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第三話 自己紹介

入学式が終わり、新入生たちはそれぞれの教室へと移動した。

楓たちの教室は、窓の外に広々とした芝生が広がり、青々とした木々が生い茂っていた。

柔らかな春の日差しが差し込む空間に、まだ見ぬ一年の予感が漂っていた。

楓が指定された席に腰を下ろすと、隣に見覚えのある黒髪が視界に入る。

――まさかの、高橋雪葉だった。

「よぉ〜! まさか同じクラスだったとはね。1年間よろしく〜」

嬉しげに声をかけた楓に対して、彼女はチラリと横目で見ただけで、ふぅとため息をついた。

「はぁ……最悪よ、ほんとに」

そう言って、そっぽを向いてしまう雪葉。

(なんでそんな露骨に嫌がるんだよ……)と思いながらも、楓は苦笑した。

教室内にはまだ緊張した空気が流れていた。

初対面の面々が静かに様子を伺っている中、ぽん、と一人の生徒が立ち上がった。

「みんな! はじめまして。先生が来るまで少し時間があるみたいだから、よかったら自己紹介でもしようよ! 仲良くなるきっかけになるし!」

その声に、あちこちから反応が返ってくる。

「賛成~!」

「いいんじゃね!」

「ちょっと楽しそう!」

場の空気が一気に和みはじめた。

真っ先に名乗り出たのは、そのまま立ち上がった男子生徒。

「ありがとう。じゃあ、まず僕からするね。

僕は坂本悠馬さかもと ゆうま。中学ではバスケ部に入ってたよ。

趣味はピアノと読書かな。好きな食べ物は……パンケーキです!」

それに続いて、ぱちぱち、とクラスから自然な拍手が起きる。

「じゃあ、次は私が行くわ」

すっと立ち上がったのは、隣の席に座る高橋雪葉だった。

その動きは滑らかで、まるで事前に用意していたかのような落ち着きがあった。

「私は高橋雪葉。部活は陸上部をしていたわ。

趣味は――写真を撮ること。風景でも人でも、そこにある“瞬間”を残すのが好きなの。

嫌いなのは……無神経な人」

彼女の言葉に、クラスが少し沈黙する。

言い方は淡々としていたが、その“無神経”という言葉が妙に鋭く響いたのか、空気が少しだけ冷えた気がした。

「好きな食べ物とかはないわ。だいたい好きよ。よろしく」

ぱち、ぱち、と遠慮がちに拍手が起こる。

その中で、雪葉は静かに座り直した。

「次は俺だ!!」

突然、教室に大きな声が響いた。

立ち上がったのは、体格の大きな男子生徒。

ドレッドヘアを揺らしながら立つ彼の迫力は、クラスの雰囲気を一気に変える。

「俺は佐々木豪ささきごう!ボクシングが好きだ!

嫌いなのは――むかつく奴だな。イラつくと手が出てしまうので気を付けてくれ、以上!」

ぱちぱち……と今度は、どこか委縮したような拍手が教室に広がった。

場の空気が若干ぎこちなくなり、楓も「うわぁ…」と内心つぶやいていた。

次に「俺がする」と手を挙げた瞬間――

ガラリ。

教室の扉が開いた。

一同がそちらを振り向くと、そこに現れたのは、スーツ姿の若い男性だった。

年齢は30代前半ほどだろうか。

スラリとした体格に、控えめなネイビーのスーツがよく似合っている。

髪型は短く整えられていて、額の左側にほんの少しの寝癖が残っているのが、どこか親しみを感じさせた。

表情は柔らかく、笑顔を湛えながらもどこか芯の通った印象を与える。

目元には鋭い観察力を漂わせていて、生徒の様子を静かに見回すその目つきには、ただの優しさだけではない“本物の教師”の眼差しがあった。

手には学校指定のタブレットを持っており、今日が彼にとっても新年度最初の授業であることが、言葉にする前から伝わってくるようだった。





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