3. 『帰宅部』の日常
気絶した響を、見ていると、雪乃は――――
そして、部長も登場。『帰宅部』に変化の兆しが……。
◇◇
「……全く、コイツはホントに……っ」
気絶してる響を前に、一人ごちるアタシ。
最低よっ! 何考えてるの!?
人の……人の、その……『アレ』覗くわ、授業サボるわ、部室で待ってても全っっ然来ないわ……
つまんないじゃないっ!
痺れを切らして、探しにいこうとドアに向かったと思えば……。
『(ゴチンッ)――――っ~~~~~! ~~~~~っ!』
思い出したらまたムカついてきた……。もう一回コイツを花壇に埋めてやろうかしら?
でも、そろそろ起きるかもと思い反応をうかがってみる。
「ちょっと、起きなさいよ。もう一回埋めるわよ?」
「う……うぅん……。うぅん……。」
つんつんしてみたが、まだ起きる気配はないみたい。
それにしてもコイツ、普段がブッ飛んでるから気付かないけど、改めてよーく見てると、何だか……。
「ってそうじゃなくって……っ!」
ブンブン頭を振り回し、一瞬よぎった何ともいえない感情を吹き飛ばす――
「……ねえアンタ、起きないと……」
――――吹き、飛ばない。全く、飛んでいかない……『何か』が。
「早く、起きないと……アタシは……」
――――気付いたらアタシは……アイツに向かって――――
――――――――ガタンッ
「おはよう部員諸君! 先発の柱兼リリーフエース兼パーフェクトクローザー、ウジハラ――約束の犬――が登場だ!!! テメエら盛大に宴の準備をっ!!」
突然ドアのほうから大声。同時に、痩せ身だがそこそこ背の高い――アイツよりちょっと高いくらい―――の、男がひとり。
「ひ――――――――っ!?!?」
声にならない声が出た。
見られた……見られた!?
今アタシは一体何をしそうになったのかしら……?
「む? 雪乃一等兵か。どうやら今日は……お前さんだけですか? ホームルーム後アローンですか? 寂しいなおい!! 青春しろよ! 萌え上がれよ! 溶けるぞ、雪!」
「部長、もう一人ここに転がってます。それと何なんですか一等兵って。しかも溶けません雪じゃありません雪乃です寂しくなんてありませんっ!!」
――――とても、とっっても焦った――――が、それも一瞬で冷めた。
『部長』の登場で、一気に冷めた。トンネルを抜けたら南極だったような気分ね。
それにしても、何でこの人はいっつもこんなにテンション高いの?
宇治原 晴樹 ……『帰宅部』創立者にして、名誉会長(自称)、宴会部長(自称)、パーフェクトエンターテイナー(自称)
要するに、響を遥かに凌ぐ――――――――バカ。
「おやおや、ヒビの字はまたまた気絶中か。しかし、スノーマン。ヒマだからとはいえ秋の夕日に黄昏るのは止めたまえ。そんなに生き急ぐと溶けちゃうぞ? 雪は大人しく冷凍庫に入ってなさい。もちろん業務用のデカいやつに。呼んであげるから、冬になったら出ておいで」
ほらね。やっぱりバカ
「溶けないって言ってるじゃないですかっ!!!」
――――――――何回ツッコンでも終わらない。もうイヤ。
もう一人の先輩『副部長』いわく……
『昔は相当荒れていたからな。今の晴樹はエネルギーを向けるベクトルが変わっただけだいぶマシだ』
だそうだけど。
今のこれはこれで、荒れている人以上に存在してはいけないキャラではないかと思う。
「何を言う、貴様は溶ける。絶対にだ。だか紳士俺様は、溶けるところを見せると君が死んでしまうのは分かっているからな……あえてチビッ子のワガママに付き合ってやっているのだ。寛大な処置に感謝しろよ」
「あああぁぁ、もうっ!! コイツが起きちゃうじゃないですか!! 静かにしてくださいよ!!!!!」
「いや、うるさいのは貴様だスノボール三等兵。見ろ――」
そう言われて斜め下に目を向ける。
「……あれ? ここは……? あ、雪乃か。それに……晴先輩……」
あ、もう一匹の、響も目が覚めたみたい。あれだけ騒いだし、当然かな……。
「おはよう御鏡ボーイ。今日も響いてるかい?」
「おはよううございます春先輩。ええ、頭がガンガン響いてます。どこかのミニチュアバイオレンスに、意識失うレベルのハイキックを散々喰らいまくったん――――――でぇっ!?」
「誰 が ミニチュアバイオレンスよっ!!!」
気がついたらもう一回蹴っていた。でも今のはコイツのせいよね。
「マジレスするなら、スノー雪乃少尉のことじゃないかね?」
「スノーじゃありません! 蘇芳ですっっ!!!」
「そうですよ先輩、失礼じゃないですか、雪は――――もっと儚くて、優しげなイメージの物ですよ。こんな物理攻撃力MAXのジョブ『格闘家』みたいな野蛮なもんじゃないでs――――――がぁっ!?」
「誰が格闘家よっっっ!!!!」
ああ、イライラするっ!!
つい五分前の『何か』の感情はもう消えていた。
そう――――やっぱりコイツは……
最っっっ低よっ!!
◇◇
我輩は猫――――っぽいイメージの美少女――――のサンドバックにされている普通の高校生である。名前は御鏡 響。いつからこうなっていたのか皆目見当もつかないが、気がついてみれば何やらギャーギャーと鳴いていたことは覚えている――――蹴られてだけど。
結局俺を、しこたま蹴り蹴りしてくれた暴力――じゃなくて雪乃は、いつものごとく二本の尻尾をふるふるしながら一言――
『お茶買ってくるっっ!!』
とか、なぜか自分からパシります宣言して、自分から言った割には頬を膨らませながら食堂へ向かっていった。
ちなみに食堂は地下なので、地味に階段がめんどくさい。だから怒ってるのかもな。そうすると自分から言い出したのが謎だが――――若いうちの苦労は、買ってでもしろ――――ってとこか?
ただ買うのはお茶とジュースだけど。
「して、晴先輩」
「なんだねミラーマン。俺はスカートじゃないから、どう反射させても見えるものはないぞ?」
さすがだ、この打てば響く感じ。あの時希望届に『帰宅部』と書いたのは間違いじゃない。人として間違っている可能性は否定できないが。
それでも俺はダルがりと同時に、こう、貴重な青春を全力で下らない会話に費やすような姿勢も嫌いじゃない。
なぜか、一人で寝てる時にはは失った気分になる――――『平和』が実感できるしな――ってそんなことよりも……
「今日の『活動』どうします?」
「ふむ、俺としてはこのまま『二人ワンマントークショー』というのも吝かではないが……」
どうだ? と、先輩が目で寄越してくる。
「俺そういう発想大好きです」
どうやったら思いつくんだ? そのタイトル。
「うむ! やはり分かっているなミラーボール!! では早速トークショーといくか!!」
そしてブレザーの胸ポケットからペンを出してマイクに見立て――――開演。
「ハルキと!」
「ヒビキの!!」
「「二人ワンマントークショー!!!!」」
新しいなコレ。しらんけど。
ハル「えー、このラジオは二人でワンマンに進めていく、愛と平和と真実を貫く番組でございます」
ヒビキ「どなた様も『忘れていた青春』を取り戻す勢いで――ご清聴下さいませ」
ハル「よし、まずはオタヨリのコーナーだ! えー、まず一枚目――――って今考えたから届いてないわボケッ!」
ヒビキ「程よい企画倒れ! すばらしい!! これぞ貴重な青春の浪費!!」
ハル「さて、次のコーナーは――――――――」
「――――――なぁ」
と、ハル氏から声がかかる。
「はい――――俺も何となくわかりますよ」
「じゃあせーの、で言おう。せーのっ――」
せーのっ――
「「飽きたんで止めよう(ましょう)!!」」
一瞬で飽きた。文にしたら五行くらいで終わるかもな。知らんけどね。
にしても、うん、やっぱり息ピッタリ。俺たちマジで親友として生きていける気がする。
「にしても、何か変化がほしいよな」
「そうっすね……。何か欲しいですよねー」
「言ったくらいで来れば苦労しないけどな!」
「そうですよねハハハ……」
なんだか、変化が起きる『予感』自体は在るのだが……。
などと、ちょっぴり『お約束』を期待したが、まあ、そんな事があるはずない――
――――――ガチャッ
――――と、考えた矢先に、この空気を壊すように開いたドアと――人の影。
『帰宅部』を巻き込んだ、運命的な出会いが起こる。
そう、或いは、それは必然だったのかもしれない――――――――
そして、入ってきた『彼女』は一言、こう、告げた。
「お茶買って来たわよ」
「「――――ってお前かよ!!!!!」」
シンクロナイズドツッコミング。さすが先輩です。期待してたことも俺と一緒か。
その後、茶を飲んで適度にダベり、適度に蹴られた俺たちは、そのまま帰路についた。
ちなみにマジメっ子な『副部長』は、今日は用事があったのかお休み。『顧問――あるいは俺と雪乃の担任――』も顔を出さなかった。本日の部活は最後まで三人編成だったわけだ。
実に、無意味な一日だった。でも平和ってすばらしい。
『帰宅部』の『変化』は、まだ遠い。
どうも、「休日中にやっちまえ!」とイキオイで連投の昭成です。
結局、唐突キャラ名出しまくるのも気が引けたので、『部長』だけ出しました。
肌に合わない人が多そうな……。でも、もし楽しんでくれる人が居たら嬉しいキャラだったりします。自分はこういうノリ好きなほうなので。
次回は、次の日にするか、夜にするかで悩んでます。どうしよう……。
では、ネガネガするのも良くないと思うのでこの辺りで失礼します。
あ、もし感想とかあれば大歓迎です。お待ちしてます(キリッ