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8. 『新入部員A』の話

 『あの人』を求めてやってきた、新入部員(予定)Aさんの独白。


 ……本当にその部活選んじゃっていいんですか?


 どうやら、割とマジな理由があるようです。



 これはきっと、よくある物語。


 一人の少女が、一人の男の人に助けてもらった。

 助けられた少女は、男にもう一度会いたいと願った。

 そして、その祈りが通じた。

 久しぶりに見つけた『彼』は……何も覚えていてくれなかった。

 勘違いだった……。ただそれだけ。ありふれた物語。 


 そう、私にとっての『非日常』は――――


 ――――『あの人』にとっては『日常』の一コマだったのかもしれない。


 ただ……それだけの話。




 ◇◇


 


 まだ中学三年生だったころ……私は塾に通っていた。

 住宅街にある家から徒歩で五分くらい。駅前にある塾だった。

 いわゆる『個別』の教室で、授業は週に二回か三回くらい。夜の七時半から九時まで。 

 学力的には問題なかったから、最初は必要ないような気がしたけれど……『三年生になったら塾くらい通うものなんだよ!』と友達からそそのかされて、夏休みになんとなく通い始めたのがきっかけ。


 それでも、何となく通い始めていくうちに楽しくなった私は……秋の頃になると、すっかり塾通いが好きになっていた。

 友達と一緒の授業時間で通っていた私は、授業が終わってからも友達と一緒に勉強したり、おしゃべりしたりして……そういう『放課後』が大好きだった。

 どれくらい好きだったかといえば、時には深夜に差し掛かることもあったくらい。

 深夜の駅周辺は少し怖いけれど、家から徒歩五分の距離だからすぐに帰れたし、あの時は……とにかく少しでも長く『二回目の放課後』を楽しみたくて、たまらなかった。



 そんなある日、『放課後』も終わって……家に帰る途中で、私は忘れ物に気付いて塾に戻った。

 時間は深夜の……一時前。まだ教室では、塾長さんが残って事務処理をしていた。

 塾長さんが言うには、十月ともなれば……志望校に模試の結果の処理に、生徒と保護者との面談などなど……とにかく忙しいらしく、深夜になっても毎日のように残っていると愚痴半分に教えてくれた。

 気をつけて帰れ。という塾長に『お疲れ様です』とねぎらいつつ、忘れていたノートとペンケースを持って家へと帰る。

 

 帰り道は、闇。

 夜のこの街は一言で言うなら――――不気味。

 この時間になると、駅の目の前や大通り以外は、特別人通りも多くない。

 街灯はあるけど、その近く以外は、真っ暗でよく見えない。音の方も自分の足音がはっきりと聞こえるほどの静けさを保っている。

 そんな道でたまに見かける人といえば……大体が『不良さん』だ。たまに声が聞こえれば、だいたい出所は道の端に座りこんでいる人たちで、中には目の焦点が合ってなさそうな人もいたりする。

 家が近いとは言っても……今日みたいに帰りが遅くなると、毎回こうして『五分間の恐怖』がやってくる。

 それでも、たった『五分』で済むから、いつもなんとか我慢して……『楽しい放課後』を過ごしていられる。

 毎回帰っている間だけは、少し後悔するけれど。


 時間が経つほど、楽しかった時間と反比例するように凍り付いていく背筋と戦いながら歩きつつ、最後の角を曲がる。

 もうすぐ『五分』――――つまり、あとちょっとで私の家。

 『怖い時間』も、もうおしまい。


 そうして、あと二軒……それだけ通り過ぎれば、もうゴール。

 心の中で『ほっ』と一息。今日もなんとか無事に着きそう。



 そうして私は何事もなかったように――――――――何かに引っ張られていた。


「~~~~~~~っ!?」 

 突然押さえつけられた。誰かに狙われる理由は……ない。多分。

「喋るな。暴れるな」

 どちらにしろ喋れるはずもない。口元に当てられたタオルみたいな感触と――――

「静かにしないと……刺すぞ?」

 ――――後ろから聞こえる、静かだけれど暗闇からそのまま出てきたような声に、完全に竦んでしまっていた。

 無理やりに、一瞬抵抗を試みたが『刺す』と言われた頃には首筋の辺りに、ひやりとした感触まであった。当たっているものが『何』かは、考えたくない。

 原因が心なのか体なのかは分からないけれど、全く動けなかった。

 そして、目隠しまでされて……しばらく歩かされる……永遠にも感じる時間だった。


 声すらも出せない中で、私にできた事はといえば――――いるかどうかも分からない神様に、ただ願うことだけ。

 夜更かしがいけないなら、次から早寝しますから。

 不真面目だというなら、もっと勉強しますから。

 好き嫌いも直します。家にも早く帰ります。だから――――


 ――――だから、お願いします。助けて下さい。


 ◇


 そのまま、どこまで連れられたのか……拘束が緩み、目隠しも外され、ようやく光を得た私が目にしたものは、真っ暗な、住宅街の外れの景色と――――

 ――――さらに三人ほどの見知らぬ男たち。

 もちろん助けてくれる様子なんてない。そこにあるのは、下卑た笑い声と視線だけ。

 私の『願い』は届かず……いつのまにか、夜の闇へと消えていたらしかった。

『これから――――』とか『結構な――――』とか言われていた気がするけれど、反応できなかった。

 そんな余裕すらなくなっていた私は、ただ檻の向こうの動物でも見ているような視点で……下品な笑顔の男たちに囲まれている自分を眺めていた。


 現実を『捨てた』私の景色は――――――――黒一色になった。



 ◇



 突如、意識を取り戻す――――同時に『戻らない方がよかったのに』と思う私もいた。

「おい、こらガキ。いい加減返事しろって」

 誰かの声がする。

 これから私は何をさるんだろう? 

 ……それとも、もう全てが『終わった』のだろうか?

 呆然としている私に返ってきた答えは、ひどく単純なものだった。


「お前――――――――大丈夫か?」

 

「なんか妙な雰囲気だったから、とりあえず全員()しちまったが……もしかして彼氏とかだったりしたか?」

 違う……と、心では思ったが答えられない。そんな私に、もう一つ声。

「まあ、そういう『プレイ』だったら……その、悪かったな。もし違うなら、気いつけて帰れよ?」

『そんなことより、あの……名前……』と、取り戻してきた自我で精一杯伝えようとした声は――――

「じゃ、俺バイトあるから。送れなくて悪いな。『あの人』には世話になってるから遅れられないし、な」

 ――――そのまま遮られてしまう。

 そう思った時、私はしっかりと『自分』が戻るのを感じた。『まだ……まだ何も返せてない!』と思考回路が告げる。


「あ……あのっ!」

 勇気を振り絞って声を出す。そう、まだ何も……お礼さえ、言ってない。

「うぉっ!? 今まで黙ってたくせにいきなり何だ? つか、俺バイトなんだが……」

「あの……名前っ!」

「あ? 名前? いや、さすがに知らないヤツには教えないだろ。そういうの、学校で教わらなかったのか?」

 助けてくれたかと思えば、名前すら教えてもらえない……何で助けてくれたんだろう。

「……あの……でも、恩返しとか……したいん……ですけど……?」

 何となくだけど、体の調子や、服の感触から分かる。

 まだ『何もされてない』――――この人が、守ってくれたんだ。

 だから、今度こそ、力を込めてもう一度言おう。私を『護ってくれた』この人に――――

「あの……恩返し……させて下さいっ!」 

 そうして、言えた。途切れ途切れだけど、頑張れた。

「ああ……でもお前、その制服……多分中学生だろ? 恩返しがしたけりゃ、せめて高校生になってからにしな。ガキがこんな夜遅くにウロつくもんじゃないぜ――――ってうわ、やべっ、バイト遅れちまう。 じゃあな! 気いつけて帰れよ!!」

 なんとか言えた……頑張ったのに……普通に断られた。

 この人は、私を助けたことなんて……割と、どうでもよかったみたい。

 それでもこの時の私は、同時になぜか良い方に意識が向いていた。

 ……そうなんだ。『高校生になったら』……恩返し、させてくれるんだ。


 そう、次は……いつの日か、私が『あの人に恩返しする』番だ。



 ◇◇ 



 でも、決意とは裏腹に、あの時は結局『あの人』のことについて何も聞けていなかった。

 おぼろげに雰囲気は覚えているけど、どこの誰なのかも全く知らない。名前も、住所も、年齢も。

 それでも、『恩返し』ができなくても、一度感謝の言葉を伝えておこうと思った私は、昼間や夕方、毎日のように頑張って探したりもした。

 けれど……見つからなかった。

 夜に探すのが一番見つかるんだろうと思うけど……夜に出歩くのは、心が受け付けない――――無理だった。

 


 いくら探しても見つからず、名前も分からないから調べることもできず……気がつけば、受験も終わって高校生になっていた。

 もちろん選んだのは近くの高校。また三年だけ、『猶予』が手に入る。

 ついでに、あの人が居れば――――と考えたが、そもそもあの人が『もう居ない』可能性があることに気付いたのは、入学式の後だった。

 結局三年を棒に振る予感がした。どうしてもっと早く気がつかなかったのだろう。


 

 そのまま何日か過ぎた日のこと。

 朝、登校中の私に……もう一度奇跡が起きた――――

 ――――『あの人』が、いた――――

 全く探しても見つからなかったあの人。

 あのあと、声すら聞けなかったあの人

 そんなあの人に――――と思ったら、勘違いだった。

 ちょっと見たところの雰囲気は似ていたけど、中身が全然違った。

 その上『ストーカー』とまで言われてしまった。確かにその通りだったけれど。


 でも――――昼間だけとはいっても、中学生の時に、あれだけ探して見つからなかった――――『あの人』

 そんな人に、雰囲気だけでも似ている『その人』が、私にとって興味深い対象になるのは自然なことだった。

 会うのが無理なら、その面影だけでも……そう思うくらい、纏う雰囲気が近い人だった。

 ずいぶん性格は違うみたいだけど、『あの人』と『その人』で、いい『友達』になれるんじゃないかと思う。


 そんな『その人』が『帰宅部』にいる、という事だけは分かったので、私も入部してみようかと思う。

 もし、『あの人』と双子だとか、知り合いだったりとか……とにかく、何かしらの『接点』があれば……『あの人』に、一気に近づけるかもしれない。


 そんな都合の良いこと……あるのかな? と思いながらも、心のどこかで願ってみることにした。


  



 ◇◇





 昨日から、入部届の受付が始まりました。

 ……昨日は失敗したけれど。今日こそは時間も場所も大丈夫。

 私は、今日こそ入部届を……提出します。


 ちょっと気合を入れて、ドアノブに触れる。

 ひんやりした鉄の感触と、ガチャッという音。


 まずは一歩。『あの人』のヒントを探すため、踏み出そう――――


「し……失礼しますっ……」

「へーい。帰宅部に何か用ですかぁ? ……ん? あらまあ、カワイイ一年生じゃありませんか――――――――ってお前、この前のストーカー女じゃねぇか!? もう出所したのかよ!? 保釈金とか払ったのか!?」


 押し寄せてくる言葉に私は思う――――やっぱり、踏み出さないほうが……良かったの……かな?



読んでくださった方、ありがとうございます!


さて、今回のお話は……あれ?


今回ばかりはシリアス(笑)を目指したつもりが、なんか微妙なことに……どうしてこうなった! まあ、真面目な空気が出ていたことを祈りましょう。


そんなわけで、実にありきたりなボーイミーツry(むしろガールミーツryだろうか?)でございます。


ところで、どうすればシリアスな空気になるんでしょうか。誰かコツ教えて(他力本願)


と、いつもの如くネガネガして……今日はこんなところで。

ご意見ご感想、ご要望(?)お待ちしてます!


次回からは、『あの人』を追い求める秋穂さんが……みたいな話が作れるといいなぁ……と思いつつ、まだ作ってません(笑)


誰の話にしようか考え中です。待ってくれてる人は、しばらく待ってね!


それでは。

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