期待に守られる
変化は、
とても分かりにくかった。
怒られたわけでもない。
責められたわけでもない。
むしろ、
以前よりも
丁寧に扱われるようになった。
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「無理しなくていい」
誰かがそう言った。
その声には、
本当に心配が混じっていた。
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集まりの場で、
意見を求められなくなった。
代わりに、
こう言われる。
「今日は聞いていてくれればいい」
「難しい話だから」
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難しい。
その言葉は、
守るための言葉だった。
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以前は、
判断の一部を任されていた。
小さなことでも、
参加していた。
だが今は、
順番が飛ばされる。
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「あなたは、
特別だから」
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特別。
それは、
選ばれているという意味だった。
だが同時に、
外されているという意味
でもあった。
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誰も、
悪気はない。
むしろ、
誇らしげですらある。
「英雄の血を、
こんなことで
疲れさせてはいけない」
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期待は、
厚く、
柔らかく、
優しかった。
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だが、
その内側で
何かが減っていく。
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責任を持たされない。
失敗を許される。
判断を任されない。
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守られている。
確かに、
そうだ。
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だが、
自分の代わりに
誰かが決めている。
それが、
当たり前になっていく。
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ある日、
小さな役目を
申し出た。
「それなら、
自分がやる」
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一瞬、
間があった。
そして、
柔らかな否定が返ってくる。
「今回はいい」
「また今度」
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また今度は、
来ない。
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父の姿を探した。
父は、
何も言わない。
だが、
反対もしていない。
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その沈黙が、
この扱いを
正しいものにしている。
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父も、
同じように
守られてきたのだ。
沈黙の中で。
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気づけば、
自分は
何も壊していない。
秩序も、
正しさも、
安心も。
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それなのに、
居場所が
少しずつ
薄くなっている。
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期待は、
人を守る。
だが同時に、
人を使わない理由
にもなる。
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誰も言わない。
「君は、
必要ない」
そんな残酷なことは
誰も言わない。
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代わりに言う。
「あなたは、
大切だから」
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その言葉は、
否定しづらい。
感謝すら
してしまう。
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だから、
抗えない。
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夜、
一人で考えた。
もし、
もう一度
疑問を口にしたら。
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今度は、
もっと丁寧に
守られるだろう。
もっと深く、
包まれるだろう。
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そのとき、
自分は
どこにいるのだろう。
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守られたまま、
判断から遠ざかり、
責任から外され、
やがて――
関係者ではなくなる。
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それは、
追放ではない。
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保護だ。
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だから、
誰も罪悪感を
持たない。
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期待に守られる。
それは、
最も静かな隔離だった。
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この日、
はっきりと理解した。
疑うことは、
危険なのではない。
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疑う者を
どう扱うかが
すでに決まっている世界
なのだ。
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その世界は、
とても優しい。
だからこそ、
抜け出しにくい。




