第六話「国境」
前回からの、あらすじ。
家族関係ドーン!両親殉職バーン!受験競争ドーン!
学校生活バーン!王国戦役ドーン!!
ロイエンベルク=ライオネル国境、アキュラスの森にて、ロイエンベルク王国国境警備隊に所属する、レインズ曹長率いる第560警備分隊は、その日も、退屈な警備任務に就いていた。
レインズ曹長は、副官たるロインス軍曹と横並びに、騎馬を駆る。
2人は、周囲を程々に警戒しつつ、雑談を交わす。
ふと、レインズ曹長の騎馬が顔を上げ、鼻息を荒くする。
レインズ曹長は、騎馬を落ち着かせるように撫で、周囲を見渡す。
ロインス軍曹は、レインズの下に駆け寄り、口を開く。
「曹長!どうかされましたか。」
レインズは、少し困惑しつつ、答える。
「いや、私は、どうもしていない。
だが、騎馬が何かを感じているようだ。
ロインス、君の騎馬はどうだ?」
ロインスは、自身の騎馬を見下す。
何処か落ち着かないように、足踏みを繰り返す、愛馬の姿がそこにはあった。
「どうやら、私の騎馬も、何か勘付いたようです。
いつもよりも、落ち着きがありません。」
レインズは、顔を顰めつつ、周囲を見渡し、耳を澄ます。
「ふむ、何も聞こえない…いや、待て。」
レインズの耳が、微かな振動音を捉える。
レインズは、即座に馬から降り、耳を地面に押し付け、振動音の正体を探る。
ロインスも、直ぐにそれに習う。
2人は、ほぼ同時に、音を捉え、その正体を看破する。
レインズは、顔を上げ、念の為、ロインスの傍に寄り、囁きかける。
「足音…これは、軍靴か?ロインス、どう思う。」
ロインスは、直ぐに囁き返す。
「間違いありません。」
レインズは、音のする方向に向かい、忍び寄る。
その音は、アキュラスの森の向こう側、ライオネル王国領内から、響いているようであった。
ロインスと共に、雑木林を掻き分け、ライオネル王国領内を覗き見る。
そこには、赤く煌めく房を付けた、三角帽と、威圧色の目立つ軍服を身に纏った、戦列歩兵達の姿があった。
それだけでは無く、騎兵、砲兵と含まれており、本格的な侵攻部隊である事は、明らかであった。
レインズとロインスは、即座にその場を離れ、司令部に向かう。
軍靴の足音は、しばらくの間、鳴り止むことは無かった。
ロイエンベルク城深部、そこには、ロイエンベルク王国国王、オットー6世、そして、宰相たるルートヴィヒ公爵、現大公にして、王立参謀本部参謀次官たる、フリードリヒ中将という、3人の王族と共に、王立参謀本部の面々が、一堂に会していた。
オットー6世は、周囲を見渡し、会議への参加者を、一人一人確認した後、口を開く。
「諸君、集まって早々ではあるが、会議を始めよう。
事態は一刻を争う。
フリードリヒ参謀次官、状況説明を頼む。」
「ハッ、承知いたしました。大元帥閣下。」
フリードリヒは、立ち上がり、オットー6世に向けて礼をした後、口を開く。
「本日より三日前、8月10日未明、ライオネル王国軍の、領土侵犯を確認いたしました。
当時、現地を警備していた、国境警備隊の情報と、その後のアキュラス候領領邦軍が、交戦により確認した情報によれば、侵攻部隊は、重装備の歩兵と共に、騎兵、砲兵の存在が確認されております。
しかし、ライオネル王国に潜伏するエージェントによれば、ここ数ヶ月、開戦を意味するような兆候…つまり、大きな物資のやり取りですとか、そういったモノは、確認されていないとのことです。
ご存知の通り、彼の国とは国交が断絶状態にあり、宣戦布告等も一切なされておりません。
現在、外務省はライオネル王国に呼びかけを行っていますが、ライオネル王国側からは、一切の返答が見られないとのことです。」
フリードリヒが言葉を切ると、再びオットー6世に向けて礼を行い、着席した。
その言葉を聞いた、初老の白髪男性…レミンゲン参謀総長は、口を開く。
「状況は、良く分かった。そのような、本格的な侵攻部隊を用い、領土侵犯を行ったのだ、もはや彼の国も、あとには退けまい。
前線の状態は、どうなっている?
現場将兵の混乱はどれほどだ?」
再び、フリードリヒは口を開く。
「前線部隊は奮戦しています。
しかし、残念ながら、劣勢と言わざるを得ません。
ライオネル王国の攻撃の予兆が掴めなかった影響で、ライオネル王国国境には、軽装備の国境警備隊しか駐留していませんでした。
アキュラス候領は、未だ動員が完了しておらず、今の所、兵力劣勢の中、ライフルと塹壕を使用して対抗している状態です。
私としては、即座に総動員令を発令すると共に、王立連合軍の編成を、提言いたします。」
レミンゲン参謀総長は、しばらく考えると、オットー6世に向き直り、口を開いた。
「私としても、フリードリヒ参謀次官の提言に賛成致します。
現状、準備不足なのは、明らかに我が国であり、これ以上の動員の遅れは、王立参謀本部参謀総長として、容認出来かねます。
陛下、御聖断を。」
オットー6世は、しばらくの間瞑目し、沈黙する。
その後、ゆっくりと目を見開き、口を開いた。
「やむを得まい。もはや、賽は投げられた。
ライオネル王国は、我が国に対して侮辱を繰り返し、あまつさえ、我が領土を侵犯した。
余は、ロイエンベルク家のオットー6世として、総動員令を発令すると共に、国家非常事態を宣言し、王立連合軍の編成を、国王大権を用いて承認する。
各員、一層奮励努力を期待すると共に、その献身と協力に、感謝する。
ロイエンベルクに栄光あれ!」
その瞬間、数十の領邦が保有する、領邦軍の指揮権は、王国軍の下に統合された。
各領主は、一時的に領邦軍司令官の任を解かれ、その隷下にある部隊は、全てが国王オットー6世と、彼が指揮する連合参謀本部により、一元的に運用される。
ロイエンベルク王国では総動員令が発令され、全ての鉄道の運行において、軍に最優先権が与えられると共に、事前に策定された動員計画に基づき、まるで一つの魔導機械のように、各地に散らばった部隊が、前線に送り込まれる。
電信で、開戦の報が行き渡ると、王国内では、志願兵を募る募兵事務所に、志願が殺到、各領邦の領民は、徴兵令に基づき、今こそ、王家に尽くすとき、と喜び勇んで駐屯地に赴いていった。
軍靴の足音は鳴り響き、やがて、王家の民は獅子を喰らい尽くすだろう。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。




