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10. 入部試験なう

 萩野の入部試験開始。


 ええ、もう残念な試験の気配がビンビンです。


「あの……えと……が、がんばりますっ」

 部長の『試験開始だ!』発言を聞いた萩野はおっかなびっくりながらも、意気込みが感じられる返事をした。

 だが、彼女は重要なことを忘れている。

 いくら入部希望者が多くて変な試験をやってるとはいえ、この部活は……

「よし。じゃ、ぬるっと適当に面接するぞ。雪乃クン書記ね。響クンは……面接官2号でいこう」

 ――――目的の所在すら分からない『帰宅部』なのだから。

 


 机と椅子を用意して、俺と先輩が座り、向かいには萩野。

 雪乃は別の手近な机の方へ行き、椅子も使わずにお行儀悪く座っている。

 先輩に任命された『書記』だが、当然先輩が勢いだけで言っているから書く事などない。

 さて、そんなグダグダ空気を切り裂く、栄えある試験官の第一声は……

「では、まず名前を述べたまえ。そして跪け、命乞いをしろ。小僧から石を取り戻せ!」

 この人のことだから、そんなことだろうと思ってた。もう何も言うまい。

「え……えっと、萩原 秋穂です……。えと、その、あの、命だけは……助けて下さい……」

 天然ってすごい。 今俺は奇跡の現場を目撃している気がする。

「む……、やるな萩野クンとやら。中々の逸材だ。10ポイント!」

 あまりに新鮮なリアクションに対して、部長的の中では何かのポイントが加算されたらしい。採点基準が革新的すぎて全く分からないが。

 とはいえ、確かに状況的には部長(バカ)が一本とられたような格好だ。

 どうせ『む……』とか言ってた時に考えてたことは『えっ? ツッコミないの?』だろう。

「え? ……ありがとう、ございます?」

 褒められてお礼を言う萩野。

 さすがに最後が疑問形になっているが……謎のポイント制にもツッコまない、このボケ殺しっぷりは……『部長殺し』の価値だけで入部させてもいい気がする。

「さて、ツカミは合格だ。では、次の質問に移ろう」

 小学生が設計した飛行機にジェット積んで飛んだらこんなことになるだろうか。

 つまり――――この入部試験は一体どこへ向かうのだろう?

 ……というか今更だが、明らかに遊びたいだけだな、部長。

 などと考えた時に、ふと自分の『試験』の時の記憶が蘇った。

  

(……なあ雪乃)

 隣の机に(文字通り)腰掛ける雪乃に確認することにした。実に便利なアイコンタクト。

(……何よ?)

(俺の時は確か……自己紹介で一発合格じゃなかったか?)

 そう、自己紹介と言われて、名前を言ったら顔を見られて……それだけで合格だった。

(あー。そう言われてみれば……ホントに基準が分からないわね……)

 俺ですらそうだったのだから、萩野なら当然『顔で合格』だと思っていた。

 それとも、俺の場合は『雪乃の知り合い』だったからか?

 となると、第一印象で決めるってわけでもないのだろうか……まあ、それよりも次の『試験』だな。



「では、次の試験だが――――まずはちょっと顔よく見せろ。さっきから俯き気味でよく見えん」

 何だろう、やっぱりこの部活は顔がいいと受かるんでしょうか? 

「え? ……あの……はい」

 そう言って、相変わらず脅えたような動きで、さっきまで伏せ気味だった顔を上げる萩原。

 よく見るとやっぱカワイイですね。ひっそりと図書室の隅で本でも読んでいたら結構絵になると思う。

「どれ、苦しゅうない、近うよれ……っ……お前っ……!」

 先輩のほうはなぜか『初対面の新入生の顔』を見て驚いている。

 ていうか、もはや『ガンくれてる』状態に近い。

 カワイイからガンつけたのか?

 相変わらず晴先輩の行動はイマイチ分からん。見てる分には面白いけど。

「…………あの、何か……?」

 不安度五割増しの萩野(当社比)。

 まあ、細身だが筋肉質で、俺より背も高いし……無意味な威圧感のある晴先輩だ。そんなのに睨みつけられたら気圧されるのも分かる。

 ていうか、ただでさえ相手は怖がり小動物なんだから、もう少し丁寧に扱ってあげて欲しと思う。

 睨み付けたようにタメたまま、晴先輩は一言。


「お前――――――――合格っ!!」


「……ほぇ?」


 さすがに予想外だったらしく、ずいぶんとマヌケな声が聞こえた。

「だ、か、ら、合格っ! 今日からでも明日からでも、気が向いたら来ていいぞ。入部届は……担任にでも出しておけばいいさ」

 過程をぶっ飛ばして、合格宣言を二度も繰り返す晴先輩。

「……何か良く分からないんだけど、おめでとう? 萩野さん」

 合格理由すら分からず、俺と一緒にフリーズしていた雪乃だが、祝福の体勢のようだ。

 雪乃に先を越されたが、俺も新入部員に声ぐらいかけてやらなくては。

「おめでとうストーカー……改め、萩野」

「……はい、皆さん……ありがとうございます!」

 シッポが付いてたら、多分千切れるほどの勢いで振りまくってるだろう。

 ここまでストレートに喜ぶほどのもんなのか?

「私……これから、がんばります!」

 さらに、所信表明も行っている。



 そんな、喜びとやる気でいっぱいの新入生に、俺達がかけてやる言葉は決まっていた。





「「「いや、頑張らなくていい(わ)。だって帰宅部だし」」」




 やっぱこいつ、入る場所間違えたんじゃないのか?



 やっぱ文芸部とか、吹奏楽部とかさぁ……ね?


 やる気あるなら他所行った方が有益だと思うんだよな……。



 ◇



 あのあと、今日の活動は萩野を加えてグダグダ喋って終わった。

 やる気がある部員が入っても、グダグダして終わるのは一緒だった。ああ素晴らしき怠け具合。

 ストーカー萩野は、結局犯行動機を吐くことはなかったが終始楽しそうだったし、『再犯はしません』との言質を確保した。ならばもう言うこともあるまい。


 さて、こうして部活に新入生が入りました。

 ネタにするしかあるまい。

 というわけでパソコンを取り出し、『ブロング』へ――――さっそく作業にかかる。


 『新着メッセージが一件あります』

 おお、行動が早いな。

 『<<差出人名:fall>> こんばんは。萩野です。これからよろしくお願いしますっ!』

 ……秋だから<<fall>>か。どこかで似たような名前の付け方をした人間がいた気がする。 

 『さっそくフレンド登録させていただきました。更新楽しみにしています!』

 コイツは何か勘違いしている。

 お前が楽しみにできるような『更新』がされると思っているのか?

 今日の俺の日記のタイトルは、既に決まっている。




 『ストーカー入部なう』




 ん? もう終わってるって事は『なう』じゃないのか? ま、いいよな。



 さて、本文を打ち込んで――――寝るか。



 今夜もオヤスミ。すやすや時間、だな。

話短いっ。


区切りがいいのでこのあたりで。



記念すべき10話……だが、喜べないっ。



俺に描写能力があればっ……もっと面白い話になったはずなのにっ……!


とまあ、ネガネガティブティブしつつ、今日はこのあたりで。



次回はまたキョウさんと、狂った晴樹さんが登場するかもしれない。




あ、でも晴樹さん狂ってるのは――――ネタバレ良くないっ! 


では。

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