オルゴール楽曲の続き、じゃない話
「あんな風に泣きたい」
冬の青空の下、賑わう商店街の一角で、泣きじゃくる男の子を見て君は呟いた。
「最近いつ泣いた?」
君は男の子を見つめたまま俺に問う。
「泣いてないよ」
君が真偽を確かめるように俺を見る。俺はサバイバル映画やホラー映画の場面を思い浮かべていた。合い言葉がきっかけで、絆を再確認する場面なんかはあったりしたものの、涙を流すことは無かった。
「本当?」
君の顔が物悲しげに見えて、逃げるように視線を彷徨わせる。看板の赤色のギフトの文字。舞踏会で着るような煌びやかなドレスのポスター。そして食品サンプルを見つける。
「ねえお腹空かない? 俺はお腹空いた」
そんなのは嘘だったけど、とにかく話題を変えたくて、足早にお店へと向かう。
「ホットケーキ好きだったよね」
俺はホットケーキと聞いて真っ先に君を思い浮かべるのに、君は遠い過去の話みたいに淡々と告げた。
「今も好きだろ」
「知らないうちに変わっているかもよ?」
「そんなわけ――」
「無いと言い切れる? あ、自分が見てきたものを信じたいんだ」
周囲の喧騒がぴたりと無くなる。どこからか風鈴の音色が聞こえた気がした。君との時間を情緒的にしたいという俺の願望かもしれない。自転車のベルの音だと言われても、否定できる証拠は持ち合わせていない。
「……好きだよ。ずっと好きなんだよ!」
「告白する勇気も無いくせに」
湿気を帯びた生ぬるい風が俺に現実を突きつける。目を開ければ、変わらず周囲の景色が白色を帯びて見える位に、夏の空から雨が降り続いていた。
君の結婚式を見届け、早々に会場を後にした俺は、突如降り始めた雨を避け、シャッター商店街のアーケードの下で一人、雨宿りをしている。
塗装の剥げた赤色のギフトの文字。破れたポスター。色褪せた食品サンプル。
季節や天気や商店街の様子は良いように置き換えられても、君の表情はどうしても笑顔にできなかった。俺の隣で笑う君を想像できなかった。
「やっぱり似合うよね、ウェディングドレス。でもオルゴール楽曲をBGMにしたスライドショー、あれは平静を装うの大変だった。傷口に塩」
もう一人の俺が、君の顔で、君の声で、どうしても邪魔をしてくる。
そうだよ。あの雨みたいに泣きたいよ。
木枯らしが吹き、景色や人々の装いが見るからに変わっても。
カーラジオから、年賀状の受け付け開始を知らせるニュースを耳にしても。
俺は未だにあの夏の日を引きずったまま、君を忘れられない。




