ねぇ、フィンランドさん
夜中、夜食を食べながらスマートフォンを眺めていた。
指を少しだけ動かすと、画面の中で時間が逆流する。
少し前の投稿。
北欧の国会議員たちが並んでいる写真。
なぜか笑っている人がいる。
よく見ると写真の中の人物たちは、
指で目尻を引き上げていた。
コメント欄はもう炎上していた。
説明の必要もないポーズ。
昔から何度も見てきた、あの顔。
「少し前の写真らしい」
誰かがそう書いていた。
指を止める。
そして、もう一度スクロールする。
次に出てきたのは、三日前の投稿だった。
今日は国際女性デー。
この国の平等は百年以上、小さな石を積み上げるように努力を重ねて築かれてきた。
制度改革、歴史、象徴的な出来事。
文章は落ち着いている。
まるで長い冬の国の、静かな図書館みたいな言葉だった。
思わず笑ってしまう。
過去の写真。
今の宣言。
百年積み上げてきた平等。
石を積むみたいに。
世界はきっと、いろんな場所で真面目に何かを積み上げてきたんだろう。
制度とか、理念とか、権利とか。
それはたぶん嘘じゃない。
でも、ふと思う。
百年積み上げた石の塔の途中に、
誰かの顔を真似して笑っていた時間があるなら。
その塔は、ちゃんとまっすぐなんだろうか。
ふと目の前にある窓を見ると、自分の顔が映る。
黒い髪。
少し眠そうな目。
世界のどこかで冗談にされる顔。
平等って言葉は、たぶんすごく立派なものだ。
歴史の本に載るような言葉。
でも本当は、もっと小さいものなんじゃないかと思う。
百年かけて積む石よりも前に、
目の前の人間の顔をわざわざ歪めて笑わない、
その程度の話だ。




