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5. 『ネット友達』の一日。

ネット友達『キョウ』の一日。


『記憶』を探すも、早々に諦めネカフェとバイトでヒマ潰し。


でもそんな『お友達』は意外と近いところで繋がっていたようです。






 昼間はちょっと……大きい以外は、あまりにも普通すぎる住宅街。その奥にちょっと……進学校という以外、これまた普通の私立高校。

 そして住宅街の反対には――――少なくとも住宅街には不釣合いな位には――――それなりに大きな駅。

 それが普段の都内西部のこれまた……ちょっとした大都市――――『斉川市』の姿。


 しかし、今は深夜。静まり返った住宅街と、私立『斉川高校』。

 駅周辺は今もなお、変わらず盛り上がっている。

 そんな、夜通し眠らない『斉川』

 眠りこけた住宅街の反対側、灯りによって連日徹夜を強いられる駅前の景色。

 そんな、光にまみれた繁華街――――もう一つの『太陽』に入っていく男が一人。


 その名前は――――――――『キョウ』



 ◇◇


 

『店長の部屋』で目覚めた俺は、電車が止まっているのに『眠らない駅』――――夜の『斉川駅』へと向かう。

 起き抜けに『うざっ』と、毎度のごとく何かフザけた幻聴も聞こえたが…………寝起きだったためか、よく寝起きと同時に訪れる頭痛のせいなのか、よく覚えていない。

 誰がウザいんだ、コラ。何寝起きの人間にケンカ腰なんだ。あ?

 もし夢じゃなかったら言ったやつは――――探し出して……ミンチ確定だな。


 さ、いつもの通り『記憶を探し』ますかね。

 

 あれは、何年前だったか、それとも一年たってないのか、ある日気がついたら見知らぬ家で目覚めた俺は……夜の『斉川』をウロついていた。

 ベタな話だが、記憶喪失だった。自分が誰か分からなかった。

 どこにあったかも覚えていない家を飛び出した俺は、深夜でも明るい『駅』へ歩いていったわけだ。

 家がどこだったか忘れた。マジで何も分かってなかったから、だいぶ錯乱してたしな。

 辛うじて分かったのは――――唯一ポケットに入っていた中学生の学生証によると、どうやら俺は『キョウ』という名前らしいということだった。



 まあ、そんな過去はどうでもいいな。

 今日も俺は『自分の記憶探し』のために、夜の『斉川駅』へと来た。 

 何年続けても収穫がないが、少しは楽しんでいる。

 そんな俺の行動パターンはこうだ。


 日付が変わる頃に『部屋』で起床。

 そこからネットカフェで『自分探し(ひまつぶし)』やら娯楽やら。

 その後に三時間『バイト』して――――

 ――――最後に、そのまま『店長』が貸してくれる部屋で就寝(誰かと共用らしいが、当然相方を見たことはない。寝てるしな)

 ――――――って、流れだ。



 ◇



 日課の一つ『自分探し』――――ネットカフェで――――結論から言うが、何も分からなかった。

 唯一のヒントだった学生証は――――『キョウ』の名前以外は擦り切れて見えず、ヒントにすらならないと思い――――初日に捨てた。

 記憶が無くてムシャクシャしてやった。後悔は若干だがしている。あのときの俺……もし会えたら絶っ対(ぜって)ーミンチだ。会えないがな。

 とにかく、情報なぞ得られる要素がない今は、『自分探し』――――と称してネットカフェで時間を潰しているだけだ。

 

 さて、恥ずかしい自己紹介だが、俺には友達がいない。記憶喪失のご身分じゃ何もイラネーけどな。 

 一応会った事のない『友達』ならいる。ソイツに今から『会う』わけだ。

 ちなみに、『友達』になった理由は、俺が見た『夢』とよく似た日記をつけてやがったアイツに親近感が沸いたからだった。

 世の中には自分に似た人間が3人いるとか言うが、少なくとも『夢』でなら似てるってやつを1人発見した。


 ――――――『ブロング』へアクセス。アドレス、パスと入れて、起動だ。

 どれどれ……っと! 更新していやがる。最近更新無かったが、どうやら一応生きていたらしいな。

 唯一のフレンド登録ユーザー<<HIBIKI>>の日記へ。



『友人の催促につき更新(笑)』

 (笑)じゃねーよ……。時間の都合で会えないが、もし会ったらミンチにすんぞ、コラ。

『全く……今日は散々だった。ストーカー女に追い回されるわ、幼馴染に蹴られるわ……SNOWさん聞いてます?  アナタの蹴りが一人の善人の脳細胞をマグニチュード99.9で揺すったんですよ?』

 <<SNOW>>……ああ、なんかアイツのリスト入ってたな。つか、フレンド二人とは<<HIBIKI>>も中々寂しいやつだな。俺が言えた義理じゃねーけど、一人は昼夜逆転でもう一人は暴力女……不幸なヤツだ、見ている分には面白いが。

『そして、その後、また蹴られた俺は――――花壇に刺さってました。』

 クク――――――コイツマジで面白え。ここがネカフェじゃなけりゃ盛大に笑ってるところだ。

 普通の人間が花壇に刺さるか? マジでコイツを一回見てみたいもんだな。つか、今度ムリヤリ徹夜させて俺の目の前で花壇に刺さってもらいてえ……。貴重な人材(バカ)だぜ……!

『そして、その後は部活に出て――――また蹴られて気絶しました。めでたしめでたし。では今日はここらで。……あと<<SNOW>>はもう俺を蹴るんじゃないぞ。俺はそういうマゾヒスティックな趣味はないからな。』

 ク……ククッ……! ――――――腹イテぇわ……! まさかの暴力で天丼――――同じネタを重ねてやがった――――ドM通り越して新たな何かに変わるんじゃねえのか、コイツは。

 <<ドS(SNOW)>>と|<<ドM(HIBIKI)>>でしっかり需要と供給がかみ合って、毎度毎度お楽しみってわけだ。ずいぶん前衛的な地産地消だなおい。

 

 しかし、相変わらずバカ全開な『友人』の無事も分かって一安心。時間は――午前一時。

 ――――さ、『バイト』へ向かいますか。



 ◇



 『斉川駅』の繁華街をさっきのネカフェから住宅側に少々歩いて五分ほどかかる距離。

 そこにある、名前から分かるこじんまりとしたラーメンとお酒の店――――『麺BAR』の店内へ。

 毎度思うことだが、もう少しヒネった名前にしろよ……オッサン。


「おはようございまっす」

「おお、キョウじゃねえか。おはよう。で、キョウ君。いやキョウちゃん、今日(キョウ)は一体どうしたのかな~?」

「(……チッ)バイトっすよ。知ってるじゃないっすか。……でも、ま、いつも世話んなってますからね。あと――――今日もサムいっす。」

 この第一声がとても残念なオッサン―――― 宇治原 栄一郎(えいいちろう) が、軽妙(文字通り軽く妙)かつサムい挨拶をかましてきやがった。恩が無ければ、まず間違いなくミンチ――だ。

 しかし、どっかで見たことあるよなオッサンだよな……宴会の席とかか? こういうサムいの連発するオッサンいるよな。しかもシモネタ大好きな。 

「む? そうか? 四月なのに寒いのか? ……特に空調は問題ないようだが?」 

「ギャグがサムいっす」

「そうか。それなら……私が温めてあげるわっ!!」

 ギリッ――――

「いっ――――ギブギブギブ。絞まってんぞ!」

 オッサンの裏声で『温めてあげるっ』ってキモッ――――と思ったらヘッドロック。笑いを『()り』にきやがった。そうまでして笑わせたいのか、このクソジジイっ!

 メチャ絞まってるし、二重の意味で笑えねえっての。ハンパな抵抗ではビクともしねえ。何モンだよこのオッサンは。

 まあ本気でやれば、ある程度はいけそうだが……少なくともこのオッサンは俺より遥かに(つえ)ぇ事は分かる。

 俺のほうも、記憶を失う前に鍛えていたのか荒れてたのか……それなりには強いと思う。五人までなら何とかなる……たぶんな。

 つっても、本格的なケンカなんぞ一度ガキ襲ってやがった不良共にかまして以来、久しくしてないし。

 ――――って俺は今絞まってるんだよっ!

「ええい、俺はそっちのケは()えっ。いい加減離せ――――」


 カラン――――――――――――

 ほらみろ、救いのロープ(客だが)が来たぞ。ブレイクだ。さっさと離せっ!


「いらっしゃいま……おお、美菜(みな)ちゃんか。すまねぇなあ、ウチの晴樹(バカ)が呼んだみたいで」  オヤジのその声の先には、後ろで一つに纏めた漆黒の長髪、それに合わせて作られたかのような黒い瞳。華奢に見えながらも、しっかりとした体の線と、女性にしては高い身長……あとは、長い竹刀……を持つ。全部嘘じゃないぜ。当然竹刀もだ。

「いえ、|家≪うち≫は最近親が受験受験と五月蝿いもので……あまり『帰宅部』に行ってませんでしたから……このくらいは」

 そう、美菜さんは、|栄一郎≪オッサン≫の息子の晴樹さんと同じく住宅街の方にある高校に通いながら――――『帰宅部』とかいうところに所属してるという。そういや<<HIBIKI>>もそんなこと言ってたような。

 ま、今はいいか。

 ――――この、美菜さん……宇佐美(うさみ) 美菜(みな)。見た感じ晴樹さんの親友(?)らしい。ちなみに間違って――

「間違って『晴樹さんの恋人』なんていった日には――――」

「貴様ッ!! 晴樹とは違うと言っているだろうっ!!!」

「ぃでっ……!」 

 心の声が漏れた俺に、バシッ――――と、ツッコミが入る。当然竹刀で。いい|虐待≪スイング≫してる――――つまり、ぶっちゃけそれくらい強い人ってことだ。

 てか、この人は『和風』なイメージのものなら大体達人級だ。書道茶道に華道に……剣道、柔道合気道などなど…………とにかく『和風』なら何でもできるらしい。

 特に格闘能力は、全力の俺と同じかそれよりも少し――――と、そんな話じゃねーな。

「ッ――――美菜さん。勘弁してくださいよ……『小手』だいぶ痛いです」

「ふん。今のは、お前が悪いんだ。私と晴樹は別に……その……まだ……恋……な……」

 いつもなら、凛とした印象の美菜さんだが、ずいぶんアガっているようだ。後半は何も聞こえなかった。

「? 何なんすか?」

「う……う、うるさいっ! と、とにかくあの晴樹(バカ)とは何も無い! いいな!?」

 うおっ!? 片手に竹刀付きの和風トマト様に凄まれた。ケンカは良くないと思うぜ? 俺に当たっても何も生まねえっての。

「おい、美菜ちゃん。もうその辺にしないと明日キツいんじゃないか?」

 ジジイが俺に助け舟を出した。いや、単純に美菜さんが心配なだけか。

「あ、言われてみれば――――そ、そうですね。それでは、お邪魔しました。おやすみなさい……キョウもな。」

「「おやすみ(なさい)、美菜ちゃん(さん)」」

 そう言ってこれまた綺麗なお辞儀をして店を出る完璧大和撫子(※仕様が異なる場合がございます)美菜さん。

 送るでもなく見送る俺とオッサン。


 店内スタッフ(一名)がアホすぎて忘れられがちだが、夜の『斉川』は、それなりに危険だ。

 ヤンキー崩れから、本物(マジモン)の人まで、よりどりみどり。女の子が襲われるなんて話もたまには耳にするし――――原産地からからコッソリ直輸入した『小麦粉』も出回ってるって話もあるらしい。

 夜の『斉川』はそんな――『裏の顔』を持つ町だから……


 だから初めのうちは、こんな深夜に一人で女の子を……と心配もしていたわけだが――――

『すいません。今、帰っていたらこの男が襲い掛かってきたので少し……迎撃を。気絶してますので、意識が戻るまでは適当に介抱してやってもらえませんか? その後は適当に捨てておいてもらって構いませんので。』

 ――――『男とはいえ、こんな時間に気絶したまま寝ているとさすがに危ないので……』などと言う美菜さん

 

 俺やオッサンと……美菜さんで、こんなやり取りが二回、三回……五……と増えていくたびに、俺たちの懸念――『夜道で女の子の一人歩きは危ない』――――が消えていった。


 カランとドアを開けた鈴の音が聞こえた――――――――――

「失礼しま……ああ、キョウか、すまない。今帰っていたら、いきなりこの男が――――」

 ――――ほら、な? 心配ない。


 ◇


 それからは平穏無事に(下らない行動とギャグを除き)勤務終了間際の午前四時前。


 長いようで短いような三時間が終了する。今日も客はいつも通り――――まあ、チラチラ来る。しかしこの時間は、明日(って今日か)日付が変わる前の、夜の飲み会ラッシュに向けた仕込みの手伝いが中心だった。

「――――それじゃ、そろそろ上がって良いぞ。キョウ。気をつけて帰れよ」

「はい、それじゃ、お疲れっした!」

 挨拶を済ませて、帰るか――っと、そうだ。

「そういえば、何で美菜さん来てたんすか?」

 最近見かけなかったので聞いてみる。毎日来ているわけではないが、週に一回くらいは着ていたしな。 

「ああ、なんか大学進学がどうたら……らしいな。晴樹はまだ気にしてないみたいだが」

 大学か。……通ってみたい気がする。

 って、そういや俺って――――――――今何歳なんだろうな? マジで何も分かんねぇ……。

 誰か『相談相手』とか居ねえのかよ。

 オッサンにはこれ以上負担はかけたくない。晴樹さんは三年、邪魔はしたくない。美菜さんも同じく。

 あとは――――誰かホントの『友達』できねえもんかな……。


 ◇


 記憶も何も無い俺に、『バイト先』と一緒にオッサンが提供してくれたものは『寝床+給料』という、記憶喪失で何も分からない俺にとっては破格の待遇だった。

 情報が『キョウ』だけじゃ部屋も貸してくれないしな。

 この部屋は、オッサンからはルームメイトと共同だって聞いたんだが……まだ会ってない。昼は寝てるし……帰ってきても、起こすのは悪いと思って、灯りも点けずにすぐ寝ちまうしな。

 意外と孤独な俺の『友達』候補の一人として考えてる。

 全く知らない人とのルームシェアリングみたいな契約なのか、オッサンも『どんなやつかは、よく分からん』とか言ってたしな。下手すると夜逃げでもして帰ってきてないのかもしれん。巻き込まれないことを祈る。


 ――――いい加減眠たい俺は、『家』があることに感謝しつつ、軽くシャワーだけ浴びて今日も就寝。現在朝の四時半。


 そういや、『あの日』――――記憶喪失した日にオッサンに会わなければ……どうなってたんだろうな。

 ちなみに、オッサン――――表面こそ、あんなオッサンだが――――

 実は俺に対して要求した事は『店で三時間程バイト(適当で良いとすら言われた)』だけだ。

 あとは『記憶が戻ったらバイト辞める前に必ず教えろ。挨拶くらいはしていけよ』だそうだ。

 

 ――――――正直、ここまでして貰うと、ありがたいと同時に申し訳ないと思う。

 

 だから『部屋』に私物は全く置かない事にした。散らかしたら悪い。相手とモメたら、オッサンに迷惑かかるだろうしな。

 着替えもデカいカバンに入れて持ち歩くし、洗濯はコインランドリーだ。

 オッサンには何も言ってないため、この『超遠慮生活』はバレてないが、一度だけ部屋を見せろと押しかけてきた晴樹さんにはバッチリ見られて――――

 ――――俺の『孤独で質素な生活スタイル』が気に入らなかったらしく……

『半分は自分の部屋なんだから、顔も知らないルームメイトに遠慮なんかしないで使っちまえって。どうせ朝帰りどころか朝にすら帰ってこないクソビッチだかエロザルだかに決まってんだからさぁ』

 などと言われたりしたが、結局変えてない。


 もし記憶が戻ったら、その時は本当の家に帰る――――いつかはこの部屋を出るわけだしな。

 いつ『記憶』が戻るか分からないから、後は濁さないようにしてるわけだ。

 そんな生活を一年以上続けているわけだが……早く記憶戻れよ……俺の脳は……。


 


 さ、今日も眠いし……そろそろ寝るか。


 じゃあ、な。

うーん。

リアル(学校)のおかげで5話は時間かかっちゃったなぁ。

上手いこと書けないな……と思いつつ、何とか五話でございます。

読んでくれた方はありがとうございます!


さて今回は、ちょっとマジメ回になりました(なっ……た……?)

でも、書いたら結局思ったよりもシリシリアスアス(シモネタみたいだな)できなかった。

それでもムリに書いたらまあ……シリアス描写ができる作者さんスゲーな! と思った次第。


小説ビギナーの俺に隙は無かった(毎度の言い訳)


一話から少しは成長しているのだろうか…………ってこんな短時間じゃムリか。


ご意見ご感想ご要望、お待ちしてますっ。


次回は、またバカな主人公に戻ると思います。


待ってくれてる人が居たら、もうちょっと待っててください。

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