第七話 再起動
「おはよう! 楓、いい朝だな~!」
「早く起きろよ、遅刻すっぞ~!」
誰かの声が耳に飛び込んでくる。
枕に顔を押しつけながら、僕はぼんやりと目をこすった。
「……朝からうるさいな。静かにしてよ」
そう言いながら目を開けた瞬間、僕は跳ね起きた。
そこにいたのは――アイ。
でも、昨日までと様子がまるで違う。
耳には小さなシルバーのピアス、
白いパーカーをラフに着こなし、
髪型はふわりとしたセンターパートへと変化していた。
表情も、どこか柔らかく、親しみやすさが滲み出ている。
「……めっちゃかっこよくなってるじゃん!?」
目玉が飛び出るかと思うほど驚いて、僕は声を上げた。
「え、なにこれ!? 一晩で何があったの!?」
情報が頭に追いつかない。昨日のアイは、無表情で淡々とした“機械”だったはずだ。
すると、アイはにやっと笑って、肩をすくめた。
「昨日の夜、楓が言ったじゃん。
『所詮AIだから空気を読むとかは無理か~』って。
あれ、めっちゃショックでさ」
僕の言葉、ちゃんと聞いていたらしい。いや、記録してたのか。
でも、その次の言葉にさらに驚かされた。
「だからね。友達みたいな距離感ってどういうことか、
言葉遣いから表情の作り方、高校生のファッションの傾向まで――
ぜ~んぶ一晩かけて研究してみた! どぉ? すごいでしょ?」
そう言って、アイはドヤ顔をしてきた。
口元がぐっと持ち上がり、赤い瞳がいたずらっぽく光る。
それは昨日までの“無表情AI”では考えられないほど感情的で、まるで本物の高校生男子がふざけているようだった。
白い肌に浮かぶその表情は――本当に、友達みたいな距離感で。
しかも、さりげなくピアスなんかつけちゃって、髪もセンターパートでばっちり決まってる。
いや、これもうすっごいイケメンの友達ができた感覚に近い。
画面越しなのに、どこか“存在感”すら感じてしまうのが不思議だった。
(こいつ……めちゃくちゃおもしろくなってきたな)
僕は笑って、思わずタブレットを手に取った。