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9. 萩野さん、ご案内

 部室に居た俺の前に現れたのは……


 げぇっ、ストーカー女ッ!?


 誰かの罠か!?




 



 ありのまま今起こっている状況を話すぜ……


 俺は部員の皆より一足先に、部室に来ていたッ。

 ヒマをもてあましているところに聞こえてきたのはノック、そして扉を開ける音だった。


 でだ。入部希望者が来たと思ったら……


 ストーカーだったッ……! 


 

 何を言っているのか分からねぇと思うが、俺にも全くわからねぇ……宇宙人とか未来人とか超能力者とか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇッ!! もっとリアリティのあるヤツを垣間見ることとなったッ……! 



 というわけで、現在絶賛証人尋問中だ。


 コイツは、一体何が楽しくて部活にまでストーキングすんだろうな?



 ◇



「……で、被告人。ふむ。ストーカーAとしよう。名前は?」

 刑事ドラマの取調べシーンのように、机を用意しガンッと上から叩きつつストーカーへ自己紹介を促す。まずは素性を洗おうと言う方針で脳内議会が固まった。

「……萩野 秋穂です。あと……えと、あの、ストーカーじゃ……ないです……」

 いやそのりくつはおかしい。二秒で矛盾発生だ。

「黙らっしゃいっ!! で、ストーカーA改め萩原君。先日君は何をした? 言ってみろやコラァッ!!」

 俺は矛盾点に自分で気付かせてあげるべく、ストーカー新入生に優しく声をかける。

「わひゃいっ!? え……えぇっと……」

 優しく問い詰めたのにこの動揺具合。どう見ても『クロ』だな。言い逃れも何もあったもんじゃない。

 しかし、縛り上げてやりたい欲求に駆られながらも、俺は小動物の告白を聞くために耳を向ける。あ、縛り上げたいといっても変な意味ではない。断じて。

「……先日は、朝から先輩を……その……こっそり追いかけてました」

 うん、なるほど。よく分かりました。つまり――――

「どう考えてもアウトだッ!! このストーカーレベルMAXメス猿めがっ!!」

 どこからどうやって考えても完璧なストーカーではありませんか。むしろストーカーじゃなくなる要素はないのか? 

「ひゃわっ!? ……ご、ごめんなさいっ!」

 ビクビクしつつも、飼い主に必死で謝る子犬のように縮こまる彼女。

 俺の脳内の『嗜虐心を司る機関のようなもの』を、えらく刺激された。ここは欲求に素直になろう。つまり……もうちょっとイジりたいです。

「チッ……まあいい。だが事実はともかく動機は見逃さん。何でヒトのことストーキングしてくれやがったんだ? これでもしお前が可愛いヤツじゃなかったら、問答無用でブタ箱にメスブタが一匹届いてたんだぜ。顔面偏差値を引き上げてくれた、先祖代々の優秀な遺伝子に感謝するんだな!」

「え……かわっ!?」

 そこを拾って反応するんですか? ていうか『川っ!?』って何だよ、俺に聞くな。

「全く……可愛い一年ガールかと思ってみれば、電波ゆんゆんのストーカーかつ新種の未確認生命体ってオチか――――ガフッ!?」

「部室に来たら……なんでアンタはいきなり女の子イジめてんのよっっ!!」

 尋問を楽しむ俺の鼓膜に突然響くアニメ声と、頭に響く衝撃。毎度の事ながら頭がチカチカする。

「いってぇ……おいこらスノウ! 何しやがるっ!」

 いつのまにかやってきて蹴ってきた幼馴染に抗議する。

「あらごめんなさい、よく聞こえなかったわ。だからもう一度……言ってみなさいよっ!!」

 ゴゴゴゴゴ――――と、謎のオーラ的なものを発しているスノ……蘇芳さん。

 どうやら、『俺を蹴った』はもう終了らしく、次なる課題『スノウ呼ばわり』に興味が移っているようだ。何この一方的に蹴られる痛さと怖さ。イジメってやつ?

 とにかく、悲しみを超えるには暴走機関車『ユキサップ』を止めるしかない!

「自分、チョーシくれてました!! マジすんませんした!!」

 というわけで、全力で謝罪。これで今日も平和です。

「……ったく、しょうがないわね……いいわよ、許してあげても」

 ミッション成功。命が繋がりました。同時に、なんか釈然としないが。

「……で、アンタはなんで新入生イジめてたの? 場合によってはもう一回蹴るわ」

 びしっ、とこちらに足を向ける雪乃。そこには、カワイイ女の子の『生足』の感動など一切なく、存在するのはまるで抜き身の刀でも向けられているような恐怖感だけだった。

「いや、落ち着いて見てみろ! コイツ、この前のストーカー女っ!!」

 繋がった命の糸を切り落とすわけにはいかないので、必死に弁解を試みる。

「は? アンタ何言って……あ、そういえばこの子この前――――」

 ようやく分かってくれたか。うん、おじさん嬉しいぞ。

「この前アンタに絡まれてた子じゃないの……って、なんで二回も絡んでるのよっ!! この変態バカっ!!!」

「――――痛いっ!?」

 おい、どうしてまた俺が蹴られてるんだ? 

 って、そうか。単純なことを忘れていた……

 雪乃がこの前俺を見たのは……ストーカーを問い詰めているところからだった。

 そりゃ分からないわけだよな。でも何で蹴りまで付くんですかね? 蹴る必要なかったよね? 今。


 その時、くすっ、と小さな声が聞こえた。

 この一方的な暴力が行われる中、ストーカーが図々しくも笑っていやがった。

 人が蹴られてるのに笑うとは、いい根性している。だが……

 悪くない笑顔だった。ストーカーの腹いせに盗撮でもしてやればよかったかと思う。

 ストーカーなんてやらかす根暗そうなヤツの割に、良い顔で笑ってやがる。

 

 しかし、ストーカーの珍しい笑顔を見物していると…… 

「――――アンタは何見とれてんのよっ!!!」

「ぶふぉっ!?」

 なぜかまた雪乃が蹴ってきた。いつも以上にいきなりの流れすぎて、処理が追いつかない。何? なんなのこの子? 蹴らないと死んじゃう生物なの?

「おまっ、何しやがる! そんなに蹴りたけりゃタイでムエタイの修行にでも行きやがれっ!! 雪ウサギの脚力は、もっと違うことに発揮しろッ!!」

「あ……その……ごめん、なさい……」

 何でなのかは全く分からんが、今回は一切ツッコミがない。

 しかも、蹴るだけ蹴った上で珍しく謝ってきた本人は……なぜか震えている。拳を握り締め、俯いたまま肩を震わせる雪乃。チビっ子の体が、縮こまってさらにチビっこく見える。

 ……普段は蹴りまくって暴れるくせに、こうも素直に『ごめんなさい』の態度を取られると普段のギャップからなのか、俺もどう返していいものか悩む。

「いや、まあ、気にするなよ。慣れてるし」

 しどろもどろになりながらも、一瞬凍った空気を溶かしにかかる。

「……うん」

 結局よく分からんが、ちょっとは立ち直ったらしい。

 つか、普段からそれくらい素直になれ。命に関わるから。


「あの……それで、先輩……」

 今度は、放置していた部員候補が雪乃とは対照的なしっとりした声を放つ。

「何だ? ストーカー。シャバの空気に慣れたからといって調子に乗るなよ」

「結局私……部活、入れるんですか?」

 もう『ストーカー』を訂正する気はないらしい。相手に諦められてはイジる気も起きず、こちらも残念だ。

「へぇ、『試験』知ってるのか」

「はい……噂だけ……」


『帰宅部』には入部試験がある。原因は今そこで凹んでいるチビっ子と……美菜先輩だ。


『雪乃+美菜先輩』というのは、校内ではずいぶんと人気があるらしい。

 中身はともかく、外面なら確かに完璧だ。二人が並ぶと身長から何から、見事なコントラストが織り成される。洋風の小さな金色と、それを包み込むような和風の黒。

 ……結論だけ言うと、こんな残念な部活だが、二人目当てで来たバカ共を落とすために毎年『入部試験』が開かれる。

 最初は男子のみの予定だったが、女子の志望者もとんでもなかったため結局両方実施することになった。まあ全員落ちたけど。

 残念なことに、このような残念な部活に来るなどと言ってのける人間は、99.9%が二人目当てだ……だから俺以来部員増えてないしな。

 そこで『試験』ってわけだ。

 試験内容は、部長が言うには『面接して<<そういうオーラ>>があれば合格。数字にすると53万くらい?』とのこと。なぜ53万なのかとか、細かいところは……誰かに聞いてくれ。

 


「で、ストーカー改め……荻野さんだっけ? まあ、『試験』受けるわけだ」

「そのつもりです……あと萩野です。荻野じゃないです」

 『荻』と『萩』ではさすがに『お約束』すぎたらしく、あまり反応が芳しくない。

 まあ、そんなことより試験

「とりあえず、部長が来るまで待ってくれるか?」

「……はいっ!」

 ちょっと慣れてきたのか、声の緊張が取れてきた気がする萩原とやら。

「なら、私はお茶持っ……お、お茶無いから買って来るっ!!」

 お茶と急須は部室にあるが……雪乃はさっきの『空気』を変えたいらしく、自販機を選んだ。ネクラストーカー女が明るくなったら、ネアカ暴力女が暗くなっちまったらしい。

 ……別に気にするなって言ったんだけどな。


 ◇

 

 で、雪乃がいないってことは教室にストーカーと二人っきりか。

 考えたところで、重大な失敗に気付く。

 あれ? これマズイんじゃね? ストーカーと一対一……もしかして、何かされる?

 結局名前以外は何も聞いていないんだ、目的が『俺を消す』だったりしたら……

「あの……先輩っ……!」

 ひぃっ!? 待ってっ! 窮鼠猫を――――というが、小動物に逆襲されるほどに責め立てた覚えはないぞっ!?

「先輩! ……双子のお兄さんとか……、いらっしゃいませんか? それか……『誰かに似てる』と言われたこととか……ありませんか?」

 ビビった俺に続いた言葉は意外なものだった。戸惑いが隠せない。

 何言ってんのこの子? 

 家族構成聞いてどうするつもり?

 親元から離れてる上に……俺は一人っ子だぜ? 

 何の目的があって家族情報?

 その上誰かに似てるなんて……あ。

「双子は残念ながら持ち合わせていないが、『似てる』と言われたことならあるぞ」

「……っ!」

 息を呑む、というか、やたら真剣な顔でこちらを見上げる萩野。何かを期待してるような顔だ。

「俺は――――『ベースの人に似てる』って言われたことならある。この前、昼休みの放送で流れてた曲出してたグループなんだが……『似てる』って言われた時はちょっといい気分だったぜ」

「……そう、ですか……」

 聞くだけ聞いておいて、しょんぼりしやがった。ツッコミもくれないし……どうしろというんだ。

「で、何でそんなこと聞いたわけ?」

「そ、それは……その……今は、秘密で、お願いします……」

 いや、個人情報引き出そうとしておいて、それは無いんじゃないですかね?

「まあ別に構わんが、ネットで個人情報バラ撒いたりはするなよ? 最近物騒だからって、家でブログ入る時なんかも気をつけてるのに、リアルで流されちゃ元も子もないからな」

「あ、はい……広めるつもりはありませんが……気をつけます」


 そして、しばらく沈黙。

 ほぼ初対面の女の子と二人……これが中々に気まずい。

 こんな空気を打開するような一言が欲しいところだが、どうしたものだろうか?

「あ、あのっ……」

 意外にも、ちょっと明るくなった萩野の声が沈黙を裂いた。

「ブログ……やってるんですか?」

 明らかに無理やり話題にしましたって感じだな。

 だが、気まずいよりはマシだと思ったので話に乗ることにした。

「ああ、『ブロング』ってやつだ。あまり更新はしないけどな。あと雪乃……あ、さっき俺のこと蹴ってた女のことな……アイツもやってる」

「あの……で、でしたら……アカウント、教えてもらえませんか?」

 会ったその日に聞くのもどうなんだろうと思う。だが、どことなく出ている必死なオーラに気圧(けお)されて、

「ああ、いいぜ」

 ついつい言ってしまった。

 そして気がついてみれば……『ブロング』のことを教えるための連絡用に、と携帯電話の情報まで交換してしまっていた。

 勢いで教えちまった。萩野とやらが詐欺に関わっていないことを祈る。


 再び訪れていた気まずい空気。

 そんな中、

「イヤッホオオオオオオオオオオオオウ! 放課後だ!! テンション上げていくぜ!!」

 ノックもせずに、ドアをブチ開けて突入してくる人間が一人。

 この沈黙を吹き飛ばした人物が誰であるかは、言うまでもない。

「きゃっ!?」

「ちょっ……晴先輩っ!?」

 沈黙から一転して訪れた、ドアと音声の大音量に驚かされた。

 だが、先輩にしてみればそんなことはお構いなしのようだ。

「オハヨウ御鏡青少年! と……誰だお前は!! 敵襲か!? 誰ぞある!!」

 ちょっとデジャブってやつだろうか。見知らぬ相手に殿様リアクションをとる晴先輩。さすがに気が合う先輩です。

「て……敵襲……ですか?」

 そして萩野は先輩のボケに素で反応してやがる。地味に天然らしい。

「オマエのことだ闖入者ッ! なぜ部外者がここに居るっ!!」

「ふぇっ……あの、入部希望、なん、ですけど?」

 不安なのか、最後が疑問系になっている。

「では、試験があるのは知っているのかね?」

「はい、あの……面接? みたいな噂でしたら……」

 そう言っている萩野に対して、晴先輩は一言告げた。


「フッ……よかろうなのぜ。そういうことなら話は早い。早速試験だ! ツマラン人間だったら叩き落としてやる!」


 相変わらず脊髄だけで言葉を選んでいるようだが、要するに部長が言いたいことは――


 ――――――『試験開始』だ。


ようやく更新。



さて……ええ、前回のようなシリアス? な展開は僕が疲れます。

コメディ(?)ですし、もっとコメコメしよう!

と思ったのが、今回。


……できてなかったらごめんなさい。



そして、書く時間がとれないとれない。

影が薄すぎて、萩野さんを萩原さんと打ったりしたのは内緒。



それでは、ここまで見てくださっている奇跡的なお方、ありがとうございます!

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