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第十話「首都」

前回からの、あらすじ。

家族関係ドーン!両親殉職バーン!受験競争ドーン!

学校生活バーン!王国戦役ドーン!!

御前会議バーン!!陣前演説ドーン!!

前線救援バーン!!徹底抗戦ドーン!!

 雷鳴の如く、耳を劈き、周囲を薙ぎ倒すような砲声。

それは、28cmという圧倒的な口径により、兵士達の鼓膜を、そして心を震えさせる、覇気に溢れるものであった。


 爆音は、絶え間なく鳴り続ける。

数十門の、魔鋼の砲門は、力強く砲弾を敵の要塞に叩きつける。

一発、命中する事に、要塞は削れ、そして、修復術式により再構築される。


 ミハイルは、その様を、真剣な眼差しで見つめていた。

彼が率いる、第103騎兵小隊、そして、その小隊が所属する、第81騎兵中隊は、獅子の都とも呼ばれ、ロイエンベルクを除く国家の中では、最も人口を抱える都市、敵首都レオネールを包囲していた。


 彼は、包囲戦が始まってから、身動ぎもせずに、要塞砲撃を観察していたが、数時間に渡り、それが続けられているのを見て、囁くように呟いた。


 「埒が明かんな…」


 彼は、そう呟くと、小隊に、休憩を指示し、しばらくの間、休むように告げる。

密かに馬にまたがると、彼は、要塞の周囲を回り、10時間程かけて、その大まかな構造を、把握するよう努めた。


 そのような事は、彼の任務では無い。

しかし、1人の王国軍人として、自分の能力を存分に活かす事は、一つの至上命題であった。


 偵察を終えた彼は、手早く食事を取る。

最前線にも関わらず、野営地には、温められた缶詰と、大鍋で作られる、スープの良い香りが漂っている。

更には、パンを作るための、魔導馬車まで用意され、最前線の兵士達に、出来立てホヤホヤの、黒パンを提供していた。


 彼は、他の兵士と共に、糧食を受け取るための、列に並んだ。

兵士達は、前後の者と喋りながら、賑やかな雰囲気で進んでいる。

ロイエンベルク王国軍では、最前線では、例え大元帥で有ろうとも、階級関係なく、一兵卒と同じ物を食べるという、軍規があった。


 それは、前線の兵士達の状況を、肌で感じる為のものであり、そして、規律の高いロイエンベルク王国軍の、士気を高める為のものでもあった。


 彼も、士官として、普段であれば、兵士たちと和やかな交流を行う。

しかし、今日の彼は違った。

手早く、缶詰の中身である、黒パンをスープ、そしてコンビーフと共に流し込むと、足早に仮設テントに立ち去る。


 夕食を終えてすぐ、素早くランプを付けた彼は、鉛筆を手に取り、要塞の修復術式が甘い箇所を纏め上げる。

そして、修復術式が、修復を始めるまでのタイミング、要塞の装甲厚のデータを、書き込んでいく。


 軽快な鉛筆の音が、静かに鳴り続ける。

彼の手は、留まること無く動き続け、品質の良い紙面一面に、メモ書きが行われていく。


 手が真っ黒になるまで書いた頃、彼の頭の中には、要塞攻略の為の、詳細な砲撃計画が練られていた。

直ぐに、提案書を書き上げ、前線司令部に提出する。

彼が、司令部が呼び出されたのは、それから、約18時間後の事であった。


 時刻は2000。兵士達は、焚き火を囲み、食後の談笑を楽しんでいる。

ミハイルは、少し足早に、前線司令部のある、一際大きな仮設テントに向かう。


 彼は、一つ深呼吸をする。

少しの緊張を鎮め、意を決して中に入る。


 「失礼します。ディルゲン少尉です、召集に応じ、参上しました。」


 「おぉ、君がディルゲン少尉か、よく来たな。

まぁ、座り給え。」


 彼の目の前には、白髪の老人が座っていた。

老人の軍装は、一目で使い込まれていることが分かるものであるが、そこには一つのほつれも無かった。

その階級章は、上級大将である事を表し、胸に吊り下げる数々の勲章は、老人が歴戦の戦士であることを、端的に示している。


 彼は、老人の指示に従い、緊張した面持ちで、座っると、恐る恐る口を開いた。


 「まさか、ペルツェル閣下自らが、出て来るとは、思ってもいませんでした。」


 ペルツェルは、彼の緊張を解すように微笑みかける。


 「それだけ、貴官の提案が優れていた、ということだ。

だが、いくら優れているとは言え、提案書一つで、前線司令部全体の意思決定を覆すのは難しい。

そこで、発案者たる貴官に、前線司令長官たる、この私に、詳細を説明してほしいのだ。


 その説明によって、提案を採用するかが決まると思いたまえ。」


 彼は、 少しの間、沈黙すると、考えを纏め上げた。


 「承知致しました。では、私の考案した、提案書『要塞砲撃に関する計画変更の提案』について、説明させて頂きます。


 今提案は、現在の膠着した包囲戦を、早期の内に打開する為の物です。

閣下もご存知の通り、現在、レオネール包囲戦は停滞していますが、その主たる理由は、ベルン公国より、ライオネル王国に提供された、修復術式によるモノです。


 修復術式は、28cm魔導弾による損害を、平均して3秒程で再構築し、無害化してしまいます。

しかし、28cm魔導要塞砲の装填速度を考えると、前線に展開する、全ての要塞砲を、一箇所に指向して、ようやく約2.5秒ほどの砲撃間隔となります。


 ですが、それは現実的とは言えません。

故に、私は、要塞の修復術式が、比較的弱い箇所を、独自の偵察により、データ化致しました。

それが、こちらになります。」


 そこで、一度、彼は言葉を切ると、タイプライターにより書き上げた、データの数々をペルツェルに提出する。

ペルツェルは、それらに素早く目を通す。

興味深げに、しかし、丁寧に。


 「続け給え。」


 ペルツェルは、一つ頷くと、続きを促した

ミハイルは、指でデータを示しつつ、説明を続ける。


 「承知致しました。

データを見て頂ければ分かる通り、特に修復術式の弱い、4つの地点、α、β、ε、γが存在します。


 この4つの中でも、特に弱い、εを、集中的に砲撃します。

試算によれば、地点εでは、一度の砲撃による、損害の修復に、凡そ12秒かかると思われるため、通常の壁面と比べて、4倍ほど余裕を持った砲撃が可能となります。


 推定では、要塞砲12門を、地点εに集中すれば、壁面を崩し、突破口を作ることが可能です。

ベルン公国の修復術式は、我が王国の術式とは異なり、一箇所の破綻が全体に波及するため、一箇所でも突破出来れば、他の壁面でも攻略が容易となります。


 結論として、私は、地点ε…グリッド50の4-71の1地点の、要塞砲12門以上による、連続砲撃を、提言いたします。

説明は以上であります。」


 ペルツェルは、数分ほど沈黙し、データを見つめる。

ミハイルは、そんなペルツェルを、真剣な面持ちで見ている。

徐ろに、ペルツェルが顔を上げると、真剣な表情で、ミハイルに問いかけた。


 「どうやら、貴官の提案は、考慮に値する物のようだ。

貴官の提案を支持し、その実現に向けて、可能な限りの手を尽くす事を、約束しよう。

最後に、問いたい。

君は、今計画の、作戦指揮を望むか?」


 彼は、しばらく押し黙る。

確かに、指揮を取りたいという、気持ちは強い。

だが、彼の脳裏には、自分を信頼し、手足のように動いてくれる、自慢の部下たちの姿が、強く焼き付いていた。


 「…いえ、私は、第103騎兵小隊の小隊長です。

40人と、その軍馬を指揮し、王の、臣民の剣となり、盾となる義務があります。

その申し出は、非常にありがたいのですが、少なくとも、今戦役では、私は、第103騎兵小隊の、指揮に注力したいと思います。」


 ペルツェルは、そんな彼の目を、少しの間見つめた後、豪快に笑い出した。

朗らかで、人を安心させ、鼓舞するような、そんな気持ちの良い笑い声であった。


 戸惑うミハイルに、ペルツェルは笑い掛ける。


 「そうか、貴官は、自分の部下たちを、見捨てることは出来んか。

その意気やヨシ!

私は、君を気に入ったよ、ミハイル少尉。


 少尉の意思はよく分かった。

今作戦は、こちらで進めさせてもらおう。

貴官と、その部隊には、レオネール突入の、一番槍を任せようと思う。


 やってくれるな?」


 彼は、目を輝かせ、最敬礼をしつつ、勇ましく答える。

その最敬礼は、驚くほど美しかった。


 「ラボール、コマンデン!

お任せください、閣下。その期待に応えるべく、全力を尽くすことを、我等が王家に誓います。」


 ペルツェルは、満足気に頷くと、答礼した。


 「貴官の献身と強力に感謝する。

死んでくれるなよ、ディルゲン…いや、ミハイル少尉。」

本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一〜週三ペースで投稿しています。

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