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灰色の勇者は人外道を歩み続ける  作者: 六羽海千悠
プロローグ・12人の勇者
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第20話 始まりの街『アインツガルド』①

9月4日 修正


※44代目黄の勇者 渡辺涼太視点

 「うぉー!すげぇ!」


 すげっ!すげぇっ!!本当に異世界だっ!


 俺たち新しく召喚された勇者達と、歓迎の席に現れた『先輩勇者』たちは長い廊下を歩き、街へと繰り出そうとしていた。

 

 いや、でもこの景色は本当にすごい。

 さっきの大きな部屋もそりゃすごかった。壁に魚の絵が泳いでたりとか、空中に光がぷかぷか浮いていたりとか。

 あれ魔法だよな?そうだよな!?

 しかし、目の前に広がる景色もあの部屋に負けじとすごい!パノラマってやつだろこれ!

 俺たちのいた建物は随分高い位置に立てられていたらしく、勇者城の入り口部分にあたる超巨大な扉をくぐった瞬間に広大な街が一望できた。

 眼下ではせわしなく移動している人々がゴマ粒ほどの大きさで蠢いており、目を正面に向けると、この場所と同じくらいの高さまでありそうな巨大な壁がぐるりと街を覆うようにあるのが霞んで見える。


 「どうだ?すげぇだろ?」


 「マジすげぇっす!」


 俺の方に手を乗せながら自慢げに声をかけてくる市川康祐いちかわこうすけさんは俺たちよりも前に召喚された勇者らしい。二十歳前半ぐらいの見た目をしていて、やんちゃそうな顔立ちをしているのが特徴だ。


 ……確か37代目って言ってたか?


 勇者というのは、俺が思っているよりもたくさん呼ばれているらしく俺たちで丁度44代目に当たるらしい。

 だから俺の場合、名乗るときは『44代目 きいろの勇者』となるそうだ。


 俺たちよりも前に召喚された勇者がいると聞いた時は、内心「はぁ!?」という感じだった。

 だってそうだろ?勇者っていったら多くても4人までだろ、普通。少なくともラノベではそうだった。

 1代12人まで召喚されて、それが俺たちで44代目って……。

 なんだよそれ!多すぎだろ!勇者何人いるんだ!?

 でも、勇者の数はそんなにめちゃくちゃ多すぎるってわけでもないらしい。そもそも12人全員召喚されることは余り無い事らしく、今回の11人は多いほうなのだとか。


 ……ぶっちゃけていうと俺に取っては余り変わらない。

 なんせ勇者は俺一人のつもりだったのだし……。


 そんな勇者たちは現在、この国の各地に散らばっているらしい。中には出張のように他国へ赴いている人もいるとか。


 「よく目に焼き付けとけよ?ここが始まりの街『アインツガルド』だ」


 まるで子供が描いた絵を自慢するかのように、不良っぽい見た目には似合わないほどの純粋な瞳を浮かべながら康祐さんは言う。


 始まりの街……アインツガルド……。

 始まりの街というのは、俺たち勇者の視点に立っての意味だろう。


 ちなみに康祐さんの髪の毛は俺と同じで黄色をしている。初対面で「黄色のメンツ潰したら承知しねぇぞオラ」って言われながらどつかれ、思いのほか痛くてうずくまったのは記憶に新しい。

 でも康祐さんはきつい口調や見た目とは裏腹に、気さくで話しかけやすいので俺は結構好きなタイプだった。今もこうして名前で呼んでるしな。


 さっきの部屋でオレンジ色のおっさん……とばりだっけ?が放り出されるなんて言い出したときは少しだけビビっちまったけどこの城の人たちも先輩勇者たちも皆いい人じゃん。

 驚かしやがって。ったく。


 「うわぁ……」

 「すごい……」

 「キレイね……」


 俺以外の召喚された勇者の人たちも簡単の声をあげていた。やっぱりすごいよなぁ!

 

 なのにこの人たちといったら……。


 「あの壁は何であるんですか?建設のコストもバカにできなさそうですけれど、それほどの必要性が?」


 「ふん……。まあ及第点と言った所か。ある程度は管理の行き届いた街のようだな」

 

 景色そっちのけで冷静に街の状況を分析し始める、無粋な男たち。

 

 緑の男、近月は常にメモを手放さずに辺りを見渡したり先輩勇者に質問をしてはメモを取っている。

 学者肌というやつだろうか?俺には理解できない。


 そして極めつけは金色のアイツだ。確か鳳蓮おおとりれんとかいっていた。

 アイツはずっとあんな感じで上から目線で喋っている。傲慢で強情な男だ。

 そのせいでわざわざ開いてもらっている歓迎の席を台無しにする所だったというのを、理解しているのだろうか?してないだろうな……。

 異世界を俺はなんだかんだ言って楽しんではいる。だけどこの男がいなければもっと楽しかった。それだけは間違いない。

 ああいう自分のことが凄いと思っている奴が一番厄介なんだよな。そのくせ能力が低いっていうのが定番中の定番。テンプレってやつだ。

 あぁ、俺の噛ませ犬になってくれたら、少しは異世界も楽しくなるかな?


 でもアイツが名前を言ったとき、広間が少しだけピリッとした空気になったのはなんだったんだろ。


 「よし、そこのお前とお前はこっちの階段から降りて街を回るぞ」



 確か、柳さんだっけか?銀色の髪の毛をしていて、中肉中背の体型なのに妙に威圧感や存在感っぽいものを感じる。途中で合流したため、あまり人柄とかはわからないが他の先輩勇者の反応からするともしかしたら凄い人なのかもしれない。

 

 その柳さんという先輩勇者の一人は、城を出るなり鳳蓮おおとりれん穹峰心螺そらみねしんらちゃんへ声をかけた。そして、少し遠くに見える一つの階段を指差す。








 俺たちがいたところは康祐こうすけさん達先輩勇者によると勇者城と呼ばれる城だそうだ。


 城といっても、その見た目は俺が想像するようなヨーロッパの古城ではなく、最先端のアーティスティックな建物だ。12色の勇者が司る色をまんべんなく使った配色に、階数の違うビルを無理矢理くっつけたかのような形をしている。


 その勇者城はこの円形型の都市、『アインツガルド』の中心部分に存在する。


 そして、勇者城に辿り着くには高い位置にあるというその性質上、東西南北から伸びるバカみたいに長い階段を登らなくてはならない。

 その長い階段を降りるとアインツガルドのそれぞれの地区へと進んで行く……との事だった。



 つまり、柳さんとやらは勇者城の正面の、俺達の目の前に伸びている階段ではなく、他の地区へと伸びる階段を降りようとしているわけだ。二人の新米勇者を伴って。



 たぶん……集団行動ができなさそうな問題児だから分けられたんだろうな……。心螺ちゃんもかわいいけどマイペースすぎて話しかけづらいし……。


 

 「じゃあ、私たちも行く?」

 「そうですね」



 広間に現れた4人の勇者のうちの二人、金髪と白髪の先輩勇者……相田香澄あいだかすみさんとレイさんも柳さんと同じように俺たちから3人ほど引き抜き別の階段へと歩いて行く。レイさんは驚くほど真っ白な見た目が特徴で、香澄さんは長い一本にまとめられた金色の髪の毛が特徴だ。歩くたびに左右に揺れて、後ろから見るとなんかすごい悶々とする……。



 って、そうじゃなくて!



 「ちょっと康祐さん!皆で行くんじゃないんすか!?」

 

 俺の言葉にあくびをしていた康祐さんがこちらへ顔を向けて口を開く。


 「バカ。オメェ、これからするのはこの街の人たちへの顔見せだぞ。正式には二週間後に『勇者の礼』っつー式典があるが……。こんだけ広い街に一つで固まって歩いてたら何時間かかると思ってんだ。手分けしていくに決まってんだろォが」


 えぇ……。俺たちにこの街を案内してくれるんじゃなかったの……。


 俺の顔を見た康祐さんはニヤリと悪戯小僧のような笑みを浮かべる。たぶん、不満が顔に出ていたんだろう。


 「なんだ。お前、あの話そのまま受け取ってたのかよ。

  確かにこの街の案内もあるぜ?

  『ついで』ってやつさ、『ついで』!

  案内と顔見せ!両方同時にできるんだからやったほうが楽ってもんだろ!?俺がな!」


 そういいながら、大きな声で笑う康祐さん。

 まぁ、確かに街を俺たちに案内するとしたら必然と街の人たちと顔を合わせることになるんだし、同時にやったほうがいいのだろう。


 俺が一人で納得していると、残った先輩勇者の最後の一人であるピンク髪の勇者、三ノ宮夕さんのみやゆうさんが小さな体をくるりと反転し同じように俺たちの中から3人の勇者を指名する。


 先輩ピンクの勇者である夕さんは、こういってはあれだがもの凄く小さい。

 それは背が小さい大人というわけじゃない。

 夕さんの見た目からは、その年代特有の育ち切ってない感というのがにじみ出ているのだ。年齢を聞いてみるとなんと11歳で異世界へ来たそうだ。

 ついでにそのとき性別も聞いてみたところ、康祐さんに『男だよバカッ!』と殴られた。今でも少し痛みを感じる。



 「じゃあ、僕たちもいこうか。康祐くん、あんま後輩いじめちゃだめだよ?」


 「あぁ、分かったよ。さっさといけや」


 しっしっと追い払う仕草をしながら答える康祐さんに夕さんは『康祐くんのいけずぅ〜!』と言葉を返しながら反対側にある階段へと向かって行った。

 夕さんと康祐さんは同じ代で召喚されたらしく、お互いの仲がいいようだ。口に出すと康祐さんに殴られそうなので口には出さないけど。


 「うっし、俺らもいくか」


 残ったのは、俺たち三人。

 俺と、赤の坂棟日暮と緑の近月天馬。


 俺たちは康祐さんが進むのを追いかけるかのように目の前に伸びる長い階段を下りはじめた。

 

 ……あぁ、白崎さんか幅音さんか小鳥遊さんと一緒に回りたかったなぁ。

 階段を降りる足取りは早くも重かった。




 ◆




 『勇者様方には、こちらの勇者様達と一緒にこれから街をご覧になっていただきたいのです』


 勇者たちの案内を仰せつかった女性は美しい見た目を全く損なわせない仕草で目の前にいる勇者に告げる。となりには彼女にそっくりの、同じように見た目の美しさが一線を越えた男が爽やかな笑みを浮かべながら佇んでいた。

 

 『なんで私たちのこれからの話を聞いてそんなことになるのよ!』


 長いウェーブのかかった紫色の髪を揺らす勇者、小鳥遊芽衣は不満げな言葉を漏らす。

 自分たちの未来がどうなるのか、その核心的な部分に触れない対応に少しだけ苛立たしさが声にのる。


 しかし本来ならありえない罵倒だった。

 的外れという意味ではない。彼女に本来向けてはならないという意味で……。

 なぜなら彼女は……。


 『勇者様方には、これからこの街にお住みいただきたいと思っています。住処も既にご用意が済んでおります。となれば自ら住む街を一度見て回っておいても損はないと思います』

 

 小鳥遊の感情的な言葉に対し、ベリエット帝国『第一皇女』、リリア・マリウス・ベリエットは全く取り乱す事無くその清涼な声をそのまま響かせ続けた。


 『この街は我が国『ベリエット』でも首都に次ぐすばらしい街でございます。食、住まい、利便性等の不自由を勇者様達に決して致しません。きっと気に入っていただけると信じています。ご安心ください』


 リリア・マリウス・ベリエットが言葉を言い終えると、その空間に再び静粛が訪れた。しかし、以前にあった不安のようなものが勇者達にはなく、皇女の言葉を信頼してか表情には少しだけ安堵の表情が浮かんでいた。声を荒げていた小鳥遊も不安が拭われたのか落ち着きを取り戻していた。


 『そして、故郷が同じであるこちらの勇者様方とご一緒であれば皆様も何かと安心できるかと、僭越ながらこちら配慮させて頂きました。彼らと共にこれから街の様子をご覧になってください。よければ先達の勇者としてのお話も聞いてみると面白いかもしれませんね』




 ◆ 




 レンガで舗装された日本で言えば車線が4つほど通りそうな幅のある大きな道を先輩勇者、康祐さんに先導されて歩く。


 街は多くの人で賑わっていた。

 行き交う人々は全員人間だ。俺が期待していたエルフとか、獣人とかの姿は見えない……。もしかしてこの世界にはいないのだろうか。それだと、かなりショックだ。

 

 テレビで見た、外国の活気のある市場のような道をぐんぐんと進んで行く。

 道に面する建物は、すべてが何かしらの店舗。木造で、果物屋から飲食店。なかには変な形の肉を店先に吊りさげながら並べ売っている所もある。


 そのためなのか、店の集中する道の両端はより多くの人々でごった返していた。毎朝体感している日本の通勤ラッシュ並の多さだ。

 でもすれ違う人々からは、日本の会社員や学生などから感じられない『熱気』のようなものを感じた。皆の表情が生き生きとしている。天使ちゃんのいっていた『すばらしい街』という意味がなんとなくこの事なのかなと俺は思った。


 前から来る人を、華麗に避けながら前に進む。

 日頃の通学するときに培われた人避けのテクニックがここに来て生かされていた。

 ……異世界にきて初めて発揮される力がこれっていうのもなんだかなって感じだけど。


 だけどその華麗な動きも、あるものが目に入り、鈍る。

 

 「急にたちどまんじゃねぇあぶねぇだろ!」

 

 突然止まったことで、前から来た人が迷惑そうに声をあげながら避けて行く。だけど、俺はそのことを気にする余裕はなかった。

 

 「……すげえ」

 小さく言葉を漏らし、唾を飲み込む。

 魔法とか、エルフとかと同じくらいに、俺が異世界に期待を抱いている物があった。

 それが、今俺の目の前に……。


 「ん、なんだ?」


 視線の先にいる、使い古された装備を纏った男が俺の視線に気づいたのかこちらへ振り返る。

 男の背にある大きな剣がくるりと反対側へ行き、その代わりに男の顔が目に入った。

 

 「えっ……あっ、いや」

 しまった。

 話しかけられるとは思わず、咄嗟に言葉が出ない。

 それにしてもちょっと見ただけなのに、すごい感覚だ。


 「ッチ、テメェ何やってんだよこのバカッ。っと悪いな。こいつちょっとおのぼりさんでよぉ。あんたらのことが珍しかったらしい。特に他意はないから許してやってくれ」


 先を行っていた康祐さんが俺がついてきていない事に気づき戻ってくる。そしてめんどくさそうに場を収めるために動いてくれた。


 「あぁ、いや、気にしなくて良いさ。ちょっと視線が気になって振り向いただけなんだ。こっちも少し過剰だったかもしれないしな。『電光石火』の勇者様に謝ってもらうほどじゃないさ」


 おどけたように言う男に康祐さんは再度「悪いな」と言葉を告げる。

 この男は、なんだか康祐さんのことを知っている風だけど、もしかして康祐さんって有名なの?ていうか『電光石火』って……。


 「サイセ、何やってんの。招集に遅れるわよ」


 男の仲間だろうか。同じように鎧等の装備を身に包んだ女の人が男を連れ戻しにやって来た。

 彼女の来た所を辿ると4人ほどの男女がサイセと呼ばれた男を談笑しながら待っている。


 「あぁ、悪い、今行くよ。それじゃあ、これで失礼させてもらうぜ、勇者様」


 仲間のところへ戻り、再び歩き出す男達を見送り、俺は康祐さんへ口を開く。


 「あの、すいませんした……」


 「本当だぜ。ったく、あんま迷惑かけんじゃねぇよ」


 言葉は悪いが口調自体に怒りの感情を感じられず、内心ほっとする。

 でも仕方ないんだよ。だって、だってさあ!


 「それにしても……。あれが『サイセ・モズ』か……」


 「今の男がどうかしたのですか?」


 異世界の店を珍しげに見ていた近月が、いつの間にか戻って来ていて康祐さんがぽつりと漏らした言葉を拾う。

 ちなみに赤色の坂棟さんは一言も発さずに黙々とついてきていた。不機嫌なのかこちらから少し話しかけづらい雰囲気がある。


 「康祐さんもあの人達のこと知っているんすか?」


 「あぁ、今の男とそのパーティは最近注目株の『冒険者』なんだよ。それに……」


 「冒険者!?冒険者なんすかあの人たち!!やっぱり!!」


 ほら!やっぱりそうだ!

 返された言葉に思わず頭が熱くなる。そのせいで康祐さんの言葉を途中で遮ってしまったが興奮が抑えきれなかった。

 だって冒険者だよ冒険者!男なら一度は憧れるだろ!

 モンスターから作った防具と、頼りになる仲間、そして自慢の武器と一緒に世界を旅して英雄になる!!

 あぁ……もう、超カッコいい!これに憧れないなんて男じゃありえないだろ!


 「なんだ、オメェああいうのに憧れてんのかよ。ハハッ、まぁいいんじゃねぇの。お前みたいな目をしたやつっていうのは田舎の若ぇやつによくいるぜ。そういうやつらの中からも冒険者のトップクラスっていうのは産まれるもんだぜ」


 「そうすよね!!」


 「それより、彼らに何かあるんですか?さっき何か言いかけてましたけど」


 俺が康祐さんの言葉に感動しているとき、近月がまったく空気を読まない横やりを入れてくる。

 あぁ、もうこの人は。せっかく人が言葉に酔いしれているときに……。

 知りたい事知るためならあまり人の都合を気にしないタイプなんだろうな。この人は。


 「んー、まぁちょっとな」


 「はぐらかさないで教えてください。気になるじゃないですか」


 ほらね。

 言いよどむ康祐さんに近月は全く遠慮することなく追撃を入れている。遠慮という言葉をしらないのだろうな。でもそれを言ったら「もしかして漢字がかけないのですか?僕が教えましょうか?」って言い返してきそうだから言わないけど。口だけは達者だ。


 「チッ、まぁポロっと言っちまった俺もワリィし仕方ねぇな。良い頃合いだし一回どこかの店に入って休むか。そこで続きを話してやるよ」


 そういうと、康祐さんはキョロキョロと辺りを見回し、一つの店に視線を定めた。

 その視線を俺も追うと、落ち着いた雰囲気の喫茶店のような所が目に入った。

 そして同時に目に入る看板。かわいらしく丸い文字で書かれた店の名前の両脇に、ある白い生き物が文字を挟み込むようにして描かれている。



 『喫茶ペガサス』



 …………。

 ゆっくりと顔を隣に向ける。

 

 「ギシ……ギシ……」


 そこには、俺と同じように康祐さんの視線を追った近月が、まるで親の敵をみるかのような鬼の形相で店の看板を睨みつけている姿があった。

 周りの喧騒でわかりにくいけど、意識すると小さく歯ぎしりの音も聞こえる。

 ヤバイ……。この人にペガサスは禁句だ……。

 身を持って体験した俺だからこそ分かる。あそこに入るのはまずい。


 「うっし、あの店に」

 

 「康祐さん!あそこ!あそこ行きたいっす俺!」

 

 指を『喫茶ペガサス』へ向けた康祐さんの言葉を遮り、身を乗り出しながら別の店を指差す。


 「『バガス焼き』って……お前さっき宴で飯食ったばかりだろ……」


 「いや、俺歩いて結構お腹すいちゃったんですよ〜!」


 「お前らはあそこでもいいのか?……じゃああそこにするか」


 『バガス焼き』って何だよと一瞬思ったが、それよりも無事『喫茶ペガサス』から意識をそらせたことに安堵する。あのまま店に行ったら近月がどうなってたことか……。


 俺は学校のテストの後にすら感じた事のない、妙な達成感を感じたまま店の中へと入る。


 

【新着topic(new!)】



37代目勇者

黄の勇者 市川康祐いちかわこうすけ

桃の勇者 三ノ宮夕さんのみやゆう


アインツガルド(都市)

名産品は勇者の司る12色の色を使ったタオル。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 37代目ってことは実はめっちゃ高齢の勇者か
[良い点] おもしろいです。灰色の勇者がこれからなにをするのか気になります。 [気になる点] 90から更新が途絶えてしまっているので早く更新して欲しいです。お願いします。 [一言] 最後まで読みたい…
感想一覧
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