第1話 灰色の勇者、異世界に立つ
9/2 修正
白い空間でじじいの汚らしい声をバックに俺は眩しい光に包まれる。
いよいよ異世界へ旅立つ。いや、そんなことよりジジイにあの暗黒パンを食べさせることができた。そう考えると自然と胸の鼓動が早くなるのを感じた。
光に包まれているとき、最初に感じたのは土の臭いだった。それも雨上がりの後に感じる濃厚な土の臭いだ。
光が少しずつ無くなっていく。そろそろ目をあけても眩しさを感じないだろうと判断した俺は少しずつ瞼を開けていく。
目の前に広がっていたのは深い森だった。
「は?」
俺は確か、勇者召喚されたことにより異世界に行く事になったんだよな。
これが勇者召喚されたということなのか…?
なんだろう、すごく『違和感』を感じる。
俺は『正常の召喚』がどういったものなのか知らないから何を考えても推測に過ぎないが、わざわざ『呼び出した者』をこんな未開の森へ放り出す事が果たして『正常』なことなのだろうか。
ジジイは確か『召喚した理由は召喚した者へ聞け』と言っていた。それはつまり召喚した後、召喚した理由を問いだたせられる状況にあるってことなんじゃあないのか?
それとも待ってたら召喚した人が迎えにきてくれるのか?
それとも…。
これは本当に可能性として考慮したくない。本当に最悪中の最悪だが、ここにいるのは単なるイレギュラーで俺は今現在ここで誰の助けも期待できず生きなければいけないのか…?
「…いや、まだそうと決まったわけじゃない」
こういうのはあまり考えすぎても現状を打破させる要因にはなりえない。
なのでとりあえず、現状を確認しよう。
「《ステータス》」
♦︎
灰羽秋 LV1
種族 勇者
職業 無職
称号 灰色の勇者 誤転移
スキル
鑑定LV極
魔力操作 LV1
魔法LV1
魔力量増大LV1
危機察知LV1
気配察知LV1
魔獣使いLV1
身体強化LV1
魔力感知LV1
投擲術LV1
治癒魔法LV1
錬金術LV1
万能耐性LV1
ユニークスキル
暗黒召喚
ペテン神(偽装+認識阻害+固定観念強化+幻惑+演技力)
物質転移
吸収
アイテムボックス
固有スキル
勇者のカリスマ
勇者の加護
ポテンシャルアップ
能力
【部屋創造】LV1
♦︎
「………すぅ〜ハァ〜」
とりあえず一回深呼吸をする。頭に血が上り冷静さを失わないために。
「誤転移…」
どうやらそういうことらしい。
これで現状の確認が取れた。
この状況は完全にイレギュラーなようだ。人のこと誘拐しといて全く知らないところに放り出すなんて、仕事が雑にもほどがある。こういう俺の命がかかった状況のとき適当な仕事をされて自分の命が危機に追い込まれるのはもの凄く許せない。
白いクソじじぃ………。絶対に、なあなあじゃあ終わらせない。絶対にだ。
まあ、いい。今はもう、本当にどうしようもない。
スキルはサイコロの勝負で勝ったことにより合計12個。それに餞別代わりにもらった鑑定を加えて全部で13個だ。
基本に忠実といった感じだな。隠密系のスキルに命を大事に系。攻撃手段は投げで遠距離からの狙い一撃必殺。それに魔法。そして魔物使いと錬金術は異世界でのお楽しみ要員だ。
ここは問題ない。全部俺があの白い部屋で選んだスキルだ。
問題はユニークスキルの方だ。二つほど知らないスキルがあった。
一つ目が【暗黒召喚】。
スキルは全部取得順に並んでいるから順番的に言って、元々俺が持っていたスキルということだろうか。取得せずに才能として既に持っていたとかそういうことか?
【ペテン神】はあのジジイのサイコロの勝負のときに取得したスキルだ。実は最後までバレないかヒヤヒヤものだったがうまくいって本当によかった。
【思考計算力】でもよかったが白い空間を【鑑定】したとき、俺は【思考計算力】の取得を諦めた。ジジイも言ったが白い空間がどう動くかなど、計算できるといってもそれは理論上そうなだけで実際やるのはほぼ無理だったからだ。そこで俺は何がでてもいいように騙すスキルてんこもりの【ペテン神】を選びじじいを騙す方向での攻略に切り替え、達成した。
騙されたとわかったときのジジイの表情を想像するだけで胸が澄んでいく。これからはこれをストレス解消方法の一つにしよう。
【物質転移】と【吸収】はサイコロの勝負でもらったユニークスキルだ。
【物質転移】は物質を転移させるスキルだ。じじいに暗黒パンを食べさせるために使用したスキルだな。目視で転移させる方法と転移させる場所を登録させる二つの方法があり転移させる場所を登録するのは既にじじいの口の中を登録済みだ。
なのでいつでも遠く離れたこの場所からじじいの口の中へ物を転移することができる。こんな状況になった報復に土でも送ろうか。
【吸収】は色々な要素があるが一番の要素は倒した敵のスキルを吸収できることだな。ユニークスキルは奪えないので過信はよくないが。
そして二つ目の知らないスキル、【アイテムボックス】。これは本当になんであるのかわからない。勇者全員にプレゼントされるスキルとかそういうことか?【暗黒召喚】は取得の順番的に元々俺のスキルだったと予想できる。【アイテムボックス】も取得が一番最後だしそういうことなのかもしれない。
俺は試しに【アイテムボックス】を使用してみることにした。
どうやら中に既に物が入っているようだ。入っているもののイメージが流れ込んで来た。
俺は中に入っている物をとりだすため、取り出すことに意識を集中するとボンと音を立てていきなり目の前に出現した。現れたのは『手紙』だった。
ファンシーなピンク色の手紙だ。手に取って読んでみる。
『これを読んでおるということは既に異世界かの?薄々気づいておると思うがお前さんがいるところは本来の召喚される場所ではない。いわゆる誤転移というやつじゃな。あ、でもそれはお前さんがスキル取得に時間をかけすぎたせいじゃからな。一応儂の管理不手際のお詫びとしてユニークスキルである【アイテムボックス】をあげるがの。感謝せいよ?
もう一度言うがお前さんが時間をかけすぎたせいじゃからの。わし恨んでも仕方ないからの?わかった?』
「……」
衝動的に手紙を破り蹴り上げてしまった。これだけむかつく手紙をかける才能がうらやましい。迷惑メールの文章打ってるのあのジジイじゃないのか。
だが、分かった。理解した。迎えとかは期待できず、俺は今からここで生きていかなきゃいけないということを。ああ、理解したとも。
とりあえず、目処をつけよう。人か、水辺だ。それを探そう。
俺は地面におちているめぼしい石を拾い、木に印をつけながら進むことにした。
方向は適当だ。とりあえずまっすぐ進めればどこかに辿り着くと信じよう。