表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

国家の視線

最初に気づいたのは、

視線の質が変わったことだった。


感謝や期待とは違う。

もっと冷たく、

もっと遠いもの。


――値踏みする目。



昼前、

再びあの“確認の男”が現れた。


今度は一人ではなかった。

装備も整い、

立ち振る舞いも、

村人とは明らかに違う。


「正式な報告に来た」


そう言って、

男は名を名乗った。


だが、

その名はすぐに忘れた。


覚える必要がないと、

最初から思われている名だったからだ。



彼らは、

俺を広場の端に呼んだ。


長老も同席している。


だが、

話しかけられているのは、

俺ではなかった。


俺を“挟んで”、

話が進んでいく。



「昨夜の被害は想定内だ」


「村が残ったのは評価できる」


「住民の士気も安定している」


紙の上で、

村が整理されていく。


家。

人数。

労働力。


そして最後に、

俺の存在。



「彼は、

 再現性があるか?」


その言葉で、

初めて俺は理解した。


ここでは、

逃げなかった理由など、

一切問われていない。


問われているのは、

次も同じことが起きるか

ただ、それだけだった。



「偶然だ」


俺は言った。


「誰にでもできることじゃない」


男は首を振った。


「偶然は記録しない」


冷静な声だった。


「だが、

 “役に立った偶然”は、

 例外として管理する」


その瞬間、

背中に寒気が走った。



彼らは、

英雄を必要としているのではない。


結果を出す存在を、

欲しているのだ。


理由はいらない。

問いもいらない。


必要なのは、

「使えるかどうか」。



「この村に、

 しばらく人を置く」


そう告げられた。


守るためではない。

見張るためでもない。


観測するためだ。


俺が、

次に何を選ぶか。


選ばないのか。



長老は、

安堵した顔をしていた。


「国が見てくれている」


そう言った。


それは、

救いの言葉だったのだろう。


だが、

俺には違った。



夜。


一人で、

剣を見つめていた。


血はもう残っていない。


だが、

重さだけが残っている。


この剣を取るかどうかを、

次は誰が決めるのか。


俺か。

村か。

それとも――

今日来た者たちか。



英雄と呼ばれたとき、

選択は奪われた。


だが、

国家の視線を向けられた今、

逃げることすら、

選択として許されなくなりつつある。


逃げれば、

記録される。


戦えば、

利用される。


沈黙すれば、

理由を作られる。



その夜、

俺は初めて理解した。


国家とは、

人を殺す存在ではない。


意味を固定する存在だ。


英雄の行為は、

個人の選択では終わらない。


国家にとっては、

「管理すべき事象」になる。



もし、

次に同じ夜が来たら。


俺は、

逃げないだろう。


だがそれは、

自分の意思ではなく、

そうなるように期待されているからだ。


そのことが、

何より恐ろしかった。



剣を置き、

目を閉じる。


胸の奥に、

はっきりとした予感があった。


この選択は、

俺一人の人生を超えていく。


血に残り、

記録に残り、

やがて――

制度になる。


それが、

国家の視線だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ