第十一話「崩壊」
※注意∶前作「境界転生、異常アリ」の第九話「崩壊」とは、関係ありません。是非読んで確かめてクダサイ。
前回からの、あらすじ。
家族関係ドーン!両親殉職バーン!受験競争ドーン!
学校生活バーン!王国戦役ドーン!!
御前会議バーン!!陣前演説ドーン!!
前線救援バーン!!徹底抗戦ドーン!!
首都砲撃バーン!!
嘗て、賑やかなざわめきに満ち、街の中心だった商店街。
様々な物品を生産し、人を呼び込んでいた鍛冶場。
人々の憩いの場として、様々なドラマを生んだであろう、巨大な公園。
それら全てが、業火に包まれている。
人々を包み、保護していた建物は、軒並み倒壊し、最早その役目を果たす事は無い。
ライオネル王国軍による、全滅覚悟の徹底抗戦の結果、彼等が愛し、守っていた、否、守るべきであったレオネールは、他ならぬ彼等の手によって、焼け野原と化していた。
ミハイル率いる騎兵小隊は、その強大は破壊力を発揮しながら、突撃隊の先頭を駆けている。
けたたましい銃声と共に、魔鋼の弾丸が、路地を蹂躙する。
先程まで、敵兵が居た箇所には、忽ち数百発の銃弾が集中され、残骸と化す。
敵兵は、障害物に身を潜ませ、1発撃つごとに配置転換を繰り返している。
地下道が張り巡らされたレオネールは、圧倒的防衛力を発揮し、獅子の都として、最後の意地をロイエンベルク王国軍に、見せつけていた。
ミハイル達は、その圧倒的な物量と技術差を活かし、少しずつ前線を押し上げている。
一気に王城まで突撃し、この戦争に終止符を打つべきだ、という上申は、何度も前線から行われていたが、上層部は、これ以上、この終わりの見えている戦争に、人材を浪費する事は許されないとし、無謀な突撃を固く禁じていた。
しかし、上層部とて、膠着した前線を打破する必要性を認識していた。
その為の一手が、ミハイルの下に、届くことになるのだ。
ミハイルの副官、アダルガーが、上層部からの電信を、彼に伝える。
「少尉、前線司令部司令長官から、直々の指令です。
『コレ以上、陛下ノ臣民ヲ、無為ニ死ナセル訳ニハ行カナイ。
市街地デノ兵器ノ無制限使用ヲ許可スルト共ニ、貴官ノ隷下ニ第66砲兵小隊ヲ配備スル。
人材以外ノ、アラユル物資ヲ投入シ、現状ヲ打破セヨ。
貴官ノ更ナル献身ト協力ヲ期待スル』
以上です。」
ミハイルは、その伝令を聞くと、不敵な笑みを浮かべ、少しの沈黙の後に、アダルガーに命令を発した。
「隷下の全部隊に、伝達せよ。
『火器ノ無制限使用ヲ許可スル。
繰リ返ス、火器ノ無制限使用ヲ許可スル。
市街地戦闘条項ハ無効化サレ、野戦戦闘条項ガ、コレヨリ適用サレル。
我慢ノ時ハ終ワッタ。人材以外ノ、アラユル物資ヲ投入セヨ』
と。
隷下に、新たに加わった、第66砲兵小隊を忘れるなよ?
彼等は、世にも珍しい機動砲兵だ。
我が騎兵小隊の機動力にも、十分についてこれるだろう。」
「ラボール・コマンデン!」
アダルガーは、直ぐに敬礼し、その命令を兵士達に打電する。
その伝令は、素早く、隷下の2小隊に伝えられる。
彼等は、その命令が伝えられた途端、指揮官たるミハイルのように、不敵な笑みを浮かべ、互いに頷き合った。
彼等も、いい加減、膠着した前線に、飽き飽きしていたのである。
彼等が百メートル進む事に、確実に、敵部隊の抵抗が減少する。
柄付手榴弾、火炎瓶、野戦魔導砲。
これらを始めとした、市街地戦闘条項では禁止されている兵器が、文字通り無制限で使用された。
ライオネル王国軍は、その組織的抵抗毎吹き飛ばされていった。
民間人も、軍人も関係ない。
ゲリラ戦を、彼等が選択した時点で、ロイエンベルク王国軍の戦闘規定では、全員が戦闘員となる。
ミハイルの部隊が、王城に到達する頃には、敵の組織的抵抗は消滅し、その跡地には、ただ、瓦礫と血肉の山が、火炎に包まれて有るだけであった。
ミハイルを先頭に、部隊と共に前進すると、瓦礫を踏む、無味乾燥な音が響く。
周囲には人っ子一人居らず、戦闘の傷跡が、虚しくそこにあった。
しかし、彼等は、その顔を赫く照らしながらも、歩みを止めない。
この戦争を起こした張本人、王城で徹底抗戦を行い、28cm魔導要塞砲を前に、アッサリと突破されたその欠片に、未だしがみつく、愚かな残骸。
レオン王、その人を討ち取る為に。
ミハイルは思考する。
野望に取り憑かれ、現実を見なかった王、ライオネルの誰よりも、現実を見なければならなかった男の、その哀れな末路を。
王は、間違いなく処刑されるだろう。
ロイエンベルクへの罪、ライオネルへの罪、その罪過は、数え切れるものでは無い。
彼の手には、その罪人を、即座に処刑出来る権限がある。
戦時というのは便利な時分で、平時で許されないことが、許されることも少なくない。
略式裁判による処刑も、その一つだ。
ミハイルは、更に深く思考する。
王の居る部屋までは、後少し、猶予はあまり無い。
この戦争で失った、部下たちの顔、戦友の顔、そして、薙ぎ倒した時の、敵兵の顔。
多くの顔が、彼の脳裏に浮かんでは消えていく。
復讐の二文字、魅力的な文言は、彼の心を揺さぶる。
拳銃のグリップを握るその手に、力が籠もっていく。
だが、拳銃を引き抜こうとしたその瞬間、親友の顔が、軍と、王家に責任を持つ友の顔が、最後に浮かんできた。
許せない、許せるわけが無い。
しかし、だからこそ、逃がすわけには行かないのだ。
ミハイルは、いつの間にか目の前に倒れ伏し、何かを喚き散らす、無様な王…否、レオンの胸倉に、片足を乗せ、無理やり黙らせる。
ライオネル語を履修しているミハイルには、その内容が、良く聞き取れた。
「何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ!!
何故勝てん、その力は、その技術は何なのだ!
魔境が、魔境さえあれば、我は覇を唱えられる!
気に食わん、ベルンの馬鹿どもに、頭を下げる必要も無い!
貴様らさえ、ロイエンベルクさえ消えれば…ッ!!!」
そこで、胸倉を踏み抜いた為に、その後は分からない。
最早、レオンの足は血に塗れ、非ぬ方向に曲がっている。
効果的な抵抗が、出来ないことは、明らかであった。
今なら、殺す事も容易…戯言を聞き、再び湧き上がる殺意を押し殺し、レオンに告げた。
現状を、レオンが持つべきであった、その認識を。
「哀れだな、レオン王…いや、これでライオネルは滅ぶだろう…王ですらない、ただのレオン。
我が王家が、何の苦労もなく、彼の地を治めていると、本気で思っていたのか?」
レオンは、目を見開き、ミハイルを見つめる。
その目を見ることすらも汚らわしいと、彼は続ける。
「そんな訳無いだろう?
何故、我等の技術が高いのか、教えてやるよ。
それは、確かに、貴様が言うように、魔境があるからだ。
だが、魔境が恩恵をもたらしたわけじゃない。
逆だ、魔境の“脅威“に抵抗する為に、聡明なる王家と、その臣民は、技術進歩を急いがざるを得なかった…
貴様に想像できるか?
マスケット銃では、青銅砲では、到底敵わない怪物が、日常的に湧き出てくる地が、国内に幾つも存在する、その恐怖が。
我等の祖先は、その恐怖を克服する為に、明日を生きる為に、始祖王の下、決死の努力を続けたのだ。
決して、貴様が思い描いていたような、貰い物の力では無い。
そのような力で、生き抜いていけるほど、ロイエンベルクは、易しくなど、無い。
理解したか?貴様が、如何に歪んだ現状認識の下に居たか。
如何に愚かで、無謀な戦争に挑んだか。
貴様の国は、友は、威信は、野望は、他の何者でもない、貴様のせいで滅んだのだ。」
レオンは、呆然と目を見開き、動かなくなった。
生きてはいる。ただ、猛将であったその知性が、自身の過ちを、今度こそ正しく認識させ、その心を打ち砕いたのである。
その事を見て取ると、ミハイルは、ただ無表情に足を退け、部下に指示を出した。
「連れて行け。あぁ、くれぐれも、殺すんじゃないぞ?
今は、な。」
ライオネルは、レオン王の野望と共に滅んだ。
強国として名を馳せ、獅子の都レオネールを支配した王国、僅か31年の歴史であった。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。




