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灰色の勇者は人外道を歩み続ける  作者: 六羽海千悠
プロローグ・12人の勇者
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第18話 11人の立ち位置

※前話からに続いて赤の勇者視点




 「あなた……いい加減にしなさいよ……」


 そんな声が私の思考を遮る。

 その声は、あまりに怒気に満ちていて、黒く、冷たすぎて一瞬誰の声だかわからなかった。

 隣から感じられる異常な圧力でようやくその声の主がわかる。

 澪さんだ。


 「澪さッ……!?」

 

 パキッ……パキッ……。


 溢れ出る大量の怒気の方へ顔を向けると、その本人である澪さんから白い煙のようなものがゆらゆらと出ていた。

 その煙から、ぞくりと背筋をなぞるような冷たさを感じ、それが冷気であると私は推測した。

 でも一体なぜ澪さんの体から、冷気が出ている……?

 得体の知れない力を前に、私はほんの少しだけ恐怖を感じた。


 「あなたの言っていることは、間違いではないのでしょう。でも、その強引な言動はとてもじゃないけど肯定できない。まだ成人もしていないような女の子にかける言葉ではないと、私は断言するわ」


 絞り出されるようにして出される澪さんの言葉。本当に心から怒っているのだろう。

 でも私は、そのことにとても申し訳ない気持ちを感じた。

 それは、私のために動いてもらっているという意味と、恐怖を感じてしまったという二つの意味で。


 「ほう、それがお前の能力か?いや、それともスキルのほうか?」


 スキル?能力?それが……この冷気の正体?

 そういえば、あの白い空間でそんな事を言われたような気がする。呆然としてて、あまり男の言葉を覚えていなかった。

 澪さんや、この金色の男はちゃんと話しを聞いたりしていたのだろうか。

 もしかしたら、既にあの白い空間からもう戦いのようなものが始まっていたのかもしれない。


 もっと、情報を集めるとか色々できることがあったかもしれないのに、ただ私は呆然として……。


 「簡単に私の情報を明かすわけないでしょう」


 「ハッ。そういうのは、俺たちを前にして力を使う前に言うんだな。情報がだだ漏れだぞ?」


 「情報を隠すために、使うべきときに使うべき力を使わないのはまぬけのする事だわ」


 「なるほど……言っている事には同感だ。やっていることには疑問が拭えないが……。

  でも、そうだな。

  本来はそこにいる赤色と俺が話していたのだが、まあいい。

  ちょうど俺も新しく得た力を試してみたかった所だ。目の前に武器を与えられてはしゃぐ子供がいることだしな。窘めるのは大人の役目。一緒に済ます事が出来るなら、手っ取り早いというものだ」

 

 飄々と言葉を発しながら、男は立ち上がる。

 そのとき、ほんの少しだけ私の方へ視線を配ったが、すぐに澪さんのほうへと戻された。

 男の態度は、最初に言葉を発したときから変わらないのに、感じる圧力がどんどんと強くなって行く。


 いけない……。止めないと……。でも、何故か体が動かない。


 それは、目の前の未知の力の恐怖なのか。それともまったく別の、何かのせいなのか。

 そのときの私に考える余裕はなかった。


 「子供……?もしかしてだけど、私に言っているのかしら、それ」


 「当然だ」


 それぞれ談笑していた勇者たちも、異変を感じてか談笑をやめ二人に視線を向ける。


 「能力という新しい力をもらって、浮かれ、見せびらかす。これが子供と言わずしてなんという」


 「……」

 

 男と言葉を交わすたびに澪さんから出ている冷気の量は増えて行く。

 澪さんの近くにある椅子と机には白い霜ができており、同じように足もとには澪さんの周りを円を描くように霜が広がっていた。

 

 「さむっ!さむ!何これ!」

 

 「やれやれ、穏やかじゃないですねぇ……」


 黄色と緑色の髪の男が声を漏らしながら椅子から立ち上がり、私と同じように二人から距離を取る。気がつけば席に座っている人は銀色の女の子とオレンジ色の男の二人だけだった。

 オレンジ色の男は腕を組みながらじっとしていて、銀色の女の子はこっくりこっくりと首を動かしている。

 もしかして……寝ているのだろうか?この状況で?


 「それ以上やるなら、僕が相手になるよ」


 白髪の男が、突然澪さんと金色の男の間に澪さんを背にしてかばうような形で割って入る。

 白色の男の顔は、教室で女子が声をあげる男のアイドルのように整った顔立ちをしていた。でも澪さんはそんなこと全く気にしないのか、目の前の男を邪魔そうに見つめていた。


 「何だ?お前は」


 金色の男は訝しげに割って入った白髪の男を見つめる。


 「少しだけ話を聞いてたけどね。僕は彼女が正しいと感じた。だから、僕は彼女に助太刀をすることにした。困ってる人を放っておくことはできないしね」


 澪さんがぼそりと「別に困ってないんだけど」と呟くが白色の男は苦笑いをして流す。


 もしかしたら、彼のやっている行動は、本来なら私がやるべきことだったのかもしれない。

 私が発端で起こっている事なのに、当の私は他人事のように見ていて何も出来ていない。

 ……。


 「清さん……ッ!」


 桃髪の女の子が心配そうな声を白髪の男にかける。

 

 「大丈夫だよ白崎さん。僕、こう見えて結構強いから」


 人を安心させるような笑みを浮かべる清と呼ばれた男。

 それを見て、桃色の女の子はうっとりとしながら顔を頷せた。

 近くにいる黄色の男が「イケメンが……」と呟いていたが小さい声だったため私以外には聞こえていなかった。


 「やめろ」


 三人の醸し出す剣呑な雰囲気を遮るようにして割って入る、静謐な声。

 未だに座り続けている人の一人、オレンジ色の男だ。


 「お前達は、その行いが俺たち全員を巻き込み殺す可能性があるということを理解して行動しているのか?」


 「当然だ」


 「……」


 即座に返答をする金色の男。逆に、澪さんは男の声に耳をかたむけながらも視線は金色の男から逸らさずに黙り続けていた。


 「全員を巻き込む……?」


 白髪の男は疑問そうに声をあげる。

 オレンジの男は騒動の中心にいる3人に、それぞれ目を配りながら言葉を発した。


 

 「俺たちは今、見知らぬ地にたった11人で放り込まれた。それも、いままでの常識が通じない文字通り異界の地。

  そんな俺たちが、今頼れるのはどこの誰だかわからない俺たちを出迎えたあの人間たちのみ。俺たちはそのたった一つしかない命綱を11人が平等に握っている」


 男に言われ、霧散していた不安が急速にまた集まってくるのを感じる。

 そうだ……。

 私たちのこれから……。

 住む家や、食べて行くご飯。

 世界の常識とか、働いて行くための仕事とかはすべてあの人達次第。

 あの白い空間で、力が与えられているといっても、突然見知らぬ土地に放り出されたら私は生きてはいけない……。

 胸の中にあるはずの心臓が、まるで別の人の手の中にあるかのような、そんな恐怖を私は感じた。


 周りではさっき声をあげていた黄色の男、それにウェーブのかかった長い紫色の髪の女の人が青い顔をしていた。私もきっと似たような顔をしているのかもしれない。



 男は、語気を強めながら言葉を続ける。

 

 「一つの命綱を、俺たち一人一人が平等に握っている。

  わかるか?

  お前達が勝手な行動をし、例えばこの部屋を破壊するなどといった行動のせいで相手側の機嫌を損ねれば、全員が切り捨てられる可能性があるんだぞ。

  もし、そのまま続けるのであれば俺はお前達を躊躇無く、命綱から蹴落とすぞ。生きるためにな」


 男は言葉を終えると順番に三人の顔へ視線を向けて行く。

 澪さんは金色の男を見つめながらも、体から出ている冷気は収まっていた。そして、そのまま静かに青色に装飾された席へと戻って行く。

 金色の男は数秒、オレンジの男と視線を交わしたあと「どうやら木偶ばかりではないようだな」と笑みを浮かべながら金色に装飾された席へついた。

 


 「お前はどうなんだ?」


 オレンジ色の男は残った白色の男へ声をかけた。


 「僕は本来は関係ないからね。席へ戻るよ。

  うん、無事に事が済んでよかった」


 優しい笑みを浮かべながら席へと戻って行く白色の男。途中で桃色の女の子に腕にしがみつかれ困った顔をしていた。

 騒動が納まり、避難するように立ち上がっていた人たちも元の席へと戻って行く。その音で目覚めたのか、銀色の女の子が「ご飯!?」と声をあげていた。とてもマイペースな女の子なのかもしれない。


 私は胸を撫で下ろす。

 私が原因で、喧嘩がおこり皆が見放されたとなったら私は罪悪感で押しつぶされていたと思う。


 「大事にしてしまってごめんね」


 私が席へと戻ると、平常な顔に戻った澪さんに声をかけられる。でも、その声からは申し訳なさと不安そうな感情が感じられた。


 「いや、私のために怒ってくれたことですから。それに、元々は私が不甲斐ないばかりに……謝らなければならないのは私のほうです」


 そう……。元々は、私の弱さが招いたこと……。


 「日暮ちゃん」


 俯いていた顔を上げると、澪さんが真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。

 その瞳には、今まで澪さんが浮かべていた事のない強い光が宿っていた。


 「今の事はね。私が、自分の意志で、自らの感情に従ってやっただけのことよ。だから、もし謝るのなら私の方。あなたは何も謝らなくていいわ」


 「でも……」


 「それに、変に否定されると私の意志まで否定された気になっちゃうわ」


 「あ……。すみません……」


 澪さんは、真剣な顔をふと柔らげる。


 「日暮ちゃん。困った事があったら、遠慮せずに私に相談してね?日暮ちゃん……どこか見ていて危ういから……。こう見えて、私結構強いのよ?子供の頃なんか男の子をバタバタとなぎ倒してたんだから。

  それにね。人が弱いなんていうのは当たり前のことなのよ?だから人は、強くなっていくわけだしね?その過程こそが美しいのだと、私の知り合いはよく言っていたわ」


 おどけるようにして言う澪さん。でも、真意に見え隠れする私を案ずる優しさを感じて、不安になっていた心が不思議とあったかくなっていくような気がした。


 まるで、帰り馴れた我が家にいるかのようなあったかさ……。


 「ありがとう……ございます……」


 瞳から漏れ出そうになる、何かをこらえながら声を絞り出す。


 それは最初に私の弱さが溢れた所なのに、少なくとも漏れでそうになっている何かは弱さではないと、私は暖かい気持ちと共にそう感じた。


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