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7. 『裏』の顔

 夜に目覚めたキョウ。

 恒例の『記憶探し』――――と称したヒマ潰しと化している日課――――を行う。

 そして、バイト先では、ある人物と久々に話をすることに。


 誰にでもあるのだろうか? ……裏ってものは。

 恒例の『うざっ』という幻聴で目を覚ます。

 以前は思い出すだけでイラッときていたが、最近はどうでもいい。うざいと言われるのは若干うざいが。


 時間は丁度、夜の十二時を過ぎたあたり。

 丑三つ時……には少々早いが、昼間全部使って寝てる分……スッキリ目覚めた。

 今日も『記憶探し』開始だ。



 ◇



 まずいつも通り、ネットカフェで時間潰し――――今日も『<<HIBIKI>>』のブログをチェックした。

『部活』の話が少々載っていた。『メンバー紹介』で終わってたから、結局五分も潰せなかったが。

 元々不定期かつ適当な更新の日記だったから、別に、内容が短いのをどうしろというわけではない。

 しかし、せっかくの『唯一の友人の日記』がヒマ潰しの材料にすらならず、少し残念だった。 

 

 そして、結局ニュースだ何だと見ているうちに一時間ほど時間が過ぎて……『バイト』の時間が来た。



 ◇


  

 今日も俺は――――ヒネろうという気配すらない名前の店――――『麺BAR』へと入る。

「おざっす」

 さして大きくもない店の意外と重いドアを開け、その後で投げやり気味な挨拶をひとつ。

『別に挨拶だの口調だのは畏まらなくていい。どうせこの時間は準備中心で客なんぞ大して居ないしな』と店長が言っていたし、何となく『畏まった』態度が取りたくない俺としては助かっている。

「む? おお、キョウじゃないか。いいところに来た! 今、丁度話をしていたんだが……是非お前にも聞きたい事があるんだ」

 中々ガタイのいい『オッサン』が、図体の割には気さくな態度と声で挨拶に反応してきた。ついでに、何やら聞きたいらしいので、挨拶もそこそこに話を続けてもらう。

「何すか?」

「うむ、実は今こちらのお客さんと話していた事なんだが……」

 そう言って、もうすっかり『出来上がってる』お客さんを指差すオッサン。

 つまり『聞きたいこと』ってのは――――

「……『既成事実』を『未遂』まで戻すためには、どうしたらいいものかという話になってな。完全に『できちゃってた』ら、どうやって切り抜けるのかについて、マニュアルを練っていたわけだ!」

 ――――やっぱりな。ヨッパライとセクハラオヤジの話なんてそんなもんだ。実に残念な中年だな、おい。


 改めて、ずいぶん血迷ったことを話し合っていたらしい二人に目を向けてみれば、カウンター越しに真っ赤な顔をした仕事帰りらしいサラリーマンと、『オッサン』――――店主の、宇治原 栄一郎が向かい合っている。

 ……酔ったオッサン共を見れば分かるように、ここ『麺BAR』は、オッサンいわく『ラーメンと酒の店』だそうだ。店の名前が頭をよぎるたびに、もう少し位ヒネっとけと思う。

 で、そんな……中年のオッサンが切り盛りする、散々ハシゴした挙句〆に来るような飲み屋で客が求めるトークといえば――――

「ちなみに、今のところの有力説は『男のステキなサムシングに……<<刺さった対象に超時空振動を起こす程度の能力>>を付与』説だ」

 ――――このように、少々『下品(かつ残念)な話』という場合も多い。

 酒が入るからなのか時間帯なのか、それとも両方なのかは分からないが。

 分からないが、とにかく、下品な話に巻き込まれるとウザったいので俺はツッコミだけ渡して逃げることにした。

「マジで練んなくていいんすよ! つか、下品なファンタジーは止めて下さいよ。マジでクレーム来ますよ?」 

「えぇぇ!? ちょっとお客さん、あんなこと言われてますよ。もしかしてクレーム出しちゃいます!?」

 そう言って、客に『お伺い』をたてるオッサン。

「全くっ! 問題! ありまっせーん!!」

 そして応えるのは、名前も知らない中年サラリーマン。コイツらの行く末が心配だ。

「……とにかく、知らないっす。そもそも子供なんて作ったことないし」

 呆れた俺は、適当にあしらってこの場から抜けてやることにした。

「え? ってことは何? その見た目なら高校三年生のナリで、キョウ君まだ『ドーテー』なの? うわ恥ずかしっ! ヤラハタ一直線っ!?」

 ……スパっと会話を切るつもりが、えらく喰い付かれてしまった。

 そしてそのまま、客――――オッサンに聞いたら田中さんとか言うらしい――――と一緒に『どーてー! どーてー!』コールで盛り上がるオッサン。


 すっかりエキサイトしている二人に延々とシモネタで囃し立てられ続け……さすがに、客と、世話になってる『店長』でもムカついてきた。つかオッサンに至っては、シラフなのに煽ってんだろ。

 このイライラ具合……もし刑法が存在しなければ、既に、冷蔵庫でキンキンに冷やしたビールの大瓶(633ml)二本を使って、頭のあたりを叩き割っていただろう。

「違っ……違いますっての! 『子供なんて作ってない』だけですって!」

 まあ、法治国家で人様の頭を叩き割れるわけがないので、ここは健全な青少年らしく言葉で否定し――――

「えー、やっぱ『子供作ったことない』んじゃん。どーてーキョウ君はさぁ!」

「日本語って難しいよねぇっ! ヒャッヒャッヒャ!!」

 ――――否定しにいったが、この二匹の珍獣の前ではまるでダメだった。

 酒に酔ったおっさんと、シラフの時点で既に酔ってるオッサン……この組み合わせじゃどうにもならねぇ。


 もはや手に負えない――――諦観の領域に達した俺は……ひとり、ラーメンの仕込みに向かう事にした。

 酒ばかりで忘れられがちだが、『ラーメンの店』らしく、スープは常に火にかけてある。時折かき混ぜるくらいはしておかないといけない。

 詳しい材料やら工程なんかはオッサンしか知らないから、どこまでやる必要があるのかは不明だが、今の俺に細かいことは……どうでもいい。


 とにかく、これで逃げられる。

 チェリー認定されたが……どっちにしろ『記憶にございません』だ。どうにでもなれ。



 ◇



「よお」

 厨房の奥へ向かうと、あまり一対一では会いたくない男が『一人で』居た。

「晴樹さん……こんな時間に、どうしたんすか?」

「何、暇だったからジュースでもと思ってな……。しかし『こんな時間』に来るお前に、『どうした?』とは言われたくないな。いい加減昼間に起きる練習しろよ。……それとも、まだ昼間は現実逃避してますってか?」

 俺より少々背が高い、中々威圧感のある男から、これまたちょっと威圧感のある声が響く。どちらかというと華奢なイメージの俺と違い、ガタイの良さは父親譲りなのかもな。

『宇治原 晴樹』さんは、苗字の通りオッサンの息子さんだ。

 しかし、現実逃避だの昼間に起きろだの……出会い頭にかける言葉か?

「いや、逃避じゃなくて普通に寝てるんですって。んなヒキコモリみたいな事しないっすよ。眠いだけです」


「……そうかよ。んで、いつ()る気になってくれるんだ?」

 冷めた声でずいぶんと物騒なことを言い出す晴樹さん。

 一瞬で空気が凍った気がした。 

 少し離れたところではオッサン達がまだ盛り上がってる声が響くだけに……あまり現実味が沸かない。

 毎度の事ながら、いい気分はしない。 



 いつだったか――――俺が、中学生らしき『ガキ』を助けたところを見られて以来、恒例のイベントである。

『一遍マジで戦おうぜ?』とか『いいかげん()らないか?』とか、二人っきりで顔を合わせると……だいたい狂った要求をしてくる。

 もちろん俺は、ケンカに明け暮れる気なんぞないから、是非とも他所でやってもらいたいが。

 で、こんな晴樹さんだが、しかし、『晴樹とは……ただの……幼馴染だ』という『美菜さん』によると――――

『昼間のアイツは果てしなくバカだ。お前が知っている姿からは、おそらく想像もつかんだろうが』

『私にも気付かれていないと思っているようで、二人っきりの時も相変わらずバカな態度を取り続けているが……夜はずいぶん暴れているという情報もあってな……あいつには内緒で探ってみているところだ』

『何が理由で暴れているのか、目的も何も分かっていない。……昼と夜と、どっちが本物の晴樹なのかも……』

『……とりあえず、この件は晴樹には秘密にしておいてくれよ?』

 ――――らしい。

 正直美菜さんの言うとおり想像もつかないが、昼間は『バカなんて言葉じゃ表現が足りてない』キャラだそうだ。

 そうすると、何か? 

 やっぱ晴樹さんって……一種の多重人格みたいなもんなのか?

 あの暴力賛成キャラが昼はバカ……あまりにも対照的すぎて、不気味だ。



「? キョウ、何コッチ見てんだ? ……もしかして『やる気』になったのか? なら外行こうぜ」

 何やらガンでも飛ばしていると思われたらしい。戦闘要求をいただきました。いらないが。

「やりませんって。そういうのを求めてるんなら、他所の誰かとやればいいでしょう? 『夜の斉川』なら、そのテの人間なんか『よりどりみどり』じゃないっすか」

 そうだ。暴れたいんなら、そこらのヤンキーとでも戦っててくれ。俺じゃなくていいだろう。

「いい加減飽きちまったんだよ。だから今度は『違うヤツ』とバトってみたいわけ。分かる?」

「だから意味分かりませんって。……ほら、明日も学校っすよね? よい子は寝る時間ですよ?」

 話題を逸らしたい一心で、時計を指差し言ってみる。既に二時を回っている。

「チッ……ま、『普通のよい子』は寝るか……。じゃあな」

「おやすみなさい、晴樹さん」


 

「…………ふぅ」

 ――――ようやく重たい空気が取れた。

 つか、何であんなに俺に執着するかね?

 『あの時』は――――それなりに動いたとはいえ、別に格闘のプロって訳でもないのに……謎だ。



 ◇



 その後は平穏無事(※ただしシモネタ率高し)にバイトを終えた。

 帰宅してきた俺は、着替え入れのカバンから寝間着を取り出して着替えつつ、少し考え中だ。


 

 晴樹さん、やっぱり何か『ヤバい事』にでも関わっているんだろうか?

 美菜さんの話じゃ、学校ではそんな様子もないって言うから……一体何がしたいんだ?

 

 そういえば……『学校』ねぇ……。

 ――――――――ふと、頭に文が浮かんだ。今日の『日記』だ。


『今日は部活に行ってきた。相変わらず<<SNOW>>に蹴られる毎日。誰か、この子を何とかしてください(笑)』『あまりにもネタがないので、今日は俺の部活のメンバーを紹介します(今更すぎた?)』

『メンバーは全部で四人。まず、僕に加えて……蹴るだけが取り得のちんまい娘が一名。名誉のために誰とは言いませんが。』

 違う、そこじゃなくて――――

『そして先輩二人は、和服が似合いそうな黒髪美人(絶滅危惧種?)のM先輩と、果てしなくバカな(もうバカという言葉では表現しきれない)H先輩――――中々個性的なメンツです。強いて言うなら問題は……人数がこれで全部って事だろうか。早く新入生来てほしい!』

 ――――そうだ、この二人。

 そして、この文の『書き手』だ。

 会ったことこそないが、以前『斉川に住んでますよ』とか言ってたはずだから……。



 ――――やや早計ではあるが、恐らく外れてはいないはず。

 『部活の先輩』

 これは多分『美菜さんと晴樹さん』の事だ。

 

 つまり二人は、俺の『友人』――――<<HIBIKI>>と同じ高校……ってことなのか。


 何か分かるかもしれないな……連絡、とってみるか?

 と思ったが、まだ様子を見ておくことにする。そんなリスクを冒す必要はないだろう。

 不用意に関わらせると……場合によっては、シャレにならないだろうからな……。




 なら今日のところは――――――――そろそろ寝るか。


 美菜さんが『探っている』って言ってたしな。

 今のところ、晴樹さんが学校で暴れているなんて話があるわけでもないし、俺のほうから積極的に探りにいくのは……行き詰ってからでもいいだろう。


 とりあえず、変なことになるなよ――――と、顔も知らない『友人』を案じつつ、俺の意識は落ちていった。

 というわけで、ようやく話も動くかも?

 いやー。ようやく出せた。リアルと話と、両方の意味で時間かかってしまった。

 晴樹先輩……ベタかなぁ……?

 と、ネガネガは良くないですね。

 

 今日はこの辺で。


 次回は……いい加減誰も覚えていない『あの人』出そうと思います。


 それでは、ご意見ご感想、ご指摘あれば、よろしくお願いします!


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