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第八話「前線」

前回からの、あらすじ。

家族関係ドーン!両親殉職バーン!受験競争ドーン!

学校生活バーン!王国戦役ドーン!!

御前会議バーン!!陣前演説ドーン!!

 突撃ラッパと共に、威圧色を身に纏った戦列歩兵達が、マスケット銃を手に前進する。

その様は、まるで、動く城壁のようであり、こちらが押しつぶされる様な、錯覚を覚える。


 パァン!と、乾いた炸裂音が次々と鳴り響き、銃声の度に、血を噴き出した戦列歩兵が、その場に崩れ落ちる。

それでも、止まらない。戦列歩兵は、そのドクトリンに従い、まるで一つの戦争機械かのように、動き続ける。


 ハルケンシュタイン上等兵は、そんな戦列歩兵達を、照準器越しに、険しい眼差しで見つめながら、コッキングを行う。

軽い金属音と共に、硝煙と蒸気を身に纏った薬莢が排出され、地面に落ちる。


 舗装された地面の上であれば、涼し気な金属音の一つでも鳴っただろうが、国境沿いに作られた、塹壕の中では、ただ虚しく、水溜りに落ちる音が、微かに聞こえるだけであった。


 マガジンから、薬室に、7.92x57mmレシュテン弾が押し出される。

ボルトを前進されると、ロイエンベルクの高い工作精度により作り上げられ、普段から、丁寧に磨き上げられたそれは、滑らかに弾丸を薬室へと導いた。


 僅か4秒間で、それら一連の動作を済ませると、照準をそのままに、次の獲物へと、引き金を絞る。

撃針が、雷管をたたき、爆炎が薬莢に満ちると、その瞬間、音速を超えた弾丸が、即座に、獲物に叩き込まれる。


 遅れてやってくる、銃声。それを気に留めるものは誰もおらず、淡々と銃撃を続行していく。

だが、足りない。明らかに、敵が倒れるよりも、間合いを詰める速度の方が速い。


 彼は、思わず声を張り上げ、隣で銃撃を続ける、上官へと問いかける。


 「援軍はまだなんですか!?

このままでは、前線が突破されます!」


 上官は、同じく、声を張り上げ、返す。

敵の砲撃が強まっており、そうしなければ、声がかき消されてしまうからだ。


 「現在、第81騎兵中隊が、増援として向かって来ている!

彼等が到着すれば、こんな連中、直ぐにミンチになる。

それまでの辛抱だ!」


 彼は、険しい顔で、答える。


 「つまり、増援はまだなんですね!?

せめて、機関銃があれば…」


 上官は、険しい顔をしながら、黙り込む。

敵の圧力が強まり、喋っている暇すら、無くなろうとしていた。


 彼も、理解していた。戦線の各地で、同じような事が起きている。

コチラが、一人死ぬ間に、敵を10人は殺せている。

だが、彼我の兵力差は、20倍。


 撃っても、撃っても、キリがない。

脳裏に過ぎる、撤退の文字。

逡巡も無しに、それを振り払う。そんなこと、出来ようはずもない。


 命令違反である事は勿論、銃後には、数万人が住まう、小規模な都市が存在する。

小規模で年季が入っているが、清潔に保たれた、官庁街。

それを取り巻くように位置する、賑やかな商店街。

裕福ではないが、仲の良い隣人同士、助け合って生きている、住宅街。

人々の日常が、そこにはある。


 そこまでの距離は、僅か100km。

1週間もあれば、小さく、そして愛すべき都市は、無慈悲なライオネル王国軍に、蹂躙されてしまうだろう。

暴行、略奪、ロイエンベルク王国軍ほど、規律の取れないライオネル王国軍が、暴虐の限りを尽くすことは、想像に容易かった。


 しかし、現実問題として、機関銃も無しに、20倍以上の敵からの防衛など、困難を極める。


 次第に、周囲から聞こえていた、友軍の銃声が減り始める。

絶え間ない射撃から、連続射撃、そして、疎らな射撃へと。

敵は、次から次へと補充され、壁面のような戦列が補強される。


 そうして、弾薬もつき始める。弾薬が尽きた分隊から、我先に、銃剣突撃を敢行し始めた。


「「「フラァァァァ!!!」」」


 雄叫びとともに、つい1週間前まで、ともに笑い合い、つまらない警備業務に従事していた戦友たちが、目の前で、いとも簡単に散っていく。

気付けば、上官も戦死していた。


 数時間前まで、冷徹に敵を見据えていたその眼には、最早何も映っていない。

眉間には、穴が空き、血と脳漿が、辺りにぶち撒けられていた。


 いよいよ、弾薬が、残り3クリップにまで減少する。

これが尽きれば、銃剣突撃で、戦友と共に散ろう。

そう決心し、銃撃を続ける。

あいも変わらず、滑らかなコッキング。

もう、数千発は撃ち込んでいるにも関わらず、その動作には、欠片ほどの不備も、引っ掛かりも見られない。


 最後の1クリップを、ボルトに付け、親指で押し込む。

慣れた手つきで、役割を終えたクリップを、指で弾き、コッキングを完了する。

照準し、トリガーを引き絞る。コッキングと共に、薬莢が排出される。

一発、また一発。


 時間が、引き延ばされるような感覚を、彼は抱いていた。

不思議な感覚。穏やかな、それでいて、殺意に満ちた時間。

3発目が、自然な動作で放たれる。

敵が、また1人、倒れ伏す。


 その瞬間、ホイッスルが鳴り響く。

ライオネル王国軍のものではない。

それは、慣れ親しんだ、ロイエンベルク王国軍のものであった。


 突撃命令かと思い、彼は訝しむ。

だが、違う。否、正確には、確かにそれは、突撃命令を意味するものだった。

しかし、歩兵部隊用ではない。

このホイッスルの音色、それは、騎兵部隊のものであった。


 凄まじい地鳴り、まるで地震のようなそれに、塹壕内の水溜りが揺らぐ。


「「「「「フラァァァァァァァァ!!!!」」」」」


 分隊の、決死の銃剣突撃とは、比べ物にならない気迫。

同胞を、王家の民を、無惨に殺されたことへの怒りに満ちた、怒れるドラゴンの如き突進。


 第81騎兵中隊、総勢200騎が、騎兵自動小銃を片手に、猛然と敵へ突撃していく。

次々と、自陣の塹壕を飛び越え、騎兵と比べれば、まるで止まっているかのような戦列歩兵に向かい、7.92x57mmレシュテン弾を、分間400発でばら撒く。


 これまでの苦戦が嘘のように、ライオネル王国軍が、次々と倒れ伏す。

騎兵部隊、歩兵部隊は勿論のこと、ライオネル王国軍が守るべき、砲兵部隊も、次々と蹴散らされていく。


 その戦力差は、歴然としていた。

彼は、呆けたように、その様子を眺めていた。

次第に、現実を受け止め始める。心の底から、まるで地下水が染み出すように、歓喜が湧き上がってくる。


 彼にとって、自分が生き残ったかどうかは関係ない。

ただ、圧倒的な強さを持つ同胞が、王国軍が、誇らしくて堪らなかった。

同時に、王国軍の最高司令官たる、国王オットー6世への敬愛も、満ちあふれてくる。


 彼は気が付けば、両手を振り上げ、喉が張り裂けんばかりに叫んでいた。


 「ジーク・ケーニヒ・ホーエンランデ!

ハイル!ハイル!

フラァァァァ!!!」


 ライオネル王国軍は、この戦いで、侵攻軍の2割を、失うことになるのである。

本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。

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