3:ヒツジとウサギと青い石
お誕生日回続きます
拍手とロウソクの煙が落ち着くと、次に始まるのはプレゼントの贈呈式だ。
まずは女性陣から。おばあさまからはヒツジの編みぐるみ、伯母さんからはミトン、そしてママさんからはフード付きのケープが贈られた。これらはママさんたちが手ずから編んでくれた一品ものだ。
ヒツジさんの顔と足は細編みの毛糸地がみっちり綿を包み綺麗な形に整えられている。胴体は太い玉編みで覆われモコモコした手触りが心地よい。
ミトンとケープもヒツジさんと同じ毛糸で編まれ、キッチリとした細編みが風を通さず、編み重ねられた模様がふわもこで暖かだ。
「これから寒くなるからね。ヒツジさんの服でしっかり暖かくするんだよ」
「ヴィヴィちゃんもモコモコでヒツジさんとおそろいね。良かったわね」
ふわもこコーデに身を包んだ私に、しきりにヒツジさんを強調してくるママさんたち。
待って、これだと私がヒツジさんに強いこだわりがある女の子みたいじゃない?
……よく覚えてないけど、そうだったかも。いいよねヒツジさん。
続いて男性陣からの贈り物。おじいさまからはゼンマイ式のオルゴールだ。
宝石箱のような外装のオルゴールは、ゼンマイを巻いてふたを開けると、回転するシリンダーの上で2体のウサギのミニチュアが半円を描くようにローリング運動を始める。ふたの裏には風景の絵付けされた陶器のプレートがはめ込まれており、ふたが開かれた状態でウサギたちの背景になる。シリンダーの上部を丘に見立て、その上を2羽のウサギが追いかけっこをしている構図だ。曲もウサギをテーマにした童謡であるらしい。
「ウサギじゃなくてヒツジが良かったかな」
おじいさまがヒツジづくしな私を見てすねるような口調で言うものだから、私は首をふってニッコリ笑う。
「ウサギさんも大好きです。ありがとうおじいさま」
私の言葉におじいさまは破顔する。
「そうかいそうかい。気に入ってくれたなら良かった」
でもヒツジさんの跳ねるオルゴールも悪くないかも。よく眠れそうだし。
伯父さんからもらったのは一冊の絵本だ。ツバ広の帽子を被った性別不詳の子供が主人公で、彼(彼女?)の物語が進む中、道中で目にするものを指さし、その名称を挙げていくという内容だ。家や家具など生活に関わるものから、犬や猫などの動物、目や鼻、手足などの身体のパーツと言ったぐあいに、シーンの変化と共に主人公の興味は移ろいゆく。子供向けの本といえど、今の私にはたいへんありがたい内容だった。
「ほら、ヒツジさんも載っているよ。こっちにはウサギもいる」
伯父さんは私が本の内容より動物の絵に興味を持つと信じて、主人公が牧場に行くシーンへとページをめくってくれる。気持ちは嬉しいのだけどストーリーが気になるので、あとで最初から読んでみよう。
パパさんからは鍵付きのダイアリーが贈られた。革張りの表紙はオフホワイトを基調とし、ダークブラウンの背表紙と角革で装丁されている。なんだか白黒のチョコレートみたい。
「これは日記帳だよ。その時々に見たことや感じたことを記していけば、いつの日かすてきな宝物になる。最初は絵でも描いてみるといい」
なるほど。子供の成長過程を記録するのに良いアプローチかもしれない。外から成長を見守ることは出来ても、内面的なことは本人にしかわからないのだから。
ただ問題なのは、私に前世の記憶があるということだ。おそらくパパさんが思ってるような成長記録にはならないと思うので、その点は申し訳ない。でも仕方ないよね。そこは個性だと割り切ってもらおう。
「これはモーガンからよ」
これで全員からのプレゼントを受け取ったと思いきや、もう一つ差し出されるものがあった。小さめのメロンが1つ入りそうな木箱だ。
モーガンって誰だっけ。知っている人のような気もするけど、どうにも記憶が頼りない。
「ヴィヴィちゃんが最後に逢ったのは新年の集まりだったわね」
私の戸惑いを感じ取ったのか、ママさんがヒントを出してくれる。
どうにかして記憶をたぐり寄せると、おぼろげながらも思い当たるビジョンが浮かび上がってきた。
以前にも今みたいな家族の集まりがあって、その場には今のメンバーに加え、1人の男の子の姿があった。私よりもだいぶ年上で、ひょろりと長細い身体。伯父さんと似た茶色の髪は整えられておらず毛先が好き勝手にバラバラな方向を向いている。家族の会話に加わりながらも頭では別のことを考えているように、丸眼鏡を通した視線はどこか中空の先を見据えていた。そんな視線が私に向けられたときは、どこか珍しいものを観察するようなまなざしになっていたのを思い出す。もっとも当時の私も、相手のことを同じような目で見ていたように思うのだが。
どうやら彼は伯父さんと伯母さんの息子、つまり私の従兄だ。
「従兄のモーガンおにいちゃま?」
「そうよ。今は王都にいて学園に通っているのよ」
だから今ここにはいない、ということらしい。
疑問が解消されたところで、件の木箱に目を向ける。中には緩衝材の藁に包まれて、鞠くらいの大きさの球体に近いものがおさめられていた。
それは木製の多面体だった。正12面体と正20面体を重ね合わせた複合多面体だ。12面体のそれぞれの辺に5角錐が貼り付いていると言った方が良いだろうか。表面はすべすべと滑らかで、角は綺麗に丸められていた。
転がして遊ぶための遊具だろうか? 揺すると内部で何かが動く感触があるのだが、音を鳴らすための仕掛けとも思えない。取り出した箱の中にメモが残されているのを見つけたので、ママさんに読んでもらう。
「”向き合う13を外から内へ時を戻せ”ですって」
「あの子ったら、またおかしなものを作って」
首をかしげるママさんの隣で伯母さんもあきれたような、それでいて微笑ましいものを見るような曖昧な笑みを浮かべる。なにか前例がありそうである。
文面は謎かけのようだが、私には思い当たることがあり、多面体を注意深く観察する。すると12個の五角錐のそれぞれ1面だけに点の集まりのようなものが彫られていることに気づく。点が1つだけのものから12個に及ぶものまで、すべて違う数の点が各面に刻まれていた。それは前世のあるものを思い起こさせる。となればあれしかないだろう。ある確信を持って確認すれば、点が1つの面と12個の面、それらは12面体の中心を通って一直線上に交わる両端の五角錐に配されていることがわかる。
私は1の点と12の点を刻まれた2つの五角錐を両の手のひらで挟むように持つと、反時計回りに捻るように力を加える。2つの面はスルリと回転し、5分の1回転、すなわちマイナス72度の角度で抵抗を受けて止まる。
(外から内へ…)
1から12までの数字を並べたとき、その両端、つまり一番外側に来るのが1と12の数字だ。同じように立体の中心で向かい合う2の点と11の点、3の点と10の点とを一緒に回転させていく。この順番を無視して適当な五角錐を回そうとしても中でロックされていて動かないようであった。1つ前の操作が次のロックを解除する仕組みのようだ。
大人たちが見守る中、操作を続けていく。傍目にはもらったオモチャをなで回してるように見えるかもしれない。
最後に6と7の点を同時に回すと、それまでとは違った手応えと共に7の五角錐が瓶のふたのように外れた。
開口部を覗けば、内部の空洞に小箱があった。
起毛地の布で外張りされた小箱は蝶番で開くタイプだ。バネの抵抗を感じながら慎重に開くと、そこには銀の装飾に縁取られた楕円形の石が収められていた。
それは薄雲をまとった空をそのまま丸めたかのように淡い青色の石だった。
「まあ…」
「あの子ったら…」
ママさんと伯母さんが感嘆する。
つややかな青い表面はうっすらと透き通り、その内側では白い結晶構造が、折り重なるすじ雲のように不規則な模様を生み出している。大地の力が作り上げた自然のアートだ。そんな天然の石を加工しブローチにしたものが手の中にあった。
「あの子ったら、こういうものを贈る意味をわかってるのかしら」
伯母さんはあきれ顔だ。
「ほお、変わり者だと思っておったが、都会で揉まれていっぱしの男になったと見える」
「まさか。あいつにそんな甲斐性はありませんよ」
感心したように顎に手を当てるおじいさまに対し、伯父さんが思い違いを正すように言葉を重ねる。
「まだ先のことと思っていたけど、敵は意外と近くにいたのかもしれないな」
パパさんが冗談めかして混ぜ返すも、どこか目が笑ってないように見えるのは気のせい?
「ヴィヴィちゃんには少し、早いかもしれないわね」
ママさんも困ったように苦笑いする。
「女は生まれたときからレディーなんだ。あの子もわかっているじゃないか」
おばあさまはおじいさまと同意見のようだ。
おばあさまは私の前に屈むと、ケープの前をあわせ、その襟元をブローチのピンでつなぎ止める。
「贈り物にはそれを贈った人の願いが込められている。お前さんの幸せを願う気持ちがこれらの贈り物に込められているのさ。そのことを忘れちゃいけないよ」
「はい。大切にします」
最後に波乱を呼んだ贈呈式は、おばあさまに良い感じにまとめられて終わったのでした。
更新が遅くなって申し訳ありません。誕生日エピソードは次回で終わる予定です。
青い石はラリマーという天然石です。鮮やかな青色に波紋で屈折した光のような白い筋がクッキリ出ているものがカリブ海に例えられ希少で価値が高いとされています。作中のものは空のイメージに寄せるため、ややグレードの下がるもので想定しております。
ちなみに、先にネタバレしてしまいますと、モーガンくんは知人に女の子のプレゼントはなにが良いかと尋ねたところ、相手の目の色の宝石を贈るのだと返され真に受けたのです。




