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転生令嬢はバリアフリー王国の夢を見る  作者: 黄猫屋トモロヲ


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3/3

2:これが私の家族です

 私が踏み入れた部屋は、可愛く飾り付けられたドローイングルームだ。ドローイングルームと言ってもお絵かきする部屋ではない。お茶を飲んでおしゃべりしたり、お客さんをもてなしたりする、アンティークな調度品に囲まれた素敵なカフェみたいな空間。それが今はちょっとしたパーティー会場だ。マントルピースや窓台にはパステルカラーにまとめられた花々がところ狭しと並べられ、燭台とシャンデリアが灯す暖かな光に照らされてゴシックで幻想的な空間を演出している。

 そんな部屋の中で私たちを迎えたのは正装した5人の大人たちだった。


「おめでとうヴィリアーチェ。さあ、私のお姫様をよく見せておくれ」

 背の高い男性が私の前に歩み出て腰を落とすと、私の両脇を抱えるようにして抱え上げる。


「これは驚いた。このあいだ産まれたばかりと思っていたのに、もう立派なレディーだ」

 切れ長のまぶたを細め見つめるブルーの瞳は優しい。ブロンドの前髪を上げて年かさに見せているが、まだ30手前といった感じのイケメン。何を隠そう、この人こそ私のパパさんなのだ。やったね。


「ヴィヴィちゃんはずっと前からレディーなのに、パパはお仕事に夢中で気づかなかったみたいね」

 ドレスルームから一緒だった綺麗な女性が私の前髪を直す。お気づきだと思うけど、この人が私のママさんである。

 パパさんに抱えられているおかげで、高い視線でママさんの姿を眺めることが出来たのだけど、前世のテレビで見た外国の女優さんがこんな感じだった気がする。何かの授賞式でトロフィーをもらってキラキラしている姿が容易に想像できる。


「オリアンヌ、アルベルトは昔から女性の変化に鈍くてね。君も泣かされた口だろう」

 パパさんより少し年上に見えるブラウンヘアにメガネの男性が、ママさんにいたずらっぽく笑いかける。この人はパパさんのお兄さん、つまり私の伯父さんだ。パパさんより少し背が低く、温和な印象。部屋の雰囲気もあって喫茶店のマスターが似合いそうだなと思ってしまう。


「あなただって人のことは言えないわよフレデリック。私が髪を20センチ切った時も丸2日は気づかなかったじゃない」

 伯父さんの傍らに座る女性がしたり顔で言う。ブルネットのストレートヘアは艷やかだが、ママさんと比べると線が細く、血色の薄い顔はどこか儚げな印象を受ける。他の人が立っている中、彼女だけ椅子に座ってショールと膝掛けをしている。この人は伯父さんの奥さんで、私の義理の伯母さんに当たる人だ。

 妻の背中が冷えないように後ろを守っているようにも見える伯父さんは「気づかなかったわけじゃないよアネット」と言い繕う。


「スピニグラードの男ってのは、よけいな気を使って女のあれやこれやに口を出さないのが美徳と思ってる節があるからね。端から見れば単に不器用なだけさ」

 フォローなのか貶してるのか判断に困る発言をするのはおばあさま。パパさんと伯父さんのお母様にあたる人だ。年長者らしく髪を結い上げているが、人なつっこそうな丸顔が可愛らしく威厳とはほど遠い。


「カロリーヌ、年若いレディに先入観を植え付けないでおくれよ。これから先、自分の目で見たものを少しずつ知っていけば良いさ」

 おじいさまがパパさんから私を受け取って、にらめっこするみたいに顔を近づける。ロマンスグレーの口ひげがどこぞの文豪を思わせる。

「すごい美人さんだ。カロリーヌ、お前さんの若い頃にそっくりだよ。もちろん魅力的なところは昔も今も変わらないがね」

 私を褒めると同時におばあさまへのアピールも忘れない。どうやらさっそく不器用でないところを見せたいようだった。

「ヴィクトルは今の方が良い男だよ。昔は優男ぶって言葉を選びすぎる癖があったからね。うまい言葉が見つからないと口を濁すところがもどかしかったもんさ」

 おじいさまの思惑に対しバッサリ切り返すおばあさま。満足そうなおじいさまを見るに、このやりとりで正解らしい。


 3組それぞれの夫婦仲を見せつけられ、私一人こそばゆい思いをさせられてるのだけど、このパーティーの趣旨ってなんだっけと思わないでもない。


 そんな私の気分を察してか、ママさんが取りなすように手を叩く。

「さぁさ、ヴィヴィちゃんにはロウソクを消してもらいましょうね」


 そして部屋の中央、ソファに囲まれたローテーブルの前に移動すると、その上にはお城があった。否、四角い砦を思わせるような巨大なデコレーションケーキだ。

 城壁に囲まれた本丸と思しき構造の中段には、バラの形のクリームで縁取られたプレートが添えられていた。そこにはアルファベットのような書体で短い文言が綴られている。

「”ハッピーバースデー、ヴィリアーチェ”と書かれているのよ」

 まだ読み書きを習っていない私に、ママさんが文言の内容を伝えてくれる。書体の印象をアルファベットに当てはめて想像したとおりだった。

 城門から本丸へと続く道の脇、篝火のごとく4本のローソクが立てられている。

 ロウソクに向かって乗り出す私の体をパパさんが支える。

「願い事を込めて、一息で吹き消すんだ」

 特に思いつくこともないので、みなさんの健康を祈願しておく。

 大きく息を吸い込んだ後、ゆっくりと一本ずつロウソクに息を吹きかけ消していく。

 4歳児の肺活量の限界から軽い酸欠にふらつきつつも一息のまま最後の一本を消し終えると拍手が鳴り響いた。

「すごいぞ! こんなに息が続くなら、オペラも歌えるようになるだろう。大した孫だ」

 おじいさまからの拍手喝采だ。さすがに期待が大きすぎるのでは?


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