第七話「出撃」
前回からの、あらすじ。
家族関係ドーン!両親殉職バーン!受験競争ドーン!
学校生活バーン!王国戦役ドーン!!
御前会議バーン!!
ミハイルは、大きく息を吸う。
自身の部隊を持って、3度目の実戦、ようやく、連携の取り方が分かってきたところだった。
それだけなら、良かったのだ。
然し、今回の相手は、人間。
これまでの、対魔物戦とは違い、兵士の精神的健康に、一層気を遣わなくてはならない。
昂った兵士達による、軍法違反が起こらないよう、規律と士気を高めることも重要である。
故に、彼は、今回の、出陣前の演説に、ひどく緊張していた。
目の前には、直立不動の、小隊員40名弱が、第三種軍装を身に着け、いつ出陣命令が出ても良いように、待機している。
彼は、再び深呼吸すると、兵士達に呼びかけた。
「先ずは、今回も、定刻通り招集に応じてくれて、感謝する。
諸君の、高い規律と士気による、献身と協力には、いつも助けられている。」
暫し言葉を切ると、兵士一人一人の顔を見て、目を合わせる。
兵士達の、緊張が解れたことを確認すると、再び、口を開いた。
「諸君も知っての通り、5日前、8月10日未明、ライオネル王国軍が、我が王家の地を侵犯した。
これは、明確な敵対行為だ。
再三に渡り、陛下はライオネル王国に呼びかけたが、彼らは応じなかった。
現在は、国境警備隊が、奴等に対処しているが、装備が貧弱な彼等では、突破は時間の問題だろう。
そこで、現在、最もライオネル国境部に近く、実戦的装備が充実している、第81騎兵中隊に、迎撃命令が下ったわけだ。
勿論、第81騎兵中隊の隷下にある、我等が第103騎兵小隊も、今回の迎撃任務に参加する。
勇敢なる諸君であっても、疑問に思うだろう。
『なぜ、魔物でもない、同じ人間である、ライオネル王国軍と、戦わなくてはならないのか』と。
その疑問は、全く持って正常なモノだ。
なんら、おかしいことではない。
諸君の疑問に、私が答えよう、なぜ、同じ人間である、彼等と殺し合わなくてはならないのか。
それは、そうすることを、彼等が望んだからだ。
彼等は、我が国の卓越した技術力、軍事力、経済力を、妬んでいる。欲している。
彼等は魔境を知らない。如何に、魔境が、恐ろしく、そして人類に仇なすものであるかを、知らないのだ。
だから、我が国の叡智の結晶を、魔境から得たモノだと宣う事が出来る。
だが、普段より、魔境で死闘を繰り広げ、そして打ち勝っている諸君であれば、それが、全くの誤解であると、よく理解している事だろう。
彼等の過ちを、正さなくてはならない。
彼等が思う程、魔境は優しくないのだ、と。
彼等の驕りを、粉砕しなくてはならない。
彼等が思う程、我が国は弱くないのだ、と。
彼等は、ライオネル王国は、悪虐なる侵略者だ。
彼等は、我等が、崇高なる王家を、侮辱し、罵り、侮った。
そのような事を、許してはならない。
許してはならないのだ。
今、この瞬間にも、国境警備隊は、ライオネル王国軍との、絶望的な戦闘に挑んでいる。
これ以上、悪虐なる侵略者に、同胞の血を流させるわけにはいかない。
案ずることは無い。ライオネル王国軍は、確かに大軍だ。
だが、彼等が使うのは、フリントロック式マスケット銃。
我等の使う、ボルトアクションライフルには、遠く及ばない。
我が国が、二百年前に卒業したような兵器を、彼等は、未だ使っているのだ。
彼等には、迫撃砲も、榴弾砲も無い。
あるのは、時代遅れの青銅砲と、カビの生えたような、戦列歩兵ドクトリンだ。
彼等に、ライオネル王国軍に、近代戦とは何か、魔物と戦うのは、どれ程の事なのか、思い知らせてやろうでは無いか!」
ミハイルは、演説を終えると、小隊員達を見渡す。
暫くの間、静寂が流れ、少しの不安が、頭をもたげる。
次の瞬間、兵士達は、一斉に片手を振り上げ、歓声を上げる。
数十人の、屈強な男女が発する、凄まじい声量により、宿舎のガラス窓が、ビリビリと振動する。
火炎の如き熱狂が、彼等を支配する。
顔を赤らめた彼等は、隣に居る同胞達と共に、口々に叫んだ。
「「「「ジーク・ケーニヒ・ホーエンランデ!
ハイル!ハイル!」」」」
ミハイルは、満足気に頷いた。
もはや、兵士達に、対人戦闘に対する怯えは無い。
ただ、王家の為に、義憤に燃える青年達在るのみだ。
暫く、彼は沈黙する。
次第に、兵士達の熱狂が、部隊の士気となり、そして連帯感へと変換されていく。
数分もすれば、そこには、士気高く、統制のとれた、練度の高い軍隊の姿があった。
タイミング良く、伝令から、出陣が伝えられる。
ミハイルは、兵士達に、命令を下す。
縦列を組ませ、行軍を開始しなくてはならない。
「諸君!中隊長より、出陣命令が下された。
本日8月15日、1035時より、作戦行動に移る。
直ちに、標準行軍隊形『コロンネ』を取り、1130時迄に、中隊に合流せよ。
アンゲトレーテン(整列)!」
そして、1100時。中隊に向けて、行軍を開始する。
ミハイルは、軍刀を振り上げ、毅然と命令を発した。
「アープトレーテン(行軍開始)!」
小隊が、行軍を開始する。
40頭弱の軍馬が、騎兵達を載せ、鉄で覆われた蹄で、大地を踏みしめ、前進する。
砂塵が舞い上がり、小石がパラパラと跳ね上がる。
その様は、まるで、地面を悠然と進む、龍の如くであった。
後、数十分もすれば、中隊に合流し、龍の肉体は、十倍以上にまで膨れ上がる。
ライオネル王国の、破滅へのカウントダウンが、開始された。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。




