第12話 『終焉の大陸』 ①
私は、冒険者マードリックパーソン。
『終焉の大陸』に渡航し、生存して帰って来た者の一人である。
今回、私が『終焉の大陸』で見て来た全てをここに書き記す。
それが今の私の使命だと、そう感じているからだ。
拙い文章かもしれないが、どうか最後までつきあってほしい。
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『終焉の大陸』。
ベリエット大陸とゾリア大陸の真ん中あたりを、ずっと南に行ったところにその大陸は存在する。船で約3ヶ月、飛竜に乗って5日程の距離。他の大陸と比べると大きさは比較的小さい。
その大陸はとにかく『謎』だった。
大陸が発見された当時は全く人の手がついていない地として、いろんな国が開拓に乗り出そうとした。また、ある時代では宝や希少な素材が豊富にある大陸として『千金大陸』と呼ばれ有名になったこともある。逆に魔族の本拠地と噂され『魔大陸』なんて呼ばれた時代も過去にはあった。
ただ、そうやって飛び交う情報はどれもが噂にすぎなかった。誰もが『終焉の大陸』の真実を語ることはできないのだ。
なぜか。
それは『終焉の大陸』に行った人間が、誰一人として帰ってきていないからである。
Sランク冒険者パーティー『ミレニアム』。
ベリエット帝国『15代目勇者』。
今は亡き『コキーテシア王国の兵』およそ50万人。
帰って来ていないものたちの中には、そんな人類を筆頭する者たちまでもが含まれている。
さらに情報を集めれば、かの魔族の一つである『悪魔族』も次々とその大陸へ旅立ったらしい。他にも竜王の一柱『緑竜王』も終焉の大陸へ飛び立ち、帰ってきていないそうだ。
彼らが死んでいるのかどうかすらもわからない。これでは「楽園が広がっていて居心地が良すぎて帰ってこないのでは」なんて噂が立つのも仕方なかった。
彼らは一体どうしているのか。生きて楽園を謳歌しているのか、それとも残忍な魔族に捕まり惨殺されているのか。
結論から言おう。
そこには、『楽園』も『魔族』も存在しない。
あるのは、ただひたすら生きるのに厳しい『環境』だけである。
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順を追って語って行こう。
帝国歴2208年。
私は仲間とともに港を後にした。
この日の為に準備して来た期間はおよそ20年。夢に焦がれていた期間は50年にも及ぶ。
旅立つ仲間たちは末端まですべてのメンバーが腕利きだ。出るとこに出れば一人だけでも偉業を成せる者たちが200人、途方も無い夢のために集まったのである。もう二度とこのようなメンバーに恵まれることはない、そう思えるほど頼もしい仲間たちに私は自らの幸運に深く感謝した。
物資も豊富に集めた。不測の事態が起きても3年以上船上で過ごせるよう、空間魔術魔術師や異空間収納系の能力やスキルを持った人、神器なんかも可能な限り集めて豊富な物資を収納した。おかげで長い冒険者生活で貯めた私財は底をつきたが、後悔を感じることはなかった。
航海は拍子抜けするほど順調であった。
懸念していた海に潜む魔物や亜人の襲撃もなく、嵐に巻き込まれるといったアクシデントも少なかった。
そのおかげで航海は、2週間ほど予定を繰り上げ『終焉の大陸』へと辿り着く。
船から見た『終焉の大陸』は、なんてことない普通の大陸だった。沿岸部はごつごつとした岩がいくつもあり、その先には至って普通の森が広がっている。その光景を見た仲間達からは「ここがあの終焉の大陸なのか」といった疑問の声も湧いていた。正直、私もこのとき同様の感想を抱いていた。
船に船員を残し『終焉の大陸』に上陸する。
船に残る船員達は念のため『終焉の大陸』から離れた外洋にて待機してもらうことになっていた。今回、離れた場所に声を届けることができる能力者も同行しているため、最悪私たちに何かあっても船員達に情報を伝え帰還させることができるからだ。
今回の目的はあくまで『終焉の大陸の情報を持ち帰る事』だった。
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沿岸部から森に入ってすぐの場所に拠点を作る。
そして探査組と拠点組の二組に別れ、私たち探索組は森の周辺の探索を始めた。
そして、森と岩肌の境目を添うように歩いていた私たちはある意外な光景を目の辺りにする。
『グラミー』と呼ばれる魔物がいる。
『武闘術』と『跳躍』のスキルを生まれながらに持つ魔物で、お腹には袋が在り、その中に産んだ子供をいれて生活をしている。バネのような足で跳ねるように移動し、その速度は目で追えないほど素早い。私は冒険者として世界中を旅していたため、グラミーが可愛らしい見た目とは裏腹にBランク指定を受ける危険な魔物だと知っていた。
そのグラミーが、沿岸部の岩肌の上で魚を食しているのだ。海の上を持ち前の脚力で走り、跳ねてくる魚を捕まえて陸へと戻り魚を食べている。
私たちは、そのグラミーが魚を食べる光景にとても意外なものを見る目をむけていただろう。
グラミーは魔物の肉を好んで食べるという習性がある。
群れを作り、格上の魔物ですら倒して食してしまうほど肉に対してどん欲だ。
そんなグラミーが沿岸部で魚を食べているのだ。魔物の肉を搬送しているとき、襲われた経験のある私たちが驚くのも無理は無いだろう。
ただ私はこのとき、知っているのとはまた違う習性を持ったグラミーなのだと納得することにした。地域によって同じ魔物でも生態が少し変わるのはよくあること。魚が好きなグラミーがいたっておかしくはなかった。
その後は至って目立った事も無く、沿岸部をある程度周った私たちは一度拠点へと戻り、内陸へと入る準備を始めた。いよいよ『終焉の大陸』の本格的な調査へと乗り出す。