする日暮にとって一番の毒であり、また戦う事を決意した日暮の心にも失礼だ。


 日暮が消え去ったドアを見つめる。

 こんなとき優しい言葉すらかけてあげられない俺は、やはり春の言うとおり女性の扱いがなっていないのだろうな……。



「やれやれ、白けるの。

 ところで秋。これから時間はあいておるかの」


 重くなった空気を変えるように、ティアルから軽い口調で訊ねられる。


「いや、ちょうどぽっかりと時間があいたところだな」


「ほう、それは丁度いい。

 実は、これからちょっとばかし用事があるのじゃが、暇ならつきあってみぬか?」


「用事? この大陸でか?」


「そうじゃ」


 疑問に思い訊ねると、悪巧みするような表情でにやりと笑う。

 こんな人のいない大陸で、用事なんてあるのだろうか。素材の調達か?

 俺が疑問を感じていることに気づき、にやりと口をゆがめるティアル。


「『知人』の顔を見にいこうと思っての」


 その言葉に、俺は驚く。


「知人って、この大陸にいるのか?」


「そうじゃ」


 驚いたな……。 

 この大陸に召喚されてから、全域とは言わないまでも、かなりの広域を俺は探索してきた。けど、人の面影なんて本当に微塵も見たことがなかった。だから人がいないなんて錯覚していたのだから。


 そんなこの大陸で、俺以外にも住んでいる人がいる……。

 正直かなり興味のそそられる話だった。


「もしこの大陸を出たいというのであれば、その者に会ってみるとよいかもしれん。わしと違い、そやつはこの大陸から出る手段を持っておるからの」


 大陸を出る手段か……。

 正直俺は、まだこれからの『答え』を決めていない。そしてその保留は、少なくともまだ続けるつもりでいた。

 

 だがティアルの話を正しいと信じるのであれば、付き合うほうがメリットが多い。出る方法はまだほぼ無いというのも、事実なわけだし。それに単純に興味がある。


「それじゃあ付き合ってみようかな。俺が勝手に行っても大丈夫なのか?」


「わからぬ」


「おい……」


「そやつは気むずかしいからの……。まぁ行ってから確かめればよかろう。大事なのは行動。先ほどお主も言っていたじゃろう」


 くつくつと笑うティアル。


「まぁいいか。気になるのは確かだしな。これから行くのか?」


「わしはいつでもよいぞ」


「そうか……。じゃあ少し待っててくれ。用意をしてくる」


「わかったのじゃ」


 こくりとうなずくティアル。

 ラウンジの椅子に腰掛けるティアルと別れ、ラウンジから俺は移動した。





◇◆◇





 ──ぐずっ。


 私は剣を振る。

 何度も、何度も、何度も。

 先輩勇者に教わった、剣の振り方で。


 ──ぐずっ、ずっ。


 『トレーニングルーム』の曇天空の下。

 剣を振るたびにさっきの秋の言葉が頭の中でリピートする。

 ブン、ブンと剣が空気を裂く音。そしてその音に相づちを打つかのように、みずみずしい音がなる。


「ぐずっ……。ずっ。……あぁ、もうッ!」


 溢れ続ける涙に、私は苛立ちながら涙を拭う。

 だけど何度拭っても涙が溢れ出てくる。泣きたくないのに。いちいち泣く自分自身が、嫌いでしょうがなかった。


 頭の中にいる秋が「泣いたって強くなれない」と囁いた。


「ぐぅう……!ぞれくらい……わ、かってるよッ!!」

 

 私は剣を投げ捨て、押さえきれない感情を発散するように地面に思いっきり殴りつけた。とてもシンプルな、八つ当たりだった。

 地面の土を握りしめた手の横で、ぽたぽたと涙の雨が降る。


「うっ……うぅぅ……」


 何もかもが、どうしようもなく、噛み合ってなかった。

 自分が世界から嫌われてる気がして、絶望が私を覆う。


 元の世界に戻りたい。何もかもを諦めてしまいたい。それができないなら、秋が言うようにこの場所でずっと健やかに生きたい。


 でも……。


 ──『強くなりたいんだ』。


 ……それはできない。

 自分で決めた事だから。強くなって、幅音さんの所にもう一度行かなくてはいけないから。

 あの日、秋と戦って、戦うことを決意した。それが『一歩目』だと思い込んでいたけれど、私はまだ決意しただけで一歩も歩めていない事に気づく。でもその事に気づいたところで、結局今の私は頑張ることしか許されていないんだ。弱いから……。


「ぐすっ……ぐすっ……」


 鼻をすすりながら、俯いていた顔をあげる。

 そしてゆっくりと立ち上がって、投げ捨てた剣を涙を拭いながら拾いに向かう。


「……ぐすっ。こ、れは……」


 投げ捨てた剣の横に、なぜかぽつんとお皿が置かれていた。さらにそのお皿上には食べ物が乗っている。さっきまでなかったのに、どうして。


 乗っている食べ物には見覚えがあった。秋の作ってくれる料理の一つである『チョロフ』だ。見た目はショートケーキっぽいけれど、食べるとつるりとしていて、甘いけどくどくなく、どこか爽やかな甘さがくせになる。


 そしてこの料理は、前の世界の料理をもどしてしまい食べられない私のために、秋がこの世界の材料で作ってくれた料理の一つだった。いくつか作ってくれたなかで一番気にいって、それを知った秋が寝込んでいるときによく作ってくれた。チョロフの横にはオレットのジュースが置かれている。


「うっ、うぅぅぅ……」


 私は置かれた皿の横に座り、そして膝の上に皿を持ってくる。

 爽やかないい香りをかぐと、こんなときでも情けなくおなかがなる。涙で濡れた手でチョロフを手にとった。

 

「うぅぅ。ぁ、まい……」


 だ涙を流しながらチョロフをたべる。

 そして完食した私は、再び剣を強く握りしめ、素振りを始めた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] チョロフの泣き食い可愛いです。
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