最終話「己の境界」
前回からの、あらすじ。
家族関係ドーン!両親殉職バーン!受験競争ドーン!
学校生活バーン!王国戦役ドーン!!
御前会議バーン!!陣前演説ドーン!!
前線救援バーン!!徹底抗戦ドーン!!
首都砲撃バーン!!首都陥落ドーン!!
荘厳な軍歌が、力強い歌声と共に、空間に満ちている。
ロイエンベルク城に存在する、勲功を行う為の、高貴な場、ブラウアー・ガルテンには、ライオネル戦役の功労者が、一堂に会し、そして、確かな一体感を持って、軍歌を斉唱し、終えようとしていた。
ライオネルの進軍を、一番に検知し、国境警備隊としての義務以上の情報を持ち帰った、二人の警備兵。
絶望的な状況で、大隊の大部分が消滅し、指揮系統すらも壊滅する中、援軍到着まで、耐え抜いた、数々の兵士達。
一人一人に物語はあれど、今は、身分関係なく、共に王家を称えている。
そんな英雄達の中でも、今回の受勲式の主賓が、二人の男である事は、間違いなかった。
ペルツェル上級大将。ライオネル戦役を指揮し、勝利に導いただけでなく、敵首都レオネールを迅速に攻略する為、上申された砲撃作戦を、迅速に承認し、味方の犠牲を最小限に抑えたその功績は、まさしく、英傑と呼ぶに値する。
そして、騎兵隊長でありながら、革新的な砲撃作戦を提案し、砲兵として、卓越した弾道計算能力を示しただけでなく、突撃隊の一番槍に立ち、レオン王を捕らえた。
その者は、他ならぬ、ミハイル少尉。
彼の功績は、貴族として、最大の栄誉に値した。
壇上には玉座、それに座す国王オットー六世、そして、側に控える宰相ルートヴィヒは、斉唱を終え、気品を持って、受勲式を執り行おうとしている。
「ロイエンベルク王国軍所属、参謀本部直属にして、ライオネル前線司令部司令長官、ペルツェル上級大将、前へ。」
受勲式は、粛々と執り行われる。国歌が、穏やかなクラシックとなって流れる中、ペルツェルは答礼し、壇上へ上がる。
その足取りは、穏やかながらも、叩き上げである事を、確かに感じさせる、重厚なものであった。
ペルツェルは、壇上に上がると、王と宰相への最敬礼の後に、王に向き直り、臣下の礼をとった。
証書が渡され、金一封と共に、元帥の階級章が、王自らの手で、ペルツェルの胸章に加わる。
それに加え、単星英傑勲章が授与された。
上から3番目、国家間の戦争に貢献した者にしか許されない、最高階級の勲章の一つである。
ペルツェルは涙ぐみ、余りの歓喜に、打ち震えているようであった。
ペルツェルが、再度の最敬礼の後に、多くの拍手を受けながら、壇上から下がる。
それを見届けると、宰相は口を開き、朗々と読み上げる。
「ディルゲン家が当主、ミハイル・ディルゲン男爵にして、ロイエンベルク王国軍、第81騎兵小隊、第66砲兵小隊指揮官、ミハイル少尉。
前へ。」
ミハイルは、ペルツェルに準じ、確かな気品を滲ませながら、壇上に歩みを進める。
王と宰相への敬意を称し、王の正面に位置し、臣下の礼をとる。
王は、ミハイルを、確かに見つめ、威厳に満ちた言葉を紡ぐ。
「ミハイル・ディルゲン男爵。貴卿の奮闘は、我が王家だけでなく、このロイエンベルク全土に、響くものであった。
その勲に報いるには、昇進では足りないであろう。
余は、熟考の末、貴卿に、我が王家からの栄誉を与えるに、値すると判断した。
ミハイル・ディルゲン、貴卿に、子爵位を与えると共に、我が王家より、『高貴なる者』を意味する、『ホーエン』の称号を与える。
今より、高貴なるディルゲン家のミハイル。
ミハイル・ホーエンディルゲンと、名乗るが良い。
そして、軍人として、貴官を、中尉へ任命し、その功績を認め、双盾護国勲章を授与すると共に、金一封を与える。」
ミハイルは、深々と垂れていた頭を上げ、立ち上がると、証書、そして金一封と共に、宰相の手で、勲章が胸章に着けられた。
彼は、全身から歓びを滲ませ、是迄の人生、最大の栄誉に浸っていた。
その余韻を噛み締めつつ、ミハイルは壇上から去ると、周囲からの尊敬の眼差しと、万来の拍手を受けながら、着席したのであった。
絢爛たる受勲式が、滞りなく進む中、ミハイルは、ようやく我に返る。
そこで、敗戦国たる、ライオネルの末路に、思いを馳せた。
既に、王国軍は、旧ライオネル領から撤退している。
ロイエンベルクの国防力に、これ以上の余裕など無い。
彼の地は、無政府地帯となり、多数の勢力が乱立する内乱状態に陥っていた。
ロイエンベルクに挑み、敗れた、他の国々と同じように。
彼の地の民は、貧困に喘ぎ、日々、軍閥の駒として、戦闘に明け暮れている。
彼等の統治者は、既にこの世に居ないのだから、闘争に身を投じるのは、半ば必然であった。
ミハイルは、少しの哀れみを覚えながらも、一つ、重い溜息をつき、余計な思考を振り払う。
今や、彼は、王国内でも、十数家しか持たない、ホーエンの称号を賜った。
そして、中尉となった以上、より多くの隊員の命を、陛下より預けられる事にもなる。
ミハイルは、ホーエンとして、そして、軍人として、その命を、生涯を、王家に捧げ、その臣民を護る、責務を有している。
そこまで考えたところで、受勲式が終了する。
最後に、受勲者一堂、そして、王、宰相が立ち上がり、各々の想いを乗せ、国歌を斉唱した。
それは、ミハイルが是迄聞いた中で、最も美しく、覇気に溢れたものであった。
一カ月間の休暇の最中に、ミハイルは辞令を受けた。
勲章すら授けられた、砲兵としての卓越した能力を見込まれ、第77砲兵中隊の、中隊長に、任命されたのだ。
ミハイルは、休暇の最中でも、隊員名簿に目を通し、そこに記された情報を、脳裏に叩きんだ。
隊員達の名前は勿論、従軍経験の多少に加え、その趣味趣向、罹患記録まで記された名簿は、確かに彼の役に立った。
全員に過去があり、そして、その未来を、奪わせてはならない。
総勢200名を超える人員の命の重みを、ミハイルは強く意識していた。
休暇も終わり、慣熟訓練を繰り返していたある日。
ミハイルの下に、一通の手紙が届く。
少年期からの幼馴染。
赤毛の少年、バルドヴィーノからであった。
「ミハイルへ。
お久しぶりです。元気でしたか?
いえ、聞くまでもありませんね。貴方のご活躍は、遥々レーベンスシュタットまで届いております。」
序文を読み終えたところで、ミハイルは、微かに眉を顰め、訝しんだ。
記憶の中では、バルドヴィーノは、彼と同じように、王都に住んでいた為である。
「今、貴方は、目敏くも、レーベンスシュタットの文字に、気付いた事でしょう。
貴方は、ミハイルは、そういう男です。」
ミハイルは、ニヤリと笑いながら、続けて読んだ。
「何を隠そう、私は、レーベンスシュタット軍隊志願事務所に就職したのです。
ミハイルも、アダルガーも、軍隊に入ってしまい、そう簡単に会うことも叶わなくなってしまいました。
しかし、私とて、王国の臣民です。
軍隊に憧れない訳もない。貴方達のように、直接その隷下に入ることは難しくとも、軍属として、その立場に近付くことは出来る。
そうすれば、より簡単に、飲みに誘う事も出来るようになりますし…ね。」
ミハイルは、驚きで目を見開いた。
軍隊志願事務所は、所謂エリートの一角だ。
栄えある王国軍に、入る者を選別する。
その業務は、極限られた人のみが、関わることを許されるものなのである。
「さて、ついつい懐かしく、長々と筆を進ませてしまいましたが、閑話休題、本題に入りたいと思います。
というのも、本事務所の試験官が、異動となったのですが、何かの手違いで、次の試験官の着任が、一カ月ほど遅れる事となってしまったのです。
そこで、事務所の人脈を総動員し、一カ月の臨時試験官を探し出す事となりました。
ここまで書けば、もうお分かりでしょう。
そう、ミハイル、他でもない貴方に、臨時試験官を頼みたいのです。
お忙しいのは承知の上ですが、本事務所の人脈は、殆ど全滅状態で、もう後が無いのです。
どうか、頼まれてはくれないでしょうか?
よろしくお願いいたします。
貴方の2番目の親友、バルドヴィーノより。」
ミハイルは、それを読み終えた後、暫く考え込み、万年筆を執った。
滑らかに返事が綴られると、封が閉じられ、綺麗な密印を押されたそれは、逓信省により、レーベンスシュタットに届けられていった。
凡そ1週間後、ミハイルは、レーベンスシュタット軍隊志願事務所の、試験場で、悠然と試験者を待っていた。
名をハインツ。バルドヴィーノ曰く、死んだ魚のような目をした青年…彼は、青年を見極めようと、そして、厳正な審査を行おうと、その場に立っている。
試験場への扉が開き、ハインツ青年が、静かに場内に入ってきた。
ミハイルは、彼を見据えると、口を開いて、試験官として話しかけるのであった。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。
本作、「中尉の境界」は、本話で完結になります。
ここまで読んでいただき、ありがとう御座いました。
現在、次回作を執筆中ですので、近い内に、再び読者の皆様と、お会いできることでしょう。
その時を心待ちにしております。




