表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢はバリアフリー王国の夢を見る  作者: 黄猫屋トモロヲ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

1:物心付いたら前世がフラッシュバックしました

本編は主人公視点になります

「さあ、目を開けて。私の可愛い天使ちゃん」


 鈴を転がすような女性の声に耳をくすぐられ、私は双眸に下ろされたまぶたをゆっくりと持ち上げる。

 光に溶け込んだ世界が、徐々にその輪郭を取り戻していく。

 やがて視界の正面にある“それ”が像を結ぶ。その存在を認識した瞬間、突如として溢れ出した記憶の断片が奔流となって私の意識を飲み込んだ。


 砕けたガラスのような記憶の断片に、どこか懐かしい景色が映り込む。それは小学生の頃、家族と一緒に街へ出かけ、たまたま通りかかったドールショップのショーウィンドウ。そこで目を引いたのは30cm大のアンティーク調の人形の女の子だった。記憶の中の私は足を止めてその子に釘付けになっていた。


『なんて綺麗なお人形!』


 細く透き通った生成り色の頭髪は、ふんわりと緩やかなカーブを描いて裾野を広げ、その内側の小さな面相をこわれものを守るように包み込んでいる。滑らかな頬は桜の花弁のように色づき、瑞々しいツヤを湛えた桃色の唇は、そのぷっくりとした肉の厚みを潰さない程度にゆるく結ばれている。柔らかそうな睫に縁取られた瞳は、水平線の空が乳白色から藍色へ変わろうとする狭間を切り取ったような薄い青色だった。レースのリボンとフリルがあしらわれた水色のドレスが彼女にとてもよく似合っていて愛らしかった。

 一目惚れだった。この子が欲しくて親にねだったり貯金を始めたりもしたが、子供に手が届く金額では無かったように思う。その後この子はどうなったのだろう。他の誰かが買っていったのだろうか。この子が店のディスプレイから消えたとき、遠い土地へ転校していった仲の良い友人に対する思いと似た感情に心を揺さぶられただろうか。


 やがて意識がイメージの奔流を通り抜け現実へと還っていく。


 確かに現実に引き戻される感覚があったはずなのに、今なお彼女は私の目の前に在った。いや、そうじゃない。一見した特徴は似ていても、目の前の女の子の質感は記憶の光景よりもずっと生々しい。肌は薄く透き通り、瞳の中では吸い込まれた光が幾重にも反射してきらめいていた。


「なんて綺麗なお人形…!」


 強烈な存在感に気圧され、語彙力を失った私の口からこぼれ落ちたのは、あの日の彼女との出会いを再現する言葉だった。

 すると、それを聞き取ったらしい女性が、やはり鈴のような声で笑う。


「ヴィヴィちゃん? 私の娘は世界で一番綺麗で可愛いのだけど、お人形さんじゃないのよ?」


 その声は目の前の女の子の肩を抱いている美しい女性から発せられたように見えるのに、なぜ耳元から聞こえてくるのだろう?

 頭に浮かんだ疑問と言葉の意味を理解し終えるまでに瞬き二回。そこで自分の前にあるのが大きな姿見であることに気づく。衣料品店に置いてあるものよりずっと大きく、その四辺はレリーフの装飾に縁取られ、鏡の国へ誘うかのごとく鈍色の光沢を纏っている。

 女の子の肩を抱いて寄り添う女性。緩やかにウェーブしたホワイトブロンドの髪は片方の肩で束ねられ、その先は毛先に向かってひねりがくわえられている。琥珀の瞳は慈愛の色をにじませ”私”に向けられている。シンプルなマーメイドラインのドレスが彼女の少なくない時間をかけて身につけたであろう気品を一層際だたせていた。


 私が人形と見間違えたのは3~4歳くらいの小さな女の子だ。玩具のドレッサーに付属してくるような可愛らしい椅子にちょこんと腰掛け、こぼれ落ちそうな大きな瞳でガラスの向こうからじっとこちらを見ている。

 鏡の中をよく見れば、もう一人大人の女性がいた。黒のワンピースに白エプロンを着用した、いわゆるメイドさんの格好をしている。萌え萌えキュンなやつではなく、正統派のクラシカルなロングスカートスタイルだ。

 メイドさんはヘアブラシを片手に、やり終えた仕事の出来栄えを誇示するかのごとくドヤ顔をキメている。女の子のふわふわにセットされた髪は彼女の手によるものなのだろう。そのボリュームを損なわぬよう大振りに編まれた横髪の節目節目に、ちょうちょ結びのリボンが結わえられている。こちらは鈴の声の女性によって成されたものだ。再び正面の女の子を見つめると、向こうも同様にまっすぐに見つめ返してくる。


 認めよう。これは私だ。


 自覚した途端、夢見心地のフワフワした感覚に包まれていた意識が、潮が引くようにすーっと澄み切っていくのを感じる。


 ここはドレスルームだ。20畳ほどの部屋の片側には衣装スタンドに飾られたドレスの団体さんが折り目正しく整列している。ほとんどが大人用のドレスだったが、ある一角では子供サイズのちんまりしたドレスたちが可愛く自己主張していた。

 私は今しがた、二人の女性にフリフリな水色のドレスを着せられ髪をセットされたところなのだ。なんということでしょう! 同じ人形に例えるなら腹話術人形が関の山の私が、いかなる匠の技によるものなのか、美麗でキュートなアンティークドールへと衝撃のビフォーアフター! あんなに欲しかったドールちゃんが、よもやこんな形で手に入るとは。


 謎の高揚感にブチ上がり心の中でガッツポーズを決めていた私に、綺麗な女性が優しく手を差し出し微笑む。

「さあ、行きましょう。みんなが主役の登場を首を長くして待ってるわ」

 

 女性に手を引かれて歩き出すと、メイドさんが先に立って部屋のドアを開けて送り出してくれる。

 ドレスルームを出ると、そこはカーペットが長々と敷き詰められたクラシックな洋風建築の廊下だ。階段を下り、玄関ホールを抜けた先にある扉の前へ到着すると、扉の脇に控えていたホテルマン然とした男性が恭しく頭を下げる。


 女性に手を引かれるまま扉を抜けると、その先に色とりどりの花びらが舞い降り注ぐ。


「「「誕生日おめでとう!ヴィリアーチェ!」」」


 そう、私の名前はヴィリアーチェ。


 本日4歳になりました。

2026/03/22改稿 紙吹雪を花びらに変更しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ