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灰色の勇者は人外道を歩み続ける  作者: 六羽海千悠
第3章 兄探しと底なしの価値

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第109話 同じ行動、同じ結果


 

 服には、まだ違和感がある。

 大人びていて、洒落てるし、格好いいんだがな。


 この──『使用人』服は。


 寸法も合ってるはずだし、見た目よりもずっと動きやすい。素材がいいんだろう。

 なのに違和感が拭いきれないのは、単純にまだ『馴染んでない』んだろうな。

 果たして服に違和感がなくなるのはいつだろうか。この分だと気が遠そうだ。

 

 コトコトと、車輪が回る音と共に微かな振動で体がゆれる。

 周囲の景色がゆっくり流れていく。それを見続けていると、なんていうか、風と長閑な景観に全身が包まれるかのようだった。


「あぁ〜……」


 獣車の屋根の上で同じ姿勢を取り続けていたため、凝っていた体をほぐすように伸ばすと、陽気も相まってか息が漏れ出る。

 伸ばした体を戻す途中で、ふと袖についてるボタンが目に入った。

 いや。正確にはそこに刻まれた『文字』が。


 ──『さい』。


 俺の『サイセ』という名前に因んで書いてくれた『カンジ』ってやつだ。

 なんで帝国文字は、同じ文字なのに三つも種類があるんだろうな?

 正直よくわからないしイカれてると思う。特にこのカンジってのがな。


 何でも『もう一度』とか『何度も』なんて意味があるらしい。

 なるほど。一度はどん底に落ちた俺にはふさわしい文字だ。

 個人的には結構気に入っている。


 だから真っ先に練習して覚えた。最近また帝国文字の勉強を始めたから、記念すべき一文字目だな。『部屋』は帝国文字を使うのが主流のようだから、千夏の嬢ちゃんと一緒に勉強して早いところ使えるようにならないと。



「(──しかしまさか……こんなことになるなんて思わないよな……)」


 

 最近、不思議な気持ちになることがある。

 少し前まで、人生の底に沈んだ日々を送ってた俺が、まさか終焉の大陸に行って『使用人』になるなんてことが。なんつーか、冗談みたいだよな。


 まぁ、普通なら使用人っていうのがそもそも何だっていう話だが。

 しかしなったからには『部屋に尽くす』という役割を全うしたい。そう思っていた。


 そのため、ひとまずとして新しい仲間への挨拶を大体すませた。

 一番歓迎してくれたと記憶に残っているのが『錦』と『紅』の二人だ。まるで諸手をあげる勢いだったな。話した感じも裏表がなさそうだし、素直に歓迎を受け取ることができた。この二人とはうまくやっていける予感がする。


 『鞠』という小さい嬢ちゃんは、うにゅうにゅ言っててあまりよくわからなかったな……。だが纏っている雰囲気は二人と少し似ていたから、とりあえず歓迎されてると捉えている。自信はないが。あんな小さな子なのに使用人なことには、触れないでいておいた。もしかしたら見た目通りじゃないのかもしれない。あの場所じゃ何が起きたっておかしくないしな。


 『蛮』はあまり俺のことを気にしていなかったな。一番中立的だった。

 でも興味がないってわけでもないんだよな。いつもいるという『トレーニングルーム』とやらに行って軽く会話をしたが、そのときに今度手合わせをしたいと頼まれたし。勢いで了承したが、なんか今になって不安になってきた……俺、死なないよな?


 『千』も接した感じは蛮と似ていた。が、実際のところはどうなんだろうな。

 そもそも彼女とは初対面ではない。だが新入りとして、改めて声をかけにいったときの貼り付けたような笑みを浮かべながら交わした挨拶は、とても事務的で義務的なものだった。早々に会話も打ち切られるし。言葉や態度の奥から、隠しきれない拒絶の意志を感じる。

 ……まぁ今更の話か。思い出してみると初対面で看病をされていた頃からその傾向はあった。そういう傾向の人物なのだろうな。


 やっぱり、全員から歓迎とはいかないか。

 でもそんなもんだ。既にある組織に後から入った新参者の立場なんて。

 これくらいなら想定の範囲内だし、むしろいい方だろう。冒険者パーティーを臨時で転々としてきた経験でいえばな。


 そう……これくらいならかわいいもんだ。

 本当に……これくらいならば、な。


 より露骨な態度で『敵対』と『拒絶』の意思を示してきたもう一人の使用人に比べれば……。

 あー、くそ。最悪だ。思い出してきちまった。


「はぁ……」


 思わず息を漏らすと、御者台に座る同じ使用人の『驃』が声をかけてきた。


「浮かない様子だね、サイセ。こんなおだやかに『外』を出歩けるなんて、貴重で珍しいのに。もったいない。天気もいいしね」


 獣車の屋根から周囲に散らしていた視線を驃に向けながら俺は答えた。


「驃……。あんたは俺のことを最初から好意的に受け入れてくれたな」


 これまでと同様に、挨拶に行ったときのことが思い返される。

 この男もどちらかといえば、歓迎してくれた方の部類だ。なんせついでにと食事を作って食わせてもらったからな。それ以来、俺の胃袋は驃に握られているも同然だ。ある意味、今使用人で一番距離が近いと同時に逆らえない相手でもあるかもしれない。


 食欲が旺盛で、少しマイペースな印象がある男だ。


「うん?

 ……あぁ、そういうことか。なるほどね。

 どうやら僕たちの仲間から手痛い歓迎を受けたみたいだね、サイセ。

 『彼女』だろう?」


 俺がつい口走った脈絡のない言葉。

 それを驃は寸分違わず汲み取って会話を続けた。

 そのことに驚きながら言葉を返した。


「その通りなんだが……よくいまのでわかったな」


「あぁ、まあね。わかるとも。

 なんせこっちもよく味わってたからね」


 味わっていた……。


 俺と同じように、『敵対』や『拒絶』を受けていたってことか?

 同じ使用人から……。そいつはなんていうか驚きだな。

 俺みたいな外の大陸からやってきたわけでもない驃でも、そんなことがあるっていうのが。


「あんたほどでもそうなのか?」


 思わず尋ねると驃は頷いた。


「そうだよ。『彼女』は『弱さ』というものに対してすごく『辛辣』だろう? 人になってからの日が浅いから魔物の気性の荒さが残ってるのか……いや。でももう一年以上前のことだから、本人の性格なのかな。これでも大分マシになったんだけど、結局厄介なのが『言う資格』が彼女にはあるってことだね」


「言う資格?」


「単純にそれだけ強いってことだ。もし『筆頭』を除いた使用人で一番誰が強いかという話になったら、おそらく意見は割れるだろうけど、間違いなく候補の一人にはあがるだろうね。さらにもしその『強さ』を『部屋にやってきた時』に限定するならば、満場一致で彼女に決まる。『筆頭』すらもそれには納得するんじゃないかな」


 そんなに、すごい奴だったのか。

 正直なところ俺にはよくわからない。今話を聞いてなおもおだ。


 俺にとって部屋にいる生物は、どいつも格上の化け物ばかりだ。見上げるほど高い山に囲まれて『どれが一番高い山か』なんて、山の足元にいるようなちっぽけな人間にわかるはずもない。全部まとめて高い山だ。そうなっちまう。


「そんなのが、僕たちからみれば君の次に新人の子としてやってきた。彼女より前の前からいたのに、未だ『レベル2000』にすら届いてない僕なんかはたつ瀬がなくてね。目の敵のようにやいのやいの言われていたよ。だから君の気持ちは割とわかる方じゃないかな」


「……あんたにもそんなことがあったのか。なんか急に、すごい親近感が湧いてきたな。基準にするには高すぎるレベルだが……」


 この世界でも最強と言われる『竜王』の『種族レベル』を、そんな『最低限のレベル』みたいに言ってることに驚いちまうが。まぁあの場所はそういう世界だもんな……。むしろ俺がその感覚についていかなきゃいけないんだろう。


「まぁでも同じ使用人で、協力すべき仲間に変わりはない。

 君も、仲良くできるように頑張るんだよ、サイセ」


「あぁ、もちろん。これくらいじゃあ挫けないぜ。いくら『再』の文字をつけてもらったとはいえ、さらに『もう一度』はさすがに御免だからな」


 そう啖呵をきるように言うと、驃は軽く笑って頷いた。


 ──しかし参ったな……。


 威勢よく言ってみたものの、不安が当然のようにあった。

 なぜなら結局のところ俺が受け入れられてない原因は『弱さ』以外の何物でもないんだろう。

 つまり使用人に本当の仲間として受け入れられるには、実力で勝ち取る方法しかないわけだ。


 ……果たしてそんなこと、可能なのか?


 世界最大の、世界最悪で世界最強な未踏大陸で生きる奴らを相手に。

 まともに同じ場所で活動できてない俺なんかが……実力で?

 正直なところ、想像もできない──だが。


「(なんとか、考えないとな……)」


 このまま何もせずに役立たずでまた終えるなんて真っ平だ。

 旦那がこっちの大陸に移るっていうから俺も何か役に立てるかと思ったが、日に日にその役割も仕事も減ってきている。旦那自身ができるようになっちまうからだ。

 今じゃ屋敷の掃除なんて雑用ぐらいしかやることがなく、それでもやらせてくれるだけありがたいが、だがそれで他の使用人に認められるようになるとは思えない。


 仲間の一員になるためにも。

 そして俺を拾ってくれた恩を旦那たちに返すためにも。

 俺はこの困難を乗り越えなければならない。


 皮肉なことに冒険者パーティーを追い出されたときと同じ困難をだ。


「もし相談事をするなら、『錦』とか『筆頭』に声をかけるのもいいかもしれないね。錦なんかには僕もよく相談してたりしていたものだよ」


「……なるほどな。じゃあ、あとでそうさせてもらうか。助かるわ、驃」


 驃が言うなら、頼りになる二人なのだろうな。

 それに前のパーティーを追い出された原因を自分なりに考えてみたとき、俺はできることのすべてをやったと今でも思っているが、それでももう少し仲間に相談していればやる内容をもう少し変えられたんじゃないかと最近は思っていた。その反省を生かす……というわけでもないが、驃の言ったことを実際に試してみてもよさそうだ。


 しかし話に上がった二人の顔を頭に思い浮かべようとしても、出てこないんだよな俺。厳密には一人出てくるが、それも包帯でぐるぐると巻かれた頭部の姿だけだ。

 それに──使用人も全員に挨拶を済ませたかといわれればそうでもない。

 あと一人、会えてない者がいる。


「(──『筆頭』か……)」


 化け物じみた強さの使用人の中でも一番強いとされる人物。

 果たしてどんな人物なのか。興味もあるが同時に怖くもあった。

 まぁ、でもそんなのは今更の話だよな。


「……ん?」


 獣車の屋根から、道の先に止まっている獣車の集団を見つけた。

 その集団を遠目にみていると、こちらに向かって手を振っている人が一人いる。ついでに声をあげてるようだが遠くて聞こえない。

 しかしそれも獣車を進めて距離が縮まるにつれて、耳に届くようになってきた。


「おーい! あんたら! よければあんたらもわしらと一緒にどうだー?」


 驃が表情で「どういうことか」と尋ねていた。

 あれはゆきずり隊商か。個人だったり小規模で別の町まで移動する獣車が、見ず知らず同士で声をかけあってまとまって移動しようとする一時的な集団だな。見ず知らずの人間の方が信用できないというやつもいるが、とにかく数さえ揃えちまえば悪人を抱え込もうと好き勝手できやしないだろうっていうのが今のところの通説で、だからかぽつりと獣車を走らせてる俺たちにもお声がかかったんだろ。盗賊や魔族、魔物や異常現象なんかの厄介ごとを考えると、護衛が楽になっていいんだよな。


 つーわけで、俺たちもその隊商に混じって進むことになった。

 驃に判断を任せられて、俺が決めた。どうせ同じところにいくならつかず離れずの距離で一緒にいくも同然になるし、そういうときに厄介ごとが起きると押し付けられたりするからな。警戒も楽になるし。


 加えて情報収集をしておきたい気持ちもあった。


「おたくらはどっちの領地へ向かっているんだ? 

 『ハウヴェスト領』? 『ティブーユ領』か?

 テールウォッチから行ける場所といや、その二つだけだよな」



 ウォンテカグラ国。

 その最南でしっぽのように南向きに出っぱり、危険地帯に食い込んだテールウォッチ。

 そこから北上していくごとに国の国土は膨らむように広がった形をしているが、所詮ここは国全体から言えばまだまだ南の辺境だ。

 南側へいくほど押し潰されて狭まる形をしていた国土で、ほぼ最南のこの場所から行ける場所はたった二つしかない。


 今通ってる道も二つの領地の間をちょうどそうような道だったはずだ。

 それがもう少し進めば、それぞれの領地にまでのびた分かれ道へ確かたどり着く。


 二つの選択肢があるなら、この人たちがどちらにいくのか。

 そのことは確かめておかなきゃいけない、当然の話としてそう思ってたんだが──。

 

「あ……? ティブーユ? いくわけないだろ、あんなところ。通れる場所じゃねえよ。物好きでもいきゃしねえ。今なんて特に最悪なのに。ここにいる全員、ハウヴェスト行きだよ。あんたらだってそうだろ」


 隣の馬車のやつは、そう答えた。

 口ぶりからして、どうやら奴さんらには選択肢は一つしかなかったようで。

 参ったな、世の中の移り変わりっていうのは本当にはやすぎる。いつの間にか俺の持っている情報は時代遅れになっていたらしい。


「いや、俺たちはティブーユにいくつもりだ」


 そう俺が答えるとおっさんは露骨にがっかりした声で言った。


「なんだよ、声かけ損か」


 ……まぁ確かに、これでもうすぐあるだろう分かれ道でのお別れが確定だ。

 だからってそんなに露骨に態度を変えんでもな。気持ちは察するが。


「行きはハウヴェストから来たんだがな。ティブーユは今そんなに不味いのか?」


 頭を切り替え、情報を集めていくことにした。


「あぁ、不味いな。最悪だ。それも日に日にな」


「そんなにか?」


「当たり前だろ。ただでさえテールウォッチの権益で競り負けて雲行きが怪しくなっていたところに、最近じゃ盗賊が暴れ回るわ、異常気象だわで、ダメ押しにダメ押しをかけてめちゃくちゃだ。領民も逃げ出しはじめてる。領主も取り潰し寸前だろうな」


 ……確かに、そりゃ最悪だな。こんな簡単な会話で納得できるくらいには最悪だ。

 雲行きがなんだか、怪しくなってきたな。旦那が受けた依頼は大丈夫なやつなのか?

 試しに聞いてみるか。


「俺らはティブーユの『カイエン商会』ってところに依頼で届け物にいくんだが、どんなところなんだ? カイエン商会っていうのは」


「……『裏切りのカイエン』かよ。そんな奴の話なんかしたくねぇよ」

 

 これまでで一番不機嫌な感じで、吐き捨てられるように答えられた。

 おいおい……本当に大丈夫か?

 もう少し詳しく調べた方が良さそうだな……。


 そう思って男にまた声をかけるが、不興を買ったか、気分を損ねたのか。

 そっけなくあしらうようにしか返事をもらえなくなってしまった。

 

 結局大した情報を得られないまま、別れ道に差し掛かり、隊商とは別れた。

 少ししか一緒にいなかったからか別れ際も素っ気ないものだった。


 そして俺たちティブーユ方面の道に入っていく。

 しかしだからといってすぐに何かが変わるわけでもなく、景色も変わらない。

 心なしか人通りが減ったのと、空が少し曇ってきたことだけだ。


 だがそれ以外の変化が現れるのも、すぐだった。

 何かを察した驃が少し真剣さを帯びた声で言った。


「この先で、何かがうじゃうじゃ隠れ潜んでいるね。道だけをぽっかりと空けてさ。このまま進めば待ち受けてるところにわざわざ入って、囲まれることになるだろうけど、さてサイセ。これはどう考えたらいいのかな? こっちの大陸だと『敵』以外にこうする習慣があったりするのかい?」


 鼻で笑う。そんな習慣、どんな習慣だよ。


「いいや、十中八九敵でいいだろうな。噂にあがってた盗賊だろうよ」


「そうかい。だったらまだ距離があるから今のうちに秋様を呼んできてくれないかな。何が秋様の活動に影響してしまうか、よくわからないからね。一応判断をあおいでおこうよ。速度も少しゆっくり目にしておくからさ」


「あぁ、了解した。ならちょっくら『部屋』に行ってくるわ」


 屋根から獣車の中へと入り、置かれた『ドア』の中へ入る。

 すぐに目の前は『ラウンジ』の広い光景に変わるが、やろうと思えばここで人心地つくことだってできるんだよな。とてもじゃないが旅の最中とは思えない。本当に旦那の能力は破格だよな。俺が今まで見た中でも、とびっきりだ。


 ──そう、思ってたんだ。


 ただでさえ、『ラウンジ』を見て、そう思っていた。

 だが、まだこの能力はさらにヤバくなり得るんだと。

 その事実に気づいたのは、旦那を見つけた、新たに発生していた『街』でのことだった。





 ◇◆◇◇◆◇






 サイセさんに呼ばれて、秋は先に出て行っていた。


 涙を拭う。

 秋の後を追って『ドア』から出た途端、足元から微かな振動を感じた。


 ここは……。

 獣車の中……なのかな……。

 初めてみた景色に少し周囲を見回す。

 こんな感じなんだ……。


 もう少し見てみたかったけど、そんな余裕のあるタイミングじゃなかった。

 目の前で秋とサイセさんが相談するように話をしていた。ひとまずそこに近づいて歩く。二人の会話が耳に届いた。

 

「──なら、襲われそうな場所の手前で停止しよう」

 

「まぁ確かに。待ち構えてるところにのこのこ入っていく必要はないわな。とはいえ間違いなく、それでも襲ってくると思うが」


「襲われ方を変えられるだけでも上等だと思う。獣車を傷つけられたくないし。囲まれて一斉に攻撃されたら、さすがに全部凌ぐのも大変だからな。下手したら俺の攻撃で獣車を壊しちゃうかもしれない」


「はは、それ、面白い冗談だな。旦那。

 了解だ。じゃあそういうことで俺は驃に伝えてくるわ」


 そう言って、会話を切り上げてサイセが獣車から出ていく。

 


「──秋」



 会話がひと段落した秋に、声をかけた。


「日暮」


 私の名前を呼びながら、秋はこちらに振り返った。


「来たんだな。……もう大丈夫なのか?」


「え? えっと……。うん……」


「そう」


 一瞬秋が何のことを言っているのかわからなかった。

 だけどそれが私が泣いていたことだと気づいて少し動揺が出る。

 見られてたんだ……。


 恥ずかしかった。ごまかすためにも、話を進めた。

 

「秋、この世界の盗賊は、厄介だから注意したほうがいいと思う。私も何度か戦ったことがあるんだ。この世界で無法者であることは有利に働くことが、多々ある」


「……その理由は?」


「……こういう言い方はあんましたくないんだけど『レベル』は人を殺しても上がるんだ。それでも普通はそんなレベルの上げ方なんてしないけど、盗賊なんかの無法者は違う。倫理的な垣根がなくて、理屈が通用しない人たちは力を手に入れるためなら何にでもする。それに街にいられなくなった賊は魔物の生息地で暮らしてるのも多くて戦い慣れてる。そういう意味でも厄介なんだ」


 考えた仕草で聞いていた秋が、話を終わると頷いた。


「なるほど。確かに、納得できるありえそうな話だな。気をつけておくよ」

 

「それと……盗賊は生きて捕らえたらお金がもらえるんだ。

 自治体や冒険者ギルドから。結構たくさんもらえる。

 それになりたくてなったわけじゃない人もいるから、その……」


 ──できれば生かしてほしい、と……。


 言葉にはできなかった。でもしたのと変わらない程度には、下手くそに仄めかして伝える。

 でもこの後のことを考えて言わずにはいられなかった。秋の人を殺すところはなぜだかあまり見たくない。


「まぁ、考えておくよ」


 秋の答えにほっとした。



 それからも獣車は進み続けていた。

 私は獣車の中の席について、窓から外を眺める。

 始めは一面原っぱだったけど、少しずつその景色に木が混じっているような感じがした。


 大した景色の変化じゃない。

 だけど一面が草原だったときよりは間違いなく道の見通しは悪くなっている。

 さらにそれは進むほど悪化する一方のようだった。


 最終的には鬱蒼とした森を割くように無理やり作ったような道に入っていこうとしたところで、獣車は止まった。どうやらこの先に盗賊たちは潜んでいるらしく、その手前のこの場所で出てくるのを待つらしかった。


「やることないから、お茶でも飲んでようか」


 そう言った秋がティーセットを取り出して、紅茶を入れて配っていく。

 こんな呑気なことをしていていいのかな……この先に盗賊がいるのに……。

 そう思いながらも私も受け取ってしまった。


 気付けば『部屋』からやってきたティアルも混じってきて、結構な時間をお茶しながらその場所で過ごした。


「──あ、あんたら! 助けてくれ!」


 何杯目のお茶の時だったのだろう。

 唐突に声があがった。それはここにいる誰でもない声だった。

 声の方を見ると道の『前方』から必死そうな男がすがるように、こちらへ走ってきている。


 小さく「やっとか……」と呟いた秋がカップをしまう。

 そして走ってくる男の方へと歩いて向かっていた。


「どうしたんだ?」


「この先で、俺たちの仲間が盗賊に襲われてるんだ! 俺だけなんとか逃げられたんだが、このままじゃ仲間達がやられちまう!! 頼む! 加勢に入ってくれ!!」


「それは本当なのか?」


「あぁ、本当だ! 嘘なんてつくわけない! 頼む!! 急いでくれ!!」


 男は体全体に汚れと傷がついていて、確かに戦った跡に見えなくもなかった。

 そんな男の必死の訴えに、秋は淡々と答えていく。


「俺たちはずっとここにいたが、人なんて一人も通ってなかったけど」


「向こうから来たに決まってるだろ! 俺たちはテールウォッチにいくとこだったんだ!! その途中で盗賊に襲われて戦っているんだよ!!」


「なんか嘘くさくて信じられないな」


「なッ……んで信じてくれないんだよッ!!」


「まずこの先で戦いなんて今起きてない。音もないし、気配もない」


「いや、だから、起きてるって──」


「そもそも道の向こうから人なんてきていない。いるのは元々、森に隠れ潜んでいた人の気配だけ。そしてそこからあんたはやってきた。汚れや傷のつき方が、戦いから逃げたにしては満遍なく付きすぎてて怪しいんじゃないか? 頑張ったようだけど」


「…………ッ」


 秋の指摘に男の言葉がつまる。

 たぶんいつまでたっても待ち構えている場所にやってこない獲物に痺れを切らして、誘い込みにきたんだ。

 

 そう思って男のことを見ていた。だけどその判断に迷いが起きたのは、道の奥から男を追って現れた二人の人間が男に襲いかかったのを見てだった。

 それには少しだけ驚く。演技にしては過剰だと思ったからだ。

 

 新手の二人は覆面で顔を覆っていて素顔が見えない。襲われた男はかろうじて二人の攻撃を同時に防いではいるがかなりギリギリの様子だった。今にも鍔迫り合いの状態で押されそうになっている。


「くっ!! 頼む! 助けてくれ!!

 もう襲われてることは見れば明らかだろ!!」


「……不思議なんだがなんで『三人』全員、同じレベルなんだ? スキルも、名前も……《ステータス》が全く同じだ。それに同レベルの二人の攻撃を、一人でよく受け止めていられるな。本当にその二人は、殺す気で攻撃を──」


「そういうのはッ、後ででいいだろうがッッ!!

 目の前で襲われてる人を助けろよッ──まずはぁぁッ!!」


「はぁ……」


 叫ぶように告げる男に秋は「仕方ない」とでもいうかのように、息を吐き出しながら歩いて近づく。


「そもそも……仲間が戦ってるときに一人だけ逃げるって、どうなんだ?」

 

 そう言って秋は、男の首を刎ねた。


 ………………。


「──え……?」


 助けを求めていたはずの男が、血を撒き散らして倒れていく。

 同時に男を襲っていた二人も煙のように消えてなくなったが、視界で捉えてはいても頭にまでは入ってこなかった。ただ目の前で起きた出来事が衝撃的すぎてついていけてない。いや本当は、受け入れられなかったのかもしれない……。

 だから、その直後に道の奥からぞろぞろと武装集団が現れた光景だって同じだった。


 目の前で足並みを揃えた集団が揃いきって、その集団の放つ殺気にあてられてようやく我にかえる。

 気付けばさっき起きた出来事を考える余裕がないほど状況が切迫していた。それがある意味で救いだった。考えることを先送りできるから。

 

 現れた集団の先頭で、体格と威勢のいい男が声をあげる。


「お前、イカれてんだろ。

 何助けを求めてきたやつ殺してんだよ。

 ダメなんだぞ。そんなむやみやたらに人を殺したら」


「思ったよりも人数多いな」


「秋様」


 何かを主張するように、驃さんが一歩前へ出る。

 目が獰猛にぎらついている。秋は一瞬だけ驃さんに目を向けて首を振った。


「──でも、このくらいなら一人でなんとかなると思う」


「なら奥の方は」


「いや、そっちも大丈夫だ」


「……わかりました」


 驃さんはそう答えて、身を引いた。

 一瞬、何かの言葉を飲み込んだような間があった気がしたけど、でも気のせいかもしれない。

 結局私にはどっちかわからなかった。


 相手にされていない盗賊の男は、目をひくつかせながら一連の秋たちの様子を眺めていた。


「……まさか会話ができねえとはな。善良な人間を殺すいかれ野郎なだけはあるか。生かそうと思ったがこんないかれ野郎は奴隷にすらなれやしねえ。お前ら、こいつらから奪えるものすべてを奪え。いいな。行け!!」


 合図と共に、武器を持った盗賊たちが一斉に駆け出す。

 結構な迫力だ。思わず念の為にと武器をもって身構える。

 でも当然のように、そんな心配なんてする必要もなかった。


「──《爆破》」


 秋が手をかかげ呟きながら『スキル』を発動した瞬間。

 いくつもの爆発がほぼ同時に起きた。


 今まで見たのに比べれば爆発の規模は大きくなかった。

 もしかしたら一番小さいかもしれない。

 でもだからといって巻き込まれて大丈夫なんて威力なんかじゃなく。

 当然のように爆発は爆発で、くらえばひとたまりもないことは一目瞭然だった。

 

 そんな爆発が、駆けていた盗賊たちの何人かを襲った。

 避けようもないほど唐突に。

 しかも狙いすましているかのように頭部と重なって起きる。


 爆発をくらった盗賊が頭部から煙を上げながら、支えを失った棒のように倒れていく。

 それでも盗賊はまだ残っているけど、爆発を集中的にくらった『最前列』で駆けていた人の有様を見て後続が足を停めていた。明らかに臆している様子だった。


「……チッ。『スキル』もイカれなのか。いかれた奴が強力なスキルなんてもつんじゃねえよ。危ねぇな。いっぱい殺しやがって。だが、まぁいいか。だからこそ──好都合だもんな。それじゃあもらうぜ、それ」


 最初に秋に話しかけた盗賊がそう言ってニヤリと笑う。

 ずっと秋から逸らさずにいた視線を、逸らさないまま盗賊は小さくつぶやいた。

 

「──【強奪眼】」

 

 その言葉を耳にした途端に悪寒が体を駆け抜ける。

 瞬間的に言葉をあげた。

 焦りと共に、警告の意味をこめて。


「「『技賊』だ!!」」


 上がった声は同時だった。

 聞き覚えのある声は少し考えればサイセさんのものだと分かるはずだ。けどそこまで考えてる余裕はない。それほどの事態が起きているからだ。


 もし男のスキルが本当に発動されているのだとしたら。


 秋の、スキルが──。


「《爆破》。 …………? でないな」 


 もう一度スキルを発動しようとする秋が、不思議そうに首を傾げる。

 そんな秋を見て、盗賊は不敵に笑っていた。

 

「大好きなんだよな。俺たちを殺した『全く同じスキル』で相手を殺し返してやるのが。なぁ、お前ら」


 ……間違いない。

 『スキル』が奪われてしまったんだ。

 よりにもよって強力な秋のスキルを。


 この人たちは、ただの盗賊じゃなかった。

 『強奪スキル』持ちで集まっている盗賊集団。

 人の『スキル』までも掠めて奪い取る──『技賊』だ。


「なんだったっけか?

 確か、こうだったよな」


 技賊の男が手をかかげる。その瞬間、脳裏に秋がスキルを使ったときのことが思い浮かんで背筋が冷える。詳しくはわからない秋がよく使っている強力なスキル。それが今、敵に渡って私たちに向けられている。


「《爆破》」


 男がスキルを発動する。


 その瞬間──技賊の男が爆発した。


 周囲に広がる爆発音と爆風。

 爆発に備えて身構えていた身体でそのまま防いだ。


「…………」


 そのあと呆気にとられたように、爆発の起きた場所へ全員が視線を向けていた。直前に爆音が轟いたとは思えないほど場が静粛に包まれている中、黒焦げの物体が煙をかき分けるように姿を現し、地面に倒れた。

 そして再び起き上がることなく、今もなお地面から硝煙をあげ続けている。


「……戻ったな。倒せば元に戻るのか……」


 平然とした様子の秋が、確かめるように呟いた。

 そして躊躇いもなく秋はまた、戻ったスキルを発動していく。

 戦意がすでに喪失しつつあった盗賊たちの残党を処理するのに、それから大した時間はかからなかった。



 すべてが終わった光景を、私は呆然と眺めていた。


 ──『私が戦うことを決めたならば、相手をまず絶対に、逃したりなんてしませんよっ。間違いなく殺しますっ』


 千さんの言葉が頭で思い浮かぶ。 


 どこかで……秋は違うと思っていた。

 千さんは魔物の力があり、厳しい環境でいきてきた辿魔族だから。

 秋とは違う、彼女たち固有の独特な考え方なんだって勝手に思っていた。

 躊躇をしてくれるって、勝手に……。


 でも全く違うかもしれない。

 千さんの考え方よりも、秋の存在の方が先にあって、千さんの考え方に秋の影響が少なからずあるとすれば話はむしろ全くの逆になる。

 つまり秋は……『違う』どころか、千さんの思考の源流として、より濃密に『同じ』なのかもしれない……。


 その可能性を今、目の当たりにしたかのようだった。

 ショックで胸が抉れたような感覚があって自然と胸を手で抑えていた。


「……なんか知らないスキルがすごい増えてる」


 秋がおそらく《ステータス》をみてつぶやいた。


「あれだけの技賊を仕留めれば、そうなるだろうな」


 サイセさんの答えに秋は不思議そうに首を傾げる。

 終焉の大陸に強奪スキル持ちはいなかったのだろうか。


 ──『強奪スキル』は歴とした『マイナススキル』だ。


 他者のスキルを奪える強力な効果の代償に、誰かに自分を倒された時、持っていた自分のスキルのすべてが相手に移ってしまう効果がある。それは手軽にスキルを得たい他人からつけ狙われるなんて事態を平然と招き、引き起こす。

 そうした効果を抜きにしても、他人の努力を掠め取る印象の強奪スキルは、社会的な印象があまりよくない。


 強力だからと持っていたいとは思えない、持っている人に損を与えるという典型的なマイナススキルだ。


「それじゃあちょっと奥にいるやつも片付けてくる」


 説明を簡単に聞いた秋は、軽く相槌をうったあと、すぐに走ってどこかへ行ってしまった。

 遠ざかっていく秋の背中をみていると背中から声をかけられた。


「なんじゃ。浮かない顔をしておるの」


 ティアルだった。


「…………。

 なんであの技賊は、自爆をしたんだろうって」


「ふむ?」


 ……本当のことを言うと、そんな理由じゃない。

 でもティアルにいったところで、仕方がないと思った。だから咄嗟に別のことを言ったけど、嘘をついたつもりはない。それは本当に気になっていただった。


 でも鋭いティアルは真意を伺うように私の顔を覗きこんだ。

 思わず視線を逸らす。それをどう判断したのかはわからないけど、結局ティアルは私の言い訳のような疑問に答えた。


「そもそもそういう魔法だからの、アレは。『自爆魔法』とも呼ばれる『失われた魔法』じゃ。ただ爆発を起こすだけの、芸も技術もない、下らんスキルだがの。あの強奪持ちの賊が爆発したのは、そもそもが本来ああして発動するものだからじゃ。普段秋が特殊な使い方をしておるのを普通だと思っておるから、そっちに疑問を思うだけでの」


「……そんな危険な魔法だったなんて」


 軽い調子で聞いた疑問だった。

 なのに、返ってきた答えが想像よりも重く愕然とした。

 思わず本気になって、呟いた。


「秋はそんな魔法、どこで手に入れて……。

 そんなの使って、本当に秋は何ともないのかな……」


「これまでも見てきたであろう? 何とも無いであろうの、今は。どうやら発動と同時に『魔力』を『転移』させておるようじゃからの。間違いなく秋には影響のない魔法になっておる。よくもまぁ、爆破魔法を発動と同時に魔力ごと転移させるなど、繊細で難易度の高い危険なことを平然とやってできるものじゃと感心するがの。わしなら思いついてもやりたくもない、習得するまでの期間を考えるとぞっとするからの」

 

 転移……。

 そんなスキルまで。

 未だに秋の力は、底が知れない。


 《ステータス》も、『レベル』も、【能力】ですら見えてないものがどれだけあるんだろう。


 気にはなる。

 でも私が秋の力を知ることと、秋が力を『発揮』することが同じ意味であるならば。

 私は知ることが無ければいいと思う。


 ──こんな光景が生まれるくらいならば。


 目の前の光景を最後にもう一度目に入れて、心の中でつぶやいた。





 ◇◆◇◇◆◇




 仲間が、爆発して死んでいく。

 同じ技賊の仲間たちが。まるで自爆するみたいに。

 冗談みたいだった。

 なんせ相対してる奴らは動くことすら、しやしないのに、バタバタ仲間が死んでいくんだから。


 ごくり、とつばを飲み込みながら双眼鏡を通して見ていた。

 あっという間すぎて、後詰めする隙すらもなかった。


「──さん?」


 横にいる部下から名前を呼ばれる。

 礼儀なんてしるはずのない間抜けヅラのくせに丁寧な物腰だ。

 その理由は当然、そういうふうに躾けて叩き込んだからだ。


 馬鹿馬鹿しいだろう。

 ここにいる奴らなんて、全員が盗賊であり技賊。

 礼儀なんてものを足蹴にしてきたやつがごろごろいる無法者集団なのに。


 皮肉なことに無法者を長く続けるにはルールが必要だった。


 そうでないとすぐに淘汰される。

 冒険者、国家、魔族、果ては別の盗賊家業の奴らまで。

 敵は果てしなく多く、そんな世の中で思ったことをすぐに行動に移しちまう低レベルのゴブリンみたいな生き方じゃあ長くは生きられない。


 裏社会とはよくいったもので結局、社会は社会だ。

 ルールからは逃げられないし、逃げたからこそ今までいたルールの強大さがよくわかる。

 気をつけて、用心して、弁える。それが結局、長く無法者でいるコツだった。


「うっ」


「どうしたんすか?」


「い、いや。何もねぇ」


「……?」


 思わず声が漏れでてしまった。

 仲間を殺した、獲物の中の一人と双眼鏡越しに目があったからだ。

 あの地味な服装をした、黒髪の男だ。あいつが仲間達を爆発させたのか? 傍目からだったから誰が何をしたのか、未だにわかっていない。


「(あんな……小間使いの中でも一番階級が低そうな、汚い服を着てる男が……?)」


 しかし一度でも辿り着いてしまったことで、他の可能性が考えられなくなる。

 なぜだかこの結論に固執してる自分がいた。なぜか、と聞かれれば直感だとしか答えようがない。


 ただ唯一理由にあげるとすれば、目があった瞬間のあの目。

 強烈で見たことのないあの目が、理由といえば理由な気がするが……。

 しかしやはり根拠にするにはひどく曖昧だ。


「ちょっとここからじゃ見えない。位置をかえて様子を見てくるから待ってろ」


「あっ……へい!」


 部下にそう伝えて、山の中を歩き出す。


 本来は実行部隊が苦戦するようなら、自分達後詰め部隊が獲物を別方向から強襲して手助けをするというのが基本的なやり方だった。そして一回襲うごとに後詰め部隊と実行部隊を交代する。

 苦戦なんてしようがしまいが、常に強襲すればいいだけの話だが、そうなると疲労が溜まるので襲える回数が減る。それは収入が減るので避けたかったため、こうした方法に落ち着くことになった。


 しかしこうなるとわかってたら……収入なんて考えずに常に強襲したほうがよかったかもしれない。


 自分のやり方は、間違いだったのか?

 いやだが、襲う位置だって今回はおかしかった。

 実行部隊は今回、襲う場所を変えた。勝手にだ。

 最悪それは仕方ないにしたって、何も後詰めから一番遠い場所で、わざわざ戦うことはなかったはずだ。


 そう、だから──


「俺のせいじゃねえ……」


 足取りを、徐々に歩きから早歩きへと変える。

 さらには早歩きから走りへ。

 気付けば全速力で一人、山の中を駆けていた。


「はっ、はっ、はっ、はっ」


 息が漏れる。ガキのころにですらここまで全力で駆けたことはない。

 それくらいの速さで必死に山を駆けている。

 いや、正確には──逃げていた。


 たった一人で。

 脳裏に浮かぶ男の目が離れない。そして確信をもっていえるのが、あんな目をする男が側面の山に潜んでいる別働隊に気づきながら放っておく……なんてことはありえないということだ。


 確実に仕留めにくる……だから逃げ出した。

 部下たちも放り出して。


「へへ……」


 部下には気の毒なことをした。だが誰かが、生き残らなくちゃいけないだろ。部下をつれてまとまって素早く逃げるなんてことをするには馬鹿でとろすぎる。そんなのはどうかんがえても無理だし、じゃあ事情を説明してバラバラに逃げようにも悠長に説明なんてしている暇がなかった。


 ついでに言えば誰か代わりにやられる役がいたほうが時間を稼げるし、もしかしたら全員仕留めたと誤解してくれるかもしれない。


「(そう……だから誉められこそしても、貶されることなんか何もない)」


 むしろ文句を言いたいのはこっちのほうだ。どれだけの労力をかけてあいつらをしつけたと思ってる。それが一瞬にしてすべてパアだ。

 それでも捨てる判断を一瞬でして、行動をした自分を褒めてやりたい。

 自分の命可愛さじゃない、組織のためにだ。情報だけでも持ち帰ろうと一番事情を把握した人間を確実に生かすための手段を取ることができた。


 胸を張って一番の選択を最低限の時間で選ぶことができた。

 だからか、この期におよんで胸には若干の誇らしさすらある。


「………………」


 しかしその誇らしさに追い詰められるように、『焦り』が生まれたのはどれくらい走った頃だっただろうか。結構長い時間が体感では経っていた。すでにあの男は部下たちに手をかけ、満足して帰った。そう判断していいぐらいの時間は既に過ぎている。


 速度を緩めずに、走り続けていた。

 道なき道を一直線に、アジトへ向けて。


 ──もうすぐ生きて帰れる。


 そんなほっとしようとする気持ちを『誇り』が掻き消す。

 『組織のため』にやった。それは間違いないことのはずだ。だからこそ『誇り』がある。

 だがこのまま帰ったら、その『誇り』すらも無くなるだろう。脳裏でよぎってしかたないある考えを抱えたままアジトに帰ってしまえば……。


「くそがッ!!」


 結局男は、悪態をつきながら足を止めた。

 自分が組織のためにやったのだという証明のために。


「出てこいよ!!! いるんだろッ!!」


 ──シン……。


 立ち止まった男の声は森に響き渡るも、すぐに自然の静粛に塗り替えられる。


「フーッ……フーッ……」


 荒立つ自分の呼吸音だけが森の中であがる唯一の音だった。

 その呼吸音に集中していないと、静粛が心に入り込んで内側の恐怖を倍増させていく。そんな錯覚をさっきからずっと抱いていた。

 だから飲み込まれないためにも、心を奮い立てるような気持ちで声をあげるのをやめられない。


「どうした、追ってきているんだろ!?

 俺はここからもう一歩もうごかねぇぞッ!!」


 さっきからこの行動には何の根拠もありはしない。今やっていることは、怖がってるガキが夜の暗闇で勝手に何かの気配を錯覚して、大声で恐怖を紛らわす。それと全く同じだ。もし間違っていたら、ただの森で一人叫ぶ異常者でしかない。後で思い返して恥ずかしくなるだろう。


 あぁ、だが、本当に。

 そっちの方が何倍もマシだ。


 いつの間にだ?

 いつの間に、自分はあの男をこんなにも『信頼』していたんだ。

 あの男が自分の想像を超える、正真正銘の『化け物』であることを。


 頼むから、現れないでくれ。


「…………フーッ、フーッ」


 少し時間が経ってもその場から動かずにいた。

 やがてどこからか、音が聞こえてくる。

 それはため息をついた音と、雑草を踏みしめながら土の上を歩く音だった。 


「……さすがに本拠地までは、連れてってくれないか」


 そして──双眼鏡越しでしかまだ見ていなかった男が、生身で、眼前に現れる。


 やっぱり、自分の判断は間違っていなかった。そう確信できた。

 男が発した一言目と……手に持っている血に濡れた大剣を見て。

 大剣なんて、双眼鏡で見た戦闘では一度も使っていなかったのに。


「バカが……。お前みたいなやつをお頭たちのところへ連れていくかよ、このバケモンが!!」


「随分と仲間思いなんだな。……部下を置いていくにしては」


「うるせえ!! 誰かが生き残らなきゃいけねえだろうが……くそ。こんなやつがいるなんて。なんなんだよ。聞いてねえぞ……こんな……言えよ、くそ。勇者とSランクは避けてたのに……」

 

 このまま黙ってやられてたまるか。

 懐からあるものを取り出す。お頭から預かっている、幹部だけにしか渡されない大事なもの。

 

 それは──封蝋に使うスタンプに似た形をしていた。


 実際の使い方もそれと同じだ。

 自分の首に、模様がついた部分のところを押し付ける。

 そうすることで首に『模様』が描かれ、浮かび上がった。


 正直にいってただのスタンプだ。使い方も、その結果も。

 だが実際の『効果』は破格だ。スタンプなんかよりもずっとな。


「…………」


 男は黙ってこっちをみていた。

 ……余裕ぶってるのか。

 見てろ、今に後悔させてやる。


「『分体』!!」


 首についた模様が光って浮かび上がり、模様そのものが『スキル』を発動する。


 そして気付けば、自分の両側に『自分』がいた。

 自分と同じ見た目、同じ意思の自分が……合計で三人。

 

「もう一度ッ!!」


 さらにスタンプそのものの力も発動して、さらに二人現れる。

 これで合計で『五人』。五対一だ。

 これでもまだ余裕ぶっていられるか?


『──これで殺してやる!』


 全員で余裕ぶっている男に大型のナイフをもって、切り掛かる。

 そして……突き刺した!

 全員がそれぞれ体の別の場所を!

 

「どうだッ! ──うっ」


 手応えで歓喜に包まれた瞬間。

 体に振動を感じた。同時に、視界には赤黒い大剣が割り込む。

 まるで自分自身の胸から生えて伸びるように。


 痛みが遅れてやってくるまで、何が起きてるのかわからなかった。

 だってそのはずだろう。誰が背中から大剣を突き刺すことができる?

 唯一できる人物は、たった今自分達がナイフで滅多刺しにしてやってるというのに。


 そう思ってナイフを突き刺した先へ視線を戻すと、男の姿が消えていた。

 まるで『夢から覚める』ように。


 俺はなんで何かにナイフを刺したと錯覚していたんだ?

 何もない空中に手をさしだして喜んでいた?

 そんなことを思うほどだった。


「手応えまで……あったのに……」


 体から力が抜ける。

 背後の男が剣を引き抜き、支えすらも失い、あとはもう倒れるしかなかった。

 おそらくもう立ち上がることはないだろう。心のどこかでそれがわかった。

 

 ──運がよかったな。


 倒れていく中でどこかほっとしている自分がいた。

 少なくとも想像しているよりは最悪ではなかった。

 背後から男に刺されてるのに?

 いや、正面から刺されるよりかはずっといいだろう。

 最後に、男の、あの瞳を見て死ぬくらいなら。


 あの──『無機質な瞳』を最後に見ずに済んで。本当に……。



 …………。



 ……コロコロ。



 …………コロコロコロ。



 倒れた勢いで、スタンプが地面を転がる。

 コツリ、と。靴にあたってそれは止まった。





 ──俺は、それを拾い上げた。


 逃げていた盗賊が使っていた、なんだかよくわからない道具。

 さっきはこれを使って分身のような物を出していた。

 判子だろうか? アンティーク品みたいで凝った作りをしている。安物には見えない。


「……何だろうな、これ」


 試しにスタンプを自分の肌に押してみる。

 離して見てみると、模様はついていなかった。

 盗賊の男は同じことをして模様がついていたのに。何が違うんだろう?


「……『分体』」


 スタンプを手にとって、盗賊と同じように力を発揮させてみようとする。

 しかしうんともすんとも言わない。


「俺には使えないのか……」


 少しがっかりしながら、スタンプをポケットにしまう。

 結局、時間ばかりかかってあんま収穫がなかった。

 あんま欲張らないほうがよかったかもしれない。


 そんなことを思いながら、元きた道を引き返す。

 時間をかけてしまったから少し急いだ。


 獣車がいた場所へ戻ると、進むのに支障がないくらいには道が片付いていた。

 驃とサイセがやってくれたようだ。


「秋様」


「後始末しといてくれたのか、助かるよ。ありがとう。

 もう問題ないと思うから、気を取り直してまたぼちぼち進もうか」


「了解しました」


 軽く会話し、獣車に乗り込もうとする途中で日暮とすれ違う。

 何か声をかけようかと思っていると、逆に日暮から声をかけてきた。

 

「……殺さないと、思ってた。秋は……」


「……? 何?」


 顔を伏せて、小さな声で喋る日暮に聞き返す。

 言ってることは聞き取れても、意味が端的すぎてよくわからなかった。


「秋なら殺さなくても、なんとかなったんじゃ……。

 それに、お金だってもらえるって言ったのに……」


 少しだけ顔を上げた日暮が、暗い目を微かにこちらに向けて言った。

 そういえば、戦う前にそんなことを言われていたっけ。


「あれだけの人数を全員生かして移動なんて無理だし、できても面倒だから、元々そんな気は進んでないよ。こういう連中は中途半端に生かして逆恨みされると面倒そうだし」


 ただでさえ、一度シープエットで失敗をしている。

 あれは目論みだった報復も、中途半端でそこまでだったな。

 変な時に面倒がかからない分、あれだったらやっぱり処理してた方が楽だったかもしれない。獣車を得られたことを考えると、結局よかったのかもしれないが。

 

「でも……人を殺すなんて……」


「あぁ、そういう……」


 ようやく日暮が言いたいことがわかった。

 要するに、道徳的な話のようらしい。


 ……そういえば、人に手をかけたのはこれが初めてだっけ?

 考えてもみなかったから、気づかなかったけど。


 そもそも日暮とは違い、博愛精神でいた覚えなんてない。

 そのはずなのに、なぜそんな勘違いをさせてしまったんだろうか? 

 ……もしかして、あれか。よもぎに狙われていたシープエットの人を逃したことだろうか。

 あれは俺個人の『私情』が多分にあるが、それを抜きににして、背後にある組織の実力がわからないまま敵対するのを避けた……というだけだ。


 あそこで皆殺しにするのは簡単だ。そして一見したら、情報が漏れないためにそっちのほうがよさそうに思える。でも実際、それで俺たちの情報を本当に守れるかどうかはわらかない。想像を超える力があちこちにあるこの世界で、大丈夫だなんて保証できる人なんか存在しないだろう。


 事実、俺と一騎討ちした騎士の男は俺のことを確信をもって『勇者』だといっていた。

 惚けたが、感知された覚えすらないのにあそこまで確信を持たれるのは通常の考えじゃ説明がつかない。

 つまり何らかの理由で『既にバレている』ことも、ある程度想定しなくてはならないということだ。


 そこまで考えて、もう一度皆殺しという手段について見直すと、リターンよりもリスクの方が随分と高い。相手もより本気になって俺たちをどうにかしようとするだろう。

 俺個人としては狙われるのも敵対するのも構わない。むしろそれでいいとすら思っているが、何らかの理由で『部屋』の存在がバレて『住人』や『使用人』にまで敵対関係が拡大するのは避けたかった。そこまで大袈裟に周りを巻き込んでまで、手段に固執したいわけじゃない。

 

 そうした色んな事情を含めた非常に面倒なバランス取りをした結果、ああなったというわけだ。

 それでもその後の面倒や千夏のことを考えれば、処理しとけばよかったとも思うし、結局よもぎだけはどうしたって巻き込んでしまうけど。

 ただよく考えれば、よもぎさえ乱入してこなきゃ元々丸く収まってた(?)んだから、自業自得ということでいいか……。


 要するに、俺はただ端的にその時そっちの方が『利益』があると思ったからそうしただけ。

 常に天秤には、その『選択肢』を載せている。

 これまでは『傾かなかった』……だけど今日は『傾いた』。それだけの話だ。


 『命を大切に』なんて殊勝な心がけでは決してなく。

 日暮のように『できればしたくない』なんてすら思ってはいない。

 俺と日暮の考え方は、まるで違うものだ。


「……まぁ人だってゴブリンを駆除してるんだし、似たようなものじゃないか? 自分たちもするのに、自分達は人だからならないなんて可能性はないし。今日はたまたま、それを人同士でやっただけで」


「……ゴブリンと人は──」


「違う、というのかの?」


 日暮の答えを遮って、側で聞いていたティアルが割り込むように尋ねた。


「なら秋の『部屋』にいるゴブリンたちをお主はどう思っておるんじゃ。別に殺してもよいと?」


 唐突に割り込んできた言葉に、狼狽えるように日暮は答えた。


「そんなことは……」


「ならば『部屋』のゴブリンと人間が狩っているゴブリンの違いはなんじゃ。

 秋が始末した人間とそうでない人間の違いは?

 誰彼構わず殺しているわけではあるまい」


「…………」


 ティアルの言葉に、狼狽したように日暮が押しだまる。

 ……そんな難しい話じゃないんだけどな、俺にとって。

 全部がとても、シンプルな話だ。


「まぁ、俺は人とゴブリンを同じだと思ってるけど、今みたいに『部屋』に居着くようになる前なんかは終焉の大陸で散々ゴブリンと戦ってなんなら殺すこともあったし。だからそもそも今回で初めてって感じもあんまりないよ。これまでと同じような対応を今回もして、同じ結果になっただけだ」


 そう……全部が同じなだけだ。

 人も、魔族も……魔物も。


「それよりも俺は日暮が、どうしてそんなに道徳的なことに拘っているのかが気になるけど」


「どう、して?」


「あぁ、何か理由でもあるのか?」


「…………理由なんて……」


 少し口を開いたものの、続きの言葉が出ることはなく日暮は黙りこくってしまった。

 結局そこで会話は霧散するように終わってしまい、獣車に乗り込んだ。

 なんとなく微妙な空気での出発となってしまった。


「……雨か」


 獣車の屋根の上にサイセとティアルと一緒に乗っているとほどなくして降り始めてきた。

 屋根の上にいるのはちょっと行儀が悪い気がしないでもないが、異世界ではあまり気にしないみたいだ。それどころか見張り役として一人常駐していてもおかしくないらしい。結構楽しくて気分がよかった。軽トラの荷台に乗ってるみたいだ。今は獣車の中で春といるが、千夏も今度連れてきてみてもいいかもしれない。危険そうなイメージだが、この世界の子供は思ってるよりも相当頑丈だ。


「確かに降ってきたな。話通りってわけか」


 隣でサイセが納得した様子で呟いていたのに、疑問を抱いた。

 誰かに天気予報でも聞いたのか。

 そう思って聞いてみるとどうやら違うみたいだ。


「何でも、この領地じゃもう三ヶ月近く雨が止んでないみたいでな。

 それが異常気象だっていうんで、少し問題になってるらしい」


「へぇ。そういう季節ってわけでもなくか?」


「南大陸で、そこまで長期に雨が降り続けるのは聞いたことがないのう」


 なんとなく感じた疑問を呟くと横からティアルが答える。

 ティアルの方に視線を向けると、降ってきた雨を手のひらに溜めてじっと見ていた。何をしているんだろうか。

 

 気になってそのまま様子を見ていると、唐突に何かを感じたように、ニヤリと笑みを浮かべる。

 そして挑発的な笑みを浮かべたまま、一人呟いていた。

 

「面白くなってきたの……」


「…………?」


 尋ねてみるものの「確かめてからの」と教えてくれなかった。

 雨の中を獣車で進み、初めての村にたどり着いた。


 目的地にはまだかかる。

 その日はその村で泊まった。

 一応怪しまれないよう宿泊施設を利用したが、過ごしたのはほぼ『部屋』の中だ。


 旅をしはじめて急に感じるようになってきたけど、すごい便利だな、この能力。

 

【新着topic】


【世界】


『盗賊』

徒党を組んで法を無視して活動するならず者。弱いやつは冒険者に即効でレベル目当てに殺されるか、金目当てに奴隷として売り飛ばされる。だがレベルを人であげることも躊躇せず、魔物が生息する場所で根城を築いたりしているため舐めてかかってやられることもあるので注意が必要。


【名詞】


『技賊』

強奪スキル持ちで徒党を組んだ盗賊。スキルが奪われる、倒してもリターンが極一部に偏るなど、組織立って相手にするには面倒で厄介。さらに攻勢をしかけて逆にやられた場合、相手が強化されてしまい、かえって手がつけられなくなるパターンもあるため慎重に動く必要がある。


『強奪スキル』

スキルを奪うスキル。見ただけで奪う、倒した相手から奪う、受けたスキルを奪うなど奪い方は持っている強奪スキルによって違いがある。強奪スキル持ちは他者に倒されると、倒した相手に自分の持っているすべてのスキルを渡す。その機能がスキル自体に備わっているため、人から狙われやすくなるといった損が発生することからマイナススキルとされている。また強奪スキルは、ほぼ【ユニークスキル】で発現する。


『マイナススキル』

持っている人に損を与えるスキル。

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― 新着の感想 ―
1章の時から気になっていたのですが、自身以外の人がいない少ない場で使うのは静粛ではなく静寂ではないでしょうか。
[良い点] 新着topic更新、嬉しいですー [気になる点] >見ただけで奪う、倒した相手から奪う、受けたスキルを奪うなど奪い方は持っている強奪スキルによって違いがある。 fm…やはり秋くんさんの「…
[良い点] 最高だ!愛してるぜ!
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