第九話「戦争」
前回からの、あらすじ。
家族関係ドーン!両親殉職バーン!受験競争ドーン!
学校生活バーン!王国戦役ドーン!!
御前会議バーン!!陣前演説ドーン!!
前線救援バーン!!
ライオネル王国領内、対ロイエンベルク前線にて。
ライオネル王国軍の士官たる、ロベール・ルイ少尉は、死んだ魚のように濁った瞳で、簡易的な塹壕の中で座り込んでいた。
その片手には、密造ワインの空き瓶が握られ、近くには、嘗ては綺羅びやかであったであろう、マスケット銃が投げ捨てられている。
周囲には、嘗ての戦友にして、現在の部下であった、肉塊が所狭しと積まれていた。
その側には、数少ない部下たちが、濁りきった瞳で、固まるように座っている。
皆、マスケット銃など、とっくのとうに、放り出していた。
十数日前までは、彼等も決死の抵抗を試みていた。
絶えず、泥と砂塵に塗れながらも、煌めくマスケット銃を握りしめ、塹壕で待機。
敵が来れば、ハリネズミの如く、強力な密集陣形を取り、愚かにも、突撃してきたロイエンベルク騎兵に対して、集中射撃を行う。
だが、ロベールの、嘗ての上官は、直ぐに、身を持って知ることになった。
愚かなのが、どちらであったのか、ということを。
戦列歩兵が、ライオネル王国軍が、我先に、塹壕から飛び出した瞬間、雷鳴と見紛うほどの、聞いたこともない連続的な銃声が、戦場に鳴り響いた。
真っ先に塹壕を飛び出し、軍刀を振り上げ、兵士を鼓舞しようと、指揮官の役割を果たそうとした上官は、腕を、足を、腹を撃たれ、血飛沫を撒き散らす。
最後には、頭部を撃たれ、軍刀を振り上げたまま、ユックリと倒れ込んだ。
気付けば、ロベールの目の前には、血飛沫に、泥にまみれ、圧倒的火力により倒れ伏した、戦友の姿があったのである。
しかし、それは、惨劇の序章に過ぎなかった。
それ以降も、ライオネル王国軍は、不死鳥の如く、何度でも兵力を再編し、戦意の血に塗れ、技術の鉄をもって迫りくる、ロイエンベルク王国軍を迎え討った。
戦死者は膨れ上がり、開戦時は一等兵だったロベールも、人員不足と戦地昇進により、三階級の昇進の末、伍長にまで至っていた。
そんなある日、これまで、昼夜問わず続けられていた、ロイエンベルク王国軍の攻勢が、パタリと止んだのである。
彼は、血飛沫混じりの空気で、深呼吸し、安堵した。あの防衛戦は、戦友の死は、無駄ではなかった。
ロイエンベルクにも、ある程度の出血を強いたからこそ、攻勢が止んだのだ。
しかし、直ぐに、彼の推測は、半分しか当たっていなかった事を、思い知ることになる。
戦友達の、更なる死によって。
ロイエンベルクの攻勢停止から、十数時間後。
彼は、後方で、衛生兵による治療を受けていた。
腕を負傷し、塹壕の劣悪な環境により、足が壊死仕掛けていたからだ。
だからこそ、幸か不幸か、ロイエンベルクによる、最悪の豪雨を、免れる事ができた。
彼の耳にも、その音は、確かに聞こえた。
甲高い音。例えるなら、空気が何かを切り裂くような、そんな金切り音。
それから数秒後、地震のような、凄まじい地響きと共に、仮設テントが吹き飛ぶのではないか、と思うほどの、爆風が吹き荒れた。
それが収まるか収まらないかの内に、次々と、連続して、地響きと轟音が響き、爆風が吹き荒れる。
彼は、地面に蹲り、頭を抱えながら、対ショック体勢を取っていた。
暫くすると、地響きはしても、音が一切聞こえなくなる。
地響きは、途中で途切れることはなく、周囲は土埃により、何も見えなくなっていた。
数分か、数十分か、はたまた数時間か。
何れ程の時間が経ったかも、分からなくなった時、ようやく、地響きが止んだ。
彼は、固まった体を、恐怖心に抗いながら、鋼の意志を持って解き、ゆっくりと立ち上がる。
仮設テントの油布は吹き飛び、骨格が剥き出しになっている。
骨格の隙間から、外の状況が見えた。
そこには、正しく地獄が広がっていた。
周囲に積み重ねられていた、固定されていない物は軒並み吹き飛んでいる。
彼は、恐る恐る、塹壕を覗き見る。
先程まで、そこには、頼もしい戦友たちが、肩を並べ、闘志を漲らせながら、待機していた。
だが、目の前の光景は、全く異なっていた。
塹壕は、見る影もなく抉れ、幾つもの、円形のクレーターの塊と化している。
周囲には、血飛沫すらも見られず、言われなければ、勇ましいライオネル王国軍兵士が、そこにいた事など、誰も気付かないだろう。
後方司令部から、追加の兵士が補充される。
だが、このレベルの損害に、数万人の兵士の損失に、対応する事は、もはや、ライオネル王国には、不可能な芸当であった。
彼は、ロベールは、前線の兵士が軒並み吹き飛んだ結果、更に4階級昇進し、少尉として、現地指揮を担当することになった。
彼は、頑張った。やった事は勿論、習ったことすらない、指揮官としての任務を、これまで見てきた経験を生かし、見様見真似で乗り切ろうとした。
士気が崩壊し、シェル・ショックになる兵士も居ながらも、なんとか立て直し、新たな指揮官に従い、新たな塹壕を構築する。
兵士達と共に、クレーターに塗れた、泥だらけの地面に、スコップを突き付け、掻き出し、土嚢を積み重ねる。
塹壕が完成するまでの間にも、空気を切り裂く音と共に、定期的に、砲弾の雨が降り注いだ。
数時間の間、兵士達と共に、新たに掘った、蛸壺に閉じこもる。
しかし、砲撃が行われる度に、少しずつ、だが着実に、兵士達の姿が、一人、また1人、減っていく。
それでも、塹壕を掘る。
後方司令部から、否、指揮官から、命令が届かなくなってから、既に数日が経過していた。
塹壕が完成してから、彼は気付いた。
指令が、命令が、来ない。それどころか、兵士の補充は疎か、追加物資すら届かなくなっていた。
彼は悟った。自分達は、前線に残る、後何人いるかも分からない兵士達は、見捨てられたのだ、と。
彼の中で、張り詰めていた糸が切れる。
それに呼応するように、兵士達の士気も崩壊する。
ある者は酒に溺れ、ある者はタバコに塗れた。
中には、拳銃自殺を行うものも、珍しくない。
力無く座り込み、彼等らその時を待つ。
そして、今日も、聞こえてきた。
空気を切り裂く金切り音、遠くの塹壕に降り注ぐ、砲弾。
彼は思考する。先程まで、そこには、別の部隊が居たはずだった。
だが、もはや、どうでも良かった。
彼は、天を見上げ、呟く。
「ロイエンベルクに死を、ライオネルに死を…
クソッタr…」
その瞬間、長10.5cm魔導砲弾が、ロベールに、そして、彼が率いる部隊に叩き込まれる。
生じた衝撃波により、四肢は千切れ、次の瞬間には、爆炎により、血飛沫ごと蒸発する。
それから2日後、満を持して、ロイエンベルク王国軍が進駐した。
彼等は、事前の偵察により、ライオネル軍の壊滅を把握しており、戦闘隊形すら取っていなかった。
軍歌と共に、軍靴が、抉れた地面を踏みしめる。
砲弾により耕され、ライオネル軍の破片が入り混じったそれを、何の感慨も無く、踏みしめていった。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。
基本的に週一です。多分ね。




