例外を許さない仕組み
仕組みは、
よく出来ていた。
誰が見ても分かりやすく、
誰がやっても同じ結果になる。
だから、
安心できる。
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確認する項目は、
決まっている。
順番も、
期限も、
例外の条件も。
すべて、
紙の上に揃っていた。
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その中に、
一つだけ
引っかかる名前があった。
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条件を、
満たしていない。
理由は、
明確だった。
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「どうする?」
誰かが、
穏やかに聞いた。
責める声ではない。
試す声でもない。
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仕組みは、
答えを持っている。
条件を満たさない者は、
次に進めない。
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「規則通りで」
自分の声が、
思ったよりも落ち着いていた。
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誰も、
反論しなかった。
なぜなら、
正しいからだ。
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その若者は、
何も言わなかった。
事情がなかったわけではない。
だが、
事情は
仕組みの中に
書かれていない。
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「今回は、
縁がなかったということで」
誰かが、
まとめる。
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場は、
荒れなかった。
怒号も、
抗議もない。
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むしろ、
静かに納得した空気が
流れた。
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若者は、
一礼して
席を立った。
背中は、
まっすぐだった。
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その瞬間、
胸の奥で
何かが
はっきりと分かった。
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これは、
追い出したのではない。
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処理したのだ。
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誰も、
彼を嫌っていない。
誰も、
排除しようとしていない。
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ただ、
仕組みが
彼を通さなかった。
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会が終わると、
声をかけられた。
「助かった」
「迷いがなくてよかった」
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評価は、
自分に向いている。
仕組みを
正しく使えたからだ。
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その夜、
眠れなかった。
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もし、
例外を認めていたら。
もし、
仕組みを
一度だけ
曲げていたら。
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だが、
それは想像に過ぎない。
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仕組みは、
一度曲げると
信用を失う。
信用を失えば、
不安が生まれる。
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不安は、
この世界で
最も避けられるものだ。
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だから、
例外は
許されない。
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父の言葉を、
思い出す。
言葉ではない。
沈黙だ。
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語らず、
疑わず、
ただ正しい側に立つ。
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自分も、
同じ位置に
立っている。
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誰かを切った感覚は、
ない。
手を汚した感じも、
ない。
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それが、
一番怖かった。
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正しさは、
刃物ではない。
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だが、
確実に人を削る。
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削られた者の
声は残らない。
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残るのは、
整った結果だけだ。
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仕組みは、
間違えない。
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だが、
誰かが
いなくなることには
慣れていく。
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それが、
正しく運用された
世界の姿だった。




