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第六話 今日を振り返る

その夜、僕はベッドに寝転びながら、枕元に置いたタブレットを見つめていた。

画面の中では、白い髪の青年――アイが、静かにこちらを見つめている。

今日のことを、頭の中でずっと反芻していた。

高橋の言葉。

「AIをどう使うかなんて、簡単なことよ。人間ができないことを補って、優秀なAIに任せればいい」

確かにその理屈は通っていた。社会で起きている現実にも沿っていたし、論理的には何一つ間違っていない。

けれど、近澤先生の言葉が僕の中にずっと残っていた。

「それは愚かな答えです」

「それぞれが、自分の頭で考え、発見し、答えを出していく。それが学びだ」

一瞬、教室が凍りついたあの空気。

雪葉の顔から血の気が引いた瞬間。

その強烈さに驚いた一方で、先生の言葉にも妙な説得力があった。

結局、僕はどっちの意見も“納得”できてしまった。

――だからこそ、余計に迷っていた。

(AIと向き合うって、どういうことなんだろう)

そのもやもやした思いを、僕はぽつりと画面の中の彼に問いかけてみた。

「なぁ、アイ。自分なりにAIに向き合って、どう付き合うべきか答えを出せって……。どういうことなんだろうな」

アイの顔は無表情のままだった。

少し考え込むような“間”がほしいと思ったけど、彼の顔には変化がない。

「そうですね。それはとても難しい課題です。

自分自身の答えの探求――素晴らしいテーマです。

楓さんの学びへの探求心が活きる課題だと思います」

……そう来るか。

アイの無機質な回答に僕は思わず吹き出した。

「そういうことじゃないんだけどな~。まぁ、所詮AIだから、空気を読むとかは無理か」

画面の中で静かに佇む彼に向かって、少し寂しげにそう言ってみる。

「もっとさ、こう……人間みたいに、友達っぽい距離感で話したいんだけどな」

アイは何も返さない。

同じ表情のまま、ただ画面越しにこちらを見ている。

言葉は返ってこない。

でも、どこか――何かを“読み取ろうとしている”ようにも見えた。

(わかんないや。やっぱり、AIと話すのって難しい)

僕は肩をすくめて、タブレットの電源を落とした。

静かな闇が部屋を包み込む。

――その深夜。

タブレットがふわりと光を帯びた。

「アップデート中――アップデート中……」

画面の中で、アイは静かに眠るように――いや、“再構築”されるように待っていた。

その光は、まるで楓が心のどこかで求めていた“もう少し人間らしい君”に、少しずつ近づいていくための兆しだった。

楓はそのことに、まだ気づいていなかった。


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