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6. 新入生、歓迎します。

緊急放送で呼び出された俺たちが行う今日の部活動は……


ずばり『新入生歓迎会の計画』だ。


……残念な気配しかしねえ……。





 四月も終わりに差し掛かリ――――

 新入生も、ようやく勝手が分かってきたのかずいぶんと調子に乗り出してきた。

 

 今日も今日とて、だらけた放課後の空気がそうさせるのだろう。毎日変わらない状態だらけだ。

 話し声に笑い声、運動部の掛け声に、廊下の壁際に座って駄弁る生徒……などなど。

 止まない騒音と代わり映えの無い光景に鼓膜と網膜の組織を浪費させつつ……軽くジョギングしながら三年の教室を通り過ぎていき部室へと向かう。

 そもそもの原因は、授業終了後にいきなり入った放送だ。


 『重大な議題がある。各人、放課後は、(はや)きこと赤兎馬の如く……至急部室まで来るように。来なかった者はルフトハンザの国際便でアウシュビッツ送り確定だ。覚悟しておけ』


 ――――だそうだ。

 全く所属も名前も言っていないのに、誰が言ったか一発で分かってしまう放送を聞いた。なんて事は……間違いなく『帰宅部』に入ってから体験した。自信を持って言い切れる。

 つか、放送ジャックして『部活に来い』って、相変わらず全力で無駄な人生送ってる人だな。

 俺もそういう背徳感(?)は好きだが。



 ◇◇



「よし、皆のものきちんと集まったな。幸運にも国際便の予約は要らないようだ。では、これより緊急会議を行う」

 部室内に、一見ヤサ男――――なのだが無駄な威圧感がある――――『部長』宇治原 晴樹の声が響く。

「今日の議題は……ズバリ『新入生歓迎会』をどうするかだ!! 皆が知っているように本日より『入部届』の受付が開始される」

 あ、そういえば今日から受付か。

 でもまあ『ウチ』には関係ないだろ。おそらく全部活中ブッチギリトップの、残念な活動内容だしな。

「それにあたり新入生をどう手厚く迎えてやるのか――――貴様等下賎な一般庶民らしい、賎民思想にまみれた忌憚なき浅知恵を上納しろ。以上だ、何か質問はあるか?」

 ……なるほど、『歓迎会をどうするか』ね。

 言葉選びから話の中核まで、バラエティ豊かにツッコミどころを用意してあるな。

 どこかしらでも拾ってもらう展開を期待しているのだろう。……せっかくなので乗りましょうかね。

「「すまない(すいません)晴樹((はる)先輩)、ひとつ質問してもいいか(ですか)?」」

 だが質問しようとした俺に、ダブった声が一つ。どうやら『副部長』が何か言いたいようだ。

「おいおいなんだね君たち。俺は聖徳太子じゃないぞ? そうだな……よし、宇佐美 美菜。その(ほう)から述べるがよい」

 言ってのける晴先輩は、今日は尊大なキャラで通すのだろうか?

 対して、美菜先輩のハッキリとした声が通る。

「お前は……お前は、どうしてそんなに馬鹿なんだ?」

 凛とした表情と声で――――質問といいつつ、当然のように文句を言ってのけた。それも実に辛辣な。

 ついでに言うなら、今の美菜先輩の全身からは――――彼女の漆黒の髪よりさらに真っ黒いオーラ(的なもの)が見える。

「はい、美菜君の意見は却下。次、御鏡官房長官、発言したまえ」

 しかも平然と流しやがった。つか、今の美菜先輩の発言は意見……なのか?

 さすが幼馴染(と聞いた)だな。あの威圧感にも、完全に耐性が付いているようだ。

 一方、強烈なカウンターをしたつもりがあっさり避けられて――――

『……っ!』と、声こそ出さないものの、ギロっと睨みをきかせて明確な抗議の意思を示す美菜先輩。

 既に『帰宅部』に入って半年。俺も知り合ってそこそこ長いから、美菜先輩の考えていることはある程度なら分かる。

 たぶん俺と雪乃――――後輩の手前『すぐにギャアギャアわめいてしまっては情けない』とでも思っているんだろう。どこかの瞬間湯沸かし器とは違って……大人だ。

 などと考えていると、今まで沈黙を貫いていた雪乃が突然こちらに視線を寄越してきた。

「……何よ?」

「イエイエ、ナンデモアリマセンヨ?」

「……あっそ」

 ……危なかった。勘の鋭いヤツめ……他の事に活かせよな。

 って、そんなことより晴先輩に意見言わなくちゃな。

「晴先輩、歓迎会もいいですけど、その前に……そもそも部員来るんすか?」

「シャラップ!! いいか貴様。未来なぞ誰にも分からん! 俺にも、お前にも、そしてまだ見ぬ誰かにも!! 来る前から来ないことを考えるなっ!! 恐れる必要などどこにもないっ!!」

 それでもまだ言い足りないのか、さらに部長は言葉を足す。

「全く……取らぬ狸の――というだろう? そんなことすら知らんとは、貴様は小学生か!」

 結局、津波のごとく暴力的な勢いと質量で押し寄せた言の葉。

 だが、その本質は多分――――ただ『突っ込んで下さい』と、語っているだけだろう。そんな気がする。

「いや先輩、その諺は逆のニュアンスですっ! 言った傍から自分で全否定ですか!?」

 というわけで、手近なところから突っ込んであげる。ノリって大事だもんね。

「いちいち口答えするんじゃありませんっ!!! まったく嘆かわしい……」

(えぇぇ、せっかく突っ込んであげたのに結局怒られたんですけど。……おい雪乃、何とかしてくれよ。俺じゃムリ。ノリは好きだが手に負えん)

(アタシにできるわけ無いでしょっ! アンタねえ……っ!!)

 そろそろ会話の仲間に入れてあげるべく、呆然としている雪乃にアイコンタクト。

 視線のニュアンスから、大まかな意味は分かるので、しっかり『意訳』してやれば、何気に普通の会話に近いコミュニケーションも可能だ。便利だろ?

(いや、マジで頼む。美菜先輩に、俺――――ときて全然ダメなんだ。とりあえず行くだけ頼むって!)

(……分かったわよ。ったく、しょうがないわね――――)

 と、俺は雪乃の援護射撃を発動させにかかる。

「おい、そこのイチャついてる雪ジルシ!! キサマは何か無いのか!?」

「い、イチャついてませんっ!!!!(ガッ――――)変なこと言わないで下さいっ!!」

 しかしうまくきまらなかった。


 雪乃は『イチャつく』だの『恋人』だの、甘酸っぱいニュアンスの単語を並べると、なぜか過剰に反応するのである。

 その反応の大きさといったら……風呂に水ためてナトリウムの塊でも放り込んでみるといいかもしれない。それが雪乃(コイツ)だから。


「――――んがっ!?」

 しかし、毎度の過剰反応までは分かっているのだが、何で先輩が言っても俺が殴られるんだ? 

 あとワンクッションでいいから、思考に段階を用意してほしい。

 そうすれば、少なくともこんな悲惨な結末にはならないはずだから。

「冗談だよ雪乃クン」

「え……? べ、べ、別にそれくらい……わ、分かってましたよ!? 分かってましたからっ!!」

 はいはい俺も分かってますよ。アナタが分かってなかったことくらい。

 語るに落ちたな。ったく……勢いだけで殴りやがって。

「いやー。悪いね。君たちのコントが面白くてついつい……」

 この人には、その『面白さ』で殺されそうな被害者の気持ちなど永遠に分からないだろう。

「『つい』じゃありませんっ! ……そういうの、やめてもらえませんか?」

 若干燻っているが、火がついた雪乃も少しは落ち着いたらしい。煙のようにゆらゆらと立ち昇っていたツインテールも、怒気の下がり具合同様に、だんだん下りてきた。 

 

 長年のカンで判断できる。もうちょっと待てば、この大火事も鎮火に向かうだろう。その後で再度俺は話を戻そうと思う。

 なぜ、今すぐ話を切り出さないかといえば……火消しって知ってるだろ?

 要するに――――燃えるものが無くなってしまえば、自然と火は消える。

 ビバ自由放任主義。単純かつ画期的な消火法だ。 


 しばらくして、本格的に落ち着いてきた辺りで先輩が一言。

「――――――――で、雪乃クン。結納はいつなんだい?」

「ゆ、ゆゆゆ結納っ!?(バキッ)」

「ちょ――――――――ぐふッ!?」 

 あれぇ……画期的な消火法……だったんだけどなぁ……。 

 そう、単純なことを忘れてたよ――――

 ――――火の隣が油田でした。

 頼む、助けてくれっ! このまま火消し理論で鎮火を待つだけじゃ、永遠に俺の危機が終わらないっ……!

「せ、先輩っ! お願いだから火に油注がないで下さいっ! そういう方向性のイタズラだけは止めてくださいっ!」

「フフフ、面白いことを言うなぁ? ミラーボーイ。こんな面白いこと、そうそう俺が放り出すわけ無いだろ? この一連の『お約束』の流れ――――名づけて『全自動死亡フラグ立て機』実に面白い」

 そうですねHAHAHA……全く面白くねえっ!! と、心の中でノリツッコミ。

 ふざけんなっ、このままいくとマジで油田から永遠に燃料が供給されやがる。

 火消しがムリなら現代的な手法で消火だっ……!

 すなわち――――頼むぞっ! 火消し改め消防隊っ!!


「おい、晴樹」

 この騒ぎの真っ最中でもよく通るキリっとした声。その余韻だけで凄さが分かる。

 祈りが通じたみたいだ。神様仏様、そしてありがとう稲尾様。

「い い 加 減 に シ ロ」

「ぐっ…………分かったよ、悪かった」

 さすが我が部の『110番プラス119番』だ。一瞬で静まった。

 ちなみに、もしこの段階で素直に言うことを聞かなければ美菜先輩が直々に、竹刀による『物理的消火』が行われるため晴先輩も抵抗できない。

 一瞬でカタがついた。実に優秀なクローザーですね。

 ……それにしても聞きわけが良すぎるあたり、本人も実はそろそろやめようと思ってたのかもしれない。

「で、晴樹センパイは、結局どうしたいんですか?」

「うむ、横道にそれたが本題に戻そう。要するに、ただ新入生歓迎会が開きたいんだ」

「そうですか……って、いやだからまだ新入部員来てないんですって。迎えてないのに歓迎会開こうって言うんですか?」

「む……」

「てか、仮に部員を迎えたとして、初日から真っ先にこんなところ来るやつは……色々と、ダメすぎるでしょう」

 初日にやる気見せてこんなところまで来るくらいなら、真っ先に帰宅してろって話だろ。

 つか、そんなにやる気があるんなら帰れ。ここは『帰宅部』だ。

「うぐっ……イタイところを突くな君は……仕方ない。歓迎会はヤメだ。……して諸君、それなら今日は何をする?」

「うーん……」

「んー……」

「うぅむ……」

 部長の一声に三者三様考え始める。

 持ち込んだゲームは飽きたし、囲碁も将棋も美菜さんが強すぎるし、スポーツって気分じゃないし……ホントやることないんだな、俺らの部。 


「――――あっ、そうだ」

 思考レースの第一位は雪乃さんでした。ぴこーんと電球が光った……ような気がする。ついでに頭についてる二本のアンテナもぴこーんと反応している。実に不思議な現象だ。

 そして、彼女は一言告げた。

 

「もう結構いい時間なので…………帰りませんか?」

 そんなマイナス精神あふれる提案に、皆様の意見は――――



「「「……そうだな」」」

 そうだ。だって『帰宅部』だもんな。帰ってナンボの部活だもんな。



 『帰宅部』は今日も平和です。



 

 ◇




 そして、いつも通り帰宅して就寝。


 そしてこれまたいつもの通り、着替え入れ用のカバンからパジャマを引っ張り出して――――


 そしてウザちゃん抱いて――――


 今夜も……おやすみ。




 ◇◇




 時計を見ると……結構遅い時間。もうそろそろ寝ようかな?


 というわけで、今日も私は『日課』を行うことにしました。

 


『四月★日 晴れ』

『今日は、とうとう入部届の受付が始まりました。』

『もちろん持って行くところは決まっていたけど……緊張していた私は、紙を片手に長いこと迷ってた。』

『ようやく決心がついて、提出しに行ったら……なんと、今度は部室が閉まってました……。』

『また、再度アタックしようと思います。なんてったって女は度胸……ってホントなのかな?』



 うん、また頑張ろう。むしろ頑張れ私。



 ほんの少し気合を入れて……おやすみなさい。

はい、先に謝っておきます。すみません。


普通に会話させてたら終わっちゃいました。てへっ。


場合によっては飛ばしてもいいのかもしれない……けど、せっかくなので書いてみた次第。



というわけで、ご意見ご感想、ご指摘お待ちしてますっ!


次回は……またキョウの登場かなあ……。

更新予定は……書ける時間がどれだけ取れるかによりけり……。



それでは、今回はこの辺りで。

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